尋常性天疱瘡は、免疫系が皮膚の上層に含まれるタンパク質を誤って攻撃することで発生します。
口の中や他の部位に重度の水疱が生じ、ときには広い範囲の皮膚が剥がれ落ちることもあります。
尋常性天疱瘡の診断は、皮膚のサンプルを顕微鏡で調べることによって下されます。
治療は通常、コルチコステロイドや免疫の働きを抑える薬(免疫抑制薬)により行います。
天疱瘡は中年層や高齢者に最も多くみられる病気で、発生率に男女差はありません。小児ではほとんど起こりません。
体の 免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む は、細菌やウイルスなどの有害な外来の侵入物から体を守る特殊な細胞を作り出します。このような細胞の一部は、抗体と呼ばれるタンパク質を作り出すことで侵入物に反応します。 抗体 抗体 体の防衛線( 免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 獲得免疫(適応または特異免疫)は、生まれたときには備わっておらず、後天的に獲得されるものです。獲得のプロセスは、免疫系が異物に遭遇して、非自己の物質(抗原)であることを認識した... さらに読む は侵入物を標的にして結合し、免疫系の他の細胞を引き寄せて、侵入物を破壊します。 自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む では、体の免疫系が誤って自分の体の組織、この場合は皮膚を攻撃してしまいます。表皮の細胞(皮膚の最も外側の層を構成する細胞)同士をつないでいる特定のタンパク質を攻撃する抗体が、免疫系によって作り出されます。細胞間のつながりが破壊されると、表皮細胞はお互いから、また皮膚の下層から分離していき、それにより水疱が形成されます。 水疱性類天疱瘡 水疱性類天疱瘡 水疱性類天疱瘡(すいほうせいるいてんぽうそう)は、皮膚に水疱ができる自己免疫疾患です。 水疱性類天疱瘡は、免疫系が皮膚を攻撃することで発生し、その攻撃によって水疱が生じる自己免疫疾患です。 皮膚の炎症とともに、かゆみを伴う大きな水疱ができます。 診断は、皮膚のサンプルを顕微鏡で調べ、特定の抗体の沈着を確認することで下されます。 治療は、コルチコステロイドや免疫の働きを抑える薬(免疫抑制薬)により行います。 さらに読む と呼ばれるそれほど危険ではない皮膚の病気でも、同様の外観をした水疱が発生します。
(水疱ができる病気の概要 水疱ができる病気の概要 水ぶくれ(水疱、小さい場合は小水疱)とは、死んだ皮膚でできた非常に薄い膜の下に液体がたまってできる膨らみです。この液体は、損傷を受けた組織からにじみ出てきた水分とタンパク質が混ざったものです。水疱は多くの場合、熱傷や刺激など特定の損傷に対する反応として生じ、通常は皮膚の最も外側の層だけに発生します。このような水疱は速やかに治癒し、通常は瘢... さらに読む も参照のこと。)
尋常性天疱瘡の症状
尋常性天疱瘡の主な症状は、透明で軟らかく、痛みを伴う(ときに圧痛もみられる)、様々な大きさの水疱ができることです。さらに、皮膚を軽くつまんだりこすったりしただけで、皮膚の最も外側の層が下の層から剥がれ、大きくむけてしまい、痛みのある開いた傷口(びらん)ができます。
水疱は多くの場合、最初に口の中にできてすぐ破れ、痛みを伴うびらん(潰瘍)になります。その後も水疱と潰瘍が次々とできて口の粘膜全体に広がり、ものを飲み込むこと、食べること、水分を摂取することが難しくなります。水疱はのどにもできます。
水疱は皮膚にも生じて破れ、痂皮に覆われた痛みを伴う傷になります。患者は全身のだるさを感じます。水疱は広範囲に及ぶことがあり、それらが破れると感染症にもつながります。尋常性天疱瘡は重症の場合、重篤な熱傷と同じくらい危険です。熱傷の場合と同様に、損傷した皮膚からは、大量の体液がしみ出し、様々な細菌に感染しやすい状態になります。
尋常性天疱瘡の診断
皮膚生検
通常は特徴的な水疱から見当がつきますが、診断の確定は、皮膚のサンプルを顕微鏡で調べる検査(皮膚生検 生検 皮膚の病気には、医師が皮膚を観察しただけで特定できるものが数多くあります。全身の皮膚の診察には、頭皮、爪、粘膜の診察も含まれます。ときに、皮膚の一部を詳細に観察するために、手持ち式の拡大鏡やダーモスコープ(拡大レンズと内蔵式のライトを備えた器具)を使用することもあります。 診断につながる特徴としては、皮膚に現れている異常部分の大きさ、形、色、部位に加え、その他の症状や徴候の有無があります。皮膚の異常の広がりを調べるため、しばしば衣服をす... さらに読む )によって行います。検査では、抗体の沈着を顕微鏡で見えるようにするために、ときに特殊な化学染色を行うこと(蛍光抗体法)もあります。
尋常性天疱瘡の予後(経過の見通し)
尋常性天疱瘡の治療
コルチコステロイド(経口または静脈内投与)
破れた水疱に対する抗菌薬の使用と保護的なドレッシング
コルチコステロイドの使用量を減らすために、免疫抑制薬または免疫グロブリン製剤がよく使用される
症状が中等度から重度の場合は入院して治療します。入院中は、尋常性天疱瘡で皮膚がむけてしまった表面に対し、重度の熱傷患者に対するものと同様の綿密なケアが必要になります。破れた水疱の感染を治療するために抗菌薬が必要になる場合もあります。ドレッシングによって、皮膚がむけてじくじくしている部位を保護することができます。
治療の中心は、コルチコステロイドを高用量で投与することです。内服(経口)で使用しますが、入院している場合は静脈内投与も可能です。病状がコントロールできるようになったら、コルチコステロイドの用量を徐々に減らしていきます(漸減)。ときに免疫系を抑制する薬剤(免疫抑制薬)であるリツキシマブがコルチコステロイドと一緒に使用されることがあります。
治療の効果がみられない場合や、コルチコステロイドの用量を漸減している間に症状が再燃した場合は、アザチオプリン、シクロホスファミド、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン、またはリツキシマブ(まだ使用していない場合)などの免疫抑制薬も投与します。免疫抑制薬は、コルチコステロイドの長期間または高用量の投与が必要な患者に対して、その必要性を減らすために投与されることもあります。重度の尋常性天疱瘡に対する別の治療法として、免疫グロブリン製剤を静脈内注射で使用することもできます。薬物療法を中止できるくらい効果が得られる場合もあれば、長期間にわたり低用量で投与を続けなければならない場合もあります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
全米希少疾患患者協議会(National Organization for Rare Disorders):参考資料や支援組織へのリンクを含めた天疱瘡に関する情報