不眠症と日中の過度の眠気

執筆者:Richard J. Schwab, MD, University of Pennsylvania, Division of Sleep Medicine
レビュー/改訂 2022年 5月
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やさしくわかる病気事典

睡眠関連の問題で最も多い訴えは、不眠症と日中の過度の眠気です。

  • 不眠症とは、寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚める、あるいは、睡眠の質が悪く、寝足りない感じがしたり、すっきりした感じが得られなかったりする状態です。

  • 日中の過度の眠気は、日中に異常なほど眠くなったり、眠り込んでしまったりする状態を指します。

睡眠の概要も参照のこと。)

不眠症は病気であることもあれば、他の病気の症状であることもあります。日中の過度の眠気は病気ではなく、様々な睡眠関連の障害の症状の1つです。

寝つきが悪い、途中ですぐに目が覚める、朝早く目が覚めるという症状は、年齢を問わずみられます。成人の約10%に長期的な(慢性の)不眠症があり、ときおり不眠を経験する人は約30~50%に上ります。

知っていますか?

  • およそ半数の人が少なくとも一度は不眠を経験しています。

  • ジフェンヒドラミンを含有する処方または市販の睡眠補助薬は、不眠症の治療には適していません。

  • 不眠症に対する最善の治療法は認知行動療法で、この治療では睡眠を改善するために行動を修正します。

睡眠が妨げられると、ときに日中の活動に支障をきたすことがあります。不眠症または日中の過度の眠気があると、日中に眠気、疲れ、いらだちを覚え、集中力が低下したり活動に支障が出たりします。日中の過度の眠気がある患者は、仕事中や運転中に眠り込んでしまうことがあります。

不眠症には、いくつかのタイプがあります。

  • 寝つきが悪い(入眠障害):精神的にリラックスできず、考えごとや悩みごとがあるときに、寝つけないことはよくあります。一般的な就寝時刻とされている時間帯に、体の寝る準備ができていない場合もあります。すなわち、体内時計が地球の明暗サイクルと同期していないことが原因であり、これは、睡眠相後退症候群、交代勤務障害、時差ぼけなど、多くの概日リズム睡眠障害でみられます。

  • 途中ですぐに目が覚めたり、朝早く目が覚めたりする(睡眠維持障害):このタイプの不眠症がある人は、寝つきには問題ないのですが、数時間後には目が覚めてしまい、そうすると今度はなかなか寝つけなくなります。熟睡できずに浅い眠りを繰り返すこともあります。睡眠維持障害は高齢者に多く、高齢者は若い人と比べて途中で目が覚めることが多くなります。特定の物質(カフェイン、アルコール、タバコなど)を使用している人、特定の薬剤を使用している人、特定の睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群周期性四肢運動障害など)がある人によくみられます。この種の不眠症は、年齢を問わず、うつ病の徴候であることがあります。

不眠症と日中の過度の眠気の原因

不眠症や日中の過度の眠気の原因は、体の中にある場合もあれば、体の外にある場合もあります。不眠症と日中の過度の眠気の両方を引き起こす原因ものもあれば、片方だけを引き起こす原因もあります。特定の原因との明らかな関係が認められないのに、慢性の不眠症を抱える人もいます。遺伝的な要因が関係している可能性があります。

一般的な原因

不眠症の最も一般的な原因は以下のものです。

  • 望ましくない睡眠習慣(午後遅くや夜間にカフェイン入り飲料を飲む、深夜に運動をする、就寝・起床時刻が不規則であるなど)

  • 精神障害(特に、うつ病、不安症、物質乱用など)

  • その他の病気(心疾患、肺疾患、筋肉または骨の病気、慢性痛など)

  • ストレス(入院や失業、家族の死によるものなど[適応障害性不眠症])

  • また夜眠れないと次の日に疲労が残ってしまうのではないかという過度の不安(精神生理性不眠症)

寝不足の分を取り戻そうと、遅くまで寝ていたり仮眠をとったりすると、翌日の晩にさらに眠りにくくなります。

日中の過度の眠気の最も一般的な原因は以下のものです。

主要な精神障害のほとんどは、不眠症と日中の過度の眠気を伴います。うつ病患者の約80%には日中の過度の眠気と不眠症があり、慢性不眠症患者の約40%には精神障害、通常はうつ病不安症があります。

