大血管転位症

(TGA)

執筆者:Lee B. Beerman, MD, Children's Hospital of Pittsburgh of the University of Pittsburgh School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 3月
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大血管転位症は、心臓に対する大動脈と肺動脈の接続が正常と比べて逆転している状態です。

  • 大動脈と肺動脈が入れ替わっているため、酸素の少ない血液が全身を循環し、酸素の豊富な血液は肺と心臓の間を循環し、全身には循環しません。

  • 症状は出生時から明らかで、重度のチアノーゼ(唇と皮膚の色が青みがかる)や呼吸困難などがみられます。

  • 診断は心エコー検査に基づいて下されます。

  • 出生後すぐに投薬または緊急の心臓カテーテル検査が必要になることがあります。

  • 通常は生後数日以内に手術を行います。

心臓の異常の概要も参照のこと。)

全身から戻ってきた酸素の少ない血液は、健常者と同じように右心房に入ってから右心室に流れ込みますが、その後は肺を迂回して、大動脈から全身に送り出されます。酸素を受け取った血液は、心臓と肺の間を往復しますが(肺から肺静脈へ、それから左心房から左心室、肺動脈へ)、全身に送り出されません。

体は酸素なしでは生きられません。しかし、この心臓の異常がある乳児は、卵円孔(左右の心房を隔てる壁に開いている孔)と動脈管(肺動脈と大動脈をつなぐ血管―正常な胎児循環を参照)が出生時点でまだ開いているため、生後少しの間は生存できることがあります。これらが開いていると、酸素の豊富な血液が酸素の少ない血液と混ざり合うため、ときに新生児が生き続けられるのに十分な酸素が全身に供給されます。動脈管は健常者と同様に出生後に閉じてしまいますが、そうなると、心房の壁の孔が非常に小さい場合、酸素を豊富に含んだ血液を全身に送り出せる量が非常に少なくなってしまいます。直ちに異常を修復しなければ、死に至ります。

大血管転位症は、別の心臓の異常である心室中隔欠損(下の2つの心腔を隔てる壁に開いた孔)を伴うことがありますが、この孔を介して酸素の少ない血液に酸素の豊富な血液が混ざるため、逆にこの孔が有用になります。

大血管転位症

大動脈と肺動脈の心臓との接続が正常な場合と逆になっています。

大血管転位症の症状

大血管転位症は、通常、生まれてすぐに重いチアノーゼ(唇と皮膚の色が青みがかる)と呼吸困難を引き起こします。

大血管転位症の診断

  • 心エコー検査

医師は、新生児の血液中の酸素レベルが非常に低い場合に、この病気を疑います。呼吸が速いものの、呼吸努力はみられません。

心エコー検査(心臓の超音波検査)により診断が確定されます。

典型的には心電図検査胸部X線検査も行われます。心電図検査の結果は一般に正常です。胸部X線検査では、心臓の拡大や心臓の形の異常が認められることがあります。

大血管転位症の治療

  • ときに、プロスタグランジンなどの動脈管を開いた状態に保つ薬

  • バルーン心房中隔裂開術

  • 手術

通常は生後数日以内に手術が行われます。しかし、手術ができるようになるまで乳児の生存を維持するために、まず別の処置が行われることがあります。

一部の乳児では、動脈管を開いた状態に保つためにプロスタグランジンが静脈に投与されます。動脈管を開いた状態に保つことで、肺の血流が増加し、血液中の酸素レベルが上昇することがあります。プロスタグランジンを投与されると不安定になることがあるため、この薬の投与を受けている乳児は綿密にモニタリングされます。

重度の症状がみられ、プロスタグランジンで効果がみられない乳児では、心房の壁に開いた孔が小さすぎるために、左心房から流れてくる酸素の豊富な血液が右心房内の酸素の少ない血液と十分に混ざり合えていない可能性があります。この状況では、バルーン心房中隔裂開術が行われることがあります。先端にバルーンを取り付けた細いチューブ(カテーテル)をへその血管(臍静脈[さいじょうみゃく])か鼠径部の血管(大腿静脈[だいたいじょうみゃく])から挿入して、心臓まで到達させます。そして先端を心房間の開口部(卵円孔)に置いて、バルーンを膨らませて開口部から引き抜きます。この手順により卵円孔が広がることで、酸素を豊富に含んだ血液が左心房から右心房に流れ、そこから全身に送り出されるようになります。

手術では、大動脈と肺動脈を剥がして、それらを適切な心室に「付け替え」ます。大動脈の付け替えに続いて、心臓の冠動脈を大動脈につなげ直します(この手術は動脈スイッチ手術として知られています)。

手術後は、特定の異常が残っている一部の小児に限り、歯科受診や特定の手術(呼吸器の手術など)の前に抗菌薬を服用する必要があります。それらの抗菌薬は、心内膜炎と呼ばれる重篤な心臓の感染症を予防するために使用されます。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国心臓協会:一般的な心臓の異常(American Heart Association: Common Heart Defects):親と養育者に向けて一般的な心臓の先天異常の概要を提供している

  2. 米国心臓協会:感染性心内膜炎(American Heart Association: Infective Endocarditis):親と養育者に向けて感染性心内膜炎の概要(抗菌薬使用の要約を含む)を提示している

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