抜毛症(トリコチロマニア)

(抜毛症)

執筆者:Katharine Anne Phillips, MD, Weill Cornell Medical College;
Dan J. Stein, MD, PhD, University of Cape Town
レビュー/改訂 2021年 1月
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抜毛症は,自身の毛髪を抜くことを繰り返し,それにより毛髪が喪失することにより特徴づけられる。

抜毛症の患者は,美容以外の理由で毛髪を繰り返し引っ張ったり,引き抜いたりする。最も多いのは頭皮,眉,および/または眼瞼からの抜毛であるが,あらゆる部位の体毛が対象となりうる。抜毛の部位は時間の経過とともに変化することがある。

この行為をいくらか自動的に(すなわち,十分に意識せずに)行う患者もいれば,この行為をより意識している患者もいる。抜毛は(醜形恐怖症のように)強迫観念や外見に関する悩みに誘発されるものではないが,緊張感や不安感が先行していて,それが抜毛により軽減している場合があり,しばしばその後に満足感を覚えている。

抜毛症の患者は,抜毛をやめたり頻度を減らしたりしようと試みるが,いずれも不成功に終わる。

典型的には,抜毛は思春期の直前または直後に始まる。本障害の時点有病率は約1~2%である。成人の抜毛症患者の約80~90%は女性である。

抜毛症の症状と徴候

通常,抜毛は慢性に経過し,無治療では症状が一進一退を繰り返す。

脱毛のパターンは患者により異なる。一部分の毛髪が完全に喪失する患者もいれば,睫毛および/または眉毛のみが喪失する患者,毛が薄くなるだけの患者もいる。

抜毛に様々な行動(儀式)を伴う場合もある。患者は引き抜く対象とする特定の種類の毛髪を入念に探すことがあり,また毛を必ず特定の方法で引き抜こうとすることもある。患者は毛を抜いた後に,指に挟んで転がしたり,毛の房を歯に挟んで引っ張ったり,毛を噛んだりすることがある。多くの患者が毛を飲み込む。毛髪を飲み込むことで,ときに毛髪胃石(飲み込んだ毛髪が固く凝集し,消化管から排出されなくなったもの)が形成されることがあり,これによりまれに身体的合併症(例,胃閉塞または胃穿孔)を来し,外科的摘出が必要になる場合もある。

患者は自分の外見や自分の行動をコントロールできないことに当惑したり,恥ずかしく感じたりすることがある。多くは脱毛部位を覆う(例,かつらやスカーフを着用する)ことで脱毛を隠そうとする。脱毛を隠すために,広範にわたる部位から毛を引き抜く患者もいる。患者は他者から脱毛を見られる可能性がある状況を避けることがあり,典型的には,おそらくは家族を除いて他者の前で毛を抜くことはない。

他者またはペットの毛を引き抜いたり,線維性の物体(例,衣服,毛布)の線維を引き抜いたりする患者もいる。

大半の患者には,皮膚をむしる,爪を噛むなど,他の身体集中反復行動も認められる。多くの患者でうつ病もみられる。

抜毛症の診断

  • 臨床基準

抜毛症の典型的な診断基準には以下が含まれている:

  • 毛髪を抜いており,脱毛につながっている

  • 抜毛をやめることや頻度を減らすことを繰り返し試みている

  • その行為により著しい苦痛または機能障害を経験している

この苦痛には,当惑や羞恥心(例,自分の行動をコントロールできないことや脱毛による美容上の結果による)を含めることができる。

抜毛症の治療

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはクロミプラミン

  • N-アセチルシステイン

  • オランザピン

  • 認知行動療法(通常は習慣逆転法)

SSRIまたはクロミプラミン(強力なセロトニン作動性の効果を有する三環系抗うつ薬)が有用となる場合があり,特に患者にうつ病または不安症群が併存している場合はその傾向が強い。抜毛については,デシプラミン(ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する三環系抗うつ薬)よりもクロミプラミンの方が効果的なようである。抜毛症患者を対象としたSSRIの研究には,症例数の少なさとそれゆえの統計学的検出力の不足による限界がある。

ある比較試験では,N-アセチルシステイン(グルタミン酸受容体部分作動薬)が成人に対して効果を示したが(1),別の小規模研究では,小児においてプラセボを上回る効果が示されなかった(2)。低用量のオランザピンなどのドパミン受容体遮断薬が効果的であるとした限定的なエビデンスもあるが,リスク-ベネフィット比を注意深く評価する必要がある。

抜毛症の具体的な症状に合わせて個別化した認知行動療法が,現時点では第1選択の精神療法である。行動療法的な側面が強い習慣逆転法が推奨されており,具体的には以下で構成される:

  • 気づきの訓練(例,セルフモニタリング,行動の引き金になる因子の特定)

  • 刺激統制法(抜毛を始める可能性を低下させるために状況を変化させる手法―例,誘因の回避)

  • 競合反応訓練(抜毛の代わりに,こぶしを握りしめる,編み物をする,手の上に座るなど別の行動を行うよう指導する)

治療に関する参考文献

  1. 1.Grant JE, Odlaug BL, Kim SW: N-Acetylcysteine, a glutamate modulator, in the treatment of trichotillomania: A double-blind, placebo-controlled study.Arch Gen Psychiatry 66(7):756–763, 2009.doi: 10.1001/archgenpsychiatry.2009.60.

  2. 2.Bloch MH, Panza KE, Grant JE, et al: N-Acetylcysteine in the treatment of pediatric trichotillomania: A randomized, double-blind, placebo-controlled add-on trial.J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 52(3):231–240, 2013.doi: 10.1016/j.jaac.2012.12.020.

抜毛症の要点

  • 抜毛症では,抜毛は強迫観念や外見に関する悩みに誘発されるものではないが,緊張感や不安感が先行していて,それが抜毛により軽減している場合があり,しばしばその後に満足感を覚えている。

  • 脱毛のパターンは,一部分の毛が薄くなる場合から,睫毛および/または眉毛のみの喪失,一部分の毛髪の完全な喪失まで様々である。

  • 抜毛症の患者は,抜毛をやめたり頻度を減らしたりしようと試みるが,いずれも不成功に終わる。

  • 抜毛症による個々の症状を治療するために個別化した認知行動療法(具体的には習慣逆転法)のほか,場合によりクロミプラミン,SSRI,N-アセチルシステイン,または別の薬剤を用いて治療する。

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