B型肝炎は、違法薬物の注射を目的として滅菌していない針を共用した場合にみられるように、感染した人の血液などの体液と接触することで感染します。
B型肝炎はウイルス性肝炎の典型的な症状(食欲不振、全身のけん怠感、黄疸など)を引き起こし、劇症肝炎と呼ばれる重症の肝炎も生じることがあります。
B型肝炎の診断は、血液検査の結果に基づいて下されます。
すべての小児のほか、感染にさらされたり、重い合併症が発生したりする可能性が高い成人に、B型肝炎に対するワクチン接種が推奨されます。
B型急性肝炎に対する特別な治療法はありません。
ほとんどの患者は完治しますが、B型慢性肝炎を発症する人もわずかにいます。
重症の(劇症)肝炎が生じた場合、抗ウイルス薬が役に立ちますが、生存の望みが最も大きいのは肝移植です。
(肝炎の概要 肝炎の概要 肝炎とは肝臓の炎症です。 ( 急性ウイルス性肝炎の概要と 慢性肝炎の概要も参照のこと。) 肝炎は世界中でみられる病気です。 肝炎には以下の種類があります。 急性(経過が短い) さらに読む 、 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は、肝臓の炎症で、一般的には5種類の肝炎ウイルスのいずれかの感染によって起こる炎症を意味します。多くの場合、炎症は突然始まり数週間続きます。 症状は、何もみられない場合から重症の場合まであります。 感染すると、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱、右上腹部の痛み、黄疸などの症状がみられます。 医師は、肝炎の診断を下しその原因を特定するための血液検査を行います。 ワクチンはA型、B型、E型の肝炎を予防できます(E型肝炎ワクチンは... さらに読む 、 B型肝炎[慢性] B型肝炎(急性) B型急性肝炎は、B型肝炎ウイルスを原因とし、持続期間が数週間から最大で6カ月の肝臓の炎症です。 B型肝炎は、違法薬物の注射を目的として滅菌していない針を共用した場合にみられるように、感染した人の血液などの体液と接触することで感染します。 B型肝炎はウイルス性肝炎の典型的な症状(食欲不振、全身のけん怠感、黄疸など)を引き起こし、劇症肝炎と呼ばれる重症の肝炎も生じることがあります。... さらに読む も参照のこと。)
B型肝炎ウイルスは、急性ウイルス性肝炎の2番目に一般的な原因です。米国では、2018年には3000症例を超えるB型急性肝炎の感染が報告されており、B型肝炎ワクチンの使用が普及する前に報告されていた年間25,000症例から減少しています。しかし、認識されていないか報告されてない症例が多くあります。そのため、実際の新規感染数はもっと多い可能性があります。2018年には約21,600症例と推定されていました。
ときとして、B型急性肝炎患者が D型肝炎 D型肝炎 D型肝炎は、B型肝炎の患者だけに発生する肝臓の感染症です。 D型肝炎は、血液や他の体液への接触によって広がります。 D型肝炎の同時感染によって、通常はB型肝炎の症状が悪化します。 D型慢性肝炎の診断は、血液検査の結果に基づいて下されます。 D型急性肝炎に対して特別な治療法はありませんが、D型慢性肝炎の治療はインターフェロンアルファによって行われることがあります。 さらに読む にも同時に感染していることがあります。
B型肝炎の感染
B型肝炎は、A型肝炎と比べて感染が起こりにくい病気です。感染は主に、滅菌されていない針の再使用で起こり、こうした状況は、複数人で薬物の注射針を共有している場合や、刺青を彫る針が再利用されている場合にみられます。
輸血を通じて感染する可能性もありますが、現在の米国では血液が事前に検査されるため、ほとんどみられません。
B型肝炎は唾液、涙、母乳、尿、腟分泌液、精液などへの接触によっても伝播しますが、このような経路での感染は血液から血液への感染よりまれです。
感染はセックスパートナーの間で起こることがあり、異性間と同性間どちらの場合もあります。また、人が密集して住んでいるところ(刑務所や精神科施設など)では、他者の体液に接触する可能性が高いため、リスクが高くなります。
B型肝炎に感染した妊婦から、分娩中にウイルスが新生児に伝染することがあります(新生児のB型肝炎ウイルス[HBV]感染症 新生児のB型肝炎ウイルス(HBV)感染症 B型肝炎は肝臓の炎症を引き起こします。 新生児は出生時、または、まれに出生後に感染します。 症状のある新生児には、黄疸、嗜眠、発育不良がみられます。 診断は、一般に血液検査の結果に基づいて下されます。 小児は後年、肝臓に異常をきたすリスクがあります。 さらに読む を参照)。
B型肝炎患者は、症状のない人でさえも、ウイルスを他者に感染させる可能性があります。
虫刺されによってこのウイルスが伝染するかどうかは不明です。
多くの場合、B型肝炎の感染源は不明です。
B型慢性肝炎
全体では、B型肝炎ウイルスに感染した人の約5~10%が B型慢性肝炎 B型肝炎(慢性) B型慢性肝炎は、B型肝炎ウイルスを原因とし、6カ月以上持続している肝臓の炎症です。 ほとんどのB型慢性肝炎患者では症状がありませんが、全身のだるさを感じ、疲れを覚え、食欲を失う場合もあります。 B型慢性肝炎があると肝臓がんのリスクが増大します。 血液検査の結果に基づいてB型肝炎の診断が下され、ときとして肝傷害の程度を確認するために肝生検が行われます。 B型慢性肝炎のすべての患者に治療が必要となるわけではありませんが、B型慢性肝炎によって... さらに読む を発症します。
以下のように、B型急性肝炎を発症した時の年齢が低いほど、B型慢性肝炎の発生リスクが高まります。
乳児:90%
1~5歳の小児:25~50%
成人:約5%
B型肝炎が慢性化すると、肝臓の重度の瘢痕化(肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。肝硬変はかつては不可逆的と考えられていましたが、最近の科学的証拠から一部の症例では可逆的であることが示唆されています。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、... さらに読む )が生じることがあり、最終的には 肝臓がん 原発性肝臓がん 原発性肝臓がんとは、肝臓から発生するがんのことです。最もよくみられる原発性肝臓がんは 肝細胞がんです。肝臓がんの初期には、通常は漠然とした症状(体重減少、食欲不振、疲労など)しかみられません。そのために診断が遅れることがよくあり、多くの場合、予後(経過の見通し)は不良です。 ( 肝腫瘍の概要も参照のこと。) その他の原発性肝臓がんはまれです。診断には通常、 生検が必要です。この種のがんを発症した人の予後(経過の見込み)は、ほとんどの場合... さらに読む が発生する可能性があります。
B型急性肝炎の症状
B型肝炎は一般にA型肝炎より重篤で、死に至ることもあります(特に高齢者の場合)。軽症のこともあれば、非常に重症(劇症肝炎 症状 と呼ばれます)のこともあります。B型肝炎の患者がD型肝炎を併発すると症状はいっそう重くなります。
ほとんどのB型肝炎患者で、ウイルス性肝炎の典型的な症状がみられます。具体的な症状としては以下のものがあります。
食欲不振
全身のだるさ(けん怠感)
発熱
吐き気と嘔吐
B型肝炎では、他の肝炎ウイルスの場合より、関節痛やかゆみを伴う赤いじんま疹(膨疹)がよくみられます。
症状は数週間から最大で6カ月持続します。
劇症肝炎が生じた場合、非常に速く状態が悪化することがあります。正常であれば肝臓で除去されるはずの有害物質が血液中に蓄積して脳に到達し、 肝性脳症 肝性脳症 肝性脳症は、重度の肝疾患がある人において、正常なら肝臓で除去されるはずの有害物質が血液中に蓄積して脳に達することで、脳機能が低下する病気です。 肝性脳症は、長期にわたる(慢性の)肝疾患がある患者に発生します。 肝性脳症は、消化管での出血、感染症、処方薬を正しく服用しないこと、その他のストレスによって誘発されます。 錯乱、見当識障害、眠気が起こるとともに、性格、行動、気分の変化がみられます。... さらに読む を引き起こします。数日から数週間で昏睡状態に陥る可能性があります。劇症肝炎は肝移植を行わなければ死に至ることがあり、成人では特に死亡リスクが高まります。
B型急性肝炎の診断
血液検査
黄疸などの典型的な症状に基づいて肝炎が疑われます。
検査は通常、肝臓がどの程度機能しているかと肝傷害の有無を評価する血液検査(肝臓の検査 肝臓の血液検査 肝臓の検査は血液検査として行われますが、これは肝疾患の有無をスクリーニングし(例えば、献血された血液に 肝炎があるかを調べる)、肝疾患の重症度や進行度と治療に対する反応を評価するための検査のうち、体への負担が少ない方法の代表例です。 臨床検査は、一般的に以下の目的に有効です。 肝臓の炎症、損傷、機能障害の検出... さらに読む )により開始します。肝臓の検査では、肝酵素や肝臓で作られるその他の物質の濃度を測定します。
