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ガスが関係する愁訴

執筆者:

Jonathan Gotfried

, MD, Lewis Katz School of Medicine at Temple University

最終査読/改訂年月 2020年 3月
本ページのリソース

腸管内には最大200mLのガスが存在しており,標準的な食事に加えて200gの煮豆を食べた後の1日当たりのガス排出量は平均600~700mLとなる。放屁の約75%は,摂取した栄養素および内因性糖タンパクの大腸での細菌発酵に由来する。ガスには水素(H2),メタン(CH4),および二酸化炭素(CO2)が含まれている。放屁の臭気は硫化水素の濃度と関連する。空気嚥下症(呑気症)および血液から腸管腔内への拡散も腸内ガスに寄与する。ガスは,腸管腔と血液の間で拡散し,その方向は分圧差によって決まる。したがって,腸管腔内の窒素(N2)の大部分は循環血に由来し,循環血中の水素の大部分は腸管腔に由来する。

病因

ガスに関連する主な愁訴は,過度のげっぷ,腹部膨隆(膨満),過度の放屁の3つであり,それぞれにいくつかの原因がある( ガス関連の愁訴の主な原因)。生後2~4カ月の乳児がひとしきり泣くことを繰り返す場合,しばしば苦痛であるように見え,これまでその原因は腹部痙攣またはガスにあるとされ,仙痛と称されてきた。しかしながら,研究では,仙痛を呈する乳児でH2産生の増加や口-盲腸通過時間の延長は示されていない。したがって,乳児仙痛の原因は依然として不明である。

過度のげっぷ

げっぷ(おくび)は嚥下された空気または炭酸飲料によって発生したガスが原因で生じる。正常では,飲食時に少量の空気を嚥下するが,人によっては摂食時や喫煙時,またはその他の時に空気を無意識に繰り返し飲み込み,特に不安な時やげっぷを誘発しようとした場合に飲み込む。流涎過多は空気嚥下を増加させ,種々の消化管疾患(例,胃食道逆流症),義歯不適合,特定の薬物,ガムの咀嚼,原因を問わず悪心に関連している可能性がある。

嚥下された空気の大部分はげっぷとして排出される。嚥下された空気のうち小腸に移行するものは少量だけで,その量は体位に左右されるようである。立位では,空気は直ちにげっぷとして排出されるが,仰臥位では,空気は胃液の上に捕捉され,十二指腸に送り込まれる傾向がある。過度のげっぷはまた随意であることもある;制酸薬服用後にげっぷを出す患者は,症状の緩和を制酸薬ではなくげっぷによるものと考え,苦痛を和らげるために意識的にげっぷを出すことがある。

腹部膨隆(腹部膨満)

腹部膨満は,機能性疾患(例,空気嚥下症,機能性ディスペプシア,胃不全麻痺,過敏性腸症候群)または器質的疾患(例,卵巣癌,結腸癌)の患者において単独または他の消化管症状との合併で発生することがある。胃不全麻痺(および結果として生じる腹部膨満)にも機能性以外の多くの原因があり,そのうち最も重要なものは糖尿病による内臓の自律神経障害であり,その他の原因としてはウイルス感染後,抗コリン作用を有する薬剤,オピオイドの長期使用などがある。しかしながら,過剰な腸内ガスにこれらの愁訴との明確な関連は認められない。大半の健常者では,腸管に1時間当たり1Lのペースでガスが送り込まれても,症状はほとんどみられない。多くの症状が誤って「過剰なガス」によるものとされている可能性が高い。

一方,消化管症状が反復する一部の患者は,しばしば少量のガスに耐えられない:大腸内視鏡検査時のバルーン拡張または空気注入による逆行性大腸拡張により,しばしば重度の不快感が一部の患者(例,過敏性腸症候群患者)で起こるが,症状がほとんど起こらない患者もいる。同様に,摂食障害(例,神経性やせ症,過食症)患者も,腹部膨満などの症状をしばしば誤って知覚し,特にストレスと感じる。したがって,ガス関連の症状を有する患者の基本的な異常は腸管の過敏性である場合がある。運動異常がさらに症状に寄与することもある。

過度の放屁

直腸のガス排出量および排出頻度には大きなばらつきがある。排便回数と同様に,鼓腸を訴える人は何が正常かということについてしばしば誤解している。放屁の平均回数は約13~21回/日である。放屁回数を客観的に記録すること(患者がつけた日記を使用)が評価する上での第一歩である。

放屁に関するエッセイ

【◇】(本マニュアルの第14版で初めて掲載)

甚大な心理社会的苦痛につながりうる放屁は,非公式ではあるが,その顕著な特徴によって次のように分類されている:

  • 「スライダー型」(混雑したエレベーター型):ゆっくりと音もなく放たれ,ときに強い影響を与える

  • 括約筋開放型または「プー」型:温度が高く,より香ばしいと言われている

  • スタッカート型またはドラムビート型:一人でいるときに出せば心地よい

  • 【◇】「バーク」型(ある私信に記載):絶叫的な鋭い噴出が特徴で,効果的に会話を中断(しばしば終了)させる(芳香性は顕著な特徴ではない)

