健康な人では、膀胱の中にある尿は無菌(細菌などの感染性の微生物が存在しない状態)です。尿が膀胱から体外へと排出されるまでの通路(尿道)にも、感染症を引き起こす細菌はほとんど存在していません。しかし、尿路のどの部分にも感染が起こる可能性はあり、尿路で発生した感染症は尿路感染症(UTI)と呼ばれています。
尿路の臓器
尿路は腎臓、尿管(腎臓から膀胱に流れる尿が通過する管)、膀胱、および尿道で構成されます。これらの臓器は、鈍い力(交通事故や転落・転倒など)や貫通性の力(銃で撃たれた場合や鋭利な物で刺された場合など)によって損傷することがあります。手術中に偶発的に損傷が起きることもあります。 |
尿路感染症は、尿路内の感染部位に応じて、上部尿路感染症と下部尿路感染症に分類されますが、どちらであるか判断することは、ときに医師にも難しく、不可能な場合もあります。
さらに尿道の感染症(尿道炎 尿道炎 尿道炎は、尿が膀胱から体外に排出されるまでに通過する管である尿道の感染症です。 尿道炎の最も一般的な原因は細菌(性行為によって感染するものも含む)です。 症状としては、排尿時の痛み、頻尿、尿意切迫などが挙げられ、ときに分泌物もみられます。 通常、感染の治療には抗菌薬を投与します。... さらに読む )や前立腺の感染症(前立腺炎 前立腺炎 前立腺炎では、前立腺に痛みと腫れ、炎症、またはそれらの両方が生じます。 細菌感染が原因で発症することがあります。 陰嚢と肛門の間の部分や腰、陰茎、精巣に痛みが生じます。 切迫した尿意を頻繁に催し、排尿、勃起、射精、排便の際に痛みを感じることがあります。 尿と、ときに前立腺から分泌される体液を培養します。 さらに読む )も下部尿路感染症に含められる場合があります。腎臓など左右で対になっている臓器の感染症は、一方のみに起こることもあれば、両方で起こることもあります。成人だけでなく、 小児でも尿路感染症は起こります 小児の尿路感染症(UTI) 尿路感染症(UTI)とは、細菌による膀胱の感染症( 膀胱炎)、腎臓の感染症( 腎盂腎炎[じんうじんえん])、またはその両方がある状態です。 尿路感染症は細菌によって引き起こされます。 乳児や年齢の低い小児に尿路感染症がみられる場合は、ときに泌尿器系に構造的異常があるために発症しやすくなっていることがあります。... さらに読む 。
尿路感染症の原因
感染症を引き起こす微生物が尿路に侵入する経路は2つ考えられます。そのうち格段に多いのは尿路の下端からの侵入経路であり、男性では陰茎の先端部、女性では外陰部にある尿道の開口部から微生物が侵入します。尿道から侵入した微生物は、尿路を上の方に移動して膀胱に達するほか、ときには腎臓にまで到達して、膀胱と腎臓の両方に感染する場合もあります。もう1つの侵入経路は、微生物が血流から、通常は腎臓へと侵入するものです。
尿路感染症は、そのほぼすべてが細菌によるものですが、ウイルス、真菌または寄生虫が原因になる場合もあります。尿路感染症の85%以上は、腸または腟から移動してきた細菌によって引き起こされます。ただし細菌が尿路に侵入したとしても、排尿時に勢いよく流れ出る尿によって細菌も洗い流されるのが通常です。
細菌
下部尿路の細菌感染症(通常は膀胱)は非常に多く、特に若く性的に活動的な女性でよくみられます。若年の女性では腎臓の細菌感染症もしばしば起こりますが、膀胱の感染症と比較すると頻度はそれほど多くありません。大腸菌が尿路感染症の最も多い原因菌です。20~50歳の人に限定して男女別にみると、女性では細菌による尿路感染症が男性の約50倍多くみられます。これは男性の尿道が女性の尿道より長いために、細菌が感染を生じられる高さまでなかなか上ってこられないからです。20~50歳の男性で最もよくみられる尿路感染症は、 尿道炎 尿路結石 結石は尿路のいずれかの部位で形成される硬い固形物で、痛み、出血、または尿路の感染や閉塞の原因となることがあります。 小さな結石の場合は症状がみられませんが、大きな結石が発生すると、肋骨と腰の間の部分に耐えがたい激痛が生じることがあります。 結石の診断では通常、画像検査と尿検査が行われます。... さらに読む または 前立腺炎 前立腺炎 前立腺炎では、前立腺に痛みと腫れ、炎症、またはそれらの両方が生じます。 細菌感染が原因で発症することがあります。 陰嚢と肛門の間の部分や腰、陰茎、精巣に痛みが生じます。 切迫した尿意を頻繁に催し、排尿、勃起、射精、排便の際に痛みを感じることがあります。 尿と、ときに前立腺から分泌される体液を培養します。 さらに読む です。50歳を過ぎると、尿路感染症は男女ともに多くみられるようになり、男女差は少なくなります。
ウイルス
