麻疹・ムンプス・風疹(MMR)混合ワクチンは、この3種の重篤なウイルス感染症を予防するためのワクチンです。このワクチンには、麻疹(はしか)、ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)、風疹の生きたウイルスが弱毒化されて含まれています。これらのいずれかの病気に対する予防が必要な人は、他の2つに対する予防も必要になることから、この混合ワクチンが使用されています。これらのワクチンを個別に接種することはできません。
これらの感染症は、以下のような深刻な問題を引き起こすことがあります。
麻疹 麻疹(はしか) 麻疹は非常に感染力の強い ウイルス感染症で、かぜのような様々な症状と特徴的な発疹が現れます。 麻疹の原因はウイルスです。 症状としては、発熱、鼻水、頻発する空せき、目の充血、かゆみを伴う赤い発疹などがみられます。 診断は、典型的な症状と特徴的な発疹に基づいて下されます。 ほとんどの小児が回復しますが、まれに麻疹により死亡したり脳に損傷が生じたりすることもあります。 さらに読む にかかると、発疹、発熱、せきが生じます。主に小児がこの病気にかかり、非常に重篤な状態に陥ることがあります。脳障害や肺炎につながることがあり、ときに死に至ります。
ムンプス ムンプス(おたふくかぜ) ムンプスとは、唾液腺が痛んで腫れる、感染力の強い ウイルス感染症です。精巣、脳、膵臓を侵すこともあり、特に成人ではその傾向があります。 ムンプスの原因はウイルスです。 症状としては、悪寒、頭痛、食欲減退、発熱、けん怠感などがあり、その後唾液腺が腫れます。 診断は典型的な症状に基づいて下されます。 たいていの小児は問題なく回復しますが、感染症により髄膜炎や脳炎が起きることもあります。 さらに読む (おたふくかぜ、流行性耳下腺炎)では唾液腺が腫れて痛みが生じます。精巣、脳、膵臓(すいぞう)が侵されることがあります(特に成人の場合)。成人の方が重篤化します。
風疹 風疹 風疹は、典型的には関節痛や発疹などの軽い症状を引き起こす感染力の強いウイルス感染症ですが、妊娠中の母親が風疹に感染すると、新生児に重い先天異常が起きます。 風疹の原因はウイルスです。 典型的な症状としては、リンパ節の腫れ、口蓋(こうがい)に出るバラ色の斑点、特徴的な発疹などがあります。 診断は症状に基づいて下されます。 定期予防接種で予防できます。 さらに読む にかかると鼻水、リンパ節の腫れ、皮膚の軽い赤みを伴う発疹が特に顔に生じます。成人では関節痛が生じることがあります。妊婦が風疹にかかった場合、流産したり、胎児が死亡したり、新生児に非常に重度の先天異常が生じる場合があります。
MMRワクチンと 水痘(水ぼうそう)ワクチン 水痘ワクチン 水痘ワクチンは、水痘帯状疱疹ウイルスが引き起こす非常に伝染しやすい感染症である、 水痘(水ぼうそう)の予防に役立ちます。水痘にかかると、皮膚に赤い発疹ができ、その後かゆみのある小さな水疱が生じます。場合によっては、脳、肺、心臓に感染し、重篤な病気や死亡の原因になることがあります。水痘が治った後もウイルスは体内に残ります。何年か後に再び活性化して、 帯状疱疹を引き起こすことがあります。... さらに読む は、混合ワクチン(MMRVワクチン)の形で利用することもできます。
詳細については、CDCによるMMR(麻疹・ムンプス・風疹)ワクチン説明書(MMR (Measles, Mumps, and Rubella) vaccine information statement)を参照してください。
(予防接種の概要 予防接種の概要 予防接種(ワクチン接種)は、特定の細菌やウイルスが原因で起こる病気から体を守る助けとなります。 免疫(特定の細菌やウイルスによって引き起こされる病気から自らを守る体に備わった能力)には、細菌やウイルスにさらされることで自然に生じるものと、ワクチン接種を受けることで人為的に得られるものがあります。ある病気に対してワクチンを接種すると、その病... さらに読む も参照のこと。)
MMRワクチンの接種
このMMRワクチンは皮膚の下に注射して接種します。
