米国では,避妊しようとしているカップルの3分の1が,特に女性が30歳以上の場合に,精管切除術または卵管結紮術による永久的な避妊を選択する。
この避妊法は永久的なものと意図されており,そうみなすべきである。挙児希望がある場合は再吻合を考慮してもよいが,そのような手技後の生児出生率は以下の通りである:
精管再建術(vasectomy reversal):約26%(1)
女性における永久的な避妊処置後:卵管を閉鎖した場合はわずか,卵管を摘出した場合は0%
体外受精が成功する可能性がある。
総論の参考文献
1.Lee R, Li PS, Schlegel PN, Goldstein M: Reassessing reconstruction in the management of obstructive azoospermia: reconstruction or sperm acquisition?Urol Clin North Am 35 (2):289-301, 2008.x.doi: 10.1016/j.ucl.2008.01.005.
男性の永久的な避妊法(精管切除術)
この手技では,精管を切断し,断端を結紮または焼灼する。精管切除術は約20分で行うことができ,局所麻酔を使用する。不妊となるには術後に約20回の射精が必要で,精子を含まない射精が2回あることで確認すべきであり,そのような精液は通常,手術の3カ月後に得られる。それまでの間は他の避妊法を用いるべきである。
手技後2~3日間は軽度の不快感がよくみられる。この期間は非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を服用し,射精をしないことが推奨される。
精管切除術の合併症としては以下のものがある:
血腫(5%以下)
精子肉芽腫(精子漏出に対する炎症反応)
自然発生的な再吻合(通常は術後間もなく起こる)
精管切除術後の累積妊娠率は,5年時点で1.1%である。
女性の永久的な避妊法
女性の永久的な避妊のためには,卵管に対して以下の処置を行う:
切断して一部を切除する
結紮,焼灼,または様々な機械的器具(プラスチックバンドやリング,ばね式クリップ)を用いて閉鎖する
完全に摘出する
妊娠率は,プラスチックバンドよりもばね式クリップの場合の方が高い。機械的器具を用いる手技は組織損傷が少ないため,結紮または焼灼による閉鎖に比べ,より可逆的となりうる。卵管の完全な摘出は,卵巣がんのリスクを低下させる可能性がある。
用いられる方法としては,以下のものがある:
腹腔鏡手術
子宮鏡手術
小開腹手術
卵管結紮術は,帝王切開中または経腟分娩の1~2日後に臍周囲の小切開を用いて施行できる(腹腔鏡による)。
腹腔鏡手術による永久的な避妊法
女性に永久的な避妊をもたらすのに用いられる腹腔鏡手術は,従来から,通常は分娩から6週間以上経過後に,手術室において,インターバル手技(妊娠に関係ない手技)として行われてきたもので,全身麻酔が用いられる。
それらの手技の累積失敗率は10年時点で約1.8%であるが,他の手技よりも失敗率が高い手技もある。出産後の腹腔鏡下手術は,他の一部の腹腔鏡下手技よりも失敗率が低い。
子宮鏡手術による永久的な避妊法
最近まで,コイルを備えた小さな挿入物を使用する子宮鏡手術が,女性に永久的な避妊をもたらす目的で施行可能であった。しかし,この方法で使用されていた器具は,2018年12月31日をもって米国の市場から排除された。このため,この方法はもはや米国では用いられていない。
子宮鏡手術による永久的な避妊法では,医師が子宮鏡ガイド下にコイルを備えた小さな挿入物を腟から子宮を経て卵管内まで挿入することにより,卵管腔を閉塞させる。コイルは外側の層がニッケル/チタン合金,内側の層がステンレス鋼およびポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されている。PET線維が増殖反応を促進することで,卵管を閉塞させる。
卵管結紮術と比較した場合のこの手技の利点として以下のものがある:
外来手技としてクリニックで施行可能である。
卵管の切開や切断,クリッピング,焼灼を必要としない。
比較して不利益な点は,小さな挿入物が挿入された後,卵管を閉塞させる反応に数週間を要するため,不妊効果が得られるまでに最大3カ月の遅れがあることである。医師は手技後3カ月間は他の避妊法を用いるよう女性に勧めることが多い。女性は子宮内膜を安定させ,子宮鏡中に視野を良くする方法(例,メドロキシプロゲステロンのデポ剤)を選択すべきである。この方法は手技の3カ月後に子宮卵管造影により卵管閉塞が確認されるまで用いられる。放射線造影剤にアレルギーがある場合は,卵管閉塞の確認に超音波検査を用いる。
小開腹手術
小開腹手術は,通常は女性が分娩直後に永久的な避妊を求める場合に,腹腔鏡手術の代わりに用いられることがある。
小開腹手術には全身,区域,または局所麻酔が必要である。小さな腹部切開(2.5~7.6cm)を行い各卵管の一部を切除する。腹腔鏡に比べ,小開腹手術では痛みがより強く,回復にはやや長い時間がかかる。
合併症
女性における永久的な避妊法による合併症はまれである。具体的には以下のものがある:
死亡:女性100,000人当たり1~2人
出血または腸損傷:女性の約0.5%
その他の合併症(例,卵管閉塞の失敗):女性の最大約5%
異所性妊娠:卵管閉塞後に生じた妊娠の約30%
子宮鏡手術による永久的な避妊法の合併症としては,骨盤痛,異常子宮出血,炎症性疾患などもみられる。
要点
精管切除術と卵管結紮術は永久的とみなすべきであるが,再吻合によりときに妊孕性が回復することを患者に伝えておく。
男性では精管を切断し,その後結紮または焼灼する;不妊は通常3カ月後に2回の精子のない射精により確認する。
女性では卵管を切断または摘出する;切断の場合は引き続いて卵管の一部を切除するか,結紮,焼灼や様々な機械的器具(プラスチックバンドやリング)を用いて卵管を閉鎖する;用いられる手技には腹腔鏡および小開腹手術がある。