感染症が起こる仕組み

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University
レビュー/改訂 2022年 8月 | 修正済み 2022年 9月
プロフェッショナル版を見る

    通常、感染症は微生物が体内に侵入し、増殖することによって起こります。感染症を起こす微生物の種類にはたくさんのものがあります(感染症の概要も参照)。

    以下は、微生物が体内に侵入する経路の例です。

    • 口、眼、または鼻から

    • 性的接触を介して

    • けがの傷や咬み傷を介して

    • 汚染された医療器具を介して

    人は汚染された水を飲んだり、汚染された食物を食べたりすることで、微生物を摂取することがあります。胞子や塵、他の人のせきやくしゃみによって飛散した微生物に汚染された飛沫を吸い込むこともあります。ドアノブなどの汚染された物体を扱ったり、感染者に直接触れたりしてから、自分の眼、鼻、口に触れることもあります。

    一部の微生物は、血液、精液、便などの体液を介して拡散します。そのため、感染したパートナーとの性的接触によって微生物が体内に入ることがあります。また、介護や医療サービスを提供するなどの、体液との非性的接触を介して微生物が侵入することもあります。

    人や動物に咬まれたり、皮膚を傷つけたりすると、微生物が体内に侵入することがあります。感染した昆虫やマダニは、咬んだときに病気を広めることがあります。

    微生物は、体内に留置された医療器具(カテーテル、人工関節人工心臓弁など)に付着することもあります。医療器具が何かのはずみで汚染されていれば、その器具を体内に入れる時点で微生物が付着している可能性があります。また、体内の別の部位から血流に乗って感染性の微生物が運ばれ、体内に埋め込まれた医療器具にすみつく場合もあります。こうした人工物には感染に対する防御機能がないため、微生物が容易に増殖して病気を引き起こします。

    体内に侵入した微生物が感染症を引き起こすには、まず増殖しなければなりません。微生物が増殖を始めると、以下の3つのパターンのどれかが起こります。

    • 微生物が増え続けて人体の防御機構に打ち勝ってしまう。

    • 均衡状態に達して、慢性感染の状態になる。

    • 人体の免疫機能により、またときに治療の効果も加わって、侵入した微生物が排除される。

    ほとんどの微生物は、人体の細胞に付着することによって侵入を開始します。どの微生物が人体のどの細胞に付着するかは、ちょうど「鍵と鍵穴」の関係のように決まっています。微生物が細胞の表面に付着すると、そこを足場にして微生物が組織に侵入できるようになります。

    微生物が侵入部位の近くにとどまるか別の部位にまで広がるかどうか、また感染の重症度がどのくらいになるかは、次のような因子によって決まります。

    病気を引き起こす微生物の多くは、引き起こす病気の強さ(毒性)を高める性質や、人体の防御機構に抵抗するのに有利な性質を備えています。具体的には以下のような性質があります。

    • 毒性物質(毒素)

    • 酵素

    • 人体の防御機構を妨げる手段

    毒素や酵素の生産

    体内に侵入する微生物の中には、毒素を作るものがあります。毒素は、生物に害を及ぼす可能性のある化学物質です。毒素には、ある種の殺虫剤のように人工的に作られたものもあれば、特定の微生物によって作られた天然のものもあります。例えば、傷口に感染した 破傷風菌(Clostridium tetani)という細菌は、破傷風の原因となる毒素を作ります。また微生物が体外で作る毒素により起きる病気もあります。例えば、食べものの中でブドウ球菌という細菌が毒素を作り出すと、その後ブドウ球菌が死滅しても、その食べものを口にした人は食中毒になることがあります。多くの毒素には、特定の細胞(標的細胞)の表面上にある分子とだけ結合する部分があります。破傷風毒素性ショック症候群ボツリヌス症炭疽(たんそ)、コレラなどの病気では、毒素が中心的な役割を果たします。

    細菌の中には人体の組織を破壊する酵素を作り出せるものがあり、その作用により組織内での感染の拡大を速めています。また、細胞に侵入してその中を移動できるようにする酵素を作り出す細菌もあります。

    人体の防御機構を妨げる仕組み

    以下のように、人体の防御機構を妨げる仕組みをもった微生物もいます。

    • その微生物を攻撃する能力をもった抗体T細胞白血球の一種)が体内で作り出されるプロセスを妨害する。

    • 防御抗体を破壊する。

    • 防御機構である白血球に食べられないように莢膜(きょうまく)という外皮で身を包む(例えば、クリプトコッカス Cryptococcusという真菌は肺に侵入した後、人体の防御機構に耐えるために莢膜をさらに厚くします。)

    • 血液中に含まれる物質による破壊(溶解)に耐えるようになる。

    • 抗菌薬の作用を打ち消す物質を作り出す。

    一部の細菌はバイオフィルムと呼ばれる粘液の層を作り出すことができ、その中に生息します。バイオフィルムがあると、細菌が細胞や異物(静脈カテーテル、縫合糸、人工関節、折れた骨を正しい位置に固定する金属器具[ピン、ネジ、ロッド、プレートなど]、医療用インプラント、各種医療機器など)に付着しやすくなります。バイオフィルムは、細菌が免疫細胞に食べられたり、抗菌薬で殺傷されたりするのを防ぎます。

    最初は人体の防御機構を阻止する術をもっていない微生物が、時間の経過とともにそうした術を発達させることもあります。例えば、ペニシリンに何度もさらされた微生物の中にはペニシリンに耐性をもつようになるものがあります(抗菌薬耐性と呼ばれます)。

    免疫系の機能不全

    免疫系が十分に機能していないと(易感染性と呼ばれます)、より感染しやすくなります。以下の理由で免疫系が正常に機能しないことがあります。

    • 免疫機能が損なわれる遺伝性の病気(免疫不全症)がある。

    • 後天的に発症した病気(HIV感染症やがん)により、免疫機能が弱まっている。

    • 免疫系を抑制する薬(コルチコステロイドなどの免疫抑制薬)を使用する必要がある(臓器移植後の拒絶反応を予防する薬や炎症を抑える薬)。

    quizzes_lightbulb_red
    医学知識をチェックTake a Quiz!
    ANDROID iOS
    ANDROID iOS
    ANDROID iOS