血液疾患に対する臨床検査

執筆者:David J. Kuter, MD, DPhil, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2021年 6月
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    医師は、症状と身体診察の結果に基づいて血液疾患の診断に役立つ検査を選択します。症状が認められず、別の理由で臨床検査を実施した際に、血液疾患が発見されることがあります。例えば、定期的な健診の一部として実施した血算により赤血球数の減少(貧血)が明らかになることがあります。血液疾患が疑われる場合は、具体的な診断を行うために、血算やその他の検査を行う必要があります。

    採血方法

    血液は針を使って静脈から1本または複数の採血管に採取しますが、ときには、指先に小さな針を刺して血液を1滴だけ採取することもあります。

    どの静脈から採血するかは医療機関の担当者が決定しますが、通常は肘の内側にある1本の静脈が使用されます。上腕に駆血帯を取り付けると、その下の静脈が血液で満たされるため、静脈が簡単に分かるようになったり、触れることができるようになります。

    血液を採取する静脈周辺の皮膚を完全に消毒してから、静脈に針を刺します。通常は針を刺すときにチクッとした痛みを感じますが、あとは痛くありません。

    血液は針を通って注射器あるいは採血管に入ります。十分な血液が採取できたら駆血帯を外し、次に静脈から針を抜き、そして穿刺部位からの出血を防ぐために穿刺部位を圧迫します。

    ほんのわずかな血液しか必要ない場合、通常は指(乳児ではかかと)の採血部分を消毒し、針で皮膚を刺します。

    血算

    最も多く行われる血液検査は、血算(CBC)です。血算では、血液中のすべての血球成分(赤血球、白血球、血小板)を調べます。自動計数装置では、ごく少量の血液を用いて1分足らずでこの検査が行われます。場合によっては、血算を補完するために、顕微鏡で血球を調べることもあります(血液塗抹検査)。

    血算で調べる赤血球パラメータは以下の通りです。

    • 赤血球の数(赤血球数)

    • 血液中の赤血球が占める割合(ヘマトクリット、Hct)

    • 血液中のヘモグロビン(赤血球中の酸素を運ぶタンパク質)の量(ヘモグロビン、Hb)

    • 赤血球の大きさの平均値(平均赤血球容積、MCV)

    • 赤血球の大きさのばらつき(赤血球分布幅、RDW)

    • 個々の赤血球に含まれるヘモグロビンの量(平均赤血球ヘモグロビン量、MCH)

    • 個々の赤血球に含まれるヘモグロビンの濃度(平均赤血球ヘモグロビン濃度、MCHC)

    これらのパラメータに異常があると、臨床検査担当者は赤血球に異常があることが分かります(次に顕微鏡で検査して、さらに詳しく調べることがあります)。

    異常な赤血球には、断片化したもの、涙のような形、三日月形(鎌状)など、様々な形があります。赤血球の形や大きさを知ることは、貧血の原因を特定するのに役立ちます。例えば、鎌状赤血球症では赤血球が鎌状(三日月形)になっているという特徴があり、ヘモグロビンの量が不十分で赤血球が小さい場合は鉄欠乏性貧血が、赤血球が大きい場合は葉酸(葉酸というビタミン)の欠乏またはビタミンB12の欠乏による貧血が疑われます。

    血算で調べる白血球パラメータは以下の通りです。

    • 白血球の総数

    • 様々な種類の白血球の割合と数

    白血球は、免疫系の主要な成分です。通常、5種類の主な白血球(好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球)があり、免疫系が反応するストレスや疾患に応じて、異なる種類の白血球が動員されます。各種の白血球の数(白血球分画)を計数することで、白血球総数における変化で考えられる原因が示唆されます。例えば、悪寒の症状がみられ、好中球の増加による白血球数の増加が認められる場合は、医師はウイルス感染よりも細菌性の肺炎を疑う可能性が高くなります。好中球は、体内に侵入した細菌を排除するために動員されることが多いためです。

    白血球に関する情報をさらに得るために、白血球を顕微鏡で調べることがあります。顕微鏡検査では、ある種の病気に特有な白血球の特徴を識別できます。例えば、外観が極めて未熟な白血球(芽球)が数多く認められる場合は、白血病(白血球のがん)の可能性があります。