検査で肝臓の異常が検出された場合は、他の血液検査を行って肝炎ウイルスに感染していないか確認します。この血液検査では、特定のウイルスの一部(抗原)や、体内でウイルスを攻撃するために作られた特定の抗体のほか、ときにはウイルスの遺伝物質(RNAまたはDNA)を特定できます。
B型肝炎ウイルスが確認され、重症(劇症)である場合、B型劇症肝炎患者の最大50%に存在するD型肝炎ウイルスがないかも確認します。
B型急性肝炎の予防
注射針の共用や複数のセックスパートナーをもつことなど、リスクの高い行動は避けるべきです。
すべての供血者は、輸血によるB型肝炎ウイルス感染を予防するためにB型肝炎の検査を受けます。さらに、輸血によって肝炎にかかる可能性は非常に低いものの、医師はほかに選択肢がない場合にしか輸血を行いません。このような対策により、輸血によって肝炎にかかる可能性は劇的に減少しています。
米国では、以下の人に B型肝炎に対するワクチン接種 B型肝炎ワクチン B型肝炎ワクチンは B型肝炎とその合併症( 慢性肝炎、 肝硬変、 肝臓がん)の予防に役立ちます。 一般に、B型肝炎は A型肝炎より重篤で、死に至ることもあります。症状は軽度のこともあれば、重度のこともあります。食欲減退、吐き気、疲労などがみられます。5~10%の患者ではB型肝炎が慢性化し、肝硬変や肝臓がんに進行することがあります。 詳細については、CDCによるB型肝炎ワクチン説明書(Hepatitis... さらに読む が推奨されます。
18歳以下のすべての人(出生時に開始―図「 乳児、小児、青年のための定期予防接種 乳児、小児、青年のための定期予防接種 」を参照)
B型肝炎に対する防御を希望する成人
妊婦など、B型肝炎にかかるリスクが高いワクチン未接種のすべての成人
慢性肝疾患の患者
B型慢性肝炎患者の家族や患者と濃厚な接触がある人で、ワクチンを接種したことがない場合、B型肝炎ワクチンの接種を受ける必要があります。
妊婦でB型肝炎ウイルスの値(ウイルス量)が高い場合は、多くの場合、母親から子どもへのウイルス感染を予防するために、第3トリメスター【訳注:日本でいう妊娠後期にほぼ相当】に抗ウイルス薬を投与します。
B型肝炎に感染している母親から生まれた乳児など、ワクチン接種を受けておらずB型肝炎ウイルスにさらされた人にはB型肝炎免疫グロブリン製剤の投与(筋肉内への注射)とワクチン接種を行います。両方を行うことにより、75%でB型慢性肝炎を予防したり、重症度を抑えたりすることができます。B型肝炎免疫グロブリン製剤には、肝炎に対する抗体の濃度が高い人の血液から抽出した抗体が含まれています。妊婦のウイルス量が多い場合は、第3トリメスター【訳注:日本でいう妊娠後期にほぼ相当】に抗ウイルス薬のテノホビルで妊婦を治療することにより、子どもへの感染リスクを減らせる可能性があります。
B型肝炎の患者の血液に触れてしまった場合は、B型肝炎免疫グロブリン製剤を注射します。B型肝炎ウイルスに対するワクチン接種をしていなければ、それも接種します。ワクチン接種をしていた場合、血液検査を行って防御が持続しているかどうか判定します。持続していない場合、ワクチン接種を行います。
B型急性肝炎の治療
一般的な対策
重症(劇症)肝炎の場合、抗ウイルス薬と肝移植
B型急性肝炎に対する特別な治療法はありません。
飲酒によってさらに肝臓が障害されるため、B型肝炎の患者は禁酒すべきです。特定の食べものを避けたり活動を制限したりする必要はありません。
ほとんどの場合、黄疸が消えれば安全に仕事に復帰することができます。
かゆみが生じた場合、経口投与するコレスチラミンによってかゆみが緩和することがあります。
劇症肝炎が生じた場合、抗ウイルス薬(通常はエンテカビルまたはテノホビル)を使用します。これらはいずれも経口薬です。これらの薬は生存の可能性を高めます。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国疾病予防管理センター:B型肝炎(Centers for Disease Control and Prevention: Hepatitis B):このウェブサイトでは、B型肝炎の概要(定義、統計、感染、およびスクリーニングを含む)へのリンクに加え、B型肝炎ワクチン、症状、診断、治療に関する情報、ならびに医療従事者向けの情報のリンクが掲載されています。Accessed May 19, 2022.