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脳性麻痺

執筆者:

M. Cristina Victorio

, MD, Akron Children's Hospital

レビュー/改訂 2021年 4月
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やさしくわかる病気事典

脳性麻痺とは、運動困難と筋肉のこわばり(けい縮)を特徴とする症候群です。原因は、出生前の脳の発育過程で生じた脳の奇形か、出生前、分娩中、または出生直後に起きた脳損傷です。

  • 脳性麻痺の原因としては、酸素欠乏や感染によって生じる脳の損傷や、脳の奇形などがあります。

  • 症状の程度は様々で、ぎこちなさがかろうじて分かる程度のこともあれば、脚や腕の動きがかなり制限されている、あるいは麻痺と関節のこわばりが強く四肢をまったく動かせないこともあります。

  • 脳性麻痺の小児には、知的障害、行動障害、視覚障害、難聴、けいれん性疾患などがみられることもあります。

  • この病気は、歩行などの運動能力の発達が遅れている小児や、筋肉のこわばりや筋力低下がある小児で疑われます。

  • 脳性麻痺の小児のほとんどは、死亡することなく成人になります。

  • 脳性麻痺には根治的な治療法がありませんが、小児の可能性を最大限に生かすために、理学療法、作業療法、言語療法のほか、ときに薬剤や手術が有効な場合があります。

脳性麻痺とは、1つの病気ではなく、筋肉の動き支配する脳の一部(運動野)の奇形や損傷によって生じる一群の症状を表す用語です。脳性麻痺の小児では、ときに脳の他の部分にも異常がみられることがあります。脳性麻痺の原因になる脳損傷は、胎生期、分娩中、出生後、または小児期の初期などに発生します。脳にいったん損傷が起きると、小児が成長して成熟するにつれて症状が変化することはあっても、損傷自体が悪化することはありません。2歳以降に起きた脳損傷のために筋肉がうまく機能しなくなった場合は、脳性麻痺とはみなされません。

知っていますか?

  • 脳性麻痺とは、1つの病気ではなく、筋肉の動き支配する脳の一部(運動野)の奇形や損傷によって生じる、互いに関連する一群の症状を表す用語です。

脳性麻痺の原因

脳性麻痺の原因には様々な種類の脳の奇形や脳損傷があり、ときに複数の原因が関与していることもあります。15~20%の症例では、出生の直前、最中、または直後に生じた問題が原因です。具体的な問題としては、分娩中の酸素欠乏、感染症、脳損傷などがあります。 風疹 風疹 風疹は、典型的には関節痛や発疹などの軽い症状を引き起こす感染力の強いウイルス感染症ですが、妊娠中の母親が風疹に感染すると、新生児に重い先天異常が起きます。 風疹の原因はウイルスです。 典型的な症状としては、リンパ節の腫れ、口蓋(こうがい)に出るバラ色の斑点、特徴的な発疹などがあります。... さらに読む 風疹 トキソプラズマ症 トキソプラズマ症 トキソプラズマ症は、単細胞の寄生虫であるトキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)によって引き起こされる感染症です。ネコの糞に含まれるトキソプラズマのシストを知らずに摂取したり、汚染された肉を食べたりすることで感染が起きます。通常は無症状ですが、一部の患者ではリンパ節の腫れ、発熱、漠然とした体調の悪さがみられ、... さらに読む ジカウイルス感染症 ジカウイルス感染症 ジカウイルス感染症は蚊が媒介するウイルス感染症の一種であり、一般に症状を引き起こしませんが、発熱、発疹、関節痛、または白眼を覆う膜の感染症(結膜炎)がみられることもあります。妊婦のジカウイルス感染症は、新生児に小頭症(重大な先天異常)と眼の異常を引き起こすことがあります。 ジカウイルスは蚊によって広がりますが、性交や輸血によって感染するこ... さらに読む ジカウイルス感染症 サイトメガロウイルス感染症 サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス感染症はよくみられるヘルペスウイルス感染症で、症状が出ないものから、発熱と疲労感が出るもの(伝染性単核球症に似たもの)、また、眼や脳、その他の内臓を侵す重い症状が生じるものまで、症状は多岐にわたります。 この ウイルスは、体の分泌物と接触(性的接触とそれ以外の接触の両方)することで感染します。... さらに読む などの妊娠中の感染症も、脳性麻痺の原因になることがあります。ときに、遺伝子異常により脳性麻痺の原因となる脳の奇形が生じることもあります。

