多系統萎縮症(MSA)

執筆者:Phillip Low, MD, College of Medicine, Mayo Clinic
レビュー/改訂 2020年 4月
意見 同じトピックページ はこちら

多系統萎縮症は,錐体路,小脳,および自律神経の障害を引き起こし,間断なく進行する神経変性疾患である。この疾患概念には,かつては異なるとされていた3つの疾患,すなわち,オリーブ橋小脳萎縮症,線条体黒質変性症,およびシャイ-ドレーガー症候群が含まれる。症状としては,低血圧,尿閉,便秘,運動失調,筋強剛,姿勢不安定などがある。診断は臨床的に行う。治療は循環血液量の増量,圧迫帯,および血管収縮薬による対症療法となる。

自律神経系の概要も参照のこと。)

多系統萎縮症は女性より男性で約2倍多く発生する。発症時の平均年齢は約53歳であり,症状出現からの生存期間は約9~10年である。

多系統萎縮症(MSA)には2つの病型があり,それらは優勢な初期症状に基づく:

  • MSA-C:運動失調および姿勢不安定を特徴とする(小脳機能障害)。

  • MSA-P:パーキンソン病と類似するが,振戦を伴わないことが多く,しばしばレボドパに反応しない(パーキンソン症状)。

どちらの病型でも自律神経系の機能障害がみられる。多系統萎縮症はどちらか一方の病型として始まるが,最終的にはもう一方の病型の症状も現れる。約5年後には,最初にみられた病型にかかわらず,症状が類似してくる傾向がある。

多系統萎縮症の病因

多系統萎縮症の病因は不明であるが,神経細胞変性が脳のいくつかの領域で発生し,その領域と損傷の程度によって初発症状が異なる。特徴的な所見は,乏突起膠細胞内に認められるα-シヌクレインを含有する細胞質封入体である。

多系統萎縮症はシヌクレイノパチー(シヌクレインの蓄積による病態)の一種であるが,シヌクレインの蓄積はパーキンソン病純粋自律神経不全症,およびレビー小体型認知症でもみられる。シヌクレインはニューロンおよび神経膠細胞のタンパク質であり,これが凝集して非可溶性の線維となり,レビー小体を形成する。

多系統萎縮症の症状と徴候

多系統萎縮症の初期症状は多様であるが,以下の組合せがみられる:

  • レボドパに反応しないパーキンソニズム

  • 小脳の異常

  • 自律神経機能不全による症状

パーキンソン症状

線条体黒質変性症では,パーキンソン症状が優勢となる。具体的には,筋強剛,動作緩慢,姿勢不安定,jerkyな姿勢振戦などがある。声が高調で震える構音障害がよくみられる。

パーキンソン病とは対照的に,多系統萎縮症では安静時振戦とジスキネジアは通常みられず,症状はレボドパにあまり反応しないか,反応しても一時的である。

小脳の異常

オリーブ橋小脳萎縮症では,小脳の異常が優勢となる。症状としては,運動失調,測定障害,拮抗運動反復障害(迅速な交代運動が困難となる),協調運動障害,眼球運動異常などがある。

自律神経症状

自律神経機能不全では,典型的には起立性低血圧(症状を伴う起立時の血圧低下で,しばしば失神を伴う),尿閉尿失禁便秘,および勃起障害がみられる。

その他に起こりうる自律神経症状(早期か晩期かは問わない)としては,発汗減少,呼吸および嚥下困難,便失禁,涙液および唾液の減少などがある。

レム睡眠行動障害(例,レム[急速眼球運動]睡眠中の発話または骨格筋運動),吸気性喘鳴(stridor),および睡眠時無呼吸がよくみられる。患者がレム睡眠行動障害に気づいていないことも多い。

夜間多尿がみられることがあり,その寄与因子として,日内変動におけるアルギニンバソプレシンの分泌低下や循環血液量を増加させるための治療などが考えられる。

多系統萎縮症の診断

  • 臨床的評価(自律神経機能不全に加えて,レボドパに対する反応が不良なパーキンソニズムまたは小脳症状)

  • MRI

  • 自律神経機能検査

多系統萎縮症の診断では,自律神経機能不全とパーキンソニズムまたは小脳症状の組合せに基づき,臨床的に本疾患を疑う。同様の症状はパーキンソン病レビー小体型認知症純粋自律神経不全症自律神経性ニューロパチー進行性核上性麻痺,多発性脳梗塞,および薬剤性パーキンソニズムでもみられる。

確実な診断検査はないが,一部の検査(例,MRI,123Iメタヨードベンジルグアニジン[MIBG]による核医学検査,自律神経機能検査)が多系統萎縮症の疑いを確認する上で役立つ場合があり,例えば次のような状況が挙げられる:

  • MRIで中脳,橋,または小脳に特徴的変化を認める。

  • MIBGシンチグラフィーで心臓の神経支配が正常である(MSAでは病変が節前性であるため)。

  • 自律神経機能検査で全般的な自律神経不全を認める。

多系統萎縮症の治療

  • 支持療法

多系統萎縮症に特異的な治療法はないが,以下のように症状を管理する:

  • 起立性低血圧治療として,塩分および水分の補充やときにフルドロコルチゾン(0.1~0.4mg,経口,1日1回)の投与により血管内容量を増加させる。下半身への圧迫帯(例,腹帯,弾性ストッキング)の装着とミドドリン10mg,経口,1日3回によるαアドレナリン受容体刺激が有用となりうる。しかしながら,ミドドリンは末梢血管抵抗を増大させて,臥位血圧を上昇させるため,問題になることもある。ベッドの頭側を約10cm挙上することで,夜間多尿と臥位高血圧が減少し,さらに朝の起立性低血圧が減少することがある。あるいは,代わりにドロキシドパを使用する;ドロキシドパの作用はミドドリンのそれに似ているが,作用の持続時間がより長い。

  • パーキンソニズム筋強剛とその他のパーキンソン症状を緩和するために,レボドパ/カルビドパ25/100mgの就寝時経口投与が試してもよいが,この組合せは通常無効となるか,わずかに有益となるのみである。

  • 尿失禁原因が排尿筋の反射亢進であれば,塩化オキシブチニン5mg,経口,1日3回またはトルテロジン2mg,経口,1日2回を用いてもよい。尿意切迫には,タムスロシン0.4~0.8mgの1日1回投与が効果的となる場合がある。あるいは,β3作動薬であるミラベグロンを25~50mg,1日1回で使用してもよく,ミラベグロンはタムスロシンと異なり,起立性低血圧を悪化させない。

  • 尿閉多くの患者でカテーテル自己導尿が必要となる。

  • 便秘高繊維食と便軟化剤を用いることができるが,難治例では浣腸が必要になる場合がある。

  • 勃起障害シルデナフィル50mg,経口,頓用やタダラフィル2.5~5mg,1日1回などの薬物療法と様々な物理的手法を用いることができる。

多系統萎縮症は進行性かつ致死的であるため,患者には支持療法が必要となる。

多系統萎縮症の要点

  • 多系統萎縮症では,パーキンソン症状,小脳異常,および自律神経機能不全が様々な重症度で生じうる。

  • この疾患は臨床所見,自律神経所見,およびMRI所見に基づいて診断するが,パーキンソン病,レビー小体型認知症,純粋自律神経不全症,自律神経性ニューロパチー,進行性核上性麻痺,多発性脳梗塞,および薬剤性パーキンソニズムでも同様の症状が生じることがある。

  • 認められる症状に応じた治療を行う。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS