米国では,毎年約160,000例の肥満外科手術が行われる。より安全な腹腔鏡的アプローチが開発されたことで,この手術はより広く普及した。
(肥満 肥満 肥満とは,体重が過度に重い状態であり,BMI(body mass index)が30kg/m2以上である場合と定義されている。合併症として,心血管疾患(特に過剰な腹部脂肪のある人),糖尿病,特定のがん,胆石症,脂肪肝,肝硬変,変形性関節症,男女の生殖障害,精神障害,およびBMIが35以上の人での若年死などがある。診断... さらに読む も参照のこと。)
肥満外科手術の適応
肥満外科手術の適応と判断するには,患者が以下を満たしている必要がある:
BMI(body mass index)が40kg/m2を超えているか,またはBMIが35kg/m2を超えていることに加えて重篤な合併症(例, 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む , 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む , 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,および難治例では手術による。治療を行えば予後は良好である。ほとんどの症例は未診断かつ未治療の... さらに読む , 高リスクの脂質プロファイル 脂質異常症 脂質異常症とは,血漿コレステロール,トリグリセリド(TG)値,もしくはその両方が高値であること,またはHDLコレステロールが低値であることであり, 動脈硬化発生に寄与する。原因には原発性(遺伝性)と二次性とがある。診断は,総コレステロール,TG,および各リポタンパク質の血漿中濃度測定による。治療は食習慣の変更,運動,および脂質低下薬である。 ( 脂質代謝の概要も参照のこと。)... さらに読む )がある
手術のリスクが許容できるものである
十分に情報を提供されており,意欲がある
減量および肥満に関連する合併症の管理のために手術以外の妥当な方法を全て試みたが,いずれも不成功に終わった
また,BMIが30~34.9の2型糖尿病患者で,至適な生活習慣と薬物療法にもかかわらず血糖コントロールが十分に得られない場合にも,肥満外科手術を考慮すべきである(1 適応に関する参考文献 肥満外科手術は,減量を目的として胃,腸管,またはその両方に外科的に改変を加える治療である。 米国では,毎年約160,000例の肥満外科手術が行われる。より安全な腹腔鏡的アプローチが開発されたことで,この手術はより広く普及した。 ( 肥満も参照のこと。) 肥満外科手術の適応と判断するには,患者が以下を満たしている必要がある: BMI(body mass index)が40kg/m2を超えているか,またはBMIが35k... さらに読む )。
禁忌としては以下のものがある:
うつ病などのコントロール不良の精神障害
現在薬物またはアルコールの乱用がある
寛解状態にないがん
生命を脅かす他の疾患
生涯にわたるビタミン補充(適応となる場合)を含む栄養所要量を遵守できない
適応に関する参考文献
1.Mechanick JI, Apovian C, Brethauer S, et al: Clinical practice guidelines for the perioperative nutrition, metabolic, and nonsurgical support of patients undergoing bariatric procedures – 2019 update: cosponsored by American Association of Clinical Endocrinologists/American College of Endocrinology, The Obesity Society, American Society for Metabolic & Bariatric Surgery, Obesity Medicine Association, and American Society of Anesthesiologists..Article in Press, 2019.doi:10.4158/GL-2019-0406.
肥満外科手術の手技
米国で行われる最も一般的な手技には以下のものがある:
ほとんどの手術は腹腔鏡下で施行され,開腹下より疼痛が少なく,回復期間が短い。肥満外科手術は従来から,推定される体重減少の機序に照らして,摂食量を制限するもの(restrictive)と吸収を抑制するもの(malabsorptive)に分類されている。しかし,その他の因子も体重減少に寄与すると考えられ,例えば,RYGB(従来から吸収を抑制するものに分類)とスリーブ状胃切除術(従来から摂食量を制限するものに分類)はともに,満腹感および体重減少に有利に働く代謝またはホルモンの変化と, 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む の急速な寛解に寄与するとみられる他のホルモンの変化(例,インスリン放出の増加[インクレチン効果])をもたらす。