痛みまたは不快感を伴うあらゆる病気、特に動きによって痛みまたは不快感が悪化する病気があると、短時間ずつ目が覚めてしまうため、睡眠が妨げられます。

あまり一般的でない原因

薬剤を長期間使用したり、使用を中止(離脱)したりすると、不眠症や日中の過度の眠気が起こることがあります。

精神に作用する薬剤(向精神薬)の多くは、睡眠中に異常な動きを誘発し、睡眠を妨げます。不眠症の治療に一般的に用いられる鎮静薬は、易怒性や無関心をもたらし、覚醒レベルを低下させます。鎮静薬を2~3日以上使用した後に中止すると、もとの睡眠症状が突然悪化することがあります。

ときに、原因が睡眠障害である場合もあります。

中枢性または閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、多くの場合、患者が不眠症、あるいは睡眠の妨げや眠ってもすっきりしないなどの症状を訴えたときに、初めて特定されます。この病気は、別の病気(心疾患など)がある人、または特定の薬剤を使用している人に起こることもあります。中枢性または閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、夜の間中、呼吸が浅くなり、呼吸が何度も止まります。

ナルコレプシーは、日中の過度の眠気や、通常起きている時間帯に自分では制御できない眠気が繰り返し起こることを特徴とする睡眠障害で、突然の一時的な筋力低下(情動脱力発作)を伴います。

周期性四肢運動障害では、睡眠中に何度も脚がぴくついたり蹴るように動いたりして、睡眠が中断されます。その結果、日中に眠くなります。周期性四肢運動障害の患者は一般に、睡眠中の脚の動きにも、その後に短時間目が覚めたことにも、気づいていません。

レストレスレッグス症候群は、じっと座っているときや横になっているときに、脚や(頻度は下がりますが)腕を動かさずにはいられないような衝動に駆られるため、なかなか寝つけず、途中ですぐに目が覚めてしまう病気です。通常、患者は腕や脚に虫が這うような感覚を覚えます。

不眠症と日中の過度の眠気の評価

通常は、現在の症状に関する患者の説明と身体診察の結果に基づいて不眠症の原因が特定されます。多くの患者は、望ましくない睡眠習慣、ストレス、交代勤務など、明らかな原因を抱えています。

警戒すべき徴候

以下の症状には注意が必要です。

  • 運転中またはその他の危険な状況で眠り込んでしまう

  • しばしば、予兆なく眠りに落ちる

  • 睡眠中に呼吸が止まったり、喘ぎや息詰まりで目が覚める(ベッドパートナーの証言によるもの)

  • 睡眠中に乱暴な動きをしたり、けがをしたり、他者にけがをさせる

  • 睡眠時遊行症

  • 常に変動する(不安定な)心疾患または肺疾患

  • 筋力低下の発作(情動脱力発作

  • 最近の脳卒中

受診のタイミング

警戒すべき徴候がみられる人や、睡眠に関連する症状が日常生活に支障をきたしている人は、早めに医師の診察を受ける必要があります。

健康な人に睡眠に関連する症状が短期間(1~2週間未満)みられたものの、警戒すべき徴候がない場合、睡眠の改善に役立つ行動の修正を試してみるとよいでしょう。およそ1週間試して効果がなければ、医師の診察を受けてください。

医師が行うこと

医師は、以下の点について質問します。

  • 睡眠パターン

  • 就寝時刻前後の習慣

  • 薬剤の使用(レクリエーショナルドラッグ[娯楽目的で使用される薬物]を含みます)

  • その他の物質の使用(アルコール[飲酒]、カフェイン、タバコ[喫煙]を含みます)

  • ストレスの程度

  • 病歴(睡眠の妨げとなる病気など)

  • 身体活動のレベル

睡眠の妨げとなる病気には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)喘息心不全甲状腺機能亢進症(甲状腺の活動が過剰になった状態)、胃食道逆流症、痛みを伴う疾患(関節リウマチなど)、尿失禁や頻尿を引き起こす病気、脳、脊髄、末梢神経の病気(特に運動障害)などがあります。

