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心筋炎

執筆者:

Brian D. Hoit

, MD, Case Western Reserve University School of Medicine

レビュー/改訂 2022年 7月
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本ページのリソース

心筋炎とは、心臓の筋肉組織(心筋)に炎症が起きた状態であり、組織の壊死につながります。

  • 心筋炎は、感染症、心臓に影響を与える毒素や薬剤、サルコイドーシスといった全身性疾患など、様々な病気によって引き起こされる可能性がありますが、原因が分からないこともよくあります。

  • 症状は様々ですが、疲労、息切れ、腫れ(浮腫)、心拍の自覚(動悸)、突然死などがみられます。

  • 診断は、心電図検査、心筋バイオマーカーの測定、心臓の画像検査、および心筋生検の結果に基づいてなされます。

  • 治療は原因によって異なり、心不全や不整脈の治療薬を使用したり、まれに手術を行ったりすることもあります。

炎症は心筋全体に広がる場合もあれば、一部の領域にとどまる場合もあります。炎症が心膜(心臓を包んでいる柔軟な2層の袋状の膜)に及ぶと、心筋心膜炎になります。心筋炎の重症度や心膜への波及の程度によって、どのような症状が現れるかが決まります。心臓全体に広がった炎症は 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 心不全 不整脈 不整脈の概要 不整脈とは、一連の心拍が不規則、速すぎる(頻脈)、遅すぎる(徐脈)、あるいは心臓内で電気刺激が異常な経路で伝わるなど、心拍リズムの異常のことをいいます。 不整脈の最も一般的な原因は心臓の病気(心疾患)です。 自分で心拍リズムの異常に気づくこともありますが、ほとんどの人は、脱力感や失神などの症状が起きるまで不整脈を自覚しません。... さらに読む 不整脈の概要 、ときに心臓突然死を引き起こす可能性があります。炎症の範囲が小さければ、心不全になる可能性は低くなりますが、それでも不整脈や心臓突然死が起きる可能性があります。心膜に炎症が波及すると、胸痛をはじめとする、 心膜炎 心膜疾患の概要 心膜疾患とは、心膜という心臓を包んでいる柔軟な2層の袋状の膜が侵される病気です。 心膜は、心臓を本来の位置に保ち、心臓に過度に血液が流入するのを防ぎ、胸部の感染症による影響から心臓を守っています。しかし、心膜は生きていく上で不可欠なものではなく、たとえ心膜が除去されても、心機能への影響はほとんどみられません。... さらに読む 心膜疾患の概要 の典型的な症状が現れます。症状がまったくない人もいます。

心筋炎の原因

心筋炎は、感染によって起こる場合と、感染以外の原因によって起こる場合があります。原因が特定できない場合(特発性)もよくあります。

米国や他のほとんどの先進国では、感染に起因する心筋炎(感染性心筋炎)の原因として最も多いのはウイルス感染です。米国で最もよくみられる原因ウイルスは、パルボウイルスB19とヒトヘルペスウイルス6型です。 SARSコロナウイルス2 COVID-19 新型コロナウイルス感染症、すなわちCOVID-19(コビット・ナインティーン)は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名されたコロナウイルスの一種によって引き起こされ、重症化する可能性がある急性呼吸器疾患です。 COVID-19の症状はかなり多彩です。 COVID-19の診断には2種類の検査法が用いられます。... さらに読む (新型コロナウイルスの正式名称)もときに心筋炎を引き起こします。資源が不足している地域では、感染性心筋炎は リウマチ熱 リウマチ熱 リウマチ熱は、関節、心臓、皮膚、神経系に起きる炎症で、のどのレンサ球菌感染症に対して治療を行わなかった場合の合併症が原因です。 リウマチ熱は、治療を行わなかった場合ののどのレンサ球菌感染に対する反応です。 関節痛、発熱、胸痛や動悸、けいれんのような不随意運動、発疹、皮膚の下の小さなこぶ(小結節)などが組み合わさって発症することがあります。 診断は症状に基づいて下されます。 リウマチ熱を予防する最善の方法は、レンサ球菌によるのどの感染症を... さらに読む リウマチ熱 シャーガス病 シャーガス病 シャーガス病は、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)という原虫によって引き起こされる感染症で、サシガメという昆虫(アサシンバグとも呼ばれます)に刺されることで感染します。 この原虫は、刺し傷や眼の周囲の組織から体内に侵入する場合もあれば、比較的まれですが汚染された食べものや生の果汁を摂取することで侵入する場合もあります。 侵入部位(刺し傷または眼)の周りが腫れたり、発熱がみられたりすることがあります... さらに読む シャーガス病 、または エイズ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 が原因で発生することが多くなっています。

感染症以外の原因としては、心臓に有害な物質(アルコールやコカインなど)、特定の薬剤、一部の自己免疫性疾患や炎症性疾患などがあります。 COVID-19の予防接種 COVID-19ワクチン 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンは、COVID-19に対する予防効果をもたらします。 COVID-19は、SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染によって引き起こされる病気です。現在、COVID-19に対する複数のワクチンが世界中で使用されています(COVID-19ワクチンの最新動向[COVID-19 Vaccine Tracker]を参照)。このトピックについては、米国で現在使用されているワクチンの... さらに読む としてmRNAワクチンを接種した後にも心筋炎が起こることがありますが、これはまれです。大半が青年と若い成人の男性に起きていて、通常はワクチン接種から1週間以内に発症します。薬剤によって引き起こされる心筋炎は、過敏性心筋炎と呼ばれます。