RYGB(特にこちら)またはスリーブ状胃切除術の施行後には,グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)やペプチドYY(PYY)などの消化管ホルモンの血中濃度が上昇するが,これは満腹感,体重減少,および糖尿病の寛解に寄与する可能性がある。インスリン感受性の増加は,有意な体重減少がみられる前の手術直後から明白となり,神経ホルモンの因子が糖尿病の寛解に重要であることが示唆される。腸内細菌叢の変化も,RYGB施行後の体重変化の一因になる可能性がある。
Roux-en-Y 法
RYGBは通常は腹腔鏡下で行う。近位胃の小部分を残りの部分から分離して,30mL未満の胃嚢を作る。また,食物が正常時に吸収の場となる胃の一部と小腸を迂回し,そのため吸収される食物およびカロリーの量が減少する。胃嚢は近位空腸に結合する;開口部は狭く,胃排出の速度を制限する。バイパスされた胃とつながっている小腸部分は,遠位小腸に結合する。この配置により胆汁酸と膵酵素が消化管内容物と混ざり,吸収不良および栄養欠乏が抑えられる。
RYGBは 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む の治療に特に効果的であり,6年後の寛解率は最大62%である。
RYGBを受けたことのある多くの患者は,脂肪および糖分を多く含有する食物を摂取するとダンピング症候群が起こることがあり,その症状としては,ふらつき,発汗,悪心,腹痛,下痢などがある。ダンピング症候群では,有害な条件付けによって,そのような食物の摂取が妨げられると考えられる。
Roux-en-Y法による胃バイパス術
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スリーブ状胃切除術
スリーブ状胃切除術はかつて,RYGBや胆膵バイパス術(例,BMIが60を超える患者)などの術式ではリスクが高過ぎると判断された場合に限って,典型的にはそれらの術式または他の類似する術式による手術を行う前に施行されていた。しかしながら,スリーブ状胃切除術は大幅かつ持続的な体重減少をもたらすことから,現在の米国では重度肥満に対する根治的治療として用いられている。胃の一部を切除し,管状の胃の通路を形成する。この手技は,小腸への解剖学的変化を伴わない。
超過体重減少率の平均値は,調節性胃バンディング術の場合よりも大きい傾向がある。スリーブ状胃切除術は従来から摂取量を制限する手術に分類されているが,体重減少はおそらく神経ホルモンの変化とも関連している。
最も重篤な合併症は,胃の縫合線からの漏出であり,患者の1~3%に生じる。
調節性胃バンディング術
調節性胃バンディング術の施行は,米国では劇的に減少している。胃の上部の周囲にバンドを留置し,胃を上部の小さな袋と下部の大きな袋に分割する。一般的には,皮下に埋め込んだポートを介して,バンド内に生理食塩水を注入することによって,4~6回バンドを調整する。生理食塩水を注入すると,バンドが膨張し,胃の上部の小袋を締めつける。その結果,小袋に貯留できる食物の量が極めて少なくなり,患者はよりゆっくり食事するようになり,より早期に満腹感が生じる。この手術は通常は腹腔鏡下で行う。合併症が起こった場合,またはバンドを締めつけ過ぎた場合は,生理食塩水をバンドから取り除くことができる。
バンドによる体重減少は様々であり,フォローアップの頻度と関連する;フォローアップの頻度が高いほど,大きな体重減少をもたらす。術後の罹病率および死亡率はRYGBより低いが,再手術を含む長期的な合併症の可能性がより高く,最大15%の患者に起こる可能性がある。
調節性胃バンディング術
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十二指腸スイッチを伴う胆膵バイパス術
この手術は,米国で行われる肥満外科手術の5%未満を占める。
胃の一部を除去することで,摂取量が制限される。残りの部分は十二指腸に流入する。十二指腸を切断して回腸に結合し,Oddi括約筋(胆汁酸および膵酵素が流入する場所)を含む小腸の大部分をバイパスする;結果として食物の吸収が減少する。この手技は高度な技術を要するが,ときに腹腔鏡下で施行できる。
吸収不良および栄養欠乏が生じることが多い。
垂直遮断胃形成術
垂直遮断胃形成術は合併症発生率が高く,もたらされる体重減少が不十分であるため,もはや一般的には施行されていない。この術式では,ステープラーを用いて,胃を上部の小さな袋と下部の大きな袋に分割する。上部の袋から下部の袋へと流入する開口部の周囲に,伸縮しないプラスチックバンドを留置する。
