窃視症は,裸の人,脱衣中の人,または性行為中の人を見ることによって性的興奮を得るものである。見る対象が見られているつもりのない人である場合,このような性行動はしばしば法律上および対人関係上の問題となる。窃視障害は,同意のない相手に対する窃視衝動または空想の行動化や,そのような衝動および欲求のために著しい苦痛または機能障害を体験するものである。
(パラフィリア障害群の概要も参照のこと。)
窃視症はパラフィリアの一種であるが,窃視症的な興味をもつ人の大半はパラフィリア障害の臨床診断基準を満たさず,その基準では,本人の行動,空想,または強い衝動によって臨床的に重大な苦痛または機能障害が生じているか,他者が害を被っている(窃視症では,同意のない相手に対する衝動の行動化を含む)ことが要件とされている。また,この状態が6カ月以上認められることも条件の1つである。
性的状況下にある他者を見たいという欲求はよくみられるもので,それ自体は異常ではない。窃視症は通常,青年期または成人期早期に始まる。青年期の窃視症は一般に比較的大目にみられることが多く,ティーンエイジャーの逮捕者は少ない。窃視症が病的になると,窃視症者は窃視の機会を探すことにかなりの時間を費やすようになり,しばしば自身の生活における重要な責任を放棄する。通常,オルガスムは窃視中または窃視後の自慰によって達成される。窃視症者は観察対象者との性的接触を求めない。
多くの文化では,窃視症者が性行為を見ることのできる合法的な機会が豊富に存在する(例,デジタル媒体または印刷物のポルノ)。しかしながら,窃視行動は法律に触れる結果となりうる性行動のうち最も一般的なものである。
現在ではインターネット上で広く入手可能になっている性的に露骨な画像や動画などを個人的に閲覧する行為は,窃視症とはみなされないが,これは,このような行為に窃視症の際立った特徴であるのぞき見という要素が欠けているからである。
男性の最大12%と女性の4%が窃視障害の臨床診断基準を満たす可能性があるが,その大半は医学的な評価や治療を求めない。
窃視障害の診断
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)の特異的な診断基準
窃視障害の診断を下すには,以下の条件を満たす必要がある:
患者が見られているつもりのない裸の人,脱衣中の人,または性行為中の人を見ることで反復的に強い興奮を覚えており,その興奮が空想,強い衝動,または行動で表現されている。
患者が同意のない相手に対して衝動を行動に移した,もしくはそのような空想,強い衝動,または行動が著しい苦痛を引き起こしているか,仕事,社会的状況,またはその他の重要領域において機能障害を引き起こしている。
この状態が6カ月以上認められる。
窃視障害は18歳未満の人では診断されない。
窃視障害の治療
精神療法,支援団体,および選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
ときに抗アンドロゲン薬
治療は通常,患者が法律に違反して性犯罪者となった段階で,精神療法,支援団体,およびSSRIにより開始される。
この種の薬剤が無効な場合や障害が重度の場合は,テストステロン濃度を低下させ,それにより性欲を低下させる薬剤を考慮すべきである。そのような薬剤は抗アンドロゲン薬と呼ばれるが,最も頻用されるものは実際にはテストステロンの作用を阻害しない。薬剤としては以下のものがある:
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト(例,リュープロレリン)
酢酸メドロキシプロゲステロンデポ剤
どちらも下垂体での黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の産生を減少させ,それによりテストステロン産生を減少させる。十分なインフォームド・コンセントと肝機能および血清テストステロン濃度の適切なモニタリングが必要である。
窃視障害の要点
大半の窃視症者は窃視障害の臨床基準を満たさない。
窃視行動は警察の介入を招く可能性の高い性行動のうち最も一般的なものである。
窃視障害の診断は,その状態が6カ月以上認められ,かつ患者が同意のない相手に対して性的衝動を行動に移したか,そのような空想,強い衝動,または行動によって著しい苦痛が引き起こされているか機能が障害されている場合にのみ下される。
患者が性犯罪を犯した場合は,まず精神療法およびSSRIによる治療を行うとともに,追加の治療が必要でインフォームド・コンセントが得られれば,抗アンドロゲン薬による治療を行う。