うっ滞性皮膚炎

執筆者:Thomas M. Ruenger, MD, PhD, Georg-August University of Göttingen, Germany
レビュー/改訂 2021年 2月
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うっ滞性皮膚炎は,慢性浮腫によって典型的には下腿の皮膚に炎症が生じる疾患である。症状はそう痒,鱗屑,および色素沈着である。合併症として潰瘍形成が生じることがある。診断は臨床的に行う。治療は浮腫の原因に対して行い,潰瘍形成を予防する。

皮膚炎の定義も参照のこと。)

うっ滞性皮膚炎は,例えば慢性静脈不全症右心不全リンパ浮腫などにより慢性浮腫が起きている患者に発生する。毛細血管圧の上昇とそれに続く微小血管の内皮の破綻によりフィブリンの漏出が生じ,上皮のバリア機能の破綻により局所の炎症が生じる。うっ滞性皮膚炎は脛部に生じることが最も多いが,腋窩リンパ節への放射線療法後の上肢など,慢性浮腫のある他の部位に生じることもある。

うっ滞性皮膚炎は,うっ滞性皮膚炎を合併することが多い慢性静脈不全症や下肢潰瘍と同様に,ときに様々な外用薬で治療される。そのため,うっ滞性皮膚炎はしばしば接触皮膚炎を合併する(1)。

総論の参考文献

  1. 1.Erfurt-Berge C, Geier J, Mahler V: The current spectrum of contact sensitization in patients with chronic leg ulcers or stasis dermatitis: New data from the Information Network of Departments of Dermatology (IVDK).Contact Dermatitis 77(3):151–158, 2017.doi: 10.1111/cod.12763

うっ滞性皮膚炎の症状と徴候

うっ滞性皮膚炎に典型的な臨床像としては,そう痒,境界不明瞭な紅斑,鱗屑,苔癬化などがあり,脛部で最もよくみられる。一般的には細菌の重複感染による,滲出性で痂皮を伴うことの多い局面もみられる。

慢性静脈不全症が原因の場合にみられるその他の臨床像としては通常,下肢静脈瘤,purpura jaune d'ocre(真皮におけるヘモジデリン沈着による黄褐色の変色),硬化性脂肪織炎(脂肪織炎に起因する皮下脂肪の硬化で,sclerosing panniculitisとも呼ばれる)などがあり,腓腹部が太くなり,足関節が細くなることで,下腿が逆さ向きのボウリングのピンに似た形態となる。

うっ滞性皮膚炎の臨床像
うっ滞性皮膚炎(慢性的変化)
うっ滞性皮膚炎(慢性的変化)
慢性のうっ滞性皮膚炎は,線維化を伴う皮膚の肥厚と色素沈着として生じることがある。これらの変化は,皮膚の色が薄い患者(上)と皮膚の色が濃い患者(下)のいずれでも特徴的であり,ここでは下の写真の方がより著明に現れている。

Images provided by Thomas Habif, MD.

静脈うっ滞性潰瘍
静脈うっ滞性潰瘍
この写真では,中心部に大きな滲出性のびらんがみられ,慢性の下肢潰瘍に進行するリスクが高い。周囲に静脈不全の慢性変化と,色素沈着ならびに皮膚の肥厚および線維化を伴っている。

Roberto A.Penne-Casanova/SCIENCE PHOTO LIBRARY

うっ滞性皮膚炎(潰瘍)
うっ滞性皮膚炎(潰瘍)
静脈うっ滞性潰瘍は,うっ滞性皮膚炎の治療が不十分であった結果として発生するが,うっ滞性皮膚炎の最初の徴候のすぐ後に生じることもある。

Image provided by Thomas Habif, MD.

うっ滞性皮膚炎の診断

  • 臨床的評価

うっ滞性皮膚炎の診断は,皮膚病変の特徴的な外観と慢性の下肢の腫脹および静脈不全の他の徴候に基づいて臨床的に行う。血管専門医へのコンサルテーションと検査(ドプラ超音波検査など)が必要になることがある。

うっ滞性皮膚炎の治療

  • 腫脹の原因の治療

  • 圧迫と挙上

  • 合併症(例,二次感染,アレルギー性接触皮膚炎,潰瘍)の治療

慢性の腫脹の原因を可能な限り是正すべきである。下肢の挙上および圧迫がしばしば適応となる。慢性静脈不全症を治療すべきである。

さらに,びらんを伴わないうっ滞性皮膚炎は,しばしば中力価のコルチコステロイドの外用(例,トリアムシノロンアセトニド0.1%クリームまたは軟膏)で軽快する。びらんを伴う(滲出性の)病変には,ハイドロコロイドのドレッシング材が最善となる可能性がある。

潰瘍には圧迫と通常のドレッシング(例,亜鉛華糊膏)による治療が最善であるが,その他のドレッシング(例,ハイドロコロイド)も効果的である( see also page 直接的な創傷ケア)。外来患者の潰瘍は,汚れになりにくい亜鉛ゼラチンの包帯であるウンナブーツ(亜鉛ゼラチン),またはコロイドタイプのドレッシング材(いずれも市販されている)で治癒が期待できる。コロイドタイプのドレッシング材を弾性ストッキングの下に入れて使用すれば,ウンナブーツより効果的である。ドレッシングは2日毎または3日毎に交換が必要なこともあるが,浮腫が消退して潰瘍が治癒すれば,週1回または2回で十分である。潰瘍が治癒した後は,朝起床する前に弾性ストッキングを装着させるべきである。使用するドレッシング材にかかわらず,浮腫の軽減(通常は圧迫を加えて達成する)が治癒に極めて重要である。

蜂窩織炎を合併している場合は,抗菌薬(例,セファロスポリン系,ジクロキサシリン)の内服により治療する。びらんおよび潰瘍の治療には抗菌薬の外用薬(例,ムピロシン,スルファジアジン銀)が有用である。浮腫および炎症が沈静化してからは,大きな潰瘍に対して分層皮膚移植が必要になる場合がある。

配合または複数の外用薬やOTC医薬品は使用すべきではない。うっ滞性皮膚炎の皮膚は,直接的な刺激物や潜在的に感作能をもつ外用薬(例,抗菌薬,麻酔薬,外用薬の基剤[特にラノリンまたはウールアルコール])の影響を受けやすい。

うっ滞性皮膚炎の要点

  • うっ滞性皮膚炎は慢性浮腫により生じ,脛部で最もよくみられる。

  • 徴候としては,紅斑,落屑,そう痒,苔癬化などのほか,滲出性のびらんや痂皮形成がみられることもある。

  • 合併症としては,二次感染,潰瘍,接触過敏症などがある。

  • 挙上と圧迫が必要になることが多い。

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