ヒトパピローマウイルス(HPV)の種類が違えば、引き起こされる感染症も異なります。例えば、性器にできる、目で見て確認しやすいいぼもあれば、子宮頸部、腟、外陰部、尿道、陰茎、肛門にできる見えにくいいぼもあり、さらに皮膚のいぼもよくみられます。
性器にできるいぼ(尖圭コンジローマ)は、急速に増大し、焼けるような痛みを引き起こすことがあります。
一部の種類のHPVに感染すると、子宮頸部、腟、外陰部、陰茎、肛門、のどのがんのリスクが高まります。
見て確認できる性器疣贅は外観から特定し、見えにくいものについては子宮頸部と肛門を調べます。
ワクチン接種により、がんの原因になるほとんどの種類のHPV感染症を予防することができます。
視認できる性器疣贅はレーザーや凍結(凍結療法)または手術で取り除くことが多く、ときには薬を塗る治療も行われます。
(性感染症の概要 性感染症(STI)の概要 性感染症(性病)とは、例外はあるものの、一般的には性的接触によって人から人に感染する病気のことです。 性感染症を引き起こす病原体の種類としては、細菌、ウイルス、原虫などがあります。 キスや濃厚な体の接触を介して広がる感染症もあります。 感染が体の他の部分に広がり、ときには深刻な結果に至る場合もあります。... さらに読む も参照のこと。)
HPV感染症は最もよくみられる性感染症(STI)です。HPVは非常によくみられるため、ワクチン接種を受けていない性的に活動的な男女の約80%が、生涯のどこかの時点で、このウイルスに感染します。米国では毎年約1400万人が新たにHPVに感染しています。HPVワクチンが利用できるようになる前は、毎年約34万~36万人の患者がHPVによる尖圭コンジローマのために受診していました。HPVの予防接種を受ける人が増えるにつれて、HPV感染症の所見がみられる人の割合は減少しています。
大半の感染症は1~2年で治りますが、長引くものもあります。一部の種類のHPVによる感染が長引くと、ある種のがんのリスクが高まることがあります。
HPVは100種類以上あることが知られています。よくみられる 皮膚のいぼ 疣贅(いぼ) 疣贅(ゆうぜい)は、ヒトパピローマウイルスの感染によって引き起こされる皮膚の小さな増殖性病変で、一般にいぼと呼ばれるものです。 疣贅(いぼ)は、ヒトパピローマウイルスによって引き起こされます。 隆起した病変または平坦な病変として、あらゆる部位の皮膚に出現します。 ほとんどのいぼは痛みを伴いません。 いぼは外観で特定することができ、生検を行うことはほとんどありません。 さらに読む を引き起こすタイプもあれば、以下のように様々な性器感染症を引き起こすタイプもあります。
体の外側にできる(見えやすい)尖圭コンジローマ:このようないぼは特定のHPV、特に6型と11型により生じます。6型と11型ががんを引き起こす可能性は低いです。これらの型は性行為で伝染し、陰部や肛門部に感染します。
体の内側にできる(見えにくい)尖圭コンジローマ:他のタイプのHPV、特に16型や18型は陰部に感染しますが、見えやすいいぼを引き起こすことはありません。この型では、子宮頸部や肛門に小さく平らないぼができますが、これはコルポスコープ(腟拡大鏡)と呼ばれる器具でしか見ることができません。いぼは腟、外陰部、尿道、陰茎、肛門、またはのどにも発生する場合があります。このような見えにくいところにいぼがある場合、通常は症状がみられませんが、これを引き起こすタイプのHPVは、 子宮頸がん 子宮頸がん 子宮頸がんは子宮頸部(子宮の下部)に発生します。子宮頸がんの大半は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされます。 子宮頸がんは通常、性的接触の際に感染するヒトパピローマウイルス(HPV)による感染の結果として発生します。 最初の症状は通常、不規則な性器出血(不正出血)(通常は性行為後)ですが、がんが大きくなるか広がるまで何の症状もみられない場合もあります。... さらに読む 、腟がん、外陰がん、陰茎がん、肛門がん、膀胱がん、一部の頭頸部がん、のどのがんの発生リスクを高めます。そのため、このようないぼを治療する必要があります。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していると、HPV関連のがんを発症するリスクが高まります。
性器や直腸領域に影響を及ぼす種類のHPVは通常、腟または肛門性交を介して感染しますが、他の感染経路を介しても広がります。
HPVはオーラルセックスでも感染し、口の感染症を引き起こして口腔がんのリスクを高めます。