肥満外科手術の術前評価
術前評価は以下で構成される:
可能な限り併存疾患を診断して是正すること
生活習慣の改善に取り組む準備状況と能力を評価すること
手術に対する禁忌を排除すること
術後の食事の見直しと,患者が必要な生活習慣の改善を行えるかどうかの栄養士による評価
心理士または資格を有する他の精神医療従事者による,コントロールできない精神障害や手術を妨げる依存症の同定,手術後の生活習慣の改善に対するアドヒアランスを阻みうる要因の同定および話合い
広範な術前評価は必ずしもルーチンに必要ではないが,臨床所見に基づく術前検査が必要になることがあり,特定の病態(例,高血圧)を管理するまたはそのリスクを下げる対策をとることもある。
肺:臨床上の疑いに基づく 閉塞性睡眠時無呼吸 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,および難治例では手術による。治療を行えば予後は良好である。ほとんどの症例は未診断かつ未治療の... さらに読む 症候群のリスクがある患者には, 睡眠ポリグラフ検査 検査 によるスクリーニングを行うべきであり,閉塞性睡眠時無呼吸症候群がみられる場合は,持続陽圧呼吸療法(CPAP)で治療すべきである。この診断は,心血管疾患の罹患および若年死のリスクを示す。 喫煙 タバコ タバコ使用は,個人的にも公衆的にも重大な健康問題である。依存は急速に発生する。主な影響としては,心血管疾患,肺癌やその他多くの種類のがん,COPD(慢性閉塞性肺疾患),その他の疾患による若年死および罹病がある。喫煙する全ての患者には 禁煙介入を勧めるべきである。 米国におけるタバコの使用率は過去50年間で減少しているが,人口増加により,喫... さらに読む は,術後の肺合併症,潰瘍,および消化管出血のリスクを増加させる。周術期合併症を最小限に抑えるため,喫煙は手術の少なくとも6週間前(1年前が望ましい)から,さらに術後も無期限にやめさせるべきである。
心臓:たとえ無症状の患者でも,潜在する 冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血, 狭心症, 急性冠症候群( 不安定狭心症, 心筋梗塞), 心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の... さらに読む を同定するため,個人のリスクに対して妥当と判断される場合には,術前の心電図検査とその他の非侵襲的な心機能検査を考慮する。肥満は 肺高血圧症 肺高血圧症 肺高血圧症は,肺循環における血圧の上昇である。肺高血圧症には二次性の原因が数多く存在し,中には特発性の症例もある。肺高血圧症では,肺の血管が収縮かつ/または閉塞する。重症の肺高血圧症は,右室への過負荷および右室不全を引き起こす。症状は,疲労,労作時呼吸困難であり,ときに胸部不快感および失神がみられる。肺動脈圧の上昇を証明することで診断がつ... さらに読む のリスクを増加させるが,心エコー検査はルーチンには行わない。その他の心機能検査はルーチンには行わず,むしろ個々の患者の冠動脈疾患の危険因子,手術のリスク,および身体機能状態に基づいて行う。手術前に血圧を至適レベルでコントロールしておくべきである。周術期には, 急性腎障害 急性腎障害(AKI) 急性腎障害は,数日間から数週間で腎機能が急速に低下する病態であり,これにより,尿量減少の有無にかかわらず,血中に窒素化合物が蓄積する(高窒素血症)。原因は重度の外傷,疾患,または手術による腎臓の灌流低下である場合が多いが,ときに急速進行性の内因性の腎疾患に起因する場合もある。症状としては,食欲不振,悪心,嘔吐などがある。無治療の場合,痙攣... さらに読む のリスクが高まることから,その間は必要に応じて利尿薬,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を慎重に使用すべきである。
消化管:臨床的に有意な消化管症状がみられる患者には,術前に内視鏡検査または消化管画像検査を施行すべきである。吻合部潰瘍のリスクを減らすために,医師が Helicobacter pylor感染症 Helicobacter pylori感染症 Helicobacter pyloriは,胃炎,消化性潰瘍,胃腺癌,および低悪性度胃リンパ腫の原因となる一般的な胃の病原菌である。感染は無症候性または様々な程度の消化不良を引き起こす可能性がある。診断は尿素呼気試験,便抗原検査,および内視鏡下生検検体の検査による。治療は,プロトンポンプ阻害薬と2種類の抗菌薬の併用による。 ( 胃酸分泌の概要および 胃炎の概要も参照のこと。)... さらに読む の検査および治療を行うことがあるが,そのような治療を術前に行う必要性に関するエビデンスには一貫性がない。
肝臓:肝酵素(特にアラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT])の増加は,肥満外科手術の適応がある患者でよくみられ, 脂肪肝 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) 脂肪肝とは,肝細胞内に脂質が過度に蓄積した状態である。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)には単純な脂肪浸潤(脂肪肝と呼ばれる良性の病態)が含まれるのに対し,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は脂肪沈着があって脂肪毒性および肝細胞の炎症性傷害が生じている場合と定義される。組織学的にNASHをアルコール性肝炎と鑑別するのは困難である。したがって,NASHと診断するには,背景因子としての飲酒を除外する必要がある。単純性脂肪肝をNASHと... さらに読む を示唆している可能性がある。肝酵素値が臨床的に有意かつ持続的に上昇している場合は評価を行うべきであり, 脂肪肝 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) 脂肪肝とは,肝細胞内に脂質が過度に蓄積した状態である。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)には単純な脂肪浸潤(脂肪肝と呼ばれる良性の病態)が含まれるのに対し,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は脂肪沈着があって脂肪毒性および肝細胞の炎症性傷害が生じている場合と定義される。組織学的にNASHをアルコール性肝炎と鑑別するのは困難である。したがって,NASHと診断するには,背景因子としての飲酒を除外する必要がある。単純性脂肪肝をNASHと... さらに読む の結果とは考えずに,肝酵素値異常にそれ以外の原因がないか調べるべきである。肥満外科手術の際に予防的胆嚢摘出術(胆石症 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む のリスクを減少させるため)を併施する計画がある場合は,肝超音波検査を行うことがある。
代謝性骨疾患:肥満患者には, ビタミンD欠乏症 ビタミンD欠乏症および依存症 日光への曝露が不十分であると,ビタミンD欠乏症が起こりやすくなる。欠乏症により,骨石灰化が障害され,小児ではくる病,成人では骨軟化症が引き起こされ,また骨粗鬆症の一因となる可能性がある。診断では,血清25(OH)D(D2およびD3)の測定を行う。治療としては通常,ビタミンDを経口投与し,必要に応じてカルシウムおよびリンを補給する。しばしば予防が可能である。まれに,遺伝性疾患によりビタミンDの代謝障害(依存症)が起こる。... さらに読む および代謝性骨疾患のリスクがあり,ときに二次性副甲状腺機能亢進症を伴う。特にビタミンD欠乏症が術前によくみられ,術後に吸収不良が発生するため,術前にこれらの疾患のスクリーニングを行い治療すべきである。
糖尿病:管理不良の 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む は,有害な手術結果のリスクを高めるため,術前に血糖コントロールを最適化すべきである。入院期間の短縮と肥満外科手術の成績改善を予測しうる術前血糖コントロールに対応するHbA1cの妥当な目標範囲は6.5~7.0%である。
栄養:肥満患者には栄養欠乏のリスクがあり,食事の好みおよび耐性が変化し,胃の酸性度が変わり,小腸からの吸収が減少するため,術後に栄養欠乏が増悪することがある。ビタミンD,ビタミンB12,葉酸,および鉄の濃度のルーチンの測定が推奨される。特定の患者に対して,チアミン(ビタミンB1)など,他の栄養素の濃度測定も適応となることがある。
生殖面の健康:妊娠可能年齢の女性には,術後に妊孕性が改善する可能性があることを忠告すべきである。該当する女性は,肥満外科手術の前後に用いる避妊法の選択についてカウンセリングを受けるべきであり,術前と術後12~18カ月間は妊娠を避けるべきである。吸収を抑制する手術を受ける患者は,栄養サーベイランスと栄養素の欠乏を調べる臨床検査をトリメスター毎に受けるべきである。
肥満外科手術のリスク
周術期のリスクは,肥満外科手術を公認の施設で行う場合に最も低い。
合併症としては以下のものがある:
胃および/または吻合部の漏出(1~3%)
心筋梗塞
創傷感染症
瘢痕ヘルニア
消化管出血
腹壁ヘルニア
これらの合併症は,重大な病態,入院期間の延長,および費用の増加の原因となることがある。頻脈が吻合部からの漏出の唯一の初期徴候となることがある。
後期の問題には, 小腸閉塞 腸閉塞 腸閉塞は,腸の閉塞を引き起こす病態によって,腸内容の腸管内通過の有意な機械的障害または完全停止が引き起こされた状態である。症状としては痙攣痛,嘔吐,重度で持続性の便秘,放屁の消失などがある。診断は臨床的に行い,腹部X線検査により確定する。治療は,輸液蘇生および経鼻胃管吸引により行い,完全閉塞のほとんどの症例で手術を施行する。 ( 急性腹痛も参照のこと。) 機械的閉塞は,小腸閉塞(十二指腸を含む)と大腸閉塞に分類される。閉塞は,部分または... さらに読む および吻合部狭窄に続発する長期の悪心および嘔吐がある。
栄養欠乏(例, タンパク質-エネルギー低栄養 タンパク質-エネルギー低栄養 以前はタンパク質-エネルギー栄養障害と呼ばれたタンパク質-エネルギー低栄養(PEU)は,全ての多量栄養素の欠乏によるエネルギー欠乏である。一般的に多くの微量栄養素の欠乏もみられる。PEUには,突然かつ完全なもの(飢餓),または徐々に進行するものがある。重症度は,治療を必要としない欠乏から明らかな消耗(浮腫,脱毛,および皮膚萎縮を伴う),さらに飢餓状態まで様々である。複数の器官系が障害されることが多い。診断では通常,血清アルブミンを含む臨... さらに読む , ビタミンB12欠乏症 ビタミンB12欠乏症 食事によるビタミンB12欠乏症は通常,不十分な吸収に起因するが,ビタミンサプリメントを摂らない完全菜食主義者に欠乏症が生じることがある。欠乏症により,巨赤芽球性貧血,脊髄および脳の白質への障害,ならびに末梢神経障害が起こる。診断は通常,血清ビタミンB12値の測定によって行う。シリング試験が病因の特定に役立つ。治療はビタミンB12の経口または静脈内投与による。葉酸塩(葉酸)は,貧血を軽減することがあるが,神経脱落症状を進行させることがある... さらに読む , 鉄欠乏症 鉄欠乏症 鉄(Fe)はヘモグロビン,ミオグロビン,および体内の多数の酵素の成分である。主に動物性食品に含まれるヘム鉄は,平均的な食事中の鉄分の85%超を占める非ヘム鉄(例,植物および穀物に含まれる)よりもはるかに吸収がよい。しかし,非ヘム鉄は,動物性タンパク質およびビタミンCと一緒に摂取すると吸収が増大する。 ( ミネラル欠乏症および中毒の概要も参照のこと。) 鉄欠乏症は,世界的に最も一般的なミネラル欠乏症の一種である。以下の結果として起こること... さらに読む )が,不十分な摂取,不十分な補給,または吸収不良の結果,起こることがある。悪臭を放つ鼓腸,下痢,またはその両方が発生することがある(特に吸収を抑制する手術の後で)。カルシウムおよびビタミンDの吸収が障害されることがあり,欠乏症ならびにときに 低カルシウム血症 高カルシウム血症 高カルシウム血症とは,血清総カルシウム濃度が10.4mg/dL(2.60mmol/L)を上回るか,または血清イオン化カルシウム濃度が5.2mg/dL(1.30mmol/L)を上回った状態である。主な原因には副甲状腺機能亢進症,ビタミンD中毒,がんなどがある。臨床的特徴としては多尿,便秘,筋力低下,錯乱,昏睡などがある。診断は,イオン化カルシウムおよび副甲状腺ホルモンの血清中濃度測定による。カルシウムの排泄を増強し骨のカルシウム吸収を抑制... さらに読む および二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こす。長期にわたる嘔吐に伴って, チアミン欠乏症 チアミン欠乏症 チアミン欠乏症(脚気を引き起こす)は,白米または高度に精製された炭水化物を常食としている発展途上国の人,およびアルコール依存症患者で最もよくみられる。症状としては,びまん性の多発神経障害,高拍出性心不全,ウェルニッケ-コルサコフ症候群などがある。欠乏症の診断および治療を補助するために,チアミンが投与される。 チアミンは食事から,特に全粒穀類,肉(特に豚肉およびレバー),栄養強化シリアル製品,ナッツ類,豆類,およびイモ類(... さらに読む が起こることがある。
逆流の症状がみられることがある(特にスリーブ状胃切除術の後で)。急速に体重が減少する間に, 胆石症 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む (しばしば症状を伴う), 痛風 痛風 痛風は,高尿酸血症(血清尿酸値が6.8mg/dL[0.4mmol/L]を超える状態)により尿酸一ナトリウム結晶が関節内と関節周囲に析出する疾患であり,ほとんどの場合,急性または慢性関節炎が繰り返し発生する。痛風の最初の発作は通常は単関節性であり,第1中足趾節関節を侵すことが多い。痛風の症状としては,重度の急性疼痛,圧痛,熱感,発赤,腫脹などがある。確定診断には滑液中での結晶の同定が必要である。急性発作の治療は抗炎症薬による。非ステロイド... さらに読む ,および 腎結石症 尿路結石 尿路結石とは,泌尿器系内に存在する固形の粒子のことである。結石は疼痛,悪心,嘔吐,および血尿を引き起こすことがあるほか,続発性の感染から悪寒および発熱がみられることもある。診断は尿検査および放射線学的検査のほか,通常は単純ヘリカルCTに基づく。治療は鎮痛薬,感染に対する抗菌薬療法,および薬剤による排石促進療法のほか,ときに衝撃波砕石術また... さらに読む が発生することがある。