    血小板の数も、血算の一部として測定されます。血小板は血液の凝固作用を助ける細胞で、出血しているところに集まって凝集し、血栓という血のかたまりを形成します。血小板の数は、血液が血栓を形成する能力を示す重要な測定値です(血栓の形成は止血に関する身体の保護機構です)。血小板が少なすぎると、血液凝固が損なわれることがあります。血小板数が多いと(血小板増多症)、心臓や脳の毛細血管で過剰な血液凝固が起こりやすくなります。しかし、一部の疾患では、血小板の数が多いことにより、逆に大量出血を起こすこともあります。

    血液塗抹検査

    自動計数装置によって様々な血球の数を迅速に測定し、赤血球の大きさや形、白血球の種類に関する情報が得られますが、血液サンプルを顕微鏡で調べる検査を行うことで、さらに詳しい情報が得られることがあります。この検査では、スライドガラスに血液を1滴垂らして薄くのばし、個々の血球が見やすくなるようにします。次に、血球毎の特徴を鮮明にするために、色の付いた化学物質でそのスライドを染色し、顕微鏡で調べます。経験豊富な人が行えば、血球の数、大きさや形、血球毎の特徴について、機械より多くの情報を得られることがよくあります。

    網状赤血球数

    網状赤血球数は、新しくつくられた(未熟な)赤血球(網状赤血球)が一定の体積の血液に含まれる数です。正常な場合、網状赤血球数は総赤血球数の約0.5~2.5%です。失血後などで多くの赤血球が必要になると、骨髄では正常な場合それに応じて網状赤血球が多くつくられるようになります。そのため、網状赤血球数は、骨髄が新しい赤血球をつくる能力を示す指標となります。

    特殊な血球検査

    血液中の1種類以上の細胞に何らかの異常があると医師が判断した場合は、さらに多くの検査を行って、それを詳しく調べます。各種の白血球が占める割合を調べたり、細胞表面上の特定のマーカーを検出して、これらの細胞のサブタイプを判定したりすることができます。感染に抵抗する白血球の能力を測定する検査や血小板の機能と凝固能力を評価する検査のほかに、赤血球の内容物を測定して貧血の原因または赤血球が十分に機能しない原因を調べる検査なども利用できます。これらの検査のほとんどが血液サンプルを用いて行われますが、骨髄から採取したサンプルが必要になる検査もあります。

    凝固検査

    出血を止める能力を測定する方法の1つが血小板数のカウントです。血小板の機能が正常かどうかの検査が必要になる場合もあります。そのほかに、正常な血液凝固に必要な様々なタンパク質(凝固因子)について、全体的な機能を調べることができます。これらの検査で最もよく行われるのは、プロトロンビン時間(PT)と部分トロンボプラスチン時間(PTT)の検査です。個々の凝固因子の血中濃度を測定することもあります。

    タンパク質などの物質の測定

    血漿(血液の液体部分)には多くのタンパク質が含まれています。尿にもごくわずかですがタンパク質が含まれています。医師は、それらのタンパク質のいくつかを測定して、その量や構造に特定の血液疾患でみられる異常がないかを調べることもあります。例えば、多発性骨髄腫では、形質細胞と呼ばれる特定の白血球ががん化して、血液や尿中で測定できる異常な抗体(免疫グロブリン)のタンパク質(ベンス・ジョーンズタンパクなど)が生産されます。

    エリスロポエチンは、腎臓でつくられるタンパク質で、骨髄を刺激して赤血球の生産を促す働きがあります。このタンパク質の量は、血液で測定できます。また、鉄分の量や健全な赤血球の生産に必要な特定のビタミン(例えば、B12や葉酸など)の量も測定することができます。

    血液型検査

    血液型は赤血球表面にある特定のタンパク質によって決まり、少量の血液を採取して、特定の抗体に対する反応を調べることで判定できます。血液型検査では、血漿と赤血球の両方を調べる必要があります。輸血をする際には、事前に必ず血液型検査が必要です。

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