ルーチンの精神医学的評価

執筆者:Michael B. First, MD, Columbia University
レビュー/改訂 2020年 2月
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精神面に関する愁訴もしくは懸念を有する患者または行動に異常のある患者には,プライマリケアおよび救急医療センターなどを含めて,様々な臨床現場で遭遇する。この愁訴または懸念は新たに生じたものもあれば,過去の精神的な問題と連続性を有する場合もある。愁訴は,身体疾患に対する患者の対処と関係している場合もあれば,身体疾患が中枢神経系に及ぼす直接的な影響による場合もある。評価の方法は,愁訴の表出が,救急来院でなされたものか,予定された来院でなされたものかによって異なる。救急の場合には,医師は管理方針を決定するため,より直接的な病歴,症状,行動に焦点を絞って評価しなければならないこともある。予定された来院の場合には,より徹底的な評価を行うのが適切である。

ルーチンの精神医学的評価には,一般身体疾患および精神障害に関する病歴聴取ならびに精神医学的診察が含まれる。(American Psychiatric AssociationのPsychiatric Evaluation of Adults Quick Reference GuideおよびAmerican Psychiatric Association: Practice guideline for the psychiatric evaluation of adultsも参照のこと。)

病歴

医師は,患者が病歴提供できるか否か,すなわち,最初の質問に対して直ちに一貫性のある返答をすることができるか否かを,確認する必要がある。それができない場合は,家族,介護者,他の関連のある情報源(例,警察)から情報を求める。患者との意思疎通が可能な場合でも,身近な家族,友人,またはケースワーカーから,患者が語らなかった情報が得られることがある。医師側から求めたわけではない情報を得ることは,患者情報の守秘を侵すことにはならない。患者が過去に受けた精神医学的な評価,治療,および過去の治療に対するアドヒアランスの程度を検討するとともに,そのようなケアの記録を可及的速やかに入手する。

閉じた質問だけで(画一的な病歴確認方法に従い)慌ただしく,かつ無頓着に問診を行うと,患者から重要な情報を引き出せない場合が多い。患者が自身のことを自分の言葉で語ることができるように,開かれた質問も用いて現病歴をたどることは,同程度の時間を要し,患者が関連する社会的状況を説明し,情動反応を明らかにすることができる。

まず面接では,主症状が患者にどれほどの影響を与えているか,または患者の社会的,職業的,および対人的機能をどれほど妨げているかなど,何(例,望ましくない思考,不快な思考,望まれない行動)が精神医学的評価の必要性(または要求)を引き起こしたかを検討すべきである。次に面接者は,重大なライフイベント(現在および過去)とその出来事に対する患者の反応を検討することにより,患者のパーソナリティについてより幅広い観点を得るように努める(最初の精神医学的評価でカバーすべき領域の表を参照)。精神障害の病歴,身体疾患の病歴,社会歴,および発達歴も調査する。

精神医学的な病歴の中で述べられない他の症状がないか確認するためにシステムレビュー(review of systems)を行うことが重要である。既往歴や他の症状を無視して主症状のみに注目すると,誤った一次診断を下して,他の精神医学的または身体的な併存症を見逃すことになる可能性がある(例えば,抑うつを呈する患者に過去の躁病エピソードについて質問しないと,双極性障害ではなく,うつ病であるという誤った診断を下すことにつながる可能性がある)。

表&コラム

以上により,浮かび上がってくるパーソナリティプロファイルから,適応的な特性(例,回復力[resilience],誠実さ)または不適応的な特性(例,自己中心性,依存性,フラストレーションに耐える能力の不足)が示唆されることや,用いられている対処機制が示されることがある。面接では,強迫観念(自身の望まない不快な考えまたは衝動),強迫行為(患者が行わざるを得ないと感じる過剰で反復的な目的のある行動),および妄想(相反する証拠があっても変わることのない固定された誤った信念)が明らかになることがあり,身体症状(例,頭痛,腹痛),精神症状(例,恐怖症的行動,抑うつ),または社会的行動(例,引きこもり,反抗)の中に患者の苦痛が表出されているかどうかを判断できる場合もある。薬物療法および精神療法を含めた精神医学的治療についてどう思っているかも患者に質問して,そうした情報を治療計画に採り入れるようにすべきである。

