記憶障害は,プライマリケアでよく遭遇する愁訴の1つである。特に高齢者に多いが,若年者が報告することもある。ときに患者ではなく患者の家族が記憶障害を報告する(典型的には認知症の高齢者)。
医師も患者も,記憶障害は発症しつつある 認知症 認知症 認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。診断は臨床的に行い,治療可能な原因の同定には通常,臨床検査および画像検査を利用する。治療は支持療法による。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機能を一時的に改善する。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。)... さらに読む の徴候ではないかとしばしば懸念する。このような懸念は,認知症の典型的な初発徴候は記憶障害であるという一般的な知識に基づいている。しかしながら,ほとんどの記憶障害は認知症の発症を反映するものではない。
記憶障害の初期の訴えで最も頻度が高いのは以下のものである:
人の名前や車の鍵など普段使用している物の置き場所をなかなか思い出せない
記憶障害がさらに重症化すれば,請求書の支払いを忘れる,約束を忘れるなどの症状が現れることがある。重度の記憶障害患者は,ストーブを消し忘れる,外出時に鍵をかけ忘れる,目を離してはならない乳児や小児を見失うなど,危険な過失を侵す可能性がある。記憶障害の原因に応じて他の症状(例,抑うつ,錯乱,人格変化,日常生活動作の困難)がみられることがある。
記憶障害の病因
記憶障害の最も一般的な原因(記憶障害の一般的な原因の特徴 記憶障害の一般的な原因の特徴 の表を参照)は以下のものである:
加齢に伴う記憶障害
軽度認知障害
認知症
うつ病
加齢に伴う記憶障害とは,加齢に伴って生じる記憶力の低下のことである。この状態にある人々は,新しい記憶(例,新しい隣人の名前,コンピュータの新しいパスワード)を形成したり,新しい複雑な情報や課題(例,仕事の手順,コンピュータプログラム)を学習したりするのに,より多くの時間を要する。加齢に伴う記憶障害により,ときにもの忘れをしやすくなったり(例,車の鍵の置き場所を間違える),恥をかいたりすることがある。それでも,認知機能が障害されているわけではない。このような患者は,よく考えて答える十分な時間を与えられれば,通常は質問に答えることができ,これは記憶および認知機能が障害されていないことを意味する。
軽度認知障害の患者は,実際に記憶障害を有しており,加齢に伴いものを思い出すのにときに時間を要するようになるといった程度ではない。軽度認知障害では,まず短期記憶(エピソード記憶とも呼ばれる)が侵される傾向がある。患者は最近の会話,普段使用する物の置き場所,人と会う約束をなかなか思い出せなくなる。しかしながら,典型的には昔の出来事の記憶と注意力は保たれている(作業記憶とも呼ばれ,患者は物の名前のリストを復唱でき,簡単な計算はできる)。軽度認知障害の定義は変化を続けており,現在ではときに,軽度認知障害は日常生活機能に影響しない程度の記憶および/またはその他の認知機能の障害と定義される。軽度認知障害のある患者の最大50%が3年以内に認知症を発症する。
認知症 認知症 認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。診断は臨床的に行い,治療可能な原因の同定には通常,臨床検査および画像検査を利用する。治療は支持療法による。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機能を一時的に改善する。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。)... さらに読む 患者では,記憶障害に加えて認知機能障害および行動機能障害の所見がみられる。例えば,単語や物の名前を思い出せない(失語),過去に習得した動作を行えない(失行),日常生活の作業(例,食事,買い物,請求書の支払い)をうまく計画できない(遂行機能障害)などがある。パーソナリティ(人格)が変化することもあり,例えば,その人らしくない怒りやすさ,不安になりやすさ,興奮しやすさ,頑固さを示すことがある。
うつ病 抑うつ障害群 抑うつ障害群は,機能を妨げるほどの重度または持続的な悲しみと興味または喜びの減退を特徴とする。正確な原因は不明であるが,おそらくは遺伝,神経伝達物質の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的因子が関与する。診断は病歴に基づく。治療は通常,薬物療法,精神療法,またはその両方のほか,ときに電気痙攣療法または高頻度経頭蓋磁気刺激療法(rTM... さらに読む は認知症患者ではよくみられる。しかしながら,うつ病自体が認知症に類似する記憶障害の原因となることがある(仮性認知症)。そのような患者には通常,うつ病の他の特徴が認められる。