睡眠日誌をつけるよう指示されることもあります。睡眠日誌には、就寝時刻と起床時刻(夜間に覚醒した時刻を含みます)、仮眠をしたかどうか、睡眠に関する問題など、睡眠習慣を詳しく記録します。医師が不眠症の診断を検討する際は、人によって必要な睡眠時間が異なることを考慮します。

日中の過度の眠気がある場合、質問票への回答を医師から求められることがあり、これは、様々な状況で眠り込んでしまうことがどの程度あるかを調べるための質問票です。医師は、患者のベッドパートナーに対して、患者の睡眠中の異常(いびきや呼吸の停止など)について質問することもあります。

身体診察を行い、不眠症または日中の過度の眠気の原因になる病気(特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群)がないかを調べます。

検査

症状から、望ましくない睡眠習慣、ストレス、交代勤務障害、またはレストレスレッグス症候群(入眠直前または睡眠中に脚や腕を動かしたくなる抗いがたい衝動)が疑われる場合、検査は不要です。

医師はときに、患者を睡眠障害の専門家に紹介し、睡眠検査室での評価を依頼することがあります。患者を紹介する理由には以下のものがあります。

  • 診断がはっきりしない

  • 特定の病気の疑い(睡眠時無呼吸症候群けいれん性疾患ナルコレプシー周期性四肢運動障害

  • 不眠症または日中の過度の眠気を是正する基本的対策(睡眠を改善するための行動修正、短期間の睡眠補助薬の使用)を行っても、症状が持続する

  • 警戒すべき徴候のほか、悪夢、睡眠中の脚または腕のぴくつきなどの症状

  • 睡眠補助薬への依存

睡眠検査室では、睡眠ポリグラフ検査を行うとともに、睡眠中に異常な動きがないかを一晩かけて観察します。ビデオ録画が行われる場合もあります。ときに、ほかの検査が行われることもあります。

通常、睡眠ポリグラフ検査は一晩かけて睡眠検査室で行われますが、睡眠検査室は病院や診療所にある場合もあれば、ホテルの部屋や、ベッド、浴室、モニタリング装置の備わった他の施設を用いる場合もあります。電極を頭皮や顔に貼り付け、脳の電気的活動(脳波)と眼球の動きを記録します。この電極は痛くありません。これらの記録から、睡眠段階に関する情報が得られます。心拍数(心電図検査)、筋肉の活動(筋電図検査)、呼吸を記録するため、体のほかの部位にも電極がつけられます。指または耳たぶに痛みを伴わないクリップを取り付け、血液中の酸素レベルを記録します。睡眠ポリグラフ検査では、呼吸障害(閉塞性または中枢性睡眠時無呼吸症候群など)、けいれん性疾患、ナルコレプシー、周期性四肢運動障害、睡眠中の異常な動きや行動(睡眠時随伴症)を発見できます。今では一般に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断のために自宅で睡眠ポリグラフ検査が行われますが、他の睡眠障害の診断には適応がありません。

睡眠潜時反復検査によって、身体的な疲労と日中の過度の眠気を区別し、ナルコレプシーがないかを確認します。患者は1日睡眠検査室で過ごします。2時間おきに5回仮眠をとる機会が与えられます。暗い部屋で横になり、仮眠をとるよう指示されます。この検査の一環として、睡眠ポリグラフ検査を行うことで、睡眠に入るまでにかかる時間(睡眠潜時)を測定します。睡眠ポリグラフ検査により、眠りについた時刻を記録し、睡眠段階をモニタリングします。

覚醒維持検査は、静かな部屋に座ったまま患者がどれくらいの間起きたままでいられるかを調べる検査です。この検査は、日中の眠気の重症度を判定し、患者が日常的な活動(運転など)を安全に行えるかを判断する上で有用です。