肥満外科手術を受ける患者では, うつ病 抑うつ障害群 抑うつ障害群は,機能を妨げるほどの重度または持続的な悲しみと興味または喜びの減退を特徴とする。正確な原因は不明であるが,おそらくは遺伝,神経伝達物質の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的因子が関与する。診断は病歴に基づく。治療は通常,薬物療法,精神療法,またはその両方のほか,ときに電気痙攣療法または高頻度経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)から成る。 うつ病という用語は,しばしばいくつかの抑うつ障害群のいずれかを指して用いられる。一部... さらに読む などの精神障害の発生率が高い。2016年のメタアナリシスでは,術前にうつ病が多いことが確認され,術後にはうつ病の有病率と重症度が低下したと報告された(1 リスクに関する参考文献 肥満外科手術は,減量を目的として胃,腸管,またはその両方に外科的に改変を加える治療である。 米国では,毎年約160,000例の肥満外科手術が行われる。より安全な腹腔鏡的アプローチが開発されたことで,この手術はより広く普及した。 ( 肥満も参照のこと。) 肥満外科手術の適応と判断するには,患者が以下を満たしている必要がある: BMI(body mass index)が40kg/m2を超えているか,またはBMIが35k... さらに読む )。ある大規模研究では,肥満外科手術を受けた患者の自殺リスクが対照群と比較して高いことが示唆された(1万人年当たり2.7 vs 1.2;ハザード比1.71 [0.69-4.25];P値 = 0.25 [ 2 リスクに関する参考文献 肥満外科手術は,減量を目的として胃,腸管,またはその両方に外科的に改変を加える治療である。 米国では,毎年約160,000例の肥満外科手術が行われる。より安全な腹腔鏡的アプローチが開発されたことで,この手術はより広く普及した。 ( 肥満も参照のこと。) 肥満外科手術の適応と判断するには,患者が以下を満たしている必要がある: BMI(body mass index)が40kg/m2を超えているか,またはBMIが35k... さらに読む ])。肥満外科手術の後には アルコール使用障害 アルコール使用障害とリハビリテーション アルコール使用障害では,飲酒のパターンが生じ,典型的には渇望と耐性(tolerance)の症状および/または心理社会的な悪影響のある離脱症状が伴う。アルコール依存症およびアルコール乱用は一般的であるが,あまり厳密に定義されていない用語であり,アルコール関連の問題を有する人に適用される。 アルコール使用障害は非常に一般的である。米国では,12カ月間で13.9%の成人にみられると推定される。有病率は若年成人で最も高く,加齢とともに減少する。... さらに読む の発生率も上昇するようである(3 リスクに関する参考文献 肥満外科手術は,減量を目的として胃,腸管,またはその両方に外科的に改変を加える治療である。 米国では,毎年約160,000例の肥満外科手術が行われる。より安全な腹腔鏡的アプローチが開発されたことで,この手術はより広く普及した。 ( 肥満も参照のこと。) 肥満外科手術の適応と判断するには,患者が以下を満たしている必要がある: BMI(body mass index)が40kg/m2を超えているか,またはBMIが35k... さらに読む )。
食習慣が乱れることがある。新しい食習慣への順応が困難なことがある。
リスクに関する参考文献
1.Dawes AJ, Maggard-Gibbons M, Maher AR, et al: Mental health conditions among patients seeking and undergoing bariatric surgery: A meta-analysis.JAMA 315 (2):150–163, 2016.doi: 10.1001/jama.2015.18118.
2.Adams TD, Gress RE, Smith SC, et al: Long-term mortality after gastric bypass surgery.N Engl J Med 357:753–761, 2007.
3.Heinberg LJ, Ashton K, Coughlin J: Alcohol and bariatric surgery: review and suggested recommendations for assessment and management.Surg Obes Relat Dis 8 (3):357-363, 2012.doi: 10.1016/j.soard.2012.01.016.