巨細胞性心筋炎

巨細胞性心筋炎は、急速に発症する重症型のまれな心筋炎です。原因は不明ですが、自己免疫が関与している可能性があります。診断のため生検が行われます。巨細胞性心筋炎になると、心臓が突然、体の機能を支えるのに十分な血液を送り出すことができなくなります(心原性ショックと呼ばれます)。患者の多くには、是正するのが難しい不整脈もみられます。巨細胞性心筋炎の経過の見通し(予後)は不良ですが、免疫抑制療法が生存期間の延長に役立つ可能性があります。

心筋炎の症状

心不全の症状としては、疲労感、息切れ、腫れ(浮腫)などがあります。

動悸(心臓の拍動が自覚されること)や失神がみられることもあります。一部の人では、最初の症状が突然始まる重度の不整脈であることもあります。

心筋炎に加えて心膜の炎症が起こると、胸痛が現れることがあります。鈍い痛みまたは鋭い痛みが、首、背中、または肩に広がる可能性があります。痛みは軽度から重度まで様々です。心膜炎による胸痛は通常、せき、呼吸、嚥下(食べものを飲み込む動作)など、胸部の動きによって悪化します。座ったり前かがみになったりすると、痛みが和らぐことがあります。

感染性心筋炎の患者では、心筋炎を発症する前に、発熱や筋肉痛などの感染症の症状がみられることがあります。薬剤に関連した心筋炎(過敏性心筋炎)は発疹を伴うことがあります。リンパ節が腫れる場合もあります。

心筋炎の診断

  • 心電図検査と心筋マーカーの測定

  • 心臓の画像検査

  • ときに心内膜心筋生検

  • 原因を特定するための検査

ほかの点では健康で、心臓病の危険因子もない人に心不全または不整脈がみられる場合、医師は心筋炎を疑います。

心臓の異常の所見を探すために、心電図検査を行います。

血液中の心筋マーカー(心臓が損傷を受けたときに存在する物質)の濃度を測定します。

心筋炎があれば、心エコー検査で異常がみられます。

心筋炎がある場合、心臓MRI検査で特徴的な異常パターンが認められることがあります。

心内膜心筋生検は、心臓の内壁から組織のサンプルを採取して顕微鏡で調べる検査ですが、心筋炎と確認するためにこの検査を行うことがあります。ただし、診断は異常がある部分から組織サンプルを採取する医師に依存するため、心内膜心筋生検は必ずしも心筋炎の診断に最良の検査ではありません。したがって、心内膜心筋生検で心筋炎の証拠が認められれば診断が確定しますが、組織サンプルに心筋炎の特徴がみられないからといって、この病気の可能性を否定することはできません。さらに、心内膜心筋生検は心臓壁の裂傷や死亡など重度の合併症のリスクを伴うため、巨細胞性心筋炎が疑われる場合(巨細胞性心筋炎は迅速な治療が救命につながることがあります)や、心筋炎が原因で心不全や不整脈が起きている場合を除き、この検査を決まって行うわけではありません。

原因の診断

心筋炎と診断できたら、その原因を特定するための検査を行います。それまでは健康だったウイルス感染と心筋炎がみられる若年成人の患者であれば、通常は詳細な評価は必要ありません。

通常は薬物アレルギーに起因する過敏性心筋炎の患者では、特定の白血球(好酸球)が増加しますが、この好酸球を検出するのに血算という検査が役立ちます。

心筋炎は症状が 心臓発作 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) 急性冠症候群は、冠動脈が突然ふさがる(閉塞する)ことによって起こります。この閉塞により、その位置と程度に応じて、不安定狭心症か心臓発作(心筋梗塞)が起こります。心臓発作とは、血液供給がなくなることにより心臓の組織が壊死する病気です。 急性冠症候群を発症すると、通常は胸部の圧迫感や痛み、息切れ、疲労などが起こります。 急性冠症候群が起きたと思ったら、まず救急車を呼んでから、アスピリンの錠剤を噛み砕いて服用します。... さらに読む 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) に似る場合があるため、心筋虚血(心臓への血流が減少した状態)の可能性を否定するための 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査と冠動脈造影検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む 心臓カテーテル検査と冠動脈造影検査 が役立つことがあります。

その他のケースでは、診断を確定するために心臓の生検が必要になることがあります。

自己免疫疾患、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、ヒストプラズマ症、その他の感染症の検査など、その他の検査が必要になることもあります。

心筋炎の治療

  • 心不全と不整脈の治療

  • 基礎にある病気の治療

心不全の治療としては、症状を軽減するために利尿薬や硝酸薬などを使用します。心不全のある一部の症例では、 左室補助人工心臓 その他の治療 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む その他の治療 (LVAD)の装着や 心臓移植 心臓移植 心臓移植とは、死亡した直後の人から健康な心臓を摘出し、薬や移植以外の手術では有効な治療効果がもはや得られない重度の心疾患のある人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 心臓移植は、以下のいずれかの疾患があり、薬や移植以外の手術では有効な治療効果が得られない場合に限って行います。 重い 心不全 冠動脈疾患 さらに読む といった手術が必要になることがあります。 心不全の長期にわたる薬物治療 心不全の治療薬 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 心不全の治療薬 が必要です。

心筋炎の原因が感染症である場合は、ときに抗菌薬やその他の感染症治療薬を使用します。

心筋炎の原因が薬剤や毒素である場合は、原因物質の使用を中止した上で、コルチコステロイドを投与します。

サルコイドーシスによる心筋炎は、コルチコステロイドで治療します。

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