せん妄 せん妄 せん妄は,注意,認知,および意識レベルが急性かつ一過性に障害される病態で,その程度には変動がみられ,通常は可逆的である。ほぼ全ての疾患および薬剤が原因となりうる。診断は臨床的に行い,原因同定のために臨床検査と通常は画像検査を施行する。治療は原因の是正と支持療法である。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。)... さらに読む は,急性の錯乱状態であり,重症感染症,薬剤(有害作用),薬剤からの離脱などが原因となりうる。せん妄患者には記憶に異常がみられることがあるが,その主な原因は全般的な精神状態(主に注意力)の重度かつ流動的な変化と認知機能障害であるのが通常であり,記憶障害が生じているわけではない。
治療で回復する可能性のある記憶障害の比較的まれな原因としては,以下のものがある:
その他の疾患は部分的にしか回復しない。具体的には以下のものがある:
心停止
まれに長時間の痙攣発作
記憶障害の評価
記憶障害を評価する際には,以下のことを最優先とする:
せん妄の同定(迅速な治療が必要である)
次に,数の少ない軽度認知障害および認知症初期の症例を,より頻度の高い加齢に伴う記憶障害や正常なもの忘れの症例と鑑別することに焦点を移す。
外来では1人の患者に割り当てられる時間は一般に20~30分であるが,完全な 認知症の評価 診断 認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。診断は臨床的に行い,治療可能な原因の同定には通常,臨床検査および画像検査を利用する。治療は支持療法による。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機能を一時的に改善する。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。)... さらに読む には通常それ以上の時間を要する。
病歴
可能であれば,病歴は患者と家族から,それぞれ別個に聴取すべきである。認知機能に障害のある患者は,詳細かつ正確な病歴を提供できない可能性があり,また家族は患者が聞いている横で病歴を正直に話すことに躊躇する可能性がある。
現病歴には,記憶障害の種類(例,単語または人の名前を忘れる,道に迷う)とその発症,重症度,および進行の詳細を含めるべきである。症状によって患者の仕事および家庭における日常生活機能がどの程度障害されているかを判定すべきである。重要な関連所見には,話し方,食べ方,睡眠,および気分の変化がある。
システムレビュー(review of systems)では,特定の認知症を示唆する以下のような神経症状を同定すべきである:
レビー小体型認知症 レビー小体型認知症およびパーキンソン病認知症 レビー小体がみられる認知症としては,臨床的に診断されたレビー小体型認知症とパーキンソン病認知症がある。レビー小体型認知症は,皮質ニューロン細胞質内のレビー小体と呼ばれる細胞封入体を特徴とし,慢性の認知機能低下がみられる疾患である。パーキンソン病認知症(Parkinson disease... さらに読む における パーキンソン症状 症状と徴候 パーキンソン病は,安静時振戦,筋強剛(固縮),緩徐で減少した動作(動作緩慢)を特徴とし,やがては歩行または姿勢不安定に至る,緩徐に進行する神経変性疾患である。診断は臨床的に行う。治療は脳内のドパミン系の機能を回復することを目的とし,レボドパに加えてカルビドパおよび/または他の薬剤(例,ドパミン作動薬,B型モノアミン酸化酵素[MAO-B]阻... さらに読む
既往歴には,既知の疾患と処方薬およびOTC薬の完全な使用歴を含めるべきである。
家族歴および社会歴には,患者の基本的な知能,教育,職歴,および社会的機能の水準を含めるべきである。現在および過去の物質乱用歴がないか確認する。認知症または軽度認知障害の家族歴がないか尋ねる。
身体診察
一般診察に加えて,完全な 神経学的診察 神経学的診察に関する序論 神経学的診察は,診察室に入ってくる患者を注意深く観察することから始まり,観察は病歴聴取の間も継続する。機能面の障害が明確になるように,患者への介助は最小限に留めるべきである。姿勢や歩容とともに,患者が診察台に移動する際の速さ,対称性,および協調運動を注意深く観察する。また患者の物腰,服装,および応答から,患者の気分および社会的適応について... さらに読む を行い,さらに詳細な精神医学的診察を行う。
精神医学的診察では,患者に特定の課題を実行させることにより,以下の項目を評価する:
見当識(患者の名前,当日の日付,および今いる場所を言う)
注意および集中(例,単語のリストを繰り返して言う,簡単な計算を行う,「world」を逆から書く)
短期記憶(例,3~4個の単語のリストを5分後,10分後,および30分後に繰り返して言う)
長期記憶(例,遠い過去の出来事に関する質問に答える)
言語(例,一般的な物の名前を言う)
行為・遂行機能(例,複数段階の指示に従う)
構成能力(例,絵を模写する,時計を描く)
これらの項目の検査には様々な尺度を使用することができる。これらの項目の検査法として最も一般的に用いられているものは, Mini-Mental Status Examination 精神医学的診察 であり,これは7分間で実施できる。