肥満外科手術の予後
卓越した研究拠点(COE:centers of excellence)としてAmerican Society of Bariatric Surgeryが公認している病院における30日全死亡率は0.2~0.3%である。しかし,一部のデータからは,COEであることよりも,病院および外科医によって行われた手術の数の方が,重篤な合併症の発生率の低下をより正確に予測することが示唆されている。
死亡率は,腹腔鏡下調節性胃バンディング術よりRoux-en-Y法による胃バイパス術(RYGB)の方が高く,腹腔鏡下手術(0.2%)より開腹手術(2.1%)の方が高い。より高い死亡リスクを予測する因子としては, 深部静脈血栓症 深部静脈血栓症(DVT) 深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはdupl... さらに読む または 肺塞栓症 肺塞栓症(PE) 肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,... さらに読む , 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,および難治例では手術による。治療を行えば予後は良好である。ほとんどの症例は未診断かつ未治療の... さらに読む ,および身体機能低下の既往などがある。 重度の肥満 肥満 肥満とは,体重が過度に重い状態であり,BMI(body mass index)が30kg/m2以上である場合と定義されている。合併症として,心血管疾患(特に過剰な腹部脂肪のある人),糖尿病,特定のがん,胆石症,脂肪肝,肝硬変,変形性関節症,男女の生殖障害,精神障害,およびBMIが35以上の人での若年死などがある。診断... さらに読む (BMIが50を超える),高齢,男性など,他の因子にもリスク上昇との関連が報告されているが,エビデンスは一貫していない。
超過体重減少の平均値は,手技によって異なる。
腹腔鏡下調節性胃バンディング術で得られる体重減少は以下の通りである:
3~6年で45~72%
7~10年で14~60%
15年で約47%
体重減少の割合は,フォローアップの頻度およびバンド調節の回数と関連する。BMIの低い患者は,BMIの高い患者よりも超過体重をより減らす傾向がある。
スリーブ状胃切除術で得られる体重減少は以下の通りである:
2年で33~58%
3~6年で58~72%
より長期間のデータはない。
Roux-en-Y法による胃バイパス術で得られる体重減少は以下の通りである:
2年で50~65%
RYGB後の体重減少は最長で10年間維持される。
肥満外科手術後に軽減または消失する傾向がある併存疾患として,心血管系危険因子(例, 脂質異常症 脂質異常症 脂質異常症とは,血漿コレステロール,トリグリセリド(TG)値,もしくはその両方が高値であること,またはHDLコレステロールが低値であることであり, 動脈硬化発生に寄与する。原因には原発性(遺伝性)と二次性とがある。診断は,総コレステロール,TG,および各リポタンパク質の血漿中濃度測定による。治療は食習慣の変更,運動,および脂質低下薬である。 ( 脂質代謝の概要も参照のこと。)... さらに読む ,高血圧,糖尿病),心血管疾患,糖尿病, 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は,睡眠時に生じ呼吸停止(10秒を超える無呼吸または低呼吸と定義される)を引き起こす部分的または完全な上気道閉塞エピソードから成る。症状としては,日中の過度の眠気,不穏状態,いびき,反復性覚醒,起床時の頭痛などがある。診断は睡眠歴および睡眠ポリグラフ検査に基づく。治療は,持続陽圧呼吸療法(CPAP),口腔内装置,および難治例では手術による。治療を行えば予後は良好である。ほとんどの症例は未診断かつ未治療の... さらに読む ,変形性関節症, うつ病 抑うつ障害群 抑うつ障害群は,機能を妨げるほどの重度または持続的な悲しみと興味または喜びの減退を特徴とする。正確な原因は不明であるが,おそらくは遺伝,神経伝達物質の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的因子が関与する。診断は病歴に基づく。治療は通常,薬物療法,精神療法,またはその両方のほか,ときに電気痙攣療法または高頻度経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)から成る。 うつ病という用語は,しばしばいくつかの抑うつ障害群のいずれかを指して用いられる。一部... さらに読む などがある。特に糖尿病は寛解する可能性が高い(例,RYGBでは6年時点で最大62%の患者が寛解している)。主に心血管死亡率とがん死亡率が低下することで,全死亡率が25%低下する。
肥満外科手術後のフォローアップ
長期間の定期的なフォローアップが,十分な体重減少を確実にし,合併症を予防するのに役立つ。Roux-en-Y法による胃バイパス術またはスリーブ状胃切除術の施行後には,急速な体重減少がみられる期間(通常は術後最初の約6カ月間)は4~12週毎に,その後は6~12カ月毎に患者をモニタリングすべきである。腹腔鏡下調節性胃バンディング術では,術後最初の1年間に少なくとも6回,患者をモニタリングしてバンドの調整を行った場合に,成績が至適なレベルになると考えられる。
