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橋本甲状腺炎

(自己免疫性甲状腺炎)

執筆者:

Glenn D. Braunstein

, MD, Cedars-Sinai Medical Center

レビュー/改訂 2022年 9月
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やさしくわかる病気事典

橋本甲状腺炎は、甲状腺に慢性的な自己免疫性の炎症が生じる病気です。

  • 橋本甲状腺炎は、体内の抗体が自身の甲状腺の細胞を攻撃すること(自己免疫反応)で発生します。

  • 最初、甲状腺は正常に機能していることもあれば、活動が不十分なこともあり(甲状腺機能低下症)、まれですが活動が過剰になっていること(甲状腺機能亢進症)もあります。

  • ほとんどの人が最終的に甲状腺機能低下症になります。

  • 甲状腺機能低下症では通常、疲労を感じ、寒さに耐えられなくなります。

  • 診断は、身体診察と血液検査の結果に基づいて下されます。

  • 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンを補充し続ける必要があります。

甲状腺炎とは甲状腺の炎症のことです。甲状腺の炎症は、ウイルス感染症や自己免疫疾患によって引き起こされることがあります。

橋本甲状腺炎は甲状腺炎で最もよくみられるタイプで、 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの生産が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む 甲状腺機能低下症 の原因として最も一般的なものです。理由は不明ですが、体が自身に対して反旗をひるがえします(自己免疫反応 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む )。甲状腺に 白血球 白血球 血液の主な成分 血漿(けっしょう) 赤血球 白血球 血小板 さらに読む 白血球 が浸潤し、甲状腺を攻撃する抗体(抗甲状腺抗体)がつくられます。

橋本甲状腺炎の人の約50%では、最初に甲状腺の活動の低下がみられます。残りの人のほとんどでは、初期の甲状腺の機能は正常で(ただし少数の人は初期に甲状腺の機能が亢進します)、その後低下します。

橋本甲状腺炎の人の一部は、 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む 副腎の機能低下 副腎皮質機能低下症 副腎皮質機能低下症では、副腎で副腎ホルモンが十分につくられなくなります。 副腎皮質機能低下症は、副腎や下垂体の病気が原因である場合や、特定の薬により引き起こされることがあります。 副腎皮質機能低下症の原因には、自己免疫反応、がん、感染症、その他の病気などがあります。 副腎皮質機能低下症の人は、脱力感や疲労感が生じ、座ったり横になったりした姿勢から立ち上がるとめまいを起こすほか、皮膚の黒ずみがみられる場合もあります。... さらに読む 副腎皮質機能低下症 や副甲状腺の活動の低下などの内分泌疾患や、悪性貧血、 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチは炎症性関節炎の1つで、関節(普通は手足の関節を含む)が炎症を起こし、その結果、関節に腫れと痛みが生じ、しばしば関節が破壊されます。 免疫の働きによって、関節と結合組織に損傷が生じます。 関節(典型的には腕や脚の小さな関節)が痛くなり、起床時やしばらく動かずにいた後に、60分以上持続するこわばりがみられます。 発熱、筋力低下、他の臓器の損傷が起こることもあります。... さらに読む 関節リウマチ(RA) シェーグレン症候群 シェーグレン症候群 シェーグレン症候群はよくみられる 自己免疫性結合組織疾患で、眼や口などの粘膜の異常な乾燥を特徴とします。 白血球が、体液を分泌する腺に侵入して損傷を与えることがあり、ときには他の臓器に損傷が及ぶ場合もあります。 診断を助けるために確立された基準が用いられることがあり、検査により涙と唾液の分泌量を測定するとともに、血液中に異常な抗体が存在しないかを評価できます。 通常は、眼や口などの表面を乾燥させないようにする対策を講じるだけで十分ですが... さらに読む シェーグレン症候群 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドな... さらに読む 全身性エリテマトーデス(SLE) などの他の自己免疫疾患をもっています。

