このけがをした人には、激しい胸痛のほか、しばしば脈拍の減弱、声がれ、またはショックがみられます。
胸部X線検査のほか、しばしばその他の画像検査(CT血管造影、超音波検査、または大動脈造影など)も行われます。
外傷性大動脈損傷は緊急の治療を要します。
血圧と心拍数をコントロールしてから、損傷を修復するための手術が行われます。
(胸部損傷に関する序 胸部損傷に関する序 多くの胸部損傷では、肋骨、上腹部、肺、血管、心臓、筋肉、軟部組織、胸骨などに損傷が起こります。ときに食道、鎖骨、または肩甲骨に損傷が及ぶこともあります。 米国では、重度損傷による死亡の約25%を胸部損傷が占めます。受傷後数分から数時間で死に至りうる損傷でも、その多くは大手術を行わずに救急医療機関で治療または安定させることができます。... さらに読む も参照のこと。)
心臓は、大動脈を介して血液を全身に送り出しています。そのため、大動脈が裂けること(大動脈損傷)は、生命を脅かす緊急事態です。大動脈が大きく裂けた場合、普通は病院に到着する前に死亡しています。
大動脈損傷は一般に、高速度での自動車衝突事故または高所からの転落によって起こります。多くの場合、 肋骨骨折 肋骨骨折 肋骨骨折とは、胸部を取り囲む骨にひびが入ったり骨が折れたりすることです。 肋骨骨折は重度の痛みを引き起こし、特に深呼吸したときに痛みがひどくなります。 通常は胸部X線検査が行われます。 痛み止めを投与され、肺の病気を予防するために約1時間に1回、せきまたは深呼吸をするように言われます。 ( 胸部損傷に関する序も参照のこと。) さらに読む やその他の重症損傷を伴います。
大動脈の損傷の症状
通常は、胸壁の損傷による激しい胸痛があります。声がれや脈拍の減弱(特に下肢)がみられることもあります。手足は汗ばみ、青く冷たくなります。血圧低下、呼吸困難、錯乱など、 ショック ショック ショックとは、臓器に向かう血流が減少することで、酸素の供給量が低下し、それにより臓器不全やときに死にもつながる、生命を脅かす状態です。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む の症状がみられることもあります。
大動脈の損傷の診断
画像検査
胸部外傷のあるすべての患者に、 胸部X線検査 胸部X線検査 心疾患が疑われる場合は、必ず正面と側面から 胸部X線画像を撮影します。通常、患者が直立した状態で撮影しますが、立っていられない患者にはベッドに横になった状態で胸部X線検査を行うことがあります。そして、装置からX線を体に照射し、X線フィルムに画像を記録します。検査は痛みを伴いません。 X線画像では心臓の形と大きさ、肺や胸部を流れる太い血管の輪郭が分かります。心臓の形や大きさの異常、血管内へのカルシウムの沈着といった異常は容易に確認できます... さらに読む が行われます。しかし、大動脈の裂傷は胸部X線写真に写らないことがあり、これを見逃すと、深刻な結果を招くことになります。そのため、高速度での自動車衝突事故または高所からの転落で重度の胸部損傷を負った患者には、しばしば CT血管造影検査 CT血管造影 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む 、 心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む 、超音波検査、または大動脈造影検査(大動脈の血管造影 心臓カテーテル検査と冠動脈造影検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む ―表「 一般的な血管造影の種類 一般的な血管造影の種類 」を参照)といった他の画像検査が行われます。
大動脈の損傷の治療
心拍数と血圧のコントロール
大動脈の修復または大動脈にステント(網目状のワイヤーでできた筒)を挿入する手術
真っ先に優先するのは、心拍数と血圧をコントロールすることです。血圧と心拍数が高いと、裂け目が大きくなり、ときに大動脈が破裂することがあります。 ベータ遮断薬 アドレナリン遮断薬 高血圧は非常によくみられます。症状がない場合も多いですが、高血圧は 脳卒中、 心臓発作、および 心不全のリスクを高める可能性があります。そのため、高血圧を治療することは重要です。高血圧の人は、血圧を下げるために 生活習慣を変えるべきです。しかし、そのような変更だけで血圧が十分に低下しない場合には、薬物治療が必要になります。 高血圧の治療に使用される薬剤は降圧薬と呼ばれています。降圧薬にはいろいろな種類があり、高血圧のほとんどを制御するこ... さらに読む などの薬剤は、血圧と心拍数のコントロールに役立ちます。ほかにも、痛み止めの投与、患者を落ち着かせること、むせや嘔吐を誘発する処置を避けることなどが役立つ可能性があります。
心拍数と血圧をコントロールしてから、裂け目を修復するための手術が行われます。ときに、裂け目を覆うために、ステント(網目状のワイヤーでできた筒)が留置されることがあります。