黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染症

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University
レビュー/改訂 2021年 3月 | 修正済み 2022年 12月
プロフェッショナル版を見る
やさしくわかる病気事典

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は多くの一般的なブドウ球菌の中で最も危険とされています。このグラム陽性の球状細菌(球菌)(図「細菌の形状」を参照)は、しばしば皮膚感染症を引き起こしますが、肺炎、心臓弁の感染症、骨の感染症を引き起こすこともあります。

  • これらの細菌は、感染者と直接接触したり、汚染された物を使用したり、くしゃみやせきによって飛び散った飛沫を吸引することで感染します。

  • 皮膚の感染症が一般的ですが、血流を介して広がり、離れた臓器に感染することもあります。

  • 皮膚の感染症では、感染部位に水疱、膿瘍、発赤と腫れがみられます。

  • 診断は、皮膚の外観や、感染部位のサンプルに含まれる細菌が特定されることに基づいて下されます。

  • 手を十分に洗うことで感染の拡大を予防できます。

  • 感染を起こした菌株に効果的な抗菌薬を考慮して、薬を選択します。

細菌の概要も参照のこと。)

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は健康な成人の約30%の鼻腔に存在し(通常は一時的)、約20%の人の皮膚に存在します。入院患者や病院で働く人では、この割合がさらに高まります。

細菌は汚染された物体(ジムの器具、電話、ドアノブ、テレビのリモコンやエレベーターのボタンなど)に直接触れたり、それほど多くはないものの、くしゃみやせきの飛沫を吸入したりすることで広がります。

その細菌をもっているものの、症状は何も現れない人は、キャリア(保菌者)と呼ばれます。キャリアであっても、手で触ることで鼻から体の他の部位に細菌を移動させ、ときに感染症を発症することがあります。入院している人や病院で働いている人は、キャリアである可能性が高いです。

ブドウ球菌感染症の種類

黄色ブドウ球菌感染症(Staphylococcus aureus)は、軽度のものから生命を脅かすものまで幅があります。

最も一般的なブドウ球菌感染症は次のものです。

  • 皮膚感染症(しばしば膿瘍を引き起こす)

しかし、細菌が血流に入り(菌血症と呼ばれる病態)、体内のあらゆる部位に広がることもあり、その場合、特に心臓弁(心内膜炎)と骨(骨髄炎)によく感染します。

この細菌は、人工心臓弁、人工関節、心臓のペースメーカー、皮膚から血管に挿入されたカテーテルなどの医療器具に蓄積することもあります。

特定のブドウ球菌感染症は、次のような状況で発生しやすくなります。

  • 血流感染症:静脈にカテーテルが挿入され、長期間留置された場合

  • 心内膜炎:違法薬物を注射している場合、人工心臓弁が入っている場合、または静脈に挿入されたカテーテルに感染した場合

  • 骨髄炎:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が血液や隣接した軟部組織から骨へ感染した場合(糖尿病による足の潰瘍や褥瘡[床ずれ]ができているときなど)

  • 肺の感染症(肺炎):インフルエンザ(特に多い)や血液感染を起こしている場合、コルチコステロイドや免疫抑制薬(免疫系を抑制する薬)を使用している場合、もしくは気管挿管と人工呼吸器での管理が必要で入院している場合(院内肺炎と呼ばれます)

黄色ブドウ球菌の毒素

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)には多くの種類(菌株)があります。菌株によっては毒素を作るものもあり、ブドウ球菌食中毒毒素性ショック症候群、または熱傷様皮膚症候群を引き起こします。

毒素性ショック症候群は、いくつかのレンサ球菌が作る毒素によって引き起こされることもあります。この症候群は、発熱、発疹、危険なレベルの低血圧、複数の臓器不全などの、進行が速い重度の症状を引き起こします。

ブドウ球菌感染症の危険因子

ブドウ球菌感染症にかかるリスクは、以下の特定の条件によって高まります。

抗菌薬に対する耐性

多くの菌株は抗菌薬に対する耐性を獲得しています。キャリアに抗菌薬を使用すると、抗菌薬に対する耐性のない菌株が死滅し、耐性菌が生き残ります。これらの細菌が増殖し、感染症を引き起こした場合は、治療がより難しくなります。

原因菌が耐性をもっているかどうかや、どの抗菌薬に対する耐性を獲得しているかは、感染した場所によって異なり、病院などの医療施設内で感染した場合と、それ以外の場所(市中)で感染した場合とで区別します。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌( Staphylococcus aureus )(MRSA)

