かゆみは非常に不快になることがあります。かゆみは、皮膚科の受診理由として最も一般的なものの1つです。
かゆみがあると、人はかきたくなります。かけば一時的にかゆみは治まりますが、皮膚が傷つくことがあり、ときには、さらなるかゆみが起こったり(かゆみとかくの悪循環)、感染(二次感染と呼ばれます)が起こったりすることもあります。やがて、その部分の皮膚が厚くなり、鱗屑(うろこ状のくず)が生じることもあります(苔癬化[たいせんか]と呼ばれます)。
かゆみの原因
かゆみの原因としては以下のものがあります。
皮膚の病気
他の臓器の病気(全身性疾患)
神経系の病気
精神障害
薬や化学物質
皮膚や全身性のアレルギー疾患の多くでは、かゆみはヒスタミンによって引き起こされます。ヒスタミンは体内にある化学物質で、肥満細胞の中にためられています。 肥満細胞 肥満細胞 体の防衛線(免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 自然免疫は、生まれつき備わっていて、異物との遭遇を介した学習が必要ないことから... さらに読む は 免疫系 免疫系の概要 人間の体には、異物や危険な侵入物から体を守る仕組みとして、免疫系が備わっています。侵入物としては以下のものがあります。 微生物( 細菌、 ウイルス、 真菌など) 寄生虫(蠕虫[ぜんちゅう]など) がん細胞 移植された臓器や組織 さらに読む の一部で、ヒスタミンはアレルギー反応に関与します。肥満細胞は、様々なアレルゲン(アレルギー反応を引き起こす物質)によって刺激されると、ヒスタミンを放出します。ヒスタミンが血液中に放出されると、かゆみや炎症などの多くの症状が引き起こされる可能性があります。そのほかにも、プロテアーゼや サイトカイン サイトカイン 体の防衛線(免疫系)の一部には 白血球が関わっていて、それらの白血球は血流に乗って体内を移動して組織の中に入り込み、微生物などの異物を見つけ出して攻撃します。( 免疫系の概要も参照のこと。) この防衛線は以下の2つの部分で構成されています。 自然免疫 獲得免疫 自然免疫は、生まれつき備わっていて、異物との遭遇を介した学習が必要ないことから... さらに読む など、かゆみに大きく関わっている化学物質が体内にはいくつか存在します。
皮膚の病気
かゆみの最も一般的な原因は以下のような皮膚の病気です。
皮膚の乾燥(乾皮症 皮膚の乾燥(乾皮症) 乾皮症は通常の皮膚の乾燥です。 ( かゆみも参照のこと。) 正常な皮膚が柔らかくしなやかなのは、水分を含んでいるためです。水分が失われないように、皮膚の一番外側の層には脂が含まれていて、これにより皮膚の深い層の水分の蒸発が抑えられ、水分が保持されます。この脂が失われてしまうと皮膚は乾燥します。皮膚の乾燥は、遺伝性の病気や他の病気を原因とす... さらに読む と 魚鱗癬 魚鱗癬 魚鱗癬(ぎょりんせん)は、皮膚に鱗屑(うろこ状のくず)やフケのような剥がれが生じる病気で、軽度ながら不快な乾燥が生じるものから、重度で外観を損なう皮膚病まで広い幅があります。 ( かゆみと 皮膚の乾燥[乾皮症]も参照のこと。) 魚鱗癬は重度の皮膚の乾燥の一種で、皮膚に鱗屑が大量に生じます。鱗屑とは、死んだ皮膚細胞が蓄積し、薄く剥がれ、乾燥... さらに読む を参照)
全身性疾患
いくつかの全身性疾患では、皮膚に目に見える変化(発疹など)がない状態で、かゆみが生じることがあります。かゆみの原因が全身性疾患であることは、皮膚疾患が原因であることよりも少ないです。
かゆみの全身的な原因で比較的多いものとしては、以下のものがあります。