まれに,この通常は苦痛を伴う症状が利点に変わることもあり,例えば「Le Petomane(放屁狂)」と呼ばれるフランス人は,ムーラン・ルージュの舞台で直腸からのガスを使って曲を優雅に演奏し,放屁芸人として裕福に暮らした。

放屁は腸内細菌の代謝副産物であり,嚥下された空気,循環血からのガス(主に窒素)の逆拡散に由来するものはほとんどない。細菌代謝は,かなりの量の水素,メタン,および二酸化炭素を産出する。

水素は,吸収不良症候群患者および消化の悪い炭水化物(例,煮豆),糖類(例,果糖),および糖アルコール(例,ソルビトール)を含む特定の果物および野菜を摂取した後に大量に産生される。二糖類分解酵素欠損症(最も頻度が高いのはラクターゼ欠乏症)患者では,大量の二糖類が大腸に移行し,発酵して水素が発生する。大腸ガスが過剰に認められる場合は,セリアック病,熱帯性スプルー,膵機能不全,炭水化物吸収不良の他の原因についても考慮すべきである。

メタンも,同じ食物(例,食物繊維)の大腸での細菌代謝によって産生される。しかしながら,約10%の人は,水素ではなくメタンを産生する細菌を保有している。

二酸化炭素も細菌代謝により産生されるとともに,重炭酸塩および水素イオンの反応により発生する。水素イオンは,胃の塩酸または脂肪の消化過程で放出される脂肪酸に由来することがあり,脂肪酸はときに数百mEqの水素イオンを生成する。吸収されなかった炭水化物が大腸内で細菌発酵して産生される酸生成物も,重炭酸塩と反応して二酸化炭素を生成しうる。ときに腹部膨満が起こるが,一般に二酸化炭素の血中への急速な拡散によって膨隆は回避される。

放屁の個人差は大部分が食事に起因するが,あまり解明されていない因子(例,大腸の細菌叢や運動性の差)が関与している可能性もある。

放屁中の水素およびメタンは可燃性であるにもかかわらず,火気の付近での作業は危険ではない。しかしながら,空腸手術,結腸手術,および大腸内視鏡検査時に,腸管洗浄が不十分な患者に対してジアテルミーを使用した際に,ガス爆発,さらには致死的な結果も報告されている。

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ガス関連の愁訴の主な原因

原因

示唆する所見

診断アプローチ

げっぷ

空気嚥下症(呑気症)

空気嚥下の自覚の有無にかかわらず

ときに過度に喫煙またはガムをかむ患者でみられる

ときに食道逆流症または義歯不適合の患者でみられる

臨床的評価

炭酸飲料からのガス

飲料の摂取は通常病歴から明らか

臨床的評価

意図的

通常は患者に質問すると認める

臨床的評価

腹部膨隆または膨満

空気嚥下症

げっぷを参照

臨床的評価

排便頻度または便の硬さの変化と関連する慢性の反復性腹部膨満または膨隆

レッドフラグサインなし

典型的には10代および20代で発生

臨床的評価

便検査

血液検査

胃不全麻痺

悪心,腹痛,ときに嘔吐

早期満腹感

ときに原因疾患の罹患が既知の患者

上部消化管内視鏡検査および/または胃内容排出を評価する核医学検査

長期持続する症状

やせているが過体重を非常に心配する患者,特に若年女性

臨床的評価

慢性の場合の便秘

硬く,回数の少ない排便の長期の病歴

臨床的評価

【◇】消化管以外の疾患(例,卵巣癌または結腸癌

中高年にみられる新たな持続性の腹部膨満

結腸癌では,ときに血便(血液は肉眼的,または検査で検出)

卵巣癌に対しては骨盤内超音波検査

結腸癌に対しては,大腸内視鏡検査

放屁

豆,乳製品,野菜,タマネギ,セロリ,ニンジン,芽キャベツ,果物(例,レーズン,バナナ,アンズ,プルーンジュース),および複合炭水化物(例,プレッツェル,ベーグル,小麦胚芽)などの食事性物質

主に症状はガスをもたらす可能性がある食物の摂取後に出現する

臨床的評価

除去試験

二糖類分解酵素欠損症

乳製品摂取後の腹部膨満,腹部痙攣,および下痢

呼気試験

貧血,脂肪便,食欲不振,下痢の症状

セリアック病では,筋力低下,しばしば小児期にはじまる症状

熱帯性スプルーでは,悪心,腹部痙攣,体重減少

血液検査

小腸生検

膵機能不全

下痢,脂肪便

通常は膵疾患の既往あり

腹部CT

ときにMRCP,超音波内視鏡検査,または内視鏡的逆行性胆道膵管造影

便中エラスターゼ

ERCP = 内視鏡的逆行性胆道膵管造影;MRCP = 磁気共鳴胆道膵管造影。

評価

病歴

げっぷ患者の現病歴の聴取では,空気嚥下症の原因,特に食事要因の発見に焦点を置くべきである。

ガス,腹部膨満,または放屁を訴える患者では,症状と食事(食事のタイミングおよび種類と量の両方),排便,および労作との関係を明らかにすべきである。特定の患者は,特に急性の状況では,冠動脈虚血の症状を報告する際に「ガス」という言葉を使うことがある。便の頻度,色,硬さの変化がないか検討する。体重減少の病歴に注意する。