面接者は,身体疾患やその治療によって何らかの精神障害が生じたり悪化したりしていないかを確認すべきである(精神症状がみられる患者の医学的評価を参照)。多くの身体疾患は,直接的な影響(例,精神症状を含めた症状)に加えて,多大なストレスを引き起こし,当該疾患に関連した重圧に耐えるための対処機制を必要とする。重度の身体疾患を有する患者の多くは,何らかの適応障害を経験し,基礎に精神障害を有する患者は状態が不安定になることがある。

面接時の観察から,精神障害または身体疾患の証左が提供されることもある。ボディランゲージから,患者が否定する態度および感情の証左が明らかになることもある。例えば,患者は不安を否定しているにもかかわらず,そわそわしたり,うろうろと歩き回ったりしていないか。患者は抑うつの感情を否定しているにもかかわらず,悲しそうに見えないか。患者の全般的な外観も手がかりとなりうる。例えば,患者は清潔で,かつこぎれいな身なりをしているか。振戦または顔面の下垂はみられないか。

精神医学的診察

精神医学的診察では,観察と問診を手段として,以下のような精神機能のいくつかの領域を評価する:

  • 発話

  • 感情表現

  • 思考および知覚

  • 認知機能

精神医学的診察を構成する一部の要素は,見当識および記憶を評価する専用の質問紙など,標準化されたスクリーニング用の簡易質問票によって評価することができる。そのような標準化された評価は,ルーチンの外来診察時に患者のスクリーニングを補助するために利用でき,そのようなスクリーニングは最も重要な症状を確認し,治療に対する反応を測定する上での最初の基準を得るのに役立つ可能性がある。しかしながら,スクリーニング用の質問票は,より広範囲にわたる詳細な精神医学的診察の代替にはならない。

基礎疾患に関して,言語的に表出される以外の手がかりを得るため,全体的な外観を評価すべきである。例えば,以下の点を確認する上で患者の外見が参考になることがある:

  • 患者が身の回りのことをできるか否か(例,低栄養,身だしなみが乱れている,もしくは気候に合わない衣服を着ているように思われる,または強い体臭がする)

  • 社会規範に従うことができるか否か,もしくは従う意思があるか否か(例,社会的に不適切な衣服を着ている)

  • 物質乱用があるか否か,自傷行為を試みているか否か(例,アルコールの臭いがする,静注薬物の乱用または自傷行為による傷害を示唆する瘢痕がある)

発話は自然さ,構文,速さ,および声量に注目することで評価できる。うつ病患者は弱々しい声で,かつゆっくりと話すのに対し,躁病患者は大声で,かつ早口に話す。構音障害および失語などの異常は,頭部損傷,脳卒中,脳腫瘍,多発性硬化症といった,精神状態の変化を引き起こす身体的な病態を示唆していることがある。

感情表現は,患者に自身の感情を説明するよう依頼することにより評価できる。患者の声色,姿勢,手振り,および表情を全て考慮する。気分(患者が報告する感情状態)および感情(面接者が観察する感情状態の患者の表現)を評価すべきである。感情とその範囲(すなわち完全か収縮しているか)に注意すべきであり,思考内容に対する感情の妥当性(例,悲劇的な出来事について話しているときに患者が微笑んでいる)にも注意すべきである。

思考および知覚は,伝達される内容だけでなく,いかに伝達されるかにも注目することにより評価できる。異常な内容は,以下の形をとることがある:

  • 妄想(変わらない,誤った確信)

  • 関係念慮(日常の出来事が患者にとって個人的な特別な意味をもつ,あるいは患者個人に向けられた特別な意味や重要性をもっていると思い込むこと)

  • 強迫観念(反復的かつ持続的で望ましくない,侵入的な思考,衝動,またはイメージ)

医師は,考えに関連性および目標指向性があるように思われるか否か,ならびに1つの思考から次の思考への移行が論理的か否かを評価することができる。精神病または躁病患者では,思考が支離滅裂であったり,または考えが突然飛躍したりすることがある。

患者の認知機能には以下が含まれる:

  • 覚醒度

  • 注意力または集中力

  • 人・場所・時間の見当識

  • 即時記憶,短期記憶,および長期記憶

  • 抽象的推論

  • 洞察力

  • 判断力

認知の異常は,せん妄認知症,または物質中毒や離脱に伴って起こることが最も多いが,うつ病に伴って生じることもある。

より詳細な情報

  1. American Psychiatric Association: Practice guideline for the psychiatric evaluation of adults

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