橋本甲状腺炎は、女性、特に高齢女性に多く、家系内で多発する傾向があります。 ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は、余分な21番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、知的障害と様々な身体的異常がみられます。 ダウン症候群は、21番染色体が余分にあることで発生します。 ダウン症候群の小児では、発育の遅れ、精神発達の遅れ、特異的な頭部と顔貌、しばしば低身長がみられます。 出生前の段階では、ダウン症候群は超音波検査や母親の血液検査の結果から疑われ、 絨毛採取や 羊水穿刺という検査で確定されます。... さらに読む ダウン症候群(21トリソミー) ターナー症候群 ターナー症候群 ターナー症候群は、女児が2本のX染色体の片方が部分的または完全に欠失した状態で生まれてくる 性染色体異常です。 ターナー症候群は、2本のX染色体のうち1本の一部または全体の欠失によって引き起こされます。 この症候群の女児は、典型的には身長が低く、首の後ろに皮膚のたるみがあり、学習障害がみられ、思春期が始まりません。 診断は染色体の分析によって確定されます。 ホルモン剤を用いた治療により、成長を刺激するとともに、思春期を発来させることがで... さらに読む ターナー症候群 クラインフェルター症候群 クラインフェルター症候群 クラインフェルター症候群は、男児が(1つではなく)2つ以上のX染色体と1つのY染色体をもった状態(XXY)で生まれる 性染色体異常です。 クラインフェルター症候群は、男児が余分なX染色体をもっている場合に発生します。 症状として、学習障害、長い腕と脚、小さな精巣、不妊症などがみられます。 この症候群は、ほとんどの症状が現れる思春期に疑われます。 テストステロンによる治療が有益になる場合があります。 さらに読む クラインフェルター症候群 などの特定の染色体異常をもつ人は、この病気を発症しやすくなります。

橋本甲状腺炎の症状

橋本甲状腺炎は、初めは痛みがなく、甲状腺が硬くなり腫大するか首が膨らんだように感じます。甲状腺はゴムのような感触で、こぶのようにも感じられます。甲状腺の活動が不十分になると、疲労感が起こり寒さに耐えられなくなるほか、他の 甲状腺機能低下症の症状 症状 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの生産が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む 症状 も現れます。 甲状腺の活動が過剰になる 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少、排便回数の増加などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む 甲状腺機能亢進症 (甲状腺機能亢進症の)人の少数では、初期に動悸、神経過敏、暑さに耐えられないなどの症状がみられます。

橋本甲状腺炎の診断

  • 甲状腺機能検査(TSHおよびT4、甲状腺機能亢進症が疑われる場合はT3)

  • 甲状腺抗体

  • ときに甲状腺の超音波検査

医師は甲状腺の診察を行います。甲状腺にしこり(結節)があるように感じられる場合は、甲状腺の超音波検査を行うことがあります。甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4)(および甲状腺機能亢進症が疑われる場合は、トリヨードサイロニン[T3])、および甲状腺刺激ホルモン(TSH、下垂体でつくられるホルモンで、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンをつくらせる)の血中濃度を測定し、甲状腺がどの程度機能しているかを判定します(甲状腺機能検査 甲状腺機能検査 甲状腺は幅約5センチメートルの小さな腺で、首ののどぼとけの下方の皮膚のすぐ下にあります。甲状腺は2つの部分(葉)に分かれ、中央で結合し(峡部と呼ばれます)、蝶ネクタイのような形をしています。正常な甲状腺は外見では分からず、かろうじて触れることができる程度ですが、甲状腺が腫れて大きくなると、医師が触診すれば容易に分かるようになり、のどぼとけ... さらに読む )。また、血液検査で甲状腺を攻撃する抗体がないかも調べます。

橋本甲状腺炎の治療

  • 患者が臨床的に甲状腺機能低下を呈し、血中のTSH濃度が上昇している場合は、通常は甲状腺ホルモン補充療法

  • 食物や栄養補助食品(サプリメント)によるヨウ素の過剰な摂取を控えること

橋本甲状腺炎があり、甲状腺ホルモンの補充を受けていない人は、昆布のサプリメントや海藻自体などの天然由来のヨウ素を多くとりすぎないようにすべきですが(甲状腺機能低下症の原因になります)、ヨウ素添加塩やヨウ素強化パンなどはヨウ素の含有量が少ないため摂取できます。

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