比較的少ない全身的な原因としては、 白血病 白血病の概要 白血病は、白血球または成熟して白血球になる細胞のがんです。 白血球は骨髄の幹細胞から成長した細胞です。ときには成長がうまくいかずに、染色体の一部の並びが変化してしまうことがあります。こうして異常となった染色体により正常な細胞分裂の制御が失われ、この染色体異常がある細胞が無制限に増殖するようになったり、細胞がアポトーシス(不要になった細胞が... さらに読む や リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫とは、リンパ系および造血器官に存在するリンパ球のがんです。 リンパ腫は、 リンパ球と呼ばれる特定の白血球から発生するがんです。この種の細胞は感染を防ぐ役割を担っています。リンパ腫は、主要な白血球であるBリンパ球およびTリンパ球のいずれの細胞からも発生する可能性があります。Tリンパ球は免疫系の調節やウイルス感染に対する防御に重要です... さらに読む (血液のがん)などがあります。
神経系の病気
例えば、神経が圧迫されているときなど、感覚神経が刺激されると、その神経が支配する体の部位に局所的なかゆみが生じることがあります。反対に、神経系に影響を及ぼす一部の病気では、かゆみニューロン(神経細胞の一種)が活発すぎるか、他のニューロンによるかゆみニューロンの抑制が弱いために、広い範囲の(全身性の)かゆみが生じることもあります。例えば、 多発性硬化症 多発性硬化症(MS) 多発性硬化症では、脳、視神経、脊髄の髄鞘(ずいしょう)(ほとんどの神経線維を覆っている組織)とその下の神経線維が、まだら状に損傷または破壊されます。 原因は解明されていませんが、免疫系が自分の体の組織を攻撃する現象(自己免疫反応)が関与していると考えられています。 多発性硬化症の患者のほとんどは、健康状態が比較的良好な期間と症状が悪化する... さらに読む では、神経線維を覆っている脂肪組織(ミエリン)を免疫系が攻撃してしまう自己免疫的な作用によって、神経伝導が妨げられます。この作用によって、かゆみニューロンの抑制が弱まるため、その働きが活発になります。神経系の病気から起こるかゆみは、神経障害性そう痒と呼ばれます。
精神障害
精神障害の患者の一部では、かゆみがあり、その身体的原因が見つからないことがあります。この種類のかゆみは心因性そう痒と呼ばれます。
薬と化学物質
かゆみの評価
かゆみがあっても、必ずしも直ちに医師による評価が必要なわけではありません。以下では、どのようなときに医師の診察を受ける必要があるかと、診察を受けた場合に何が行われるかについて説明しています。かゆみを引き起こす病気のほとんどは、重篤なものではありません。
警戒すべき徴候
以下の徴候は、原因が深刻なものであることを示唆している場合があります。
体重減少、疲労、または寝汗がある場合は、重篤な感染症または腫瘍が疑われます。
筋力低下、しびれ、またはピリピリ感がある場合は、神経系の病気が疑われます。
受診のタイミング
体重減少、疲労、または寝汗がある場合は、できるだけ早く受診する必要があります。
他の警戒すべき徴候または重度のかゆみがある場合は、おそらく直ちに受診する必要があります。
医師が行うこと
医師は多くの質問をし、皮膚を観察します。全身の皮膚を調べることができるよう、患者が服を脱がなければならないこともよくあります。
皮膚を調べて明らかな原因が見つからなかった場合は、全身的な原因がないか調べるために全身の身体診察を行います。特定の全身的な原因や、ときには皮膚の病気を診断するために、検査が必要になることもあります。
かゆみが広範囲にわたり、薬を使用した後まもなく始まった場合は、その薬が原因かもしれません。かゆみ(たいてい発疹を伴う)が、ある物質と触れた部位に限定されている場合、特にその物質が 接触皮膚炎 接触皮膚炎 接触皮膚炎は、特定の物質に直接触れることで皮膚に炎症が起きる病気です。発疹はかゆいことがあり、特定の部位に限定され、しばしば境界がはっきりしています。 接触皮膚炎は、刺激反応かアレルギー反応のどちらかによって引き起こされます。 発疹が現れ、かゆみ、痛み、またはその両方を伴うことがあります。... さらに読む の原因になることが知られている場合は、その物質が原因である可能性が高くなります。しかし、患者は多くの場合、かゆみが生じる前に、アレルギー反応の原因になりうる数種類の食品を食べており、また多くの物質に触れていることから、広範囲に生じたかゆみのアレルギー性の原因を特定することは難しい場合があります。同様に、数種類の薬を服用している人にアレルギー反応を引き起こしている薬を特定することも、難しい場合があります。アレルギー反応の原因になる薬を数カ月にわたって服用し続けた後で反応が生じることがあり、数年服用した後に生じることさえもあります。