体重と血圧をチェックし,食習慣を確認する。血液検査(通常は血算,電解質,グルコース,血中尿素窒素,クレアチニン,アルブミン,およびタンパク質,ならびに肝機能検査)を定期的に行う。糖化ヘモグロビン(HbA1c)および空腹時の脂質濃度が術前に異常であった場合,これらをモニタリングすべきである。手技の種類に応じて,カルシウム,ビタミンD,ビタミンB12,葉酸,鉄,チアミン(ビタミンB1)など,ビタミンとミネラルの濃度のモニタリングが必要になることがある。二次性副甲状腺機能亢進症のリスクがあるため,副甲状腺ホルモンの濃度もモニタリングすべきである。スリーブ状胃切除術またはRoux-en-Y法による胃バイパス術の施行後には,骨密度を測定すべきである。
医師は,術後の急速な体重減少の間,降圧薬,インスリン,経口血糖降下薬,または脂質低下薬に対する反応の変化がないか確認すべきである。
肥満外科手術後に発生する可能性がある 痛風 痛風 痛風は,高尿酸血症(血清尿酸値が6.8mg/dL[0.4mmol/L]を超える状態)により尿酸一ナトリウム結晶が関節内と関節周囲に析出する疾患であり,ほとんどの場合,急性または慢性関節炎が繰り返し発生する。痛風の最初の発作は通常は単関節性であり,第1中足趾節関節を侵すことが多い。痛風の症状としては,重度の急性疼痛,圧痛,熱感,発赤,腫脹などがある。確定診断には滑液中での結晶の同定が必要である。急性発作の治療は抗炎症薬による。非ステロイド... さらに読む , 胆石症 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む ,および 腎結石症 尿路結石 尿路結石とは,泌尿器系内に存在する固形の粒子のことである。結石は疼痛,悪心,嘔吐,および血尿を引き起こすことがあるほか,続発性の感染から悪寒および発熱がみられることもある。診断は尿検査および放射線学的検査のほか,通常は単純ヘリカルCTに基づく。治療は鎮痛薬,感染に対する抗菌薬療法,および薬剤による排石促進療法のほか,ときに衝撃波砕石術また... さらに読む について定期的に評価すべきである。ウルソデオキシコール酸の予防投与は,胆石症のリスクを低減させるため,肥満外科手術後に勧めるべきである。さらに,患者を うつ病 診断 抑うつ障害群は,機能を妨げるほどの重度または持続的な悲しみと興味または喜びの減退を特徴とする。正確な原因は不明であるが,おそらくは遺伝,神経伝達物質の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的因子が関与する。診断は病歴に基づく。治療は通常,薬物療法,精神療法,またはその両方のほか,ときに電気痙攣療法または高頻度経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)から成る。 うつ病という用語は,しばしばいくつかの抑うつ障害群のいずれかを指して用いられる。一部... さらに読む および 飲酒 スクリーニング アルコール使用障害では,飲酒のパターンが生じ,典型的には渇望と耐性(tolerance)の症状および/または心理社会的な悪影響のある離脱症状が伴う。アルコール依存症およびアルコール乱用は一般的であるが,あまり厳密に定義されていない用語であり,アルコール関連の問題を有する人に適用される。 アルコール使用障害は非常に一般的である。米国では,12カ月間で13.9%の成人にみられると推定される。有病率は若年成人で最も高く,加齢とともに減少する。... さらに読む について定期的にスクリーニングすべきである(特に手術前の飲酒が大量だった場合)。
糖尿病患者の 低血糖 低血糖 外因性のインスリン療法と無関係な低血糖は,血漿血糖値の低下,症候性の交感神経系刺激,および中枢神経系機能障害を特徴とするまれな臨床症候群である。多数の薬剤および疾患が原因となる。診断には,症状発生時または72時間絶食中の血液検査の施行を要する。治療はブドウ糖投与と基礎疾患の治療とを組み合わせて行う。 症候性低血糖は 糖尿病の薬物治療の合併症であることが最も多い。経口血糖降下薬またはインスリンが関与する場合がある。... さらに読む のリスク(肥満外科手術後のインスリン感受性亢進による)を最小限に抑えるため,Roux-en-Y法による胃バイパス術またはスリーブ状胃切除術の施行後には,医師がインスリンの投与量を調整し,経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)を減量または中止すべきである。
肥満外科手術の要点
患者に手術を受ける意思があり,手術以外の治療を用いても奏効しておらず,BMIが40kg/m2を超えているか,もしくはBMIが35kg/m2を超えていることに加えて重篤な合併症(例,糖尿病,高血圧,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,高リスクの脂質プロファイル)がある場合,または,BMIが30~34.9の2型糖尿病患者で,至適な生活習慣と薬物療法にもかかわらず血糖コントロールが不十分な場合は,減量手術を考慮する。
患者にコントロールできない精神障害(例,うつ病),薬物やアルコールの乱用,寛解状態にないがん,もしくは生命を脅かす他の疾患がある場合,または患者が栄養所要量(適応がある場合,生涯にわたるビタミン補充を含む)を遵守できない場合は,減量手術は禁忌である。
最も一般的な手技はRoux-en-Y法による胃バイパス術であり,スリーブ状胃切除術がそれに続く;調節性胃バンディング術の使用は米国では劇的に減少している。
術後は,低下した体重の維持,体重に関連した併存疾患の解消,および手術の合併症(例,栄養欠乏,代謝性骨疾患,痛風,胆石症,腎結石症,うつ病,アルコール乱用)について患者を定期的にモニタリングする。