HPV感染症の症状
男性では、いぼは通常は尿道または陰茎にでき、特に包皮環状切除術を受けていない男性では包皮の下にできます。女性では、尖圭コンジローマは外陰部、腟壁、子宮頸部、腟周辺の皮膚にできます。肛門の周囲や内部にも尖圭コンジローマができることがあり、特に肛門性交を行う人でよくみられます。
多くの場合、いぼは症状を伴いませんが、ときおり焼けるような痛み、かゆみ、不快感が出る人もいます。
いぼは通常、HPVに感染してから1~6カ月後に現れますが、初めは軟らかく湿った小さな膨らみができ、ピンクまたは灰色をしています。これらは急速に大きくなり、表面はデコボコで不規則になり、細い茎の先に付いた状態で皮膚から伸びてくることもあります。デコボコした表面のために小さなカリフラワーのように見えます。多数のいぼが集まって生じることもよくあります。
妊婦や、HIVに感染している場合などで免疫機能が低下している人では、いぼの成長が速くなり、より広範囲に広がることがあります。
HPV感染症の診断
外性器にできたいぼについては、医師による評価
内性器にできたいぼについては、コルポスコピーまたは肛門鏡検査
体の外側にできる尖圭コンジローマは通常、その外観から診断できます。外観が通常とは異なり、出血したり、ただれたり(潰瘍化)、治療後も長引いたりする場合は、手術で切除し、がんかどうかを顕微鏡で調べる必要があります。梅毒は特殊な種類の性器疣贅を引き起こすことがあるため、通常は梅毒についての血液検査が行われます。
コルポスコピー コルポスコピー 医師は、 スクリーニング検査を勧めることがあります。スクリーニング検査とは、症状がない人に対して病気の有無を調べるために行われる検査です。女性に生殖器系に関連する症状(婦人科疾患の症状)がある場合、症状を引き起こしている病気を特定するための検査( 診断目的の検査)が必要になることがあります。 婦人科領域では以下の2つのスクリーニング検査が重要です。 子宮頸がん(子宮の下部のがん)の有無を調べるためのパパニコロウ検査などの細胞診またはヒト... さらに読む (双眼の拡大鏡を使用して子宮頸部を観察する検査)は、子宮頸部の見えにくいいぼを確認するために行われます。 肛門鏡検査 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。 口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。 肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できま... さらに読む (観察用の管状の機器を使用して肛門の内側を観察する検査)は、肛門のいぼを確認するために行われます。そのような部位に染色を行って、いぼを見えやすくする場合もあります。
いぼから採取したサンプルを、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査などの検査法で分析することもあります。この検査では遺伝子のコピーを多数作り出しますが、それによりHPVに特有の遺伝物質(DNA)を特定することが可能になります。このような検査は、診断を確定し、HPVのタイプを特定するのに役立ちます。
通常、症状のない人への検査(スクリーニング)は推奨されません。しかし30~65歳の女性は例外です。この年齢層の女性は、子宮頸部細胞診(パパニコロウ検査)によるスクリーニングを受けるべきです。そこでHPVが検出された場合は、コルポスコピーが行われます。多くの場合、顕微鏡検査用の組織サンプルが採取されます(生検)。
HPV感染症の予防
HPVに対する予防接種 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、 HPVの中でも以下の病態を引き起こす可能性が非常に高い株による感染の予防に役立ちます。 女性の 子宮頸がん、 腟がん、 外陰がん 男性の 陰茎がん 肛門がん 尖圭コンジローマ さらに読む は、以下の3つのワクチンから選択できます。
9価:9種類のHPVの感染を予防
4価:4種類のHPVの感染を予防
2価:2種類のHPVの感染を予防
米国では現在、9価ワクチンのみが使用されています。
これら3つのHPVワクチンはどれも、子宮頸がんの原因として全体の約70%を占める2種類のHPV(16型と18型)に対して予防効果があります。それに加えて、4価ワクチンは、尖圭コンジローマの90%以上を引き起こしている2種類のHPV(6型と11型)の感染を予防し、9価ワクチンはさらに子宮頸がんの約15%を引き起こしている他の5種類のHPV(31、33、45、52、58型)の感染も予防します。