単純ヘルペスウイルス 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症では、皮膚、口、唇(口唇ヘルペス)、眼、または性器に、液体で満たされた、痛みのある小さな水疱が繰り返し発生します。 この病気は非常に感染性の高い ウイルス感染症であり、潰瘍に直接触れることで感染するほか、ときには潰瘍のない患部に触れることでも感染します。... さらに読む が尿道に感染することがあり、その症状としては排尿時に痛みが生じたり、膀胱を空にするのが難しくなったりします。その他のウイルスの尿路感染(例えば、膀胱や腎臓の感染症など)は、免疫系が障害されない限り(例えば、がん、HIV感染症/エイズ、免疫系を抑制する薬の使用による)、通常は起こりません。
真菌
一部の 真菌 真菌感染症の概要 真菌は植物でも動物でもなく、その大きさは顕微鏡でようやく見えるものから肉眼で容易に見えるものまで様々です。かつては植物と考えられていましたが、現在では独自の区分(界)に分類されています。一部の真菌は人に感染症を引き起こします。 真菌の胞子は空気中や土壌中に存在することが多いため、真菌感染症は通常は肺や皮膚から始まります。... さらに読む が尿路に感染することがあります。この種の感染症は、しばしば真菌感染症と呼ばれます(真菌は腟炎の原因になることもあります)。尿路の真菌感染症を引き起こす可能性が最も高い微生物は、カンジダ属に分類される真菌です(カンジダ症 カンジダ症 カンジダ症は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)をはじめとする数種類のカンジダ属真菌(Candida)によって引き起こされる真菌感染症です。 最もよくみられる病型は、口、腟、皮膚の表面に感染が起きるもので、白や赤の斑点が生じ、かゆみや刺激感、またはその両方を引き起こします。... さらに読む )。カンジダによる感染症は、免疫力が低下した人や膀胱にカテーテルが留置されている人でしばしば発生します。真菌と細菌が同時に腎臓に感染することもあります。
寄生虫
いくつかの 寄生虫 寄生虫感染症の概要 寄生虫とは、他の生物(宿主[しゅくしゅ])の体表や体内にすみつき、宿主を利用して(例えば、栄養素を奪うことによって)生きている生物のことです。この定義は細菌、真菌、ウイルスなど多くの微生物に当てはまりますが、「寄生虫」という用語は以下のものを指して用いられます。 単一の細胞のみで構成される原虫(... さらに読む (一部の蠕虫[ぜんちゅう]も含まれます)が尿路に感染することがあります。
トリコモナス症 トリコモナス症 トリコモナス症は、腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)という原虫によって引き起こされる腟または尿道の性感染症で、腟が過敏になったり分泌物が出たりするほか、ときに排尿に問題がみられます。 女性では、泡状で黄緑色の生臭いおりものが生じ、陰部が過敏になり痛みが生じることがあります。... さらに読む は、顕微鏡でしか見ることのできない微小な寄生虫によって起こる性感染症で、感染した女性では泡を伴った黄緑色の分泌物が腟から大量に排出されます。ときに膀胱や尿道に感染することもあります。トリコモナス症は男性の尿道に発生することもあります。男性では、通常症状は出ません。
住血吸虫症 住血吸虫症 住血吸虫症は、住血吸虫という特定の扁形動物(吸虫)によって引き起こされる感染症です。 この吸虫がいる水場(淡水)で泳いだり、水浴びをしたりすることで住血吸虫症に感染します。 症状はかゆみを伴う発疹が現れ、その数週間後に発熱、悪寒、筋肉痛、疲労、吐き気、腹痛のほか、感染した臓器に応じた症状が現れます。... さらに読む は、吸虫と呼ばれる種類の寄生虫による感染症で、腎臓、尿管および膀胱が侵されます。この感染症は、アフリカ、南米およびアジアの在住者の間では重度の腎不全の原因としてよくみられます。膀胱への住血吸虫の感染が長引くと、しばしば血尿や尿管の閉塞などが引き起こされ、最終的には膀胱がんになることもあります。
線虫感染症の一種である フィラリア症 リンパ系フィラリア症 リンパ系フィラリア症は、3種類の線虫のいずれかによって引き起こされるリンパ系の感染症です。 発熱やリンパ節の腫れ、腕や脚または鼠径部(そけいぶ)の痛みのほか、感染症が慢性の場合は、外観を損なうことのある腫れが持続的にみられます。 医師が血液サンプル中に幼虫(ミクロフィラリア)を特定することで、この感染症の診断が下されます。... さらに読む では、 リンパ管 リンパ系の概要 リンパ系は 免疫系の極めて重要な一部です。具体的には胸腺、骨髄、脾臓、扁桃、虫垂、小腸にあるパイエル板など、感染やがんに対抗する特殊な白血球を作り出して処理する臓器や組織が含まれます。 静脈系と同様に、リンパ系も全身にわたる体液循環の経路になっています。リンパ系は以下の要素で構成されています。... さらに読む に閉塞が起き、尿にリンパ液が混入します(乳び尿)。フィラリア症になると、男性では陰嚢(いんのう)などの組織が異常に腫れることがあります(象皮病)。