病院では多数の抗菌薬が使用されるために、たいていの場合、病院スタッフは耐性菌のキャリアとなります。医療施設で感染が起こった場合、その細菌は通常、ほぼすべてのペニシリン系抗菌薬(ベータラクタム系抗菌薬)など、複数の抗菌薬に対する耐性をもっています。ほぼすべてのベータラクタム系抗菌薬に耐性のある菌株は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)と呼ばれます。メチシリンは、ペニシリンの一種です。

MRSA株は、医療施設で感染が起こった場合によくみられます(院内感染と呼ばれます)。MRSA株の中には、軽度の膿瘍や皮膚感染症などの、医療施設の外で感染する感染症(市中感染症と呼ばれます)を引き起こすものもあります。こうした市中感染症の数は増加しています。

知っていますか?

  • ブドウ球菌感染症では、原因菌の多くが抗菌薬に対する耐性をもっているため、治療が困難な場合があります。

ブドウ球菌感染症の症状

皮膚感染症が黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によって生じた場合、以下のものなどがみられます。

  • 毛包炎は最も軽度のものです。毛の根元(毛包)が感染し、わずかな痛みを伴う小さな吹き出物が毛の根元にできます。

  • 膿痂疹は、液体で満たされた浅い水疱であり、これが破裂してハチミツ色のかさぶたを残します。膿痂疹はかゆみまたは痛みを伴うことがあります。

  • 膿瘍(おでき、せつ)は、皮膚の下にできる膿のかたまりで、熱をもち、痛みを伴います。

  • 蜂窩織炎は、皮膚とそのすぐ下の組織の感染症です。蜂窩織炎は周囲に広がり、痛みと発赤をもたらします。

  • 中毒性表皮壊死融解症と新生児でみられる熱傷様皮膚症候群は、重篤な感染症です。どちらも広い範囲で皮膚がむけます。

黄色ブドウ球菌(
)による皮膚感染症の例
せつ(おでき)
せつ(おでき)
この写真のせつ(おでき)は、腫れて圧痛があり、内部には膿がたまっています。

Photo provided by Thomas Habif, MD.

まゆ毛の下に生じたせつ
まゆ毛の下に生じたせつ
この女性ではまゆ毛の下に、炎症を起こした赤いせつがみられます。

DermPics/SCIENCE PHOTO LIBRARY

膿痂疹
膿痂疹
膿痂疹では、水疱が複数集まって出現し、それらが破れてハチミツのような色の痂皮が形成されます。

Image courtesy of Thomas Habif, MD.

小児の膿痂疹
小児の膿痂疹
この膿痂疹(のうかしん)の小児の写真では、黄色いかさぶたを伴ったびらんがみられます。

DR P.MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

ブドウ球菌の皮膚感染症は、いずれも感染力が非常に強い病気です。

乳房の感染症乳腺炎)は、蜂窩織炎と膿瘍を伴うことがあり、出産の1~4週間後にみられる場合があります。乳頭周辺が赤くなり、痛みます。膿瘍から、しばしば母乳へと多数の細菌が排出されます。この細菌は授乳を受けている乳児に感染することがあります。

肺炎では、高熱、息切れ、血の混じったたんを伴うせきがみられます。肺に膿瘍が発生することもあります。膿瘍は大きくなって、肺を覆う膜を侵し、ときに膿を蓄積させます(その状態を膿胸といいます)。これらの症状によって、呼吸はより困難になります。

血流感染は、重度の熱傷を負った患者の主な死因です。典型的な症状は長引く高熱で、ときにショックを起こします。

心内膜炎では、すぐに心臓弁に障害が起きて心不全に陥り(同時に呼吸が苦しくなり)、死に至ることがあります。

骨髄炎は、悪寒、発熱、骨の痛みといった症状を引き起こします。感染している骨の上にある皮膚や軟部組織が赤くなって腫れ、近くの関節に体液がたまります。

ブドウ球菌感染症の診断

  • 皮膚の感染症についての医師による評価

  • その他の感染症には、血液や感染した体液の培養検査

皮膚のブドウ球菌感染症は通常、外観に基づいて診断が下されます。

他の部位の感染症では、血液や感染部位の体液のサンプルを検査室に送り、そこで細菌を増殖させて種類を特定する検査(培養検査)が行われる場合もあります。分析結果によって診断を確定し、そのブドウ球菌に有効な抗菌薬を特定します(感受性試験と呼ばれます)。

