血便がよくみられる症状ですが、がんによって腸がふさがれ、けいれん性の腹痛や嘔吐が生じることがあります。
診断は、ゾンデ法による小腸造影検査、内視鏡検査、バリウムX線検査など様々な腸の観察方法の結果に基づいて下されます。
手術による切除が最善の治療法です。
小腸の悪性腫瘍(がん)は非常にまれで、米国での1年間の発症者数は約11,110人、死亡者数は1700人です。 小腸 小腸 十二指腸は小腸の最初の部分で、胃から食べものが運ばれます。食べものは、幽門(ゆうもん)括約筋を通って、小腸が消化できるように少しずつ十二指腸に送られます。いっぱいになっているときには、十二指腸は食べものを送らないように胃に合図を送ります。 ( 消化器系の概要も参照のこと。) 十二指腸は、 膵臓(すいぞう)から分泌される膵酵素と、 肝臓と 胆嚢(たんのう)から分泌される胆汁を受け取ります。この2種類の消化液は、ファーター膨大部(ぼうだいぶ... さらに読む のがんで最も一般的な種類は腺がんです。腺がんは小腸粘膜の腺細胞に生じるがんです。小腸に クローン病 クローン病 クローン病は、炎症性腸疾患の一種で、一般的には小腸の下部、大腸、またはその両方に慢性炎症が生じますが、炎症は消化管のどの部分にも現れる可能性があります。 正確な原因は分かっていませんが、免疫系の不適切な活性化がクローン病の発生につながっている可能性があります。 典型的な症状としては、慢性の下痢(血性となることもある)、けいれん性の腹痛、発熱、食欲不振、体重減少などがあります。... さらに読む がある場合は、腺がんが発生する可能性が高まります。
まれなタイプの小腸がん
カルチノイド腫瘍 カルチノイド腫瘍とカルチノイド症候群 カルチノイド腫瘍は、ときにホルモン様の物質(セロトニンなど)を過剰に産生して、カルチノイド症候群を引き起こすことのある、良性(がんではない)または悪性(がん)の腫瘍です。カルチノイド症候群は、これらのホルモンの作用により生じる一群の特定の症状を指します。 カルチノイド腫瘍の患者には、けいれん痛と排便の変化が生じることがあります。... さらに読む (神経内分泌腫瘍とも呼ばれます)は、小腸の粘膜を構成する腺細胞から発生します。カルチノイド腫瘍は、しばしばホルモンを分泌して下痢や皮膚の紅潮(体や顔が赤くなる)を引き起こします。一部の腫瘍は手術で摘出することができます。ほかの部位に広がった腫瘍は、ソマトスタチンやエベロリムスなどの薬剤か、放射性ソマトスタチンアナログを静脈から投与する治療法(ペプチド受容体放射性核種療法[PRRT]と呼ばれます)でコントロールすることができます。化学療法や他の薬剤がカルチノイド腫瘍による症状のコントロールに役立つことがあります。
リンパ腫 リンパ腫の概要 リンパ腫とは、リンパ系および造血器官に存在するリンパ球のがんです。 リンパ腫は、 リンパ球と呼ばれる特定の白血球から発生するがんです。この種の細胞は感染を防ぐ役割を担っています。リンパ腫は、主要な白血球であるBリンパ球およびTリンパ球のいずれの細胞からも発生する可能性があります。Tリンパ球は免疫系の調節やウイルス感染に対する防御に重要です... さらに読む (リンパ系のがん)は、小腸の中間部(空腸)または下部(回腸)に発生します。リンパ腫が発生するとその部分が硬く、長くなることがあります。 セリアック病 セリアック病 セリアック病は、小麦や大麦、ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する遺伝性の不耐症であり、小腸の粘膜に特徴的な変化を起こし、 吸収不良が生じます。 タンパク質のグルテンの摂取後に、腸の粘膜に炎症が生じます。 症状としては、成人では下痢、低栄養、体重減少などがあります。 小児でみられる症状としては、腹部膨満、非常に強い悪臭がする大量の便、成長不良などがあります。 診断は、典型的な症状と小腸の粘膜から採取した組織サンプルの検査結果に基づ... さらに読む がありその治療を受けていない場合に、このがんが多くみられます。化学療法と放射線療法は、症状のコントロールと、ときに生存期間の延長に役立ちます。
平滑筋肉腫(平滑筋の細胞から発生するがん)は、小腸壁にできることがあります。手術で平滑筋肉腫を切除した後に化学療法を行うと、生存期間がわずかに延びることがあります。