日中の過度の眠気のある患者の症状や身体診察の結果から、他の病気が疑われる場合は、心臓、肺、肝臓を評価する検査が行われることもあります。

不眠症と日中の過度の眠気の治療

不眠症の治療法は、その原因と重症度によって異なりますが、一般的には以下のものを組み合わせる治療が行われます。

  • 不眠の一因となっている病気の治療

  • 良好な睡眠衛生

  • 認知行動療法

  • 睡眠補助薬

別の病気が原因で不眠が生じている場合は、その病気を治療します。このような治療により睡眠が改善することがあります。例えば、不眠症とうつ病がある場合、うつ病を治療することで、しばしば不眠症が軽減します。一部の抗うつ薬は、鎮静作用もあるため、就寝前に服用すると、眠りやすくなります。ただし、これらの薬剤は日中の眠気を引き起こすことがあり、特に高齢者でこの傾向が強くなります。

原因が何であれ、良好な睡眠衛生を保つことは重要であり、問題が軽度の患者では、多くの場合これが唯一の必要な治療です。

しかし、日中の眠気と疲労があり、特に日中の活動に支障をきたしている場合は、追加治療が必要であり、主にカウンセリング(認知行動療法)や、ときに処方薬の睡眠補助薬または市販の睡眠補助薬が使用されます。市販の睡眠補助薬の使用を検討している場合、重大な副作用を伴う可能性があるため、まず医師に相談する必要があります。

アルコールは睡眠を補助するものとして適切ではなく、実際には睡眠を妨げる可能性があります。夜間に目覚める回数が多くなり、休息感の得られない睡眠となります。

睡眠衛生

睡眠衛生では、睡眠の改善に役立つ行動修正に重点を置きます。具体的には、ベッドで過ごす時間の制限、規則的な睡眠/覚醒スケジュールの確立、就寝前にリラックスするための行為(読書や温かい入浴など)などを行います。ベッドで過ごす時間を制限するのは、夜中に長時間目が覚めた状態でいるのを避けるためです。

認知行動療法

認知行動療法は、睡眠障害に関する専門の訓練を受けた心理士によって行われ、不眠症が普段の活動に支障をきたしている人や、睡眠を改善するための行動修正(良好な睡眠衛生)だけでは効果がなかった人に役立つ可能性があります。認知行動療法では一般に、4~8回の個人またはグループのセッションが行われますが、インターネットや電話を介して遠隔で行うこともできます。この治療法の効果は治療終了後も長期間続きます。

療法士は、睡眠を改善するために行動を変える手助けをします。療法士の勧めにより、患者は睡眠日誌をつけます。日誌には、睡眠の質や長さを記録するほか、睡眠の妨げとなった可能性のある行動(夜遅くの食事または運動、アルコールまたはカフェインの摂取、不安、眠ろうとしているときに考えごとをやめられないなど)についても記録します。

療法士は、患者が眠れないのに眠ろうと努力してベッドで横になっている時間が少なくなるように、ベッドで過ごす時間を制限することを勧めます。

認知行動療法は、患者が自らの問題を理解し、望ましくない睡眠習慣を修正し、睡眠の助けにならない考えごと(眠れないことへの心配や次の日の予定についての心配など)をやめるのに役立ちます。認知行動療法では、リラクゼーション訓練の一環として、視覚的イメージ、段階的筋弛緩法、呼吸訓練なども活用されます。

処方薬の睡眠補助薬

睡眠障害が日常生活に支障をきたし、健康感が損なわれている場合は、2~3週間を限度として、必要に応じて処方薬の睡眠補助薬(睡眠薬や睡眠導入剤などとも呼ばれます)を服用するのが助けになることがあります。

睡眠補助薬として最もよく使用されているのが、鎮静薬と抗不安薬です。

ほとんどの睡眠補助薬は、問題を起こす可能性があるため、処方せんが必要です。

  • 有効性の喪失:体が睡眠補助薬に慣れると、有効性が失われることがあります。これを耐性と呼びます。

  • 離脱症状:睡眠補助薬を2~3日以上服用した後に突然中止すると、もともとの睡眠症状が悪化し(反跳性不眠)、不安が増大することがあります。したがって医師は、薬剤の使用を中止するとき、数週間かけて徐々に用量を減らすよう勧めます。

  • 習慣性と依存の可能性:特定の睡眠補助薬を2~3日以上服用すると、それなしでは眠れないと感じるようになることがあります。薬剤の使用を中止すると、不安、神経質、短気になったり、不隠な夢を見たりすることがあります。

  • 過剰摂取の可能性:旧型の一部の睡眠補助薬は、推奨用量より多く服用した場合、錯乱やせん妄を生じる、呼吸が危険なほど遅くなる、脈が弱くなる、爪と唇が青くなるなどの副作用をもたらす可能性があり、死に至ることすらあります。

  • 重篤な副作用:大半の睡眠補助薬は、呼吸機能を調整している脳領域を抑制する傾向があるため、特に高齢者や呼吸器系に問題がある人では、たとえ推奨用量で服用しても危険があります。薬剤によっては、昼間の覚醒レベルが低下し、車の運転や機械操作に危険が伴うことがあります。日中の眠気を催し呼吸を抑制する薬剤(アルコール、オピオイド[麻薬]、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬など)と睡眠補助薬を併用する場合は、特に危険です。これらの複合作用は、さらに危険です。特に、睡眠補助薬を推奨用量より多く服用した場合や、アルコールと一緒に服用した場合は、まれではあるものの、寝ながら歩いたり、車を運転したりしてしまうことがあり、重度のアレルギー反応が起こることも知られています。睡眠補助薬はまた、夜間の転倒リスクを高めます。

ベンゾジアゼピン系薬剤は、最もよく使用される睡眠補助薬です。ベンゾジアゼピン系薬剤には、効果の比較的長いもの(フルラゼパムなど)とそうでないもの(テマゼパム[temazepam]、トリアゾラムなど)とがあります。医師は、高齢者には長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤を処方しないようにします。高齢者は、体内で薬剤を代謝して体外に排出する能力が若い人ほど高くないため、これらの薬剤を服用すると、日中の眠気、話し方が不明瞭になる、転倒、ときに錯乱などの問題が起きる可能性があるからです。

その他の有用な睡眠補助薬として、ベンゾジアゼピン系薬剤ではありませんが、ベンゾジアゼピン系薬剤と同じ脳領域に作用を及ぼすものがあります。これらの薬剤(エスゾピクロン、ザレプロン、ゾルピデム)は大部分のベンゾジアゼピン系薬剤より作用時間が短く、日中の眠気が生じにくくなっています。ゾルピデムには長時間作用型(徐放性)や、超短時間作用型(低用量)の剤形もあります。

ラメルテオンは新しい睡眠補助薬で、作用時間の短い上記の薬剤と同じ長所があります。それに加えて、効果を失わず、離脱症状も起こさずに、ベンゾジアゼピン系薬剤より長い期間使用することができます。習慣性がなく、過剰摂取の傾向もないようです。しかし、多くの人では効果がありません。ラメルテオンは、メラトニン(睡眠を促すホルモン)と同じ脳領域に作用しますが、そのためメラトニン受容体作動薬と呼ばれています。

比較的新しい3つの薬剤(ダリドレキサント、レンボレキサント、スボレキサント)が不眠症の治療に使用できます。これらは入眠を促し、睡眠を維持するのに役立ちます。これらの薬剤は、睡眠のコントロールに関与する脳内のオレキシン受容体を遮断します。そのため、オレキシン受容体遮断薬(拮抗薬)と呼ばれています。1日1回、就寝直前に服用します。ただし、これらの薬剤は不眠症の治療に非常に効果的というわけではありません。最もよくみられる副作用は眠気です。

市販の睡眠補助薬

処方せんなしで購入できる(市販薬の)睡眠補助薬には、抗ヒスタミン薬(ドキシラミン[doxylamine]やジフェンヒドラミンなど)を含有するものがあります。しかし、抗ヒスタミン薬を含有する薬剤を不眠症の治療に使用するべきではありません。抗ヒスタミン薬により、日中の眠気のほか、ときに神経過敏、興奮、排尿困難、転倒、錯乱などの重大な副作用がみられることがあり、特に高齢者で多くみられます。

メラトニンは、睡眠を促し、睡眠-覚醒リズムを調整するホルモンです。これを不眠症の治療に使用することができます。就寝時刻と起床時刻が常に遅い(例えば、午前3時に寝て、午前10時以降に起きるなど)こと(睡眠相後退症候群)による問題には、効果的な可能性があります。効果を得るためには、体が本来このホルモンを分泌する時間帯(ほとんどの人では夕方早く)にメラトニンを服用する必要があります。不眠症に対するメラトニンの使用については意見が割れていますが、副作用がほとんどないため安全に使用できます。副作用には、頭痛、めまい、吐き気、眠気などがあります。メラトニンは短期間(長くても2~3週間)の使用では効果が得られる可能性がありますが、長期にわたり使用した場合の効果は分かっていません。また、メラトニン製剤は規制の対象になっていないため、純度や成分を確認することができません。メラトニンは医師の監督下で使用するべきです。

マリファナ(大麻)には、以下のような多くの化学物質が含まれています。

  • CBD(カンナビジオール):眠気を引き起こすが、多幸感はもたらさない

  • THC(テトラヒドロカンナビノール):多幸感をもたらし、痛みや吐き気を軽減し、睡眠段階に影響を及ぼす

  • CBN(カンナビノール):眠気を引き起こし、痛みを緩和し、食欲を増進させる

ドロナビノール(dronabinol)は、がんに対する化学療法に関連した吐き気と嘔吐の軽減や、エイズ患者の食欲増進を目的として使用される合成物質です。

このほかにも、スカルキャップやセイヨウカノコソウなど多数の薬用ハーブや栄養補助食品が健康食品として販売されていますが、睡眠に対する効果と副作用はよく分かっていません。

抗うつ薬

一部の抗うつ薬(パロキセチン、トラゾドン、トリミプラミン)は、うつ病の治療時よりも低用量で使用すると、不眠を緩和し、早朝覚醒を予防する効果があります。これらの薬剤は、うつ病でない人が、他の睡眠薬の副作用に耐えられないというまれなケースで使用されることがあります。しかし、日中の眠気などの副作用があり、特に高齢者では問題となることがあります。

ドキセピンは、高用量では抗うつ薬として用いられますが、低用量で使用した場合、睡眠薬として効果的な場合があります。

高齢者での重要事項:不眠症と日中の過度の眠気

睡眠パターンは加齢とともに悪化するため、不眠症を訴える人は若齢者より高齢者に多くみられます。高齢になるほど夜間に眠れずすぐに目が覚めやすくなり、日中に眠くなり仮眠をとる傾向があります。心身を最も回復させる深い睡眠の時間は次第に短くなり、最終的にはなくなります。高齢者の場合は通常、これらの変化だけでは睡眠障害には該当しません。

よく眠れない高齢者には、以下の対策が有益になる可能性があります。

  • 決まった時刻に就寝する

  • 日中に多くの光を浴びる

  • 定期的に運動する

  • 日中の仮眠を減らす(仮眠をとると夜間に良質な睡眠をとることが余計難しくなるからです)

不眠症のある高齢者の多くにとって、睡眠薬は不要です。服用の必要がある場合は、こうした薬剤によって問題が生じる可能性があることを心に留めておくべきです。例えば、睡眠薬は錯乱を引き起こし、日中の覚醒レベルを低下させるため、車の運転が危険になります。そのため、服用には注意が必要です。

要点

  • 多くの不眠症や日中の過度の眠気は、望ましくない睡眠習慣、ストレス、体内の睡眠-覚醒リズムを乱す条件(交代勤務など)が原因です。

  • しかし、ときには閉塞性睡眠時無呼吸症候群や精神障害などの病気が原因であることもあります。

  • 通常、原因として閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が疑われる場合、診断がはっきりしない場合、一般的な対策で効果がない場合は、睡眠検査室または自宅での睡眠ポリグラフ検査が勧められます。

  • 軽度の不眠症であれば、規則的な睡眠スケジュールに従うなどの行動修正(良好な睡眠衛生)だけで十分な場合があります。

  • 行動修正が効果的でない場合は、通常は認知行動療法が次のステップとなり、必要に応じて睡眠薬の短期使用(最長で数週間)を検討することがあります。

  • 睡眠補助薬は、特に高齢者に問題を起こしやすく、転倒のリスクを高めます。

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