( 胆道機能の概要 胆道機能の概要 肝臓では1日に約500~600mLの胆汁が産生されている。胆汁は血漿と等張の液体で,主な成分は水と電解質であるが,胆汁酸塩やリン脂質(大半がレシチン),コレステロール,ビリルビン,その他の内因性に産生または摂取された化合物(消化管機能を調節するタンパク質や薬物とその代謝物も含む)などの有機化合物も含有する。ビリルビンは,老廃赤血球に由来す... さらに読む も参照のこと。)
胆管癌およびその他の胆管腫瘍はまれであるが(100,000人当たり1~2人),通常悪性である。胆管癌のほとんどは肝外胆管に発生し,60~70%は肝門部周囲(Klatskin腫瘍)に,約25%は胆管遠位部に,残りは肝臓内に発生する。危険因子には, 原発性硬化性胆管炎 原発性硬化性胆管炎(PSC) 原発性硬化性胆管炎(PSC)は,胆管に生じる斑状の炎症,線維化,および狭窄を特徴とする原因不明の疾患である。しかしながら,80%の患者に炎症性腸疾患がみられ,最も多いのは潰瘍性大腸炎である。その他の併存疾患として,結合組織疾患,自己免疫疾患,免疫不全症候群などがあり,ときに日和見感染症を合併することもある。疲労とそう痒が潜行性かつ進行性に発生する。診断は胆道造影(磁気共鳴胆道膵管造影またはERCP)による。進行例は肝移植の適応となる。... さらに読む ,高齢,肝吸虫の寄生,総胆管嚢腫などがある。
胆嚢癌はまれである(100,000人当たり2.5人)。アメリカンインディアン,大きな胆石(3cm以上)のある患者, 慢性胆嚢炎 慢性胆嚢炎 慢性胆嚢炎は,ほぼ常に胆石を原因とする長期的な胆嚢の炎症である。 (胆道機能の概要も参照のこと。) 慢性胆嚢炎は,ほぼ常に胆石および過去の急性胆嚢炎(軽度の場合も含む)が原因で発生する。傷害の程度は,軽度の慢性炎症細胞の浸潤から,線維化を伴う胆嚢萎縮まで様々である。線維化による広範な石灰化は磁器様胆嚢と呼ばれる。 胆石が間欠的に胆嚢管を閉塞させ,そのために胆道仙痛が繰り返し発生する。このような胆道仙痛は,必ずしも顕著な胆嚢の炎症を伴うと... さらに読む により胆嚢に広範な石灰化(磁器様胆嚢)を来した患者で,より多くみられる。ほぼ全ての患者(70~90%)では 胆石 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む もみられる。生存期間の中央値は3カ月である。癌が早期に発見された場合(例,胆嚢摘出術で偶然発見)は,治癒の可能性がある。
胆嚢ポリープは,胆嚢腔に発生した良性の粘膜組織の突起物であり,通常は症状を引き起なさい。大半は直径10mm未満で,コレステロールエステルとトリグリセリドから構成され,このようなポリープが存在する状態をコレステロール沈着症と呼んでいる。胆嚢ポリープは超音波検査時に約5%の人で認められる。その他の極めてまれな良性ポリープには,腺腫(腺筋腫症を引き起こす)および炎症性ポリープがある。小さな胆嚢ポリープは治療を必要としない偶発所見である。
症状と徴候
胆管癌患者の大半は,典型的には50~70歳で,そう痒と無痛の閉塞性 黄疸 黄疸 黄疸とは,高ビリルビン血症によって皮膚および粘膜が黄色化した状態である。ビリルビン値が約2~3mg/dL(34~51μmol/L)になると,肉眼的に黄疸が明らかとなる。 (肝臓の構造および機能と肝疾患を有する患者の評価も参照のこと。) ビリルビンの大半は,ヘモグロビンが非抱合型ビリルビン(と他の物質)に分解される際に生成される。非抱合型ビリルビンは,血中でアルブミンと結合して肝臓に輸送され,肝細胞に取り込まれ,グルクロン酸抱合を受けて水... さらに読む がみられる。早期の肝門部周囲の腫瘍では,漠然とした腹痛,食欲不振,および体重減少のみを引き起こすこともある。その他の特徴としては,疲労,灰白色便,触知可能な腫瘤,肝腫大,または胆嚢の拡張(遠位部の胆管癌に伴うCourvoisier徴候)がある。疼痛は胆道仙痛と類似する場合(胆道閉塞を反映)もあれば,持続性かつ進行性の場合もある。まれではあるが,ERCPが原因で 敗血症 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能の正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む (急性胆管炎に続発する)が発生することがある。