生後2年間は、 髄膜炎 小児の髄膜炎 細菌性髄膜炎とは、脳と脊髄を覆う膜( 髄膜)に起きる重篤な感染症です。 細菌性髄膜炎は、月齢の高い乳児と小児では、通常は呼吸器系に入った細菌によって引き起こされ、新生児では、しばしば血流の細菌感染症( 敗血症)の結果として引き起こされます。 年長児や青年では発熱を伴う項部硬直、頭痛、錯乱がみられ、新生児や幼若な乳児では通常、むずかる、食べ... さらに読む (脳を覆う組織の炎症)や 敗血症 新生児の敗血症 敗血症は、血流を通じて広がった感染に対する全身の重篤な反応です。 敗血症にかかった新生児は、一般に元気がない、つまりぼんやりしていて哺乳が不良であり、多くの場合皮膚が灰色になるほか、発熱または低体温がみられることもあります。 診断は症状と血液、尿、または髄液中の 細菌、 ウイルス、または... さらに読む (血流の重度の感染症)、外傷、重度の 脱水 小児の脱水 脱水は体からの水分の喪失であり、通常は嘔吐または下痢が原因です。 脱水は、著しい量の 体内の水分と、様々な程度で 電解質が失われると生じます。 症状には、のどの渇き、活動性の低下、唇や口の中の乾燥、尿量の減少などがあります。 重度の脱水は生命を脅かすことがあります。 脱水の治療には水分と電解質を口から与え、重篤な場合には静脈内投与します。 さらに読む といった重い病気によって脳に損傷が生じ、その結果として脳性麻痺が発生する可能性があります。

知っていますか?

  • 2歳以降に受けた脳損傷のために筋肉がうまく機能しなくなった場合は、脳性麻痺とはみなされません。

脳性麻痺の症状

脳性麻痺の症状には幅があり、動きのぎこちなさが認められる程度のものから、重度のけい縮によって腕や脚がねじれて、装具、松葉づえ、車いすなどの補助具が必要になるものまで様々です。脳性麻痺の原因になった問題によって脳の運動野以外の部位にも障害が起きることがあるため、脳性麻痺の小児の多くには、 知的障害 知的能力障害 知的能力障害(一般に知的障害とも呼ばれます)とは、出生時や乳児期の初期から知能の働きが明らかに標準を下回り、正常な日常生活動作を行う能力が限られている状態です。 知的能力障害は、遺伝的な場合もあれば、脳の発達に影響を与える病気の結果として起こる場合もあります。 知的能力障害がある小児のほとんどでは、就学前まで目立った症状が現れません。... さらに読む 、行動障害、視覚障害、難聴、 けいれん性疾患 小児のけいれん発作 けいれん発作とは、脳の電気的活動が周期的に乱れることで、一時的にいくらかの脳機能障害が起きる現象です。 年長の乳児や幼児にけいれん発作が起きた場合には、全身または体の一部がふるえるなどの典型的な症状が多くの場合みられますが、新生児の場合は、舌を鳴らす、口をもぐもぐさせる、周期的に体がだらんとなるなどの変化しかみられない場合があります。... さらに読む など他の障害もみられます。

脳性麻痺には4つの主要な病型があります。

  • けい直型

  • アテトーゼ型

  • 運動失調型

  • 混合型

いずれの型でも、患児の話していることが理解しにくい場合がありますが、これは話すために使う筋肉の制御が困難になっているためです。

けい直型脳性麻痺

けい直型は脳性麻痺の小児の70%超を占め、筋肉がこわばり(けい直)、筋力が低下します。筋肉のこわばりは体の様々な部位に生じます。

  • 両腕と両脚(四肢麻痺)

  • 両腕よりも両脚(両麻痺)

  • ときに片側の腕と脚のみ(片麻痺)

  • まれに両脚と下半身のみ(対麻痺)

