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消化性潰瘍

執筆者:

Nimish Vakil

, MD, University of Wisconsin School of Medicine and Public Health

レビュー/改訂 2021年 6月
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やさしくわかる病気事典
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消化性潰瘍(かいよう)とは、胃や十二指腸の内面が胃酸や消化液で侵食されて、円形やだ円形の傷ができた状態をいいます。

  • 消化性潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染や、胃や十二指腸の粘膜を衰弱させる薬によって生じることがあります。

  • 潰瘍による不快感が生じたり消えたりしますが、この不快感は食べることで胃酸が分泌されるために食後に起こる傾向があります。

  • 消化性潰瘍の診断は、胃痛の症状や、内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)による胃の検査(上部消化管内視鏡検査)の結果に基づいて下されます。

  • 制酸薬などを投与して胃酸を減らし、抗菌薬を投与してヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)を除菌します。

潰瘍はその解剖学的位置や発生した状況によってそれぞれ固有の名前で呼ばれます。

十二指腸潰瘍は、消化性潰瘍の中で最もよくみられるもので、十二指腸の最初の約5~7.5センチメートルの部分にできます。

胃潰瘍は、あまり一般的ではなく、通常は胃の下部にできます。【訳注:日本では十二指腸潰瘍よりも胃潰瘍の患者の方がたくさんいます】

吻合(ふんごう)部潰瘍は、胃の一部が手術で切除されている場合に、胃の残存部を小腸につなぎなおした部分にできます。

ストレス潰瘍は、急性ストレス性胃炎で生じるものと同様に、重度の病気、皮膚の熱傷(やけど)、または損傷によるストレスの結果として生じることがあります。これは胃や十二指腸にできます。

原因

潰瘍が生じるのは、胃や十二指腸の粘膜の正常な防御・修復メカニズムが弱まり、粘膜が胃酸による損傷を受けやすくなった場合です。

消化性潰瘍で群を抜いて最も一般的な原因は以下の2つです。

ピロリ菌(H. pylori)の感染は、十二指腸潰瘍の人の50~70%、胃潰瘍の人の30~50%にみられます。

消化性潰瘍の50%以上でNSAIDの使用が原因となっています。それでも、NSAIDを使用している人のほとんどでは、消化性潰瘍は発生しません。

喫煙者は非喫煙者より消化性潰瘍ができやすく、潰瘍の治癒も遅く、再発しやすくなります。アルコールにより胃酸の分泌が増加しますが、飲酒量がそれほど多くなければ、潰瘍が発生したり、治癒が遅くなったりすることはないと考えられます。精神的ストレスによって潰瘍が生じることがあります。日本では地震後に、ニューヨークでは9・11のテロ攻撃の際に潰瘍の発生率が上昇したことが分かっています。

十二指腸潰瘍がある小児の約50~60%では、家族に消化性潰瘍の患者がいます。最近のデータでは、これはピロリ菌(H. pylori)の家族内での伝染が原因であることが示唆されています。医師らは遺伝によって感染リスクが高くなるのではないかと疑っています。

症状

消化性潰瘍で最もよくみられる症状は以下のものです。

  • 上腹部に生じる軽度から中等度の痛み

この痛みは一般的に、差し込むような痛み、焼けつくような痛み、うずく痛み、ヒリヒリする痛み、ときには空腹感と説明され、通常は胸骨のすぐ下の上腹部に発生します。通常は食事や制酸薬により軽減します。典型的な潰瘍は治癒して再発する傾向があります。そのため、痛みが数日または数週間続いてから、徐々に弱まったり消えたりした後、潰瘍が再び現れると痛みが再発することがあります。典型的な症状が現れる患者は約半数に過ぎません。

十二指腸潰瘍の症状は、ある一定のパターンを示す傾向があります。通常、目覚めたときには痛みがありませんが、午前中に痛みが現れます。牛乳を飲んだり、何かを食べたり(これにより胃酸を和らげます)、制酸薬を服用したりすることで一般的には痛みが軽減しますが、通常は2~3時間するとまた痛み出します。夜間に痛みで目が覚める人も多くみられます。しばしば、1週間から数週間の間痛みが1日1回以上生じた後、治療しなくても痛みが消えることがあります。しかし、通常は痛みが再発し、多くは2年以内、ときには数年後に再発がみられます。一般的にはパターンができ、しばしば経験から再発の起きそうな時期が分かるようになります(春と秋、およびストレスの多い時期の再発がよくみられます)。

胃潰瘍、吻合部潰瘍、ストレス潰瘍の症状には、十二指腸潰瘍と違って典型的なパターンはありません。食事をすると痛みが一時的に和らぐこともあれば、むしろ痛みが生じる場合もあります。胃潰瘍では、ときに胃の組織の瘢痕(はんこん)化や腫れ(浮腫)が生じて、それが小腸に及び、胃から食べものが簡単に出ていかなくなることがあります。この閉塞により、食後に腹部の膨満、吐き気、または嘔吐が起こることがあります。

合併症

ほとんどの消化性潰瘍は合併症を起こすことなく治癒します。しかしときには、以下のような生命を脅かす可能性がある合併症が起きます。

  • 出血

  • 穿通(せんつう)

  • 穿孔(せんこう)

  • 閉塞

  • がん

出血

出血は潰瘍で最もよくみられる合併症で、痛みがなくても出血していることがあります(消化管出血 消化管出血 消化管からの出血は、口から肛門までのどの部分でも起こる可能性があります。出血は肉眼で容易に見える場合(顕性の出血)もあれば、量が少なすぎて見えない場合(潜血)もあります。潜血は、 特別な化学物質を用いて便のサンプルを検査することでしか検出できません。 吐血は、嘔吐物の中に目に見える量の血液が含まれている場合で、上部消化管(通常は食道、胃、... さらに読む 消化管出血 )。鮮紅色の血液や、血液が一部消化されてコーヒーかすのように見える赤褐色のかたまりの嘔吐(吐血)、黒いタール状の便(黒色便)、はっきりと分かる血が付着した便(血便)は、出血している潰瘍の症状である可能性があります。失血すると、筋力低下、立ち上がったときの血圧低下、発汗、のどの渇き、失神を生じることもあります。しかし、便中の血液が少量の場合は気づかれないこともあり、それでも出血が続けば 貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む になる可能性があります。

出血は消化管の別の病気からも起こりますが、医師は胃と十二指腸から出血源を探し始めます。出血が大量でないかぎり、医師は内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を用いて 上部消化管内視鏡検査 診断 消化性潰瘍(かいよう)とは、胃や十二指腸の内面が胃酸や消化液で侵食されて、円形やだ円形の傷ができた状態をいいます。 消化性潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染や、胃や十二指腸の粘膜を衰弱させる薬によって生じることがあります。 潰瘍による不快感が生じたり消えたりしますが、この不快感は食べることで胃酸が分泌されるために食後に起こる傾向があります。... さらに読む 診断 を行います。潰瘍からの出血が見つかれば、内視鏡を使って出血部を焼灼(しょうしゃく)して止血できます(すなわち熱で止血します)。また、内視鏡で潰瘍の出血を凝固させる物質を注入することもあります。

出血源が見つからず出血が重度でない場合の治療には、ヒスタミンH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などの胃酸の分泌を抑制する薬の服用があります。また、輸液を行い、口からの飲食をやめることで、消化管を休ませることができます。これらの治療法が失敗した場合は、手術が必要になります。

穿通

潰瘍が胃や十二指腸(小腸の最初の部分)の筋肉の層を通過(穿通)して、肝臓、膵臓などの隣接する臓器に及ぶことがあります。穿通すると、刺すような強い持続性の痛みが起こり、痛みは患部と異なる場所で感じられることもあります。例えば、十二指腸潰瘍が膵臓を穿通すると、背部痛が起きることがあります。姿勢を変えると痛みが強くなることもあります。

薬で潰瘍が治らない場合は手術が必要になることがあります。

穿孔

十二指腸の前面や、まれに胃の前面にできた潰瘍が胃腸の壁を貫通して、腹腔内に通じる開口部(穿孔 消化管穿孔 中空の消化器はいずれも穿孔(せんこう)が生じる可能性があり、穿孔が生じると消化管の内容物が漏出し、すぐに手術を行わなければ 敗血症(生命を脅かす血流感染症)や死亡に至ることがあります。 症状としては胸部や腹部に突然重度の痛みが生じ、腹部に触れると圧痛がみられます。 診断はX線検査とCT検査によって下されます。 直ちに手術が必要です。 ( 消化管救急疾患の概要も参照のこと。) さらに読む )が形成されることがあります。その結果、急に強い痛みが生じて持続します。痛みはすぐ腹部全体に広がります。片方の肩や両肩に痛みを感じることがあります。深呼吸したり、姿勢を変えたりすると痛みが増すため、患者は体を動かさないように横たわっていようとします。腹部に触れると圧痛があり、深く押してから急に戻すと圧痛が増します(これを反跳痛といいます)。

高齢者、コルチコステロイドや免疫抑制薬を服用している人、重い病気がある人では穿孔の症状が軽い場合があります。発熱は腹腔内感染症が起きていることを示しています。治療しないと、ショック状態になることがあります。

医師は診断の助けにするためにX線検査やCT検査を行います。

このような緊急事態(急性腹症と呼ばれます)では、緊急手術と抗菌薬の静脈内投与が必要になります。

閉塞

潰瘍周囲の炎症を起こした組織が腫れたり、以前にできた潰瘍が急性増悪によって瘢痕化したりすると、胃の出口や十二指腸が狭くなることがあります。このような 閉塞 腸閉塞 腸閉塞とは、腸管内で食べもの、水分、消化分泌液、ガスの通過が完全に止められているか、深刻な通過障害が起きている状態のことです。 成人で最も一般的な原因は、以前に受けた腹部の手術による瘢痕(はんこん)組織、ヘルニア、腫瘍です。 痛み、腹部膨満、食欲不振がよくみられます。 診断は、身体診察とX線検査の結果に基づいて下されます。 閉塞を取り除くための手術がしばしば必要になります。 さらに読む が起こると、繰り返し嘔吐することがあり、しばしば数時間前に食べた食べものが大量に逆流します。食後の異常な満腹感、腹部膨満、食欲不振は閉塞の症状です。時間が経過するにつれて、嘔吐によって体重減少や、脱水、体内の 電解質 電解質の概要 人の体内の水分量は体重の2分の1をはるかに上回ります。体内の水分は様々な空間(体液コンパートメントと呼ばれています)に制限されて存在していると考えられています。主に次の3つのコンパートメントがあります。 細胞内の体液 細胞の周囲の体液 血液 体が正常に機能するには、これらの各領域で体液量が偏らないようにする必要があります。 さらに読む バランスの崩れが起こります。

閉塞の診断は、X線検査の結果に基づいて下されます。

大半の場合は潰瘍や腫れを治療することで閉塞が軽減されますが、瘢痕化による重度の閉塞がある場合には、内視鏡治療による拡張や手術が必要になることがあります。

がん

診断

  • 上部消化管内視鏡検査

特徴的な胃痛がある場合は潰瘍が疑われます。ときに医師は単純に潰瘍の治療を行い、症状がなくなるかどうかを確認します(これを経験的治療といいます)。症状がなくなった場合は、潰瘍であった可能性が非常に高くなります。

診断を確定するために検査が必要になることがあり、特に数週間治療をしても症状が消えない場合や、45歳以上の人や体重減少などの他の症状がある人に初めて生じた場合は、胃がんでも同様の症状が起こることがあるため、検査が行われます。また、重度の潰瘍があって治療抵抗性の場合、特に潰瘍が複数ある場合や普通はあまりできない場所にある場合は、医師は胃酸の過剰分泌が生じる基礎疾患が原因となっていることを疑うことがあります。

内視鏡検査では、胃潰瘍が悪性のものかどうかを判定し、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の有無の確認に役立てるために、生検(組織のサンプルを採取して顕微鏡で調べる)を行うことができます。また、内視鏡を使って、活動性出血の止血処置や潰瘍からの再出血の可能性を減らす処置を行うこともできます。

予後(経過の見通し)

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染症の治療が成功した場合、消化性潰瘍が再発する人は10%のみです。しかし、胃酸の分泌を抑制する薬のみの治療を受けた感染者で消化性潰瘍が再発する人は70%です。