警戒すべき事項(Red Flag)
以下の所見は特に注意が必要である:
日常生活機能の障害
注意力低下または意識レベルの変容
うつ病の症状(例,食欲低下,精神運動抑制,希死念慮)
所見の解釈
現在の記憶障害,日常生活機能の障害,およびその他の認知機能障害があるかどうかが,加齢に伴う記憶力の変化,軽度認知障害,および認知症を鑑別するのに役立つ。
気分の乱れは,うつ病患者でもみられるが,認知症または軽度認知障害の患者でもよくみられる。そのため,記憶障害がより重症化するか,その他に明らかな神経脱落症状(例,失語,失認,失行)が認められない限り,うつ病を認知症と鑑別するのは困難である。
注意力の低下の有無は,せん妄を初期の認知症と鑑別する上で役立つ。大半のせん妄患者において,記憶障害は主症状とならない。それでも,認知症の診断を下す前にせん妄は除外しなければならない。
特に役立つ手がかりの1つに,患者が医療機関を受診した経緯がある。患者自身がもの忘れの悪化を心配して医学的評価を求めた場合は,加齢に伴う記憶障害である可能性が高い。患者が家族ほど記憶障害について心配せず,家族が率先して医学的評価を求めてきた場合は,患者自身が医学的評価を求めた場合と比較して,認知症である可能性が高い。
検査
診断は臨床的に行う。しかしながら,簡潔な 精神医学的診察 精神医学的診察 は患者の知能や教育水準に影響を受けるため,いずれも正確性に限界がある。例えば,教育水準の高い患者では検査の結果が実際より高く出たり,教育水準の低い患者では検査の結果が実際より低く出たりする。
診断が不明確な場合は,より精度の高い,正式な神経心理学的検査を行うことができ,その結果はより診断精度が高い。
薬剤が原因と考えられる場合は,診断的な試みとして被疑薬を中止するか他の薬剤に置き換える。
一見うつ病に見える患者の場合は,治療することで,うつ病を軽度認知障害と鑑別しやすくなることがある。
神経学的異常(例,筋力低下,歩行異常,不随意運動)がみられる場合は,MRIまたはCTが必要である。
大半の患者では,血清ビタミンB12値の測定と甲状腺機能検査を行い,記憶障害の可逆的な原因であるビタミンB12欠乏症および甲状腺疾患を除外する必要がある。
せん妄または認知症がある場合は,原因を特定するため,さらなる検査を行うべきである。
記憶障害の治療
加齢に伴う記憶障害の場合は,患者を安心させるべきである。多くの場合,一般的な健康対策が推奨され,機能の維持だけでなく,認知症のリスク低減にも役立つ可能性がある。
うつ病 治療 抑うつ障害群は,機能を妨げるほどの重度または持続的な悲しみと興味または喜びの減退を特徴とする。正確な原因は不明であるが,おそらくは遺伝,神経伝達物質の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的因子が関与する。診断は病歴に基づく。治療は通常,薬物療法,精神療法,またはその両方のほか,ときに電気痙攣療法または高頻度経頭蓋磁気刺激療法(rTM... さらに読む のある患者は,薬物療法,精神療法,またはその両方により治療する。
記憶障害に加えてうつ病の徴候を有する患者は,抗コリン作用のない抗うつ薬,可能であればSSRIで治療すべきである。うつ病が軽快するにつれて,記憶障害も軽快していく。
せん妄 治療 せん妄は,注意,認知,および意識レベルが急性かつ一過性に障害される病態で,その程度には変動がみられ,通常は可逆的である。ほぼ全ての疾患および薬剤が原因となりうる。診断は臨床的に行い,原因同定のために臨床検査と通常は画像検査を施行する。治療は原因の是正と支持療法である。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。)... さらに読む は基礎疾患を是正することにより治療する。
まれに,特異的な治療(例,ビタミンB12補充,甲状腺ホルモン補充,正常圧水頭症に対するシャント術)で 認知症 治療 アルツハイマー病は進行性の認知機能低下を引き起こし,大脳皮質および皮質下灰白質におけるβアミロイド沈着および神経原線維変化を特徴とする。診断は臨床的に行う;通常,臨床検査および画像検査により,アルツハイマー病を示唆する特異的所見の検索,また認知症の他の治療可能な原因の同定を行う。治療は対症療法である。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機... さらに読む が消失する場合もある。
それ以外の記憶障害患者は支持療法により治療する。
一般的な処置
記憶障害を心配している患者には,以下の対策を推奨することができる:
定期的な運動
果物と野菜の多い健康的な食事の摂取
十分な睡眠
禁煙
飲酒を適度に抑える
知的興奮を刺激する社会活動への参加
定期的な身体診察
ストレス管理
頭部外傷の予防
これらの対策に加えて,血圧,コレステロール値,および血漿血糖値のコントロールを図ることで,心血管疾患のリスクも低減できる傾向がある。これらの対策により認知症のリスクが低減することを示唆するエビデンスもあるが,その効果は証明されていない。
以下を推奨する専門家もいる:
新しいこと(例,新しい言語,新しい楽器)の学習