カポジ肉腫 カポジ肉腫 カポジ肉腫は 皮膚がんの一種で、複数の平坦な皮疹または隆起が皮膚にでき、ピンク色、赤色、または紫色をしています。原因はヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)感染症です。 足の指や脚に1つまたは少数の斑点が現れる場合があり、またあらゆる部位の皮膚や口腔内または陰部にも現れる場合があり、内臓を含む他の部位に転移します。 このがんは外観から確認できることが多いですが、通常は生検も行います。... さらに読む は、内臓を侵すことがある皮膚がんの一種で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染に起因するエイズ患者に発生することがあります。カポジ肉腫は消化管のあらゆる部位で発生しますが、通常は胃、小腸、または結腸に発生します。このがんが消化管に症状を引き起こすことは通常ありませんが、出血、下痢、 腸重積 腸重積 腸重積は、スライドさせて伸ばす望遠鏡のように、腸の一部が別の部分の中にすべり込む病気です。はまり込んだ腸の一部は腸を閉塞させ、血流を遮断します。 通常、腸重積の原因は不明です。 症状は突然発生する腹痛と嘔吐の発作などで、1時間に数回にわたり現れたり消えたりして、その後に血便がみられることもあります。 空気注腸を行うと診断を確定でき、治療にもなります。 手術が必要になることもあります。 さらに読む (スライドさせて伸ばす望遠鏡のように、腸の一部が別の部分の中にすべり込んだ状態)が発生することがあります。カポジ肉腫の治療法は、がんの部位によって異なりますが、手術、化学療法、放射線療法などが行われます。
小腸がんの症状
腺がんによって、 腸管内出血 消化管出血 消化管からの出血は、口から肛門までのどの部分でも起こる可能性があります。出血は肉眼で容易に見える場合(顕性の出血)もあれば、量が少なすぎて見えない場合(潜血)もあります。潜血は、 特別な化学物質を用いて便のサンプルを検査することでしか検出できません。 吐血は、嘔吐物の中に目に見える量の血液が含まれている場合で、上部消化管(通常は食道、胃、... さらに読む が起こり血便として現れたり、腸管が閉塞することがあり、閉塞するとけいれん性の腹痛、腹部のふくらみ(膨隆)、嘔吐が生じることがあります。小腸のがんによって、ときに腸重積が起こります。
小腸がんの診断
ゾンデ法による小腸造影検査
内視鏡検査
ビデオカプセル内視鏡検査
一般的に、ゾンデ法による小腸造影検査が行われます。この検査では、鼻から挿入したチューブを通して大量のバリウム液を流し込み、それが消化管を通る様子をX線撮影します。ときには単純X線撮影の代わりに CT 消化管のCT検査とMRI検査 CT検査( CT検査)とMRI検査( MRI検査)は、腹部臓器の大きさや位置を調べるのに適しています。さらに、これらの検査では悪性腫瘍(がん)や良性腫瘍(がんではない腫瘍)もしばしば検出されます。血管の変化も検出できます。通常、虫垂や憩室などの炎症( 虫垂炎や 憩室炎など)も検出できます。ときに、X線照射や手術のガイド役としてこれらの検査を用いることもあります。 消化管のCT検査とMRI検査では、造影剤(画像検査に写る物質)を投与して、... さらに読む を用いてこの検査を行う場合もあり、その場合は鼻からチューブを挿入せず、バリウムを飲むだけで済みます。
内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器― 内視鏡検査 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。 口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。 肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できま... さらに読む )を口から挿入して十二指腸と空腸の一部(小腸の上部と中央部)まで移動させて腫瘍の位置を確認し、生検(組織サンプルを採取して顕微鏡で調べる検査)を行うことがあります。大腸内視鏡(下部消化管の観察と治療に使用される内視鏡)を肛門から挿入して、大腸を通って回腸まで移動させることで、回腸(小腸の下部)の腫瘍を発見できることもあります。
1つまたは2つの小さなカメラを搭載したワイヤレスかつバッテリー駆動のカプセル(ビデオカプセル内視鏡 ビデオカプセル内視鏡検査 ビデオカプセル内視鏡検査(ワイヤレスビデオ内視鏡検査)とは、バッテリー駆動のカプセルを飲み込んで行う検査法です。このカプセルには1~2個の小さなカメラ、光源、送信器が搭載されています。腸の粘膜の画像が、ベルトや布製ポーチ内に設置した受信機に送信されます。何千もの画像が撮影されます。この検査を行う前の約12時間は、飲食をやめる必要があります。 ビデオカプセル内視鏡検査は、消化管の隠れた出血や、内視鏡では評価が困難な領域である小腸の内面の問... さらに読む )を飲み込んで小腸の腫瘍を撮影することもできます。
ときには、小腸内の腫瘍を特定するために試験開腹が必要になることもあります。
小腸がんの治療
手術による摘出
ほとんどのタイプの小腸がんで、最良の治療は手術による腫瘍の切除です。
内視鏡で腫瘍が確認できる場合は、腫瘍に電流を流したり(電気焼灼術[しょうしゃくじゅつ])、熱を加えたり、高エネルギーの光線を照射したり(レーザー光線療法)して除去することもできます。
手術後に化学療法と放射線療法を行っても生存期間は延長できません。