検査
かゆみの原因のほとんどは検査を行わなくても診断が可能です。皮膚の異常について、その外観と病歴から診断が明らかにならない場合は、皮膚のサンプルを切除して分析する検査(生検 生検 皮膚の病気には、医師が皮膚を観察しただけで特定できるものが数多くあります。全身の皮膚の診察には、頭皮、爪、粘膜の診察も含まれます。ときに、皮膚の一部を詳細に観察するために、手持ち式の拡大鏡やダーモスコープ(拡大レンズと内蔵式のライトを備えた器具)を使用することもあります。 診断につながる特徴としては、皮膚に現れている異常部分の大きさ、形、... さらに読む )が必要になることがあります。
かゆみの原因がアレルギー反応とみられるものの、その原因物質が明らかではない場合は、皮膚テストが必要になることがあります。皮膚テストでは、接触部位にアレルギー反応を引き起こしている可能性のある物質を、パッチを用いて皮膚に触れさせます(パッチテスト 皮膚テスト と呼ばれます)。
原因がアレルギー反応や皮膚の病気ではないと考えられる場合は、患者の他の症状に基づいて検査を行います。例えば、胆嚢や肝臓の病気、慢性腎臓病、甲状腺の病気、糖尿病、がんがないか調べる検査を行うことがあります。
かゆみの治療
スキンケア
外用療法
全身療法
かゆみの治療で最も重要なことは、その原因に対処することです。それに加えて、他の対策がかゆみの緩和に役立つことがあります。
スキンケア
かゆみが皮膚の乾燥によって引き起こされている場合は、基本的なスキンケアを変えると非常に効果的なことがよくあります。乾燥の一般的な原因は、入浴のしすぎや洗いすぎです。スキンケアを変えるには、入浴したり洗ったりする頻度を減らす、熱いお湯の代わりにぬるま湯を使う、石けんを使う量を減らすといった手段をとるようにします。
乾燥した皮膚をこすりすぎないようにし、入浴や洗浄の後に保湿クリームを塗るようにします。
さらに、乾燥した空気を加湿すること(例えば冬)やウールの衣服を着ないことも役に立つ可能性があります。
外用薬
外用薬とは、クリームやローションなどの皮膚に塗る物質のことです。ほとんどの外用薬はかゆみの根本的な原因に対処するために使用し、例えば、 アトピー性皮膚炎 アトピー性皮膚炎(湿疹) アトピー性皮膚炎(一般には湿疹と呼ばれます)とは、皮膚の上層に生じる、かゆみを伴う慢性的な炎症です。花粉症や喘息のある人、また家族にそのような病気の人がいる人にみられることの多い病気です。 アトピー性皮膚炎は非常によくみられるもので、特に高所得国やアレルギーを起こしやすい人で多くみられます。... さらに読む や 接触皮膚炎 接触皮膚炎 接触皮膚炎は、特定の物質に直接触れることで皮膚に炎症が起きる病気です。発疹はかゆいことがあり、特定の部位に限定され、しばしば境界がはっきりしています。 接触皮膚炎は、刺激反応かアレルギー反応のどちらかによって引き起こされます。 発疹が現れ、かゆみ、痛み、またはその両方を伴うことがあります。... さらに読む による皮膚の炎症がある患者に対して医師がコルチコステロイドのクリームを使用することがあります。
コルチコステロイドのクリーム、ローション、軟膏を使用するのは、発疹がみられるときなど、皮膚に炎症が起きているときだけにするべきです。通常、以下の場合には使用してはいけません。
皮膚に感染症がある。
寄生虫がいる。
原因が全身性のものである。
