通常、舞踏運動やアテトーゼは何らかの別の病気の症状ですが、舞踏運動そのもの(舞踏病)が高齢者や妊婦に発生することがあります。
舞踏運動とアテトーゼは同時に起こることがあり、その場合は通常、くねくねと踊るような動きになります。
ヘミバリスムとは、体の片側の腕または脚(より腕に多くみられます)が激しく投げ出されるような動きです。
舞踏運動とアテトーゼに対しては、原因の治療や抗精神病薬が有用です。
(運動障害の概要 運動障害の概要 手を上げたりほほ笑んだりといった、体のあらゆる動作には、中枢神経系(脳と脊髄)と神経と筋肉の複雑な相互作用が関わっています。このいずれに損傷や機能不全が起こっても、運動障害の原因になります。 損傷や機能不全の性質と発生部位に応じて、次のような様々な運動障害が起こります。 随意運動(意図的な運動)を制御する脳領域や、脳と脊髄の接合部の損傷:... さらに読む も参照のこと。)
舞踏運動とアテトーゼは、舞踏病アテトーゼとして同時に起こることがありますが、これらはそれ自体が病気であるというより、いくつかの非常に多彩な病気によって起こる症状です。
原因
舞踏運動とアテトーゼは、大脳基底核(脳からの信号によって意図的な[随意]運動を開始し、その動きを滑らかにして、協調させる脳領域)の活動が過剰になることによって起こります。ほとんどのタイプの舞踏運動では、大脳基底核の主要な神経伝達物質であるドパミンの過剰によって、大脳基底核の正常な機能が妨げられています。舞踏運動とアテトーゼは、薬剤や病気によってドパミンの量が増えるか、ドパミンに対する神経細胞の感受性が増大すると、悪化する傾向があります。
大脳基底核の位置
大脳基底核は、脳の奥深くにある神経細胞の集まりです。以下のものが含まれます。
大脳基底核には、筋肉の運動を開始し、その動きを滑らかにし、不随意運動を抑制し、姿勢の変化を調整する機能があります。 |
舞踏運動とアテトーゼは、遺伝性の変性疾患である ハンチントン病 ハンチントン病 ハンチントン病は遺伝性疾患で、初期には不随意な筋肉のひきつりまたはけいれんがときおり起こり、進行すると顕著な不随意運動(舞踏運動とアテトーゼ)と精神機能の低下が現れ、死に至ります。 ハンチントン病では、動作を滑らかにして協調させる働きのある脳領域に変性が生じます。 動作がぎこちなくなって協調運動が難しくなり、自制や記憶などの精神機能が低下します。 診断は症状および家族歴と脳の画像検査および遺伝子検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む でも起こります。
舞踏運動は以下の状況でもみられます。
リウマチ熱(特定のレンサ球菌による小児の感染症)の合併症 神経系 リウマチ熱は、関節、心臓、皮膚、神経系に起きる炎症で、のどのレンサ球菌感染症に対して治療を行わなかった場合の合併症が原因です。 リウマチ熱は、治療を行わなかった場合ののどのレンサ球菌感染に対する反応です。 関節痛、発熱、胸痛や動悸、けいれんのような不随意運動、発疹、皮膚の下の小さなこぶ(小結節)などが組み合わさって発症することがあります。 診断は症状に基づいて下されます。 リウマチ熱を予防する最善の方法は、レンサ球菌によるのどの感染症を... さらに読む である小舞踏病(シデナム舞踏病や聖ヴィトゥス舞踏病とも呼ばれる):コントロール不能なぎこちない動きを特徴とし、数カ月間続くことがある
自己免疫疾患 自己免疫疾患 自己免疫疾患とは免疫系が正常に機能しなくなり、体が自分の組織を攻撃してしまう病気です。 自己免疫疾患の原因は不明です。 症状は、自己免疫疾患の種類および体の中で攻撃を受ける部位によって異なります。 自己免疫疾患を調べるために、しばしばいくつかの血液検査が行われます。 治療法は自己免疫疾患の種類によって異なりますが、免疫機能を抑制する薬がしばしば使用されます。 さらに読む (全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こし続けている全身性エリテマトーデス(活動性の全身性エリテマトーデス)の患者には、コルチコステロイドな... さらに読む など)
血糖値が高い(高血糖)
副甲状腺ホルモンの値が低い(副甲状腺機能低下症)
尾状核と呼ばれる大脳基底核の一部に影響を及ぼす腫瘍または脳卒中
妊娠:妊娠の最初の3カ月間に妊娠舞踏病と呼ばれる状態がみられることがあるが、治療なしで出産後すぐに消失する
まれに、経口避妊薬の使用
