熱傷の焼痂切開

執筆者:Matthew J. Streitz, MD, San Antonio Uniformed Services Health Education Consortium
レビュー/改訂 2020年 9月
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焼痂とは,II度またはIII度の深い熱傷によって生じる皮膚の硬い壊死組織である。四肢の全周に及ぶ焼痂は末梢循環を収縮させ,胸郭の焼痂は呼吸を抑制する。焼痂切開は,焼痂を切開して収縮を解除することで,末梢循環を回復させ,十分な換気を可能にする外科的処置である。

焼痂切開は通常,熱傷の発生後2~6時間以内に行われる。コンパートメントの減圧を目的として切開を入れる筋膜切開と異なり,焼痂切開では筋膜深層を破ることはない。

熱傷も参照のこと。)

適応

  • 熱傷領域またはその周辺の組織が焼痂により圧迫されている,またはその可能性がある

組織の圧迫は以下のいずれかにより同定される:

  • 全身低血圧がない状態で,ドプラ超音波法で測定した遠位部における動脈血流の欠如

  • 全身の低酸素症がない状態で,パルスオキシメトリーによる四肢遠位端の酸素飽和度が95%未満

  • コンパートメント内圧 > 30mmHg

  • 体幹または頸部の全周性熱傷による呼吸障害,またはその切迫

医師は強く疑ってかかるべきであり,焼痂切開の施行基準を低く設定しておくべきである。

禁忌

  • なし

合併症

この手技による合併症としては以下のものがある:

  • 出血

  • 感染症

  • 下部の神経血管構造の損傷

  • 不注意による筋膜切開

器具

  • 滅菌ドレープ

  • ポビドンヨードやクロルヘキシジンなどの消毒液

  • 25Gおよび21G針

  • 10mLシリンジ

  • 1%リドカインなどの局所麻酔薬

  • 11番のメス刃および/または電気焼灼器

  • 滅菌ガーゼ

  • バシトラシンやムピロシンなどの外用抗菌薬*

  • 滅菌手袋

*スルファジアジン銀クリームは通常,もはや推奨されない (1)。

関連する解剖

  • 焼痂は全層熱傷で生じることもあれば,頻度は低いが,少なくとも真皮に及ぶ深達性部分層熱傷で生じることもある。

  • 焼痂切開を適切に行った場合,焼痂の解放は皮下脂肪の深さにとどまる。この解放による出血は最小限であり,局所の圧迫または電気焼灼で止血できる。

各部位の切開時に回避すべき主な神経血管構造としては以下のものがある:

  • 肘関節:尺骨神経

  • 手関節:橈骨神経

  • 腓骨頭:浅腓骨神経

  • 足関節:後脛骨動脈

  • 頸部:頸静脈

  • 陰茎:陰茎背静脈

体位

  • 患者にとって不快感が少なく,熱傷がよく露出する姿勢をとらせる

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • ポビドンヨードまたはクロルヘキシジン液で処置部位を消毒する。

  • 滅菌ドレープをかける。

  • 熱傷の痛みが特に強い場合は,フェンタニル1~2μg/kgの静注やモルヒネ0.1~0.2mg/kgの静注などによりオピオイド鎮痛薬を全身投与した後,必要に応じて用量を調節する。

  • 鎮静されていない患者では,熱傷を負っていない部分の近位端および遠位端の生存組織に局所麻酔をすることが有益である。

四肢

  • 無菌操作を用いて,患肢の外側面および内側面を,熱傷領域の近位1cmから収縮している熱傷領域の遠位1cmまで,メスまたは電気焼灼器で切開する。

  • 主要な動脈や神経などの重要な構造(例,肘関節の尺骨神経,手関節の橈骨神経,腓骨頭付近の浅腓骨動脈,足関節の後脛骨動脈)を避ける。

  • 切開は皮膚全層までとする。切開は関節をまたぐべきである。この切開により,収縮している焼痂が直ちに分離され,皮下脂肪が露出するはずである。

  • 手の全周性の熱傷では,母指球面および小指球面まで切開を延長する。

  • 足の全周性の熱傷では,内側は母趾まで,外側は小趾まで切開を延長する。

  • 灌流を再評価する:焼痂切開を適切に行うと,組織がほぼ即時に軟化し,遠位組織の灌流,感覚,ドプラ血流信号強度,およびオキシメトリーの値が改善する。処置後に灌流が改善しない場合は,焼痂切開の深さおよび位置を再評価し,十分な深さの切開が行われていない部分があれば再度切開を入れる。

胸部

  • 無菌操作を用いて,胸壁の前腋窩線上,鎖骨から肋骨下縁にかけて両側に切開を入れる;女性では乳房組織を避ける(焼痂切開で切開を入れる部位の図を参照)。横切開でこれをつなぎ合わせ,肋骨弓下に逆V字形の切開を作ることを考慮する。

  • 反応の評価:気道内圧の上昇または換気不能は,焼痂を再切開する必要性を示す所見である。

焼痂切開で切開を入れる部位

破線は望ましい焼痂切開の部位を示している。太線は,焼痂切開によって血管構造や神経が損傷を受ける可能性のある領域を示している。

頸部

  • 頸動静脈を避けるため,頸部焼痂切開は外側の後方寄りに行うべきである。

陰茎

  • 陰茎の焼痂切開は,背静脈を避けるために外側寄りに行う。

アフターケア

  • バシトラシンやムピロシンなどの適切な外用抗菌薬を染み込ませた滅菌ガーゼで切開部をゆるくパッキングする。

  • 疼痛コントロールや組織灌流モニタリングなどの調整された決定的なケアを行うため,地域の熱傷センターに搬送する。

  • 熱傷センターが利用できない場合は,地域の病院に入院させる。

注意点とよくあるエラー

  • 浮腫およびショックがあるため,皮膚温は四肢虚血を良好に反映しない。可能な限り客観的な測定指標を用いること。

  • 焼痂切開には感染のリスクがある。切開創は熱傷の一部として治療する。

  • 焼痂切開と筋膜切開を混同してはならない;焼痂切開では,切開を筋膜より上でとどめる。

アドバイスとこつ

  • 全層熱傷は痛覚の感受性が低下し,表在血管の凝固を伴うため,麻酔は不要である。しかしながら,深達性部分層熱傷では痛覚が残存して,静注オピオイドによる高度の鎮痛が必要になる場合もある。

  • 適切な焼痂切開を行えば,圧が解放されると同時に切開口が大きく開く;これがみられない場合は,切開が浅すぎた(または焼痂が収縮性でない)ことを意味する。

参考文献

1.Heyneman A, Hoeksema H, Vandekerckhove D, et al: The role of silver sulphadiazine in the conservative treatment of partial thickness burn wounds: A systematic review.Burns 42(7):1377–1386, 2016.doi:10.1016/j.burns.2016.03.029

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