胆嚢癌患者の臨床像は,胆石症による胆道痛を緩和するために施行された胆嚢摘出術で偶然発見されるものから,持続性の疼痛,体重減少,腹部腫瘤,閉塞性黄疸などを伴う進行例まで多岐にわたる。
大半の胆嚢ポリープは症状を引き起こさない。
診断
超音波検査(ときに超音波内視鏡検査)とそれに続くCT胆道造影またはMRCP
ときにERCP
肝外胆道閉塞の原因を説明できない場合は,胆管癌と胆嚢癌を疑う。臨床検査結果は胆汁うっ滞の程度を反映する。 原発性硬化性胆管炎 原発性硬化性胆管炎(PSC) 原発性硬化性胆管炎(PSC)は,胆管に生じる斑状の炎症,線維化,および狭窄を特徴とする原因不明の疾患である。しかしながら,80%の患者に炎症性腸疾患がみられ,最も多いのは潰瘍性大腸炎である。その他の併存疾患として,結合組織疾患,自己免疫疾患,免疫不全症候群などがあり,ときに日和見感染症を合併することもある。疲労とそう痒が潜行性かつ進行性に発生する。診断は胆道造影(磁気共鳴胆道膵管造影またはERCP)による。進行例は肝移植の適応となる。... さらに読む の患者では,血清中のがん胎児性抗原(CEA)およびがん抗原(CA 19-9)を定期的に測定して,胆管癌のモニタリングを行う。
診断は超音波検査(ときに超音波内視鏡検査)とその後に施行するCT胆道造影または磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)に基づく( Professional.see page 肝臓および胆嚢の画像検査 肝臓および胆嚢の画像検査 胆道疾患の正確な診断には画像検査が不可欠であり,巣状の肝病変(例,膿瘍,腫瘍)の検出にも重要である。肝細胞障害によるびまん性疾患(例,肝炎,肝硬変)の検出および診断には限界がある。 従来からの超音波検査は,経腹的に施行され,一定時間の絶食を必要とし,構造的な情報は得られるものの,機能的な情報は得られない。一方で胆道系(特に胆嚢)を画像化する検査としては,最も安価で安全かつ最も高感度の方法である。超音波検査は,以下の目的で最善の検査法であ... さらに読む )。ときにCTが施行されるが,超音波検査を超える情報,特に胆嚢癌に関する情報が得られることがある。これらの方法で結論が得られない場合は,経皮経肝胆道造影(PTC)を含むERCPが必要となる。ERCPは,腫瘍を検出するだけでなく,擦過細胞診により組織診断情報を提供でき,これにより超音波またはCTガイド下での針生検が不要となる場合もある。病期分類には造影CTが有用である。
病巣の進展範囲を特定して治療方針の参考とするには,開腹が必要である。
治療
胆管癌には,ステント留置術(またはその他のバイパス術)またはときに切除
胆嚢癌には,通常は対症療法
胆管癌では,閉塞部位へのステント留置術または外科的バイパス形成術により,そう痒,黄疸,おそらく疲労が緩和される。
CTで浸潤所見が確認された肝門部胆管癌には,PTCまたはERCPによりステントを挿入する。遠位胆管の胆管癌にはERCPにより内視鏡的にステントを留置する。胆管癌が限局性のようであれば,外科的検索により肝門部切除または膵頭十二指腸切除術による切除可能性を判定する。ただし,切除が成功することはまれである。
再発率が高いため,肝移植の適応はない。胆管癌に対するアジュバント化学療法および放射線療法の有効性は証明されていない。
胆嚢癌は多くの場合,対症的に治療する。
要点
胆道癌(通常は胆管癌または胆嚢癌)はまれである。
原因不明の肝外胆道閉塞または腹部腫瘤がみられる場合は,癌を疑う。
癌の診断は画像検査により行い,超音波検査から始め,続いてCT胆道造影またはMRCPを施行する。
癌の治療は対症的(例,胆管癌による閉塞に対するステント留置術またはバイパス術)に行うが,ときに切除の適応となる。