系統的症状把握(review of systems)では,考えられる原因の症状がないか検討すべきであり,具体的には下痢および脂肪便(セリアックスプルー,熱帯性スプルー,二糖類分解酵素欠損症,膵機能不全などの吸収不良症候群)や体重減少(癌,慢性吸収不良)などがある。

既往歴の聴取では,考えられる原因( ガス関連の愁訴の主な原因)について食事のあらゆる要素を検討すべきである。

身体診察

検査は一般に正常であるが,腹部膨満や放屁がみられる患者では,腹部診察,直腸診,および内診(女性の場合)で器質的な基礎疾患の徴候がないか検討すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は注意が必要である:

  • 体重減少

  • 血便(潜血または肉眼的)

  • 胸部における「ガス」の感覚

所見の解釈

【◇】排便との関連がみられ,排便頻度または便の硬さの変化を伴うが,レッドフラグサインは伴わない腹痛がある患者において腹部膨満または膨隆が繰り返しみられる場合には,過敏性腸症候群が示唆される。

他の点では健康で体重減少のない若年者に症状が長期間みられる場合は,重篤な器質的疾患が原因である可能性は低いが,摂食障害を考慮すべきである(特に若年女性の場合)。腹部膨満が下痢,体重減少,またはその両方と関連する(または,特定の食物の摂取後にだけみられる)場合は,吸収不良症候群が示唆される。

検査

げっぷは,他の症状が特定の疾患を示唆するのでない限り,検査は適応ではない。

呼気試験による炭水化物不耐症(例,乳糖,果糖)の検査を考慮すべきであり,特に病歴からそれらの糖質の大量摂取が示唆される場合は考慮すべきである。小腸細菌異常増殖の検査も考慮すべきであり,特に下痢,体重減少,またはその両方を呈する患者では考慮すべきで,上部消化管内視鏡検査時に得られた小腸吸引物の好気培養と嫌気培養が望ましい。水素呼気検査による細菌異常増殖の検査(一般にはブドウ糖-水素呼気試験)は偽陽性(すなわち,急速な通過)や偽陰性(すなわち,水素産生細菌がない場合)となる傾向がある。

中高年の女性(または内診で異常のある女性)で新たな,持続性の腹部膨満が認められる場合は,卵巣癌を除外するため骨盤内超音波検査を行うべきである。

治療

げっぷおよび腹部膨満は,通常,無意識の空気嚥下症または正常量のガスに対する感受性亢進を原因として生じるため,これらの緩和は困難である。空気嚥下症はガムや炭酸飲料の除去,空気嚥下を防ぐ認知行動療法,および関連する上部消化管疾患(例,消化性潰瘍)の管理により,軽減することがある。吸収されない炭水化物を含む食物は避けるべきである。乳糖不耐症患者でも,1日を通して少量ずつ牛乳を飲んだのであれば,一般にコップ1杯までは耐えられる。繰り返されるげっぷの機序を明らかにし,提示すべきである。空気嚥下症が問題である場合は,口を開けての横隔膜呼吸を奨励し,空気嚥下を最小限に抑える行動療法が効果的なことがある。

薬剤はほとんど便益をもたらさない。小さな気泡を分解する薬剤ジメチコンおよび様々な抗コリン薬による治療成績は不良である。消化不良と食後の上腹部膨満感がみられる一部の患者では,制酸薬,低用量の三環系抗うつ薬(例,ノルトリプチリン10~50mg,経口,1日1回),またはその両方が内臓過敏症を軽減するのに有益である。

過度の放屁の訴えは,誘因物質の回避によって治療される( ガス関連の愁訴の主な原因)。大腸通過を促進させることを目的として食物繊維(例,ブラン,オオバコ種子)を食事に加えてもよいが,患者によっては症状が悪化することがある。活性炭はときにガスおよび不快臭の軽減に役立つが,衣類および口腔粘膜に染みをつける。炭入り下着が入手可能である。【◇】プロバイオティクスも腸内細菌叢を調整することにより腹部膨満および鼓腸を軽減することがあるが,この領域のデータは限られている。腸内細菌異常増殖が証明されている患者では抗菌薬が有用である。

機能性の腹部膨満,膨隆,および放屁は,間欠性で慢性の経過をとることがあり,治療によって部分的にのみ軽減する。該当する場合には,これらの問題が健康に有害ではないと安心させることが重要である。

要点

  • 検査は臨床的特徴に基づいて行うべきである。

  • 高齢患者では新規発生した持続性症状に注意する。

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