頭の体操(例,リストを記憶する,ワードパズルをする,チェスやブリッジなど戦略を使うゲームをする)
読書
コンピュータを使った仕事
工芸(例,編み物,キルトワーク)
これらの活動は認知機能の維持または改善に役立つ可能性があるが,これはニューロンの結合を強化し,新しい結合を促進する作用によるものである可能性がある。
患者の安全
作業療法士および理学療法士は,認知症患者が転倒および事故に遭わないよう安全を図る目的で,患者の自宅を評価することができる。防御策(例,ナイフを隠す,暖房器具のプラグを抜く,車を排除する,車の鍵を没収する)が必要になることがある。米国の一部の州では,医師に対して車両管理局(Department of Motor Vehicles)への認知症患者の報告が義務づけられている。患者が徘徊する場合は,信号でモニタリングするシステムを導入するか,患者をSafe Returnプログラムに登録することができる。Alzheimer's Associationから情報が提供されている(Safe Return program)。
最終的には,介護(例,ハウスキーパー,訪問介護)または環境調整(例,階段のない住居,介護施設,高度看護施設)が必要になる場合がある。
環境調整
認知症患者には 環境調整 環境調整 認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。診断は臨床的に行い,治療可能な原因の同定には通常,臨床検査および画像検査を利用する。治療は支持療法による。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機能を一時的に改善する。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。)... さらに読む が役立つ可能性がある。
認知症患者は,見慣れたものに囲まれ,頻回に見当識を強化し(大きなカレンダーと時計を置くなど),明るくにぎやかな環境で日常のルーチン作業を行う場合に,最も調子が良くなる。部屋には感覚を刺激するもの(例,ラジオ,テレビ,常夜灯)を設置すべきである。
施設では,スタッフが大きな名札を付け,繰り返し自己紹介することもある。周囲の状況,日課,または担当者に変更がある場合は,患者に正確かつ簡潔に説明し,重要ではない手順は省略する。
スタッフや親しい人々が頻繁に訪問することは,患者が社会性を保つための励みとなる。活動を課すことが助けになる可能性があるが,その活動内容は楽しく,何らかの刺激を与えるものとすべきであり,あまり多くの選択肢や困難を伴うものとしてはならない。平衡感覚を改善し,心血管系機能を維持するための運動は,不穏を軽減し,睡眠を改善し,行動を制御する一助となりうる。作業療法と音楽療法は,巧緻運動の制御を維持させ,非言語的な刺激を与えるのに役立つ。集団療法(例,回想療法,社会療法)は会話および対人技能の維持に役立つことがある。
薬物
中枢神経系作用を有する薬剤を中止または制限することによって,しばしば機能が改善する。鎮静薬および抗コリン薬は認知症を悪化させる傾向があるため,避けるべきである。
コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル,リバスチグミン,およびガランタミンは,軽度から中等度のアルツハイマー病またはレビー小体型認知症患者の認知機能改善に若干の効果があり,その他の病型の認知症にも有用となりうる。効力は時間経過とともに減弱する。
NMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)拮抗薬であるメマンチンは,中等症から重症の認知症に使用される。
軽度認知障害の患者では,ドネペジルにより記憶力の一時的改善がみられることがあるが,その有益性は大きくないようである。軽度認知障害患者の認知機能または記憶力を高める目的で推奨される薬剤は他にはない。
老年医学的重要事項
軽度認知障害は加齢に伴ってよくみられるようになる。70歳以降の有病率は14~18%である。
認知症は,高齢者における施設入居,病的状態,および死亡の原因で最も頻度の高いものの1つである。加齢そのものが認知症リスクの大半を占める。認知症の有病率は以下の通りである:
60~64歳で1%
85歳以上で30~50%
介護施設に入居している高齢者で60~80%
記憶障害の要点
記憶障害と認知症は高齢者で頻度が高く,よく心配の種となっている。
加齢に伴う記憶障害はよくみられ,記憶および認知機能の鈍化につながるが,これらの機能が劣化するわけではない。
診断は主に臨床基準に基づいて下すが,特に気分,注意,真の記憶障害の有無,および日常生活機能への影響に注目する。
神経学的異常(例,筋力低下,歩行異常,不随意運動)がみられる場合は,MRIまたはCTを行う。
鎮静薬や抗コリン薬は,記憶障害を引き起こすことがあるが,使用を中止することで記憶障害が回復することがあるため,完全な薬歴の聴取が極めて重要である。
患者が自ら報告する記憶障害は通常,認知症によるものではない。
認知症の診断を下すには,せん妄を除外しなければならない。