特定の原因に対処するわけではない、かゆみを緩和する外用薬が使用されることもあり、これにはメントール、カンフル、プラモキシン(pramoxine)、またはカプサイシンを含有するローションやクリームなどがあります。抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミンや麻酔薬のベンゾカインを含有するクリームやローションは推奨されません。
診療所または自宅での紫外線の照射(光線療法 光線療法 乾癬(かんせん)は、1つまたは複数の盛り上がった赤い斑が生じる、再発を繰り返す慢性の病気で、それらの斑は銀白色の鱗屑(うろこ状のくず)を伴い、正常な皮膚との境界ははっきりしています。 免疫系の問題が関わっている可能性があり、遺伝的に乾癬を生じやすい人もいます。 特徴的な鱗屑または赤い斑が全身のあらゆる部分に様々な大きさで生じますが、特に肘... さらに読む )が、かゆみを伴う皮膚の病気を軽減するために役立つことがよくあります。また、発疹のないかゆみ(様々な病気で起こります)に対しても、他の治療が有効ではなかった場合にかゆみの緩和に役立つことがよくあります。
全身療法
全身療法は、内服または注射によって薬を体内に取り込ませる治療法です。この治療法は、かゆみが広範囲にわたる場合や外用療法が有効ではなかった場合に使用されます。
抗ヒスタミン薬 抗ヒスタミン薬 アレルギー反応(過敏反応)とは、通常は無害な物質に対して免疫系が異常な反応をすることを指します。 アレルギー反応は通常、くしゃみ、涙目、眼のかゆみ、鼻水、皮膚のかゆみ、発疹を引き起こします。 アナフィラキシー反応と呼ばれる一部のアレルギー反応は生命を脅かします。 症状からアレルギーが疑われ、アレルギー反応の引き金になった物質の特定には皮膚... さらに読む 、特にヒドロキシジンが最もよく使用されます。シプロヘプタジン、ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジンなどの一部の抗ヒスタミン薬は、眠気を引き起こすことがあります。それらの薬はかゆみの緩和を助け、就寝前に使用すれば睡眠に役立ちます。強いかゆみは睡眠に悪影響を及ぼして健康状態を大幅に悪化させる可能性があるため、睡眠を助けることは重要です。これらの薬は眠気を引き起こす可能性があるため、通常、日中には使用しません。さらに、高齢者の場合も、転倒のリスクが高いため、よく選んで慎重に使用すべきです。セチリジンやロラタジンはあまり眠気を引き起こしませんが、高齢者ではまれに眠気が生じることがあります。フェキソフェナジンはあまり眠気を引き起こしませんが、ときに頭痛が生じます。ドキセピンは非常に強い眠気を引き起こし、効果的であるため、かゆみが重度の場合は就寝時に服用することができます。
コレスチラミンは、胆嚢や肝臓の特定の病気が原因のかゆみを治療するために使用されます。しかし、コレスチラミンには不快な味があり、便秘の原因になり、他の薬の吸収を低下させることがあります。
ガバペンチンは、 抗てんかん薬 抗てんかん薬 けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じることで、一時的に脳の機能障害が引き起こされます。 多くの人では、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常がみられます。 コントロールできないふるえや意識消失が起こる場合もありますが、単に動きが止まったり、何が起こっているか分からなくなったりするだけにとどまる場合もあります。... さらに読む の一種で、神経障害性そう痒や慢性腎臓病が原因のかゆみの緩和に有用ですが、眠気を催すことがあります。
要点
かゆみは様々な原因で起こることがあり、それぞれの原因に応じて異なる治療が必要になります。
患者に発疹や皮膚の異常がみられない場合、原因は全身性疾患、神経の異常、または薬物反応の可能性があります。
皮膚の乾燥が原因の場合は、スキンケアの対策(入浴の制限、皮膚の保湿、空気の加湿など)がかゆみの緩和に有用です。
かゆみは通常、外用療法や全身療法により緩和させることができます。