レボドパ レボドパ/カルビドパ パーキンソン病は、脳の特定の領域がゆっくりと進行性に変性していく病気です。特徴として、筋肉が安静な状態にあるときに起こるふるえ(安静時振戦)、筋肉の緊張度の高まり(こわばり、筋強剛)、随意運動が遅くなる、バランス維持の困難(姿勢不安定)などがみられます。多くの患者では、思考が障害され、認知症が発生します。 パーキンソン病は、動きを協調させている脳領域の変性によって起こります。... さらに読む (パーキンソン病の人)、フェニトイン、 三環系抗うつ薬 複素環系(三環系など)抗うつ薬 アゴメラチン(agomelatine)は、新しいタイプの抗うつ薬で、うつ病エピソードの治療法になる可能性があります。 うつ病の治療には数種類の薬剤が使用できます。 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) 新規抗うつ薬 複素環系抗うつ薬 さらに読む 、コカインなどの特定の薬剤の使用
舞踏運動は、明らかな原因なく高齢者に発生することがあります。これは老人性舞踏病と呼ばれ、口の内部や周囲の筋肉に症状が現れます。そのような動きがみられた場合は、医師の診察を受ける必要があります。
ヘミバリスムは通常、大脳基底核のすぐ下にある 視床下核と呼ばれる狭い領域が脳卒中によって損傷されることで起こります。 視床下核には随意運動の制御を助ける働きがあります。
症状
舞踏運動では、手、足、顔面に異常がみられるのが典型的です。鼻にしわが寄ったり、眼が絶え間なくぴくついたり、口や舌が絶え間なく動いたりします。リズミカルな動きではありませんが、動きが次から次へと別の筋肉に伝わっていくように見え、まるで踊っているかのように見えることがあります。この動きは、意図的または半意図的な動作と混じり合うこともあり、そのため舞踏運動と気づかれない場合もあります。
アテトーゼでは通常、手と足に異常がみられます。ゆっくりくねくねとした動きと、四肢の各部を特定の位置(姿勢)に保持する動きが交互に現れ、その結果流れるような連続的な動きが生じます。
舞踏運動とアテトーゼが同時に起こると、くねくねと踊るような、舞踏運動よりは遅くアテトーゼよりは速い動きになります。
ヘミバリスムでは、体の片側に異常がみられます。また、脚より腕に多くみられます。ヘミバリスムでは、腕や脚を動かそうとしたときに抑制が効かず、投げ出すような動きになることがあるため、日常生活に一時的な支障をきたすことがあります。
診断
医師による評価
ときに原因を特定するための検査
舞踏運動、アテトーゼ、またはヘミバリスムの診断は、症状や医師の観察に基づいて下されます。医師は、患者が服用している薬剤の中に症状を引き起こしうるものがないか確認します。
原因を特定するための検査を行うこともあります。具体的には以下の検査があります。
甲状腺ホルモンや血糖値を測定する血液検査
腫瘍または脳卒中の証拠を確認するために、MRI検査やCT検査などの脳の画像検査が必要になる場合もしばしばあります。
疑われる病気に応じて、ときにその他の検査
治療
原因の治療
異常な動きをコントロールするための薬
通常、甲状腺機能亢進症または高血糖による舞踏運動は、その病気に対する治療を行うことで軽快します。小舞踏病と脳卒中による舞踏運動は、多くの場合、治療を行わなくても徐々に治まっていきます。原因が薬剤の場合は、その薬剤の使用を中止することが役に立ちますが、必ずしも症状が消失するとは限りません。
妊娠中の女性に重度の舞踏運動がみられた場合は、妊娠期間中にバルビツール酸系薬剤による治療を行うことがあります。しかし、出産後は舞踏運動が自然に軽快し、やがてみられなくなります。
舞踏運動とアテトーゼが両方みられる場合、舞踏運動の軽減に役立つ治療はアテトーゼの軽減にも役立つ傾向があります。
ドパミンの作用を遮断する薬は、異常な動きを抑えるのに役立ちます。そのような薬剤には、フルフェナジン、ハロペリドール、リスペリドンといった 抗精神病薬 抗精神病薬 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病症状)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症については、その原因もメカニズムも分かっていません。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわたります。... さらに読む などがあります。レセルピン、デューテトラベナジン(deutetrabenazine)、テトラベナジンなど、ドパミンの放出量を減らす薬も有用になる場合があります。しかし、症状の改善は限定的にしか得られないこともあります。
ヘミバリスムの症状は、通常は数日間で自然に消失しますが、ときには6~8週間続く場合もあります。抗精神病薬がヘミバリスムの抑制に役立つことがあります。薬が効かない場合は、脳深部刺激療法を行うことがあります。この処置では、大脳基底核に微小な電極を手術で埋め込みます。ヘミバリスムを引き起こしていると考えられている大脳基底核の特定の領域に電極から微弱な電気を送ることで、症状の軽減を促します。