ワクチンの接種を受けたことのない9~26歳のすべての人に9価ワクチンと4価ワクチンが推奨されます。27~45歳の成人も9価ワクチンの恩恵を得られる可能性があり、ワクチンを接種するかどうかについて主治医と話し合うべきです。2価ワクチンは女児と女性にのみ推奨され、男児や男性には推奨されません。
これらのワクチンは筋肉内への注射(通常は上腕)により接種します。11~12歳に接種するのが理想的ですが、早くて9歳時から開始できます。15歳未満の小児には2回、15歳以上の人には3回接種します。
男性用コンドームを常に正しく使用する コンドーム バリア法とは、子宮内への精子の進入を物理的に阻止する避妊法です。具体的には、コンドーム、ペッサリー、子宮頸管キャップ、避妊用ゼリー、避妊用スポンジ、殺精子剤(発泡剤、クリーム剤、坐薬)などがあります。これらの避妊薬や避妊用具は、性交のたびに女性またはそのパートナーが使用するようにします。 コンドームとは、陰茎にかぶせる避妊用の薄い袋です。ラテックス製のコンドームは、 淋菌感染症や... さらに読む ことで、HPVの感染リスクと、尖圭コンジローマや子宮頸がんなどのHPV関連疾患のリスクを低下させることができます。HPVはコンドームで覆われていない領域にも感染する可能性があるため、コンドームではリスクを完全に排除できない可能性があります。
以下のような一般的な対策も、HPV感染症(およびその他の性感染症)の予防に役立ちます。
セックスパートナーを頻繁に変えたり、売春婦と性交したり、他のセックスパートナーがいる相手と性交したりするといった安全でない性行為を避ける
感染症の迅速な診断と治療(感染の拡大を防ぐため)
感染者の性的接触を把握し、それらの接触に対するカウンセリングや治療を行う
最も確実な性感染症の予防方法は、性行為(肛門性交、腟性交、オーラルセックス)を行わないことですが、これは往々にして非現実的です。
HPV感染症の治療
通常はレーザー、電気焼灼術、凍結療法、手術
ときに各種の外用療法
免疫系が健全であれば、多くの場合、やがてHPVはコントロールされ、治療をしなくてもいぼとウイルスは根絶されます。8カ月もすれば、半数の人で感染は治まり、2年以上感染が続くケースは10%未満です。尖圭コンジローマができた人で免疫機能が低下している場合は治療が必要になり、いぼが再発することがよくあります。
体の外側のいぼについては完全に満足のいく治療法はなく、不快であったり、瘢痕(はんこん)が残るものもあります。体の外側にできた尖圭コンジローマは、レーザーや電流(電気焼灼術)、または凍結療法や手術で取り除くことができます。除去するいぼの数や大きさに応じて、局所麻酔か全身麻酔を行います。
また、ポドフィロトキシン(podophyllin toxin)、イミキモド、トリクロロ酢酸、シネカテキンス(緑茶エキスから製造される軟膏)をいぼに直接塗る方法もあります。しかしこの方法は、数週間から数カ月にわたって何度も塗らなければならず、周囲の皮膚にやけどのような症状が生じることもあり、効果がないこともしばしばです。治療後の部位が痛むこともあります。イミキモドのクリームは、やけどのような症状が生じにくい一方、効果も弱いことがあります。治療に成功したように見えても、いぼが再びできることもあります。
尿道内にいぼができた場合、手術用の器具の付いた観察用の管状の機器(内視鏡)で取り除く方法が最も効果的ですが、この処置には全身麻酔が必要です。またはチオテパなどの薬を尿道内に挿入したり、化学療法薬のフルオロウラシルをいぼに注射することもしばしば効果的です。
インターフェロンアルファをいぼに注射する治療も、ある程度は効果的であることが分かっています。
男性では、包皮環状切除により、HPV感染症、HIV感染症、性器ヘルペスのリスクが低下しますが、梅毒のリスクは低下しません。
セックスパートナー全員が、いぼや他の性感染症についての検査を受け、必要があれば治療を受けることが大切です。セックスパートナーも定期的に検査を受けて、HPV感染症にかかっていないかチェックするべきです。
HPV感染症に関するさらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国疾病予防管理センター:ヒトパピローマウイルスワクチン(Centers for Disease Control and Prevention: Vaccine for Human Papillomavirus (HPV))