小児定期接種 小児期の予防接種スケジュール 米国では、ほとんどの医師は米国疾病予防管理センター(CDC―乳児・小児用スケジュール[schedule for infants and children]および年長児・青年用スケジュール[schedule for older children and adolescents]を参照)が推奨している予防接種スケジュールに基づいて予防接種を行っており、このスケジュールは病院の新生児室で行われる... さらに読む の一環として、接種は2回に分けて行われ、米国では、1回目は生後12~15カ月、2回目は一般的に4~6歳の時点で行われます。
1957年以降に生まれたすべての成人は、MMRワクチンの接種を1回でも受けたことがある場合と臨床検査で免疫があることが示された場合を除き、このワクチンの接種を1回受けるべきです。
米国の場合、出生年が1957年より前であるという事実は、麻疹・ムンプス・風疹に対する免疫をもつことの十分な証拠と一般にみなされますが、これは医療従事者には当てはまりません。医療従事者は予防接種を受けるか、臨床検査を受けて免疫がある証拠を確認します。
妊娠中の風疹の感染は、流産や重度の先天異常など、胎児に深刻な問題をもたらす可能性があります。そのため、妊娠する可能性のあるすべての女性は、出生年に関係なく、風疹に対する免疫の有無を確認するための検査を受けるべきです。免疫がある証拠がない場合、妊娠していない女性はワクチン接種を受け、妊娠している女性は妊娠終了後すぐにワクチン接種を受けるべきです。
これらの感染症にさらされる可能性が高い成人は、2回目のワクチン接種を受けるべきです。以下に該当する人がその対象です。
1957年以降に出生し、麻疹・ムンプス・風疹に対する免疫がまだない医療従事者
高校卒業後に大学またはその他の教育機関に入学する
外国旅行をする
HIVに感染していて(免疫系の機能が著しく低下している場合を除く)麻疹・ムンプス・風疹に対する免疫がまだない人
MMRワクチンの2回目の接種は、免疫系の機能が著しく低下している人と同居している人も受けるべきです。
妊娠中の女性や、ゼラチンまたは特定の抗菌薬(特にフラジオマイシン)に対して重篤なアレルギー反応を起こしたことがある人は、このワクチンの接種を受けることができません。
特定の条件によって、ワクチンを接種するかどうかと接種を受ける時期が変わる場合があります(CDC:ワクチンを受けるべきでない人[Who Should NOT Get Vaccinated With These Vaccines?]も参照)。
対象者が一時的に病気にかかっている場合、ワクチンの接種はその病気が治まるまで待つのが通常です。
MMRワクチンの副反応
発熱、全身のだるさ(けん怠感)、発疹などの軽い副反応が出ることがあります。成人(通常は女性)では、一時的に関節がこわばって痛みが生じることがあります。
MMRワクチンは自閉症を引き起こさないことが科学的根拠によって示されています(麻疹・ムンプス・風疹(MMR)ワクチンと自閉症に対する懸念 麻疹・ムンプス・風疹(MMR)ワクチンと自閉症に関する懸念 米国ではワクチンの安全性を確保するための強固な制度が整備されているにもかかわらず、一部の親たちは依然として、小児へのワクチンの使用や スケジュールについて懸念を抱いています。そうした懸念が一部の親たちの間でワクチン忌避につながる可能性があります。ワクチン忌避とは、ワクチンが利用可能であるにもかかわらず、親が推奨されているワクチンの一部またはすべてを子どもに受けさせるのを遅らせたり、受けさせなかったりすることです。親がワクチン接種を拒否し... さらに読む および 「CDC:自閉症とワクチン[CDC: Autism and Vaccines]」も参照)。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国疾病予防管理センター(CDC):MMR(麻疹・ムンプス・風疹混合)ワクチン説明書(Information statement about MMR (measles, mumps, and rubella) vaccine)
CDC:MMRワクチンを接種すべきでない人に関する情報(Information about people who should NOT get vaccinated with MMR vaccine)
CDC:自閉症とワクチン(Autism and Vaccines)