皮膚や口腔、鼻腔、消化管の内側に血管の拡張(毛細血管拡張)がみられます。
血管が破れると、これらの血管から持続的に出血し、特に鼻腔内の血管で出血がみられます。
通常は、唇や舌で血管の拡張が認められることで、診断を下すのに十分な情報になります。
医師は、出血を止めて、貧血が認められる場合は、鉄剤の投与や輸血を行うことがあります。
この病気では、皮膚の下の血管が破れて出血することがあり、特に顔、唇、口や鼻の中、手足の指の先に小さな赤色ないし紫色の変色がみられます。大量の 鼻出血 鼻血 鼻血を起こしやすい人もいれば、めったに起こさない人もいます。血がポタポタとしたたる程度の場合もあれば、勢いよく流れ出る場合もあります。血を飲み込んでしまうと、血が胃を刺激するため、その血を吐いてしまうことがよくあります。飲み込まれた血が消化管を通過し黒いタール状の便として認められる場合があります。... さらに読む もみられます。脳、肝臓、肺、脊髄と同様に、消化管や尿路の細い血管も影響を受けて、これらの場所で出血を起こすこともあります。出血が頻繁に生じると、多くの人では、鉄の血中濃度の低下(鉄欠乏性貧血 鉄欠乏性貧血 鉄欠乏性貧血は、赤血球の生産に必要な鉄の貯蔵量の不足や欠乏によって起こります。 過剰な出血が最も一般的な原因です。 脱力感や息切れを覚えたり、顔が青白くなったりします。 血液検査で鉄分の量が測定できます。 鉄分の量を回復させるために、鉄剤が用いられます。 さらに読む )がみられます。
遺伝性出血性毛細血管拡張症は遺伝性疾患であり、変異遺伝子が子どもに受け継がれます。いくつかの遺伝子は特定されています。
遺伝性出血性毛細血管拡張症の症状
遺伝性出血性毛細血管拡張症では多くの場合、動脈と静脈の間に異常な経路(動静脈奇形 動静脈瘻 動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)とは、動脈と静脈との間にできた異常な連結部分のことです。 まれに、大きな動静脈瘻によって血液の流れが大きく変わり、その影響を受ける腕や脚で血流量の低下による症状が現れることがあります(盗血症候群)。 聴診では血液が動静脈瘻を流れる際の特有の雑音が聞こえますが、しばしば画像検査が必要になります。 動静脈瘻はレーザー療法で切除または除去することができるほか、ときには動静脈瘻に特殊な物質を注入して血流を遮断する... さらに読む [AVM])がみられます。このような異常な経路により、血流が一部の組織を迂回することがあり、結果、その組織では酸素が足りなくなります。例えば、AVMが脳や脊髄に発生すると、 けいれん けいれん性疾患 けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じることで、一時的に脳の機能障害が引き起こされます。 多くの人では、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常がみられます。 コントロールできないふるえや意識消失が起こる場合もありますが、単に動きが止まったり、何が起こっているか分からなくなったりするだけにとどまる場合もあります。... さらに読む や 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 、麻痺が生じ、肝臓に発生すると、 肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む になることがあります。血液の迂回や出血による貧血が起こると、心臓に大きな負担がかかることになり、 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む に至ります。この奇形が肺に発生すると、血液が肺を通過してしまい、十分な酸素が受け取れなくなるため、息切れや疲労感がみられたり、皮膚が青白くなったりすることがあります。また、小さい血栓でも脳に達する可能性があり、 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む や 一過性脳虚血発作 一過性脳虚血発作(TIA) 一過性脳虚血発作(TIA)は、脳への血液供給が一時的に遮断されるために起こる脳機能障害で、典型的には症状は1時間以内に消失します。 TIAの原因と症状は虚血性脳卒中と同じです。 TIAは、通常1時間以内に症状が消失し、恒久的な脳損傷を残さない点で虚血性脳卒中と異なります。 症状に基づいてTIAが疑われますが、脳画像検査も行われます。 TIAの原因を特定するために、他の画像検査や血液検査も行われます。 さらに読む を引き起こすことがあります。
遺伝性出血性毛細血管拡張症の診断
医師による評価
画像検査
ときに遺伝子検査
通常、家族歴のほか、顔面や口の周り、手足の指の血管に典型的な拡張が認められ、かつ出血の証拠と鼻出血の病歴が確認された後に、遺伝性出血性毛細血管拡張症の診断が下されます。
診断に疑いがあれば、しばしば血液検査を行って、鉄欠乏性貧血について調べます。
いったん遺伝性出血性毛細血管拡張症の診断が下されると、脳、肺、肝臓、腸の画像検査を行って動静脈奇形の有無を調べます。
スクリーニング
動静脈奇形の家族歴がある場合、思春期を迎えた時点で、遺伝性出血性毛細血管拡張症のスクリーニングが行われます。スクリーニングでは通常、貧血を調べるための血液検査のほか、肺、肝臓、脳の画像検査が行われます。遺伝性出血性毛細血管拡張症に関連する遺伝子変異の一部が特定されているため、スクリーニングで遺伝子検査も行われることがあります。通常スクリーニング検査は青年期の終わりの時点で再度実施されます。
遺伝性出血性毛細血管拡張症の治療
止血
鉄サプリメント
ときに輸血
遺伝性出血性毛細血管拡張症の治療では、出血を止めるまたは予防することを目標とします。圧迫する、血管を狭くする外用薬(収斂剤)を使用する、鼻や消化管で出血している血管をレーザー光線で破壊するなどの治療が行われます。重度の出血では、手術などのより体に負担の大きい手法が必要な場合があります。
肺の動静脈奇形や、ときに肝臓の動静脈奇形では、カテーテルと呼ばれる細くて柔軟な管を用いて問題のある血管に小型の器具を挿入します。この手技では、患者の動脈の1つからカテーテルを挿入し、動静脈奇形がある部位につながる動脈へとカテーテルを進めます。そして、小さなコイルまたはプラグをカテーテルを通じて挿入し、動静脈奇形からの出血を止めます。
出血は、ほぼ必ず再発し、 鉄欠乏性貧血 鉄欠乏性貧血 鉄欠乏性貧血は、赤血球の生産に必要な鉄の貯蔵量の不足や欠乏によって起こります。 過剰な出血が最も一般的な原因です。 脱力感や息切れを覚えたり、顔が青白くなったりします。 血液検査で鉄分の量が測定できます。 鉄分の量を回復させるために、鉄剤が用いられます。 さらに読む に至ります。遺伝性出血性毛細血管拡張症では、しばしば鉄剤の補充(経口または静脈内投与)が必要になります。 輸血 輸血の概要 輸血とは、血液や血液成分を健康な供血者(ドナー)から病気の受血者(レシピエント)に移すことです。輸血を行うことで、血液が酸素を運ぶ能力を高め、体内の血液量を回復させるとともに、血液凝固の障害を正常にします。 米国では毎年約2100万件の輸血が行われています。典型的な輸血の受血者は以下のような人達です。... さらに読む を繰り返す必要が生じることもあります。出血を最小限に抑えるために、血栓の分解を阻害する薬(アミノカプロン酸やトラネキサム酸など)を服用する必要が生じることもあります。
ベバシズマブ、パゾパニブ、ポマリドミド、サリドマイドなどの他の薬によって異常な血管の数や密度を減らすことができます。これらの薬のうち、鼻と消化管の出血の発生頻度を減らすことが示されているのは、ベバシズマブだけです。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
CureHHT:遺伝性出血性毛細血管拡張症に関する一般的な情報(研究および支援に関するリソースを含む)