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バッド-キアリ症候群

執筆者:

Whitney Jackson

, MD, University of Colorado School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 2月
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バッド-キアリ症候群は,肝臓内の細い肝静脈から下大静脈,右房に至るまでのいずれかの部位で肝静脈流出路が閉塞する病態である。その臨床像は多様で,無症状のこともあれば,劇症肝不全に至ることもある。診断は超音波検査に基づく。治療には支持療法のほか,血栓溶解療法,シャントによる減圧および長期的な抗凝固療法のように静脈開存性を確立し,維持する方法がある。

バッド-キアリ症候群の病因

欧米諸国で最も頻度の高い原因は,血栓による肝静脈および隣接する下大静脈の閉塞である。血栓の一般的な原因は以下のものである:

バッド-キアリ症候群は,ときに妊娠中に発症し,それまで無症候性であった凝固亢進性の病態が顕在化する。

閉塞の原因は不明のことも多い。アジアおよび南アフリカでは,しばしば肝上部下大静脈の膜様閉塞(ウェブ)が基礎的な異常となっており,成人では以前にあった血栓の再疎通を,小児では発生過程での異常(例,静脈狭窄)を反映している可能性が高い。この種の閉塞はobliterative hepatocavopathyと呼ばれる。

バッド-キアリ症候群の症状と徴候

急性閉塞(約20%)では,疲労,右上腹部痛,悪心,嘔吐,軽度の黄疸,圧痛を伴う肝腫大,および腹水が生じる。これは典型的には妊娠中に発生する。脳症を伴う劇症肝不全はまれである。アミノトランスフェラーゼ値がかなり上昇する。

慢性の流出路閉塞(数カ月かけて発生する)では,進行するまでほとんどまたは全く症状を認めない場合もあれば,疲労,腹痛,肝腫大がみられる場合がある。静脈閉塞の結果として下肢の浮腫と 腹水 腹水 腹水とは,腹腔内に液体が貯留した状態のことである。最も一般的な原因は門脈圧亢進症である。症状は通常,腹部膨隆により生じる。診断は身体診察のほか,しばしば超音波検査またはCTに基づく。治療法としては,食塩制限,利尿薬,腹腔穿刺などがある。腹水に感染が起こることもあり( 特発性細菌性腹膜炎),しばしば疼痛と発熱を伴う。感染の診断には腹水の分析および培養が必要である。感染は抗菌薬で治療する。... さらに読む が生じることがあり,たとえ肝硬変がなくともみられる。 静脈瘤出血 静脈瘤 静脈瘤は,門脈圧亢進症に起因する下部食道または近位胃の静脈拡張で,門脈圧亢進症の原因は典型的には肝硬変である。大出血することがあるが,他には何も症状を引き起こさない。診断は上部消化管内視鏡検査による。治療は主に内視鏡的結紮術およびオクトレオチド静脈内投与による。ときに経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術を行う必要がある。 ( 消化管出血の概要も参照のこと。) 門脈圧亢進症は,いくつかの病態によってもたらされるが,主な原因は... さらに読む 静脈瘤 ,大量の腹水,脾腫, 肝肺症候群 肝肺症候群 肝肺症候群は, 門脈圧亢進症のある患者において,肺微小血管が拡張することにより生じる低酸素血症である;呼吸困難および低酸素血症は立位で悪化する。 肝肺症候群は, 慢性肝疾患の患者において,典型的には門脈圧亢進症を合併している場合,肺内微小動静脈の拡張により引き起こされる。その機序は不明であるが,肝臓における血管拡張物質の産生増加またはクリアランスの低下によると考えられている。血管拡張が起こると血流量が換気量を上回り低酸素血症に至るが,こ... さらに読む が単独または複合的に生じる 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症 門脈圧亢進症とは,門脈内の圧力が上昇した状態である。原因として最も頻度が高いものは,肝硬変(先進国),住血吸虫症(流行地域),および肝血管異常である。続発症として,食道静脈瘤や門脈大循環性脳症などが生じる。診断は臨床基準に基づいて行い,しばしば画像検査や内視鏡検査を併用する。治療としては,内視鏡検査,薬剤,またはその両方による消化管出血の予防のほか,ときに門脈下大静脈吻合術または肝移植を行う。... さらに読む の症状に加えて, 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む が発生する場合がある。下大静脈の完全閉塞では,腹壁および下肢に浮腫が生じるほか,骨盤から肋骨下縁にかけての腹部表層に蛇行する静脈がみられる。