骨髄炎が疑われる場合には、X線検査、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィー、またはこれらの併用が行われます。これらの検査によって、損傷部位とその重症度を調べることができます。骨生検により、検査用のサンプルが採取されます。サンプルは針で採取されることもありますが、手術中に採取されることもあります。

ブドウ球菌感染症の予防

石けんと水道水で十分に手洗いをするか、アルコール系の消毒液を塗布することで細菌が広がるのを予防できます。

鼻からブドウ球菌を排除するためにムピロシンという抗菌薬を鼻孔内に塗ることを推奨する医師もいます。しかしながら、ムピロシンの過度の使用は菌の耐性獲得につながるために、感染の可能性が高い場合にのみ使用することが推奨されます。例えば、特定の手術を受ける前の人や皮膚感染症が広まっている世帯内の人に投与します。

ブドウ球菌のキャリアが特定の種類の手術を受ける必要がある場合、しばしば手術前に抗菌薬が投与されます。

皮膚のブドウ球菌感染症の患者は、食べものを扱ってはいけません。

一部の医療施設では、入院時に決まってMRSAに対するスクリーニング検査を受けます。また、特定の手術を受ける予定の患者など、MRSAに感染する可能性の高い人にのみスクリーニングを行う施設もあります。スクリーニングでは、綿棒を使って鼻から採取したサンプルを検査します。MRSA株が検出された人は、菌の拡散を防ぐために隔離されます。

ブドウ球菌感染症の治療

  • 抗菌薬

  • ときに感染が起きた骨や異物を除去する手術

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による感染症は抗菌薬で治療します。原因菌が抗菌薬に対する耐性をもつかどうかを調べ、耐性があれば、どの抗菌薬に対するものかを調べます。

病院内で発生した感染症は、MRSAに効果的な抗菌薬を用いて治療します。具体的には、バンコマイシン、リネゾリド、テジゾリド、キヌプリスチンとダルホプリスチンの配合剤、セフタロリン(ceftaroline)、テラバンシン(telavancin)、ダプトマイシンといった抗菌薬を使用します。原因菌の検査結果が出た時点で、その菌株にメチシリンに対する感受性があり、ペニシリンアレルギーがないことが明らかな場合は、ナフシリン(nafcillin)やオキサシリンなどのメチシリンに近い薬を使用します。感染症の重症度によっては、抗菌薬を何週間も使用します。

MRSAの感染は医療施設の外でも起こりえます(市中感染)。通常、MRSAの市中感染の場合、病院内でのMRSA感染に使用される薬に加えて、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、クリンダマイシン、ミノサイクリン、ドキシサイクリンといった他の抗菌薬に対しても菌が感受性を示します。

毛包炎などのMRSAによる軽度の皮膚感染症は通常、バシトラシン、フラジオマイシン、ポリミキシンB(処方なしでも入手可能)を含有する軟膏や、ムピロシン軟膏(処方が必要)で治療します。軟膏を塗る以上の治療が必要な場合は、MRSAに効果的な抗菌薬を経口や静脈内注射で投与します。どの抗菌薬を使用するかは、感染症の重症度と感受性試験の結果に基づいて決定します。

感染が骨や体内の異物(心臓のペースメーカー、人工心臓弁、人工関節、人工血管グラフトなど)に及んだ際には、リファンピシンやその他の抗菌薬が投与される抗菌薬のリストに加えられる場合もあります。通常、感染症を治癒させるために、感染が生じた骨や異物を手術で摘出する必要があります。

膿瘍があれば、通常は排膿を行います。

その他のブドウ球菌による感染症

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はコアグラーゼという酵素を作ります。他のブドウ球菌の菌株はこの酵素を作らないため、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌と呼ばれます。これらの細菌は健康な人の皮膚に常在しています。

これらの細菌は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)より危険性は低いものの、重篤な感染症を引き起こすことがあり、通常は病院で発生した場合にみられます。皮膚から血管へ挿入したカテーテルや埋め込み型の医療器具(心臓ペースメーカー、人工心臓弁、人工関節)への感染が起こる場合があります。

これらの細菌はしばしば、多くの種類の抗菌薬に対する耐性を有しています。多くの耐性菌に対して効果があるバンコマイシンが使用され、ときにリファンピシンも使用されます。医療器具に感染が生じている場合は、しばしば取り外す必要が生じます。

quizzes_lightbulb_red
医学知識をチェックTake a Quiz!
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS