大動脈破裂(外傷性)

執筆者:Thomas G. Weiser, MD, MPH, Stanford University School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 5月
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鈍的または穿通性胸部外傷後に,大動脈が完全または不完全に破裂することがある。徴候としては,非対称性の脈拍または血圧,下肢への血流減少,前胸部の収縮期雑音などがある。診断は,受傷機転および/または胸部X線所見によって疑われることが多く,CT,超音波検査,または大動脈造影で確定する。治療は,観血的修復またはステント留置による。

胸部外傷の概要も参照のこと。)

病因

鈍的外傷の場合,通常の受傷機転は重度の減速損傷である;しばしば複数の肋骨骨折,第1および/または第2肋骨骨折,またはその他の重度の胸部外傷の症状がみられる。

穿通性外傷の場合,通常は創傷が縦隔を横切る(例,乳頭または肩甲骨の間に入る)。

病態生理

完全破裂では大量失血により急死する。contained ruptureを伴う部分的な破壊が,動脈管索( see figure 大動脈の部分破裂のほとんどは動脈管索の近くで起こる)の近くで起こる傾向があり,通常無傷の外膜層により血流が維持される傾向がある。しかし,部分破裂により限定的な縦隔血腫も生じる場合がある。

大動脈の部分破裂のほとんどは動脈管索の近くで起こる

症状と徴候

外傷性大動脈損傷では一般的に胸痛がある。

徴候としては,上肢の脈拍欠損,前胸部または後方の肩甲骨間の部位における粗い収縮期雑音,嗄声,および下肢への血流障害の所見(上肢に比較して下肢での脈拍または血圧の減弱など)などがある。

診断

  • 大動脈の画像検査

外傷性大動脈損傷を示唆する受傷機転または所見のある患者では本症を疑うべきである。胸部X線を施行する。

本症を示唆する胸部X線所見としては以下のものがある:

  • 縦隔の拡大(高齢患者以外では高感度)

  • 第1または第2肋骨骨折

  • 大動脈隆起の閉塞

  • 気管または食道(およびそれにより経鼻胃管も)の右方偏位

  • 左主気管支の下方偏位

  • Pleural capまたはapical cap

  • 血胸,気胸,または肺挫傷

しかし,このような胸部X線所見の一部は直ちに認められないことがある。また,感度もしくは特異度が十分高い所見またはその組合せはない;そのため多くの専門家は,重度の減速損傷の全患者に対しては,診察または胸部X線で本症を示唆する所見がない場合でも,大動脈の画像検査を推奨している。

第1選択の大動脈の画像検査は施設により異なる。かなり正確な検査として以下のものがある:

  • CT血管造影:直ちに使用でき(ほとんどの外傷センターで),迅速である。

  • 大動脈造影:最も正確と考えられているが,侵襲的であり(合併症発生率が高い),完了までに長時間かかる(通常1~2時間)。

  • 経食道心エコー検査:迅速で(通常30分未満),合併症発生率が低く,CTで見逃す可能性のある一部の合併損傷(例,腕頭動静脈の損傷)を検出でき,かつベッドサイド検査であるため状態の不安定な患者でも使用できる。しかし,精度は操作者に依存し,常に使用できるとは限らない。

使用できる画像検査のいずれかを受けられるほどに患者の状態が安定しておらず,ショックの原因として外傷性大動脈損傷が疑われる場合,緊急手術が必要である。

治療

  • 血圧コントロール

  • 外科的修復またはステント留置

外傷性大動脈損傷の患者は急速輸液が適応となるが,他の出血源が除外されれば拍動を制御する治療法(通常はβ遮断薬を用いて,心拍数および血圧を抑える)を開始すべきである。目標は,心拍数90/分以下,収縮期血圧120mmHg以下である;患者にバルサルバ法を行わせるべきではない。気管挿管または経鼻胃管挿入を必要とする場合,咳嗽および吐き気を避ける対策(例,気管挿管ではリドカイン1mg/kg静注による前処置,経鼻胃管挿入では管を通す際に抵抗を避ける)を講じるべきである。

従来から確実な治療法は緊急手術による修復であったが,最近の経験からは,現在は血管内ステント留置が第1選択の治療法であることが示唆される。生命を脅かす可能性のある他の損傷の評価および治療中は,外科的修復は遅らせてよい。

要点

  • 急激な減速により生じた胸部損傷の患者では,大動脈の部分破裂を考慮すべきである。

  • 胸部X線異常は頻度が高いが,みられない場合もあり,しばしば非特異的である;より優れた大動脈の画像検査には,CT血管造影,大動脈造影,経食道心エコー検査などがある。

  • 心拍数および血圧を管理し(通常はβ遮断薬による),血管内ステントを留置するかまたは手術により修復する。

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