治療

  • 抗菌薬

  • 胃酸分泌抑制薬

  • 制酸薬

  • ときに手術

ピロリ菌(H. pylori)の感染が潰瘍の主な原因であることから、ピロリ菌(H. pylori)の感染が診断された時点で、この感染症に対して、2つの抗菌薬に次サリチル酸ビスマスとプロトンポンプ阻害薬を併用する治療が行われます(4剤併用療法と呼ばれます)。アモキシシリン、クラリスロマイシン、メトロニダゾール、テトラサイクリンなど、いくつかの抗菌薬を使用することができます。2つの抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬を併用し、次サリチル酸ビスマスは使用しない治療法もあります(3剤併用療法と呼ばれます)。

胃酸分泌抑制薬は胃酸の生産を阻害します。最もよく使用される胃酸分泌抑制薬には、 プロトンポンプ阻害薬 プロトンポンプ阻害薬 消化性潰瘍、 胃炎、 胃食道逆流症(GERD)などのいくつかの胃の病気には胃酸が関与しています。胃に存在する酸の量は通常、このような病気の患者では正常ですが、胃と腸の損傷の治療や症状の緩和には、胃酸の量を減らすことが重要です。 プロトンポンプとは化学的過程の名称であり、これによって胃から酸が分泌されます。プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を最も強く抑制する薬です。プロトンポンプ阻害薬は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬と比較して、より多くの人で... さらに読む ヒスタミンH2受容体拮抗薬 ヒスタミンH2受容体拮抗薬 消化性潰瘍、 胃炎、 胃食道逆流症(GERD)などのいくつかの胃の病気には胃酸が関与しています。胃に存在する酸の量は通常、このような病気の患者では正常ですが、胃と腸の損傷の治療や症状の緩和には、胃酸の量を減らすことが重要です。 プロトンポンプとは化学的過程の名称であり、これによって胃から酸が分泌されます。プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を最も強く抑制する薬です。プロトンポンプ阻害薬は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬と比較して、より多くの人で... さらに読む などがあります(胃酸の薬物治療 胃酸の薬物治療 消化性潰瘍、 胃炎、 胃食道逆流症(GERD)などのいくつかの胃の病気には胃酸が関与しています。胃に存在する酸の量は通常、このような病気の患者では正常ですが、胃と腸の損傷の治療や症状の緩和には、胃酸の量を減らすことが重要です。 プロトンポンプとは化学的過程の名称であり、これによって胃から酸が分泌されます。プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を最も強く抑制する薬です。プロトンポンプ阻害薬は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬と比較して、より多くの人で... さらに読む も参照)。プロトンポンプ阻害薬は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬と比較して、より多くの人でより短期間に潰瘍の治癒を促進するため、潰瘍の治療では通常はH2受容体拮抗薬よりもよく使用されます。

潰瘍の原因にかかわらず、胃酸を中和したり減少させることで、消化性潰瘍の治癒が促進されます。大半の患者では治療が4~8週間続けられます。刺激の少ない食事は胃酸の分泌を抑制するのに役立つことがありますが、そのような食事で胃潰瘍の治癒が早くなったり再発を予防できるという証拠はありません。とはいえ、痛みや膨満を悪化させると考えられる食べものを避けることは妥当といえます。非ステロイド系抗炎症薬、アルコール、ニコチンなど、胃を刺激する可能性のある物質を避けることも大切です。

現在では、消化性潰瘍は薬によって効果的に治癒し、活動性出血も内視鏡を使った処置で効果的に止血できるため、潰瘍に対して手術が必要になることはまれです。手術は、主に以下のような消化性潰瘍の合併症に対処するために行われます。

  • 穿孔

  • 閉塞で薬物療法の効果がみられない場合や再発した場合

  • 潰瘍からの大出血が2回以上発生した場合

  • がんと疑われる胃潰瘍

  • 消化性潰瘍が重度でしばしば再発する場合

これらの合併症の治療のために、いくつかの手術が行われることがあります。胃酸の分泌を減少させ、適切な胃の排出を確実に可能にするために手術が行われることもあります。しかし、手術後に潰瘍が再発することもあり、それぞれの手術そのものによって体重減少、消化不良、頻繁な排便(ダンピング症候群 ルーワイ法による胃バイパス術 )、貧血などの問題が起こることもあります。

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