症状のある腕や脚は発育が悪く、こわばって筋力が低下します。片脚がもう一方の脚にぶつかるように交差して歩くハサミ足歩行の小児や、つま先立って歩く小児もいます。

最も重い障害は、けい性四肢麻痺です。けい性四肢麻痺の小児では、けいれん発作や嚥下困難に加えて、知的障害(重い場合もある)がよくみられます。嚥下困難のある小児は、口や胃からの分泌物でむせたり、それを飲み込んでしまったり(誤嚥)します。誤嚥により肺に炎症が生じると、呼吸が困難になります。誤嚥を繰り返し起こすと、肺に回復不能な損傷を生じます。

けい性片麻痺、両麻痺、または対麻痺の小児の多くは、知能は正常で、けいれん発作を起こす頻度も下がります。

アテトーゼ型脳性麻痺

アテトーゼとは、体をよじらせる不随意の運動です。アテトーゼ型は脳性麻痺の小児の約20%にみられ、腕、脚、体幹の筋肉が不随意的にゆっくりと動きます。よじれるように動く場合や突然動く場合、断続的に動く場合などがあります。この動きは強い感情が起こると激しくなり、睡眠中には生じません。

一般に知能は正常で、けいれん発作を起こすことはまれです。

言葉をはっきり発音することが困難な例がよくみられ、しばしば深刻な場合があります。原因が核黄疸である場合、難聴や視線を上に向けることが難しいといった症状がよくみられます。

運動失調型脳性麻痺

運動失調とは、体の各部の動き(特に歩行時)を制御して調整するのが困難になった状態です。 運動失調型は脳性麻痺の小児の5%未満にみられ、体の動きがうまく協調せず、筋力が低下しています。物に手を伸ばしたときにふるえるような動き(ある種の振戦)がみられます。患児は素早く動いたり、細かい動きを要することをしたりすることが困難で、両脚を広げた不安定な歩き方をします。

混合型脳性麻痺

混合型は、上に述べた病型のうち2つが複合したもので、ほとんどがけい直型とアテトーゼ型の混合型です。この混合型は、脳性麻痺の小児の多くにみられます。混合型の小児では、重い知的障害がみられることがあります。

脳性麻痺の診断

  • 脳の画像検査

  • 血液検査のほか、ときに神経と筋肉の機能を調べる血液検査

生後まもない間は、脳性麻痺の診断は困難です。乳児が成長するにつれて、歩くことその他の運動能力の発達(運動発達)の遅れ、けい縮、協調運動障害などが目立つようになります。

医師はまた、妊娠中や分娩中に起きた問題や小児の発達の進み具合について質問します。このような情報は原因の特定に役立つ可能性があります。

脳性麻痺を特定できる臨床検査はありませんが、原因を特定するとともに、ほかの病気がないかを調べるために、血液検査を行うことがあります。

2歳になるまでは、脳性麻痺の型が特定できないこともよくあります。

脳性麻痺の予後(経過の見通し)

予後は、一般に脳性麻痺の型とその重症度によって決まります。脳性麻痺の小児のほとんどは、死亡することなく成人になります。最も重い脳性麻痺の(ひとりで身の回りのことができないまたは口から食事ができない)小児だけは、余命がかなり短くなります。

適切な治療と訓練を行えば、多くの患児、特にけい性対麻痺または片麻痺の患児は、ほぼ普通の生活を送ることができます。

脳性麻痺の治療

  • 理学療法、作業療法、言語療法

  • 矯正装置

  • ボツリヌス毒素やけい縮を軽減するその他の薬剤

  • ときに手術

脳性麻痺を治すことはできず、障害は一生続きます。しかし、小児の活動範囲を広げ、自立性を高めるためにできることは数多くあります。目標は、できる限り自立した生活を送れるようになることです。

理学療法 理学療法(PT) 理学療法は、 リハビリテーションの一環であり、背中、上腕、脚に重点を置いた運動療法と整体を行います。関節や筋肉の機能を改善し、患者がより容易に立ち、バランスをとり、歩き、階段を昇れるようにします。理学療法では以下のような訓練が行われます。 関節可動域訓練 筋肉強化運動 協調・バランス運動訓練... さらに読む 作業療法 作業療法(OT) 作業療法は、 リハビリテーションの一環であり、基本的なセルフケア活動、有用な動作や作業、余暇活動を行う能力を高めることを目標としています。こうした活動には、基本的な日常活動(食べる、服を着る、入浴する、身だしなみを整える、トイレに行く、移乗する[いすからトイレやベッドに移る]など)や、より複雑な日常活動(食事の準備をする、電話やコンピュー... さらに読む 、装具などによって、筋肉の制御や歩行が改善される可能性があり、特にリハビリテーションを可能な限り早期に開始すると効果が上がります。 言語療法 発話障害のリハビリテーション リハビリテーションサービスは、外傷、脳卒中、感染症、腫瘍、手術、進行性の病気などによって正常に話す能力を失った人に必要となります。 失語症は、会話や文字でものごとを表現したり、理解したりする能力が部分的または完全に失われる障害です。多くの場合、 脳卒中や脳の損傷が脳の言語中枢に影響を及ぼした結果として生じます(図「... さらに読む を行うことで、はっきりと話せるようになることがあり、嚥下障害にも効果があります。

すべての四肢に麻痺があるわけでない場合は、非麻痺側上肢抑制療法(constraint-induced movement therapy)が役立つ可能性があります。この治療法では、特定の活動をするとき以外、起きている間は麻痺のない腕を拘束することで、麻痺のある腕だけで作業をせざるをえない状況を作ります。そうすることで、脳の中に神経信号が伝わる新しい経路ができ、麻痺がある腕をうまく使えるようになります。

作業療法士の助けにより、筋肉の症状による影響を解消して、日常生活の行為(入浴、食事、着衣など)をひとりで行えるようになる小児もいます。あるいは、日常生活の行為をひとりで行うのに役立つ器具の使い方を作業療法士が教えることもできます。

特定の薬が助けになることもあります。ボツリヌス毒素を筋肉に注射すると、関節上で筋肉が不均一に収縮することが少なくなり、恒久的に短縮する拘縮という状態が起きにくくなります。 ボツリヌス毒素は、ボツリヌス症を引き起こす細菌の毒素ですが、注射した筋肉を麻痺させることで効果を発揮します。(ボトックス®という商品名で販売されているしわの治療薬と同じものです。)症状のある筋肉を刺激している神経に別の薬を注射することもあります。その薬は神経をわずかに傷つけることで、関節での筋肉の緊張を弱めます。

けい縮を軽減するために使用されるその他の薬としては、バクロフェン、ベンゾジアゼピン系(ジアゼパムなど)、チザニジンのほか、ときにダントロレンなどがあり、いずれも内服で使用されます。けい縮が強い小児では、脊髄周囲にバクロフェンを持続注入する埋め込みポンプによって効果が得られる場合があります。

動きを制限しているこわばった筋肉の腱を切断したり、伸ばしたりする手術を行うこともあります。また、関節にかかる力のバランスをとるために腱を関節の別の部分につなげることもあります。脊髄につながる特定の神経根を切断する脊髄後根切断術により、けい縮が抑えられることがあります。この手術は一部の小児、特に未熟な状態で生まれ、けい縮が主に脚に限られ、知能が正常な小児に有効です。

脳性麻痺の小児でも、重い知的障害がなければ、多くは正常な発育を遂げて普通の学校に通うことができます。それ以外の小児では、広範囲の理学療法と特殊教育を受ける必要があり、日常生活の行為が大幅に制限されるため、生涯を通じて何らかのケアや介助が必要になります。しかし、重い障害を負った小児でも、教育や訓練により効果が得られる可能性があり、それによって自立心や自尊心が高まり、家族や介護者の負担が大幅に減少します。

小児の状態と今後の可能性についての理解を助け、何か問題が起こった際の支援のために、親に対する情報提供やカウンセリングが利用できます。脳性麻痺の小児の可能性を最大限に生かすためには、愛情に満ちた親のケアと併せて、地域医療機関、全米脳性麻痺協会(United Cerebral Palsy)などの支援団体、社会復帰リハビリテーション組織といった公的機関や民間組織による支援が役立ちます。

脳性麻痺に関するさらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  • 全米脳性麻痺協会(United Cerebral Palsy):教育、支援技術、安全、旅行、移動などに関する、親および家族向けの多数の資料

  • Miller, F and Bachrach, SJ: Cerebral palsy: A complete guide for caregiving, ed.3.Baltimore, John Hopkins University Press, 2017.

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