鳥インフルエンザ

(鳥インフル;Bird Flu)

執筆者:Brenda L. Tesini, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry
レビュー/改訂 2021年 9月
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鳥インフルエンザは,通常は野鳥や家禽類だけに感染する一部の株のA型インフルエンザによって引き起こされる。それらの株の一部による感染がヒトにおいて検出されている。ヒトからヒトへの伝播は限定的で,ほとんどの症例は動物(典型的には家禽)から感染したものである。

インフルエンザも参照のこと。)

これまでにヒト感染症を引き起こした鳥インフルエンザの亜型は,大半がH5,H7,H9ウイルスである。ヒトにおける鳥インフルエンザの症例のほとんどはアジア株のH5N1とH7N9によるものであるが,その他の亜型もヒトへの感染を引き起こしている。鳥インフルエンザ感染症は野鳥においては無症候性であることが多いが,家禽では致死率の高い疾患を引き起こすことがある。

H1またはH3以外のA型インフルエンザウイルスによるヒト感染症は,全症例の報告が義務づけられている。

ヒトにおけるH5N1の最初の症例は1997年に香港で発見された,多くの患者で重度の呼吸器症状がみられ,その死亡率は高かった。家禽の集団処分によってヒトへの拡大は阻止された。しかしながら,2003年および2004年にヒトのH5N1感染症が再び発生し,現在も主にアジアと中東において,ときおり症例の報告が続いており,2017年にはエジプトで数例の重症例が報告された。2019年には,ネパールにおいてヒトへの感染が1例確認された。2003年以来,ヒトへの感染は800例以上確認されている。

2014年以降では,H5N6のヒトへの感染が24例確認されているが,それらはいずれも中国本土で発生したものである。2019年には1例のヒト感染が確認されている。

2013年の始めには,中国南東部のいくつかの省で,ヒトにおけるH7N9鳥インフルエンザの大規模なアウトブレイクが発生した。およそ3分の1の症例が死に至ったが,重大な疾患を発症したのは典型的には高齢者のみであった。限られた範囲でヒトからヒトへの伝播が起きた証拠はあったものの,持続的なヒト-ヒト感染は起きなかった。ヒトへの感染は,家庭での消費用に生きた家禽を販売する生鮮市場において,感染した鳥に直接曝露することにより起きると考えられた。このアウトブレイクは2013年晩春にピークを迎え,(一部には市場が閉鎖されたことにより)鎮静化したが,その後初秋に再び発生した。季節的なアウトブレイクは,典型的には旧正月の祝賀用に家禽類の取引量が増加するのに対応して発生している。

中国でのヒトにおけるH7N9鳥インフルエンザの第6波は2016~2017年にピークに達し,800例近くの症例が報告された。2013年以降,世界では1500例を超えるヒト症例と少なくとも615例の死亡が世界保健機関(World Health Organization)に報告されている(1)。アジア型H7N9鳥インフルエンザの症例は,中国本土以外でも報告されているが,それらの患者も大半が発症前に中国本土に旅行していた。2019年に中国本土で確認された症例は1例のみであった。

カナダでのH7N3,オランダでのH7N7,中国でのH7N4およびH9N2,2019年1月に報告されたインド初のH9N2の症例など,他の鳥インフルエンザ株によるヒト感染症も散発的に発生している。

海洋哺乳類も鳥インフルエンザ株に感染する可能性があり(例,ゼニガタアザラシでのH10N7),それに続くヒトへの感染が報告されている。

家禽は野鳥と比べてヒトと接触する機会が多く,ウイルスをヒトに伝播させる可能性が高いことから,野鳥から家禽への拡散を防止するべく,中国ではH5およびH7インフルエンザウイルスに対する家禽への予防接種が積極的に行われている。

鳥インフルエンザウイルスは,その抗原特異性にかかわらず,変異を起こして気道内のヒト特異的な受容体部位に付着できるようになりさえすれば,ヒトにおいてインフルエンザを引き起こすようになると考えられる。全てのインフルエンザウイルスは急速に遺伝子変化を起こす可能性があるため,より容易にヒトからヒトへと拡散する能力を獲得する可能性があり,それは直接的な変異を介して生じる場合もあれば,宿主であるヒト,動物,トリの体内でウイルスが複製される際にヒト株との間で遺伝子再集合(reassortment)が起こることで生じる場合もある。それらのウイルス株がヒトからヒトへと効率よく伝播する能力を獲得すれば,インフルエンザのパンデミックが起こる可能性があると,多くの専門家が危惧している。

サーベイランスデータによると,鳥インフルエンザ感染症の多くは軽度の呼吸器症状を引き起こすのみで,無症状の場合もある。ただし,H5N1,H5N6,およびH7N9のクラスターでは致死率の高い(25~69%)重症肺炎が報告されている。

総論の参考文献

  1. 1.World Health Organization: Influenza at the human-animal interface: Summary and assessment, 26 November 2019 to 20 January 2020.Accessed 2/28/2020.

鳥インフルエンザの症状と徴候

鳥インフルエンザの臨床像は季節性インフルエンザの臨床像と同じであるが,その重症度と致死率は,ウイルス株によって大きなばらつきがあるものの,季節性インフルエンザより高い傾向がある。

鳥インフルエンザの診断

  • 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法

感染が判明している個人に接触した患者や鳥インフルエンザの流行地域の鳥に曝露した患者で,この感染症に一致する臨床症候群がみられる場合は,本疾患をすぐに考慮すべきである。家禽からヒトへのウイルス伝播が進行している地域(例,H5N1では,エジプト,インドネシア,ベトナム)への近年の旅行歴に加え,鳥類または感染者への曝露歴がある場合は,鼻腔または咽頭拭い液を用いたRT-PCR法によるA型インフルエンザの検査を速やかに行うべきである。下気道症状のある患者では喀痰,気管吸引液,または気管支肺胞洗浄液から検体を採取できる。これらの高病原性ウイルスには特別な措置が必要であるため,培養を試みるべきではない。

米国では,疑い例と確定症例は疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)に報告する。

鳥インフルエンザの治療

  • ノイラミニダーゼ阻害薬

オセルタミビルまたはザナミビル(ノイラミニダーゼ阻害薬)を通常量で使用する治療が適応となる。

H7N9およびH5N1ウイルスは,初期の抗ウイルス薬であるアマンタジンとリマンタジンに対して耐性をもっており,オセルタミビルに対する耐性や感受性低下も報告されている。

抗ウイルス薬のバロキサビルも,様々な鳥インフルエンザウイルスに対してin vitroで活性を示しているが,現在のところ臨床データは十分に得られていない。

要点

  • 鳥インフルエンザは主に鳥に疾患を引き起こすが,鳥インフルエンザウイルスの中にはヒトで重度の呼吸器疾患や死亡を引き起こす株がいくつか存在する。

  • ヒトの感染症は,典型的には感染した鳥から伝播したものであるが,ヒトからヒトへの伝播も起こっている。

  • 全てのインフルエンザウイルスは急速に遺伝子変化を起こす可能性があるため,より容易にヒトからヒトへと拡散する能力を獲得して,深刻なパンデミックを引き起こす可能性がある。

  • これらのウイルスは病原性が高く,特別な措置が必要であるため,培養すべきではない。

  • オセルタミビルまたはザナミビルを通常量で使用して治療する。

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