バッド-キアリ症候群の診断

  • 臨床的評価と肝機能検査

  • 血管画像検査

肝腫大,腹水,肝不全,または肝硬変がみられる患者で,明らかな原因(例,アルコール乱用,肝炎)がみられないか,原因が説明できない場合は,バッド-キアリ症候群を疑う。

通常, 肝機能検査 肝臓および胆嚢の臨床検査 臨床検査は一般に以下の目的に効果的である: 肝機能障害の検出 肝損傷の重症度の評価 肝疾患の経過および治療効果のモニタリング 診断の絞り込み さらに読む は異常となるが,そのパターンは一様でなく,非特異的である。血栓症の危険因子が存在する場合は,この病態の可能性が高くなる。

バッド-キアリ症候群の予後

無治療の場合,静脈の完全閉塞を来した患者の大半は3~5年以内に肝不全により死亡する。不完全閉塞の患者がたどる経過は様々である。

バッド-キアリ症候群の治療

  • 支持療法

  • 十分な静脈流出の回復と維持

治療法は,発症様式(急性 vs 慢性)と重症度(劇症肝不全 vs 非代償性肝硬変または安定/無症候性)により異なる。管理の基本を以下に示す:

急性の場合(例,肝硬変がなく4週間以内で発生する場合)は,積極的な介入(例,血栓溶解療法,ステント)を選択する。血栓溶解療法では,急性の血栓を溶解することにより,閉塞部を再開通させ,肝うっ血を解除することができる。血管形成術,ステント留置術,門脈大循環短絡術などの放射線学的手技は,大きな役割を果たしうる。

大静脈膜様閉塞または肝静脈狭窄には,血管内ステントを用いる経皮的バルーン血管形成術を施行することで,肝流出路を維持することができる。狭小化した肝静脈流出路の拡張が技術的に困難な場合は,経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術(TIPS)や様々な外科的シャントによって血流を体循環に向かわせることで,減圧が可能である。 肝性脳症 門脈大循環性脳症 門脈大循環性脳症は,肝疾患患者に発生することがある精神神経症状の症候群である。ほとんどの場合,門脈大循環シャントが形成された患者において,腸管内タンパク質の増加または急性の代謝ストレス(例,消化管出血,感染,電解質異常)の結果として発生する。主に精神神経症状がみられる(例,錯乱,羽ばたき振戦,昏睡)。診断は臨床所見に基づく。治療法は通常,原因となっている急性の病態の是正,ラクツロースの経口投与,ならびにリファキシミンなど非吸収性抗菌薬の... さらに読む がある場合は,シャントにより肝機能が悪化する可能性があるため,門脈大循環短絡術は通常用いられない。さらに,シャント内には血栓が形成されることがあり,特に血液疾患または血栓性疾患のある患者ではその可能性がある。

バッド-キアリ症候群の要点

  • バッド-キアリ症候群(肝静脈流出路の閉塞)の最も一般的な原因は,肝静脈および下大静脈を遮断する血栓である。

  • 他の病態では説明できない典型的所見(例,肝腫大,腹水,肝不全,肝硬変)がみられる場合,または肝機能検査で異常がみられ,かつ血栓症の危険因子がある場合,本症を考慮する。

  • ドプラ超音波検査,または明確な結果が得られない場合にはMRアンギオグラフィーもしくはCTを用いて,診断を確定する。

  • 静脈流出路を復旧させ(例,血栓溶解療法,血管形成術,ステント留置術),合併症を治療する。

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