疼痛の治療

執筆者:James C. Watson, MD, Mayo Clinic College of Medicine and Science
レビュー/改訂 2020年 2月
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非オピオイドおよびオピオイド鎮痛薬が疼痛治療に主に用いられる薬剤である。抗うつ薬,抗てんかん薬,その他の中枢神経系作用薬も慢性疼痛や神経障害性疼痛に使用されており,一部の病態に対しては第1選択の治療となっている。脊髄幹輸注(neuraxial infusion),神経刺激,注射療法,および神経ブロックは特定の患者に役立つ可能性がある。認知行動療法(例,家庭内の対人関係の変化,リラクゼーション法の系統的な利用,催眠術,バイオフィードバック,段階的な運動)は,疼痛と疼痛に関連する身体障害を軽減し,患者の対処行動に役立つ可能性がある。

疼痛の概要も参照のこと。)

非オピオイド鎮痛薬

アセトアミノフェンと非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は,しばしば軽度から中等度の疼痛に効果的である(非オピオイド鎮痛薬の表を参照)。これらのうち,ケトロラク,ジクロフェナク,およびアセトアミノフェンのみ,注射剤での投与が可能である。非オピオイド鎮痛薬では身体依存や耐性は生じない。

表&コラム

アセトアミノフェンは,抗炎症作用や抗血小板作用を示さず,胃の不快感も引き起こさない。

アスピリンは最も安価なNSAIDであるが,長期にわたる抗血小板作用を示し,消化管出血のリスクを高める。

NSAIDには非選択的COX(シクロオキシゲナーゼ[COX-1およびCOX-2]阻害薬と選択的COX-2阻害薬(コキシブ系薬剤)もあり,いずれも効果的な鎮痛薬である。コキシブ系薬剤は潰瘍形成および消化管障害のリスクが最も低い。しかしながら,コキシブ系薬剤を低用量アスピリンと併用した場合には,他のNSAIDと比較した消化管に対する有益性はなくなる可能性がある。

研究により,COX-2の阻害(非選択的COX阻害薬とコキシブ系薬剤のどちらにでも起こる)は血栓形成の亢進につながり,それにより心筋梗塞,脳卒中,および跛行のリスクを高める可能性のあることが示唆されている。この作用には,用量と投与期間だけでなく,使用薬剤の種類も関連するようである。一部の非選択的COX阻害薬(例,イブプロフェン,ナプロキセン)およびコキシブ系薬剤(セレコキシブ)はリスクが非常に低いというエビデンスもいくらかあるが,依然としてデータは限られており,全てのNSAID療法のリスクとして血栓促進効果を考慮することが賢明であり,臨床的に有意な動脈硬化や複数の心血管系危険因子がある患者では,いずれのNSAIDも慎重に使用すべきであると示唆されている。

NSAIDの使用が短期間で終わる可能性が高い場合は,使用する薬剤にかかわらず,有意な有害作用が生じる可能性は低い。治療が長期(例,数カ月)にわたる可能性が高い場合については,消化管に対する有害作用のリスクが低いことから,常に最初からコキシブ系薬剤を使用する医師もいるが,一方で,消化管に有害作用が生じやすい患者(例,高齢患者,コルチコステロイド服用者,他のNSAIDによる消化性潰瘍または消化管障害の既往を有する患者)や非選択的NSAIDで経過が不良であるか不耐容の既往がある患者のみにコキシブ系薬剤の使用を制限する医師もいる。

いずれのNSAIDも腎機能不全患者では慎重に使用すべきであり,コキシブ系薬剤に腎保護作用はない。

初回推奨用量で十分な鎮痛が得られない場合は,従来からの安全な最高用量を超えない範囲で,より高用量を投与する。それでも鎮痛効果が不十分な場合は,その薬剤は中止すべきである。薬剤により反応が異なることから,疼痛が重度でなければ,他のNSAIDを試みてもよい。NSAIDを長期使用する間は,便潜血と血算,電解質,肝機能検査,および腎機能検査での変化をモニタリングするのが賢明である。

外用NSAIDは,変形性関節症や軽微な捻挫,筋挫傷,打撲などの障害による疼痛がある領域に直接塗布して使用する。ジクロフェナク外用液1.5%は,変形性膝関節症による疼痛および関節機能制限の治療に効果的であることが示されており,侵された各膝関節に対して40滴(1.2mL)を1日4回塗布する。その他に局所の疼痛緩和に有用となりうる外用ジクロフェナク製剤として,パッチ剤(患部に1日2回塗布)と1%ゲル剤(上肢には2g,1日4回,下肢には4g,1日4回)がある。

オピオイド鎮痛薬

(米国疾病予防管理センター[Centers for Disease Control and Prevention]:2018 Annual surveillance report of drug-related risks and outcomes—United States. Surveillance special report. Centers for Disease Control and Prevention, U.S. Department of Health and Human Servicesも参照のこと。)

「オピオイド」とは,中枢神経系の特定のオピオイド受容体に結合して作動薬として作用する,天然または合成化合物の総称である。オピオイドは麻薬(当初は催眠効果を示すあらゆる精神活性物質を指して用いられた用語である)とも呼ばれる。オピオイドは鎮痛作用と催眠作用の両方を有するが,これら2つの作用は互いに独立している。

鎮痛に使用されるオピオイドの一部は,作動薬と拮抗薬の両方の性質を有する。既知の乱用歴または嗜癖歴がある患者における乱用の可能性は,純粋な作動薬よりも作動薬・拮抗薬の方が低いが,作動薬・拮抗薬の鎮痛作用には天井効果があり,すでにオピオイドに身体依存を起こしている患者では離脱症候群を誘導する。

一般に急性疼痛の治療は,短時間作用型(即放性)の純粋な作動薬を最小有効量で短期間投与するのが最善であり,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)のガイドラインでは3~7日の投与が推奨されている(1)。臨床医は急性疼痛症候群にオピオイドを再処方する前に,患者の再評価を行うべきである。急性疼痛に対してオピオイドを比較的高用量または長期間で投与すると,長期のオピオイド治療が必要となるリスクと,オピオイドによる有害作用が生じるリスクが高まる。

慢性疼痛をオピオイドで治療する場合は,長時間作用型の製剤を使用してもよい(オピオイド鎮痛薬およびオピオイド鎮痛薬の等鎮痛用量の表を参照)。長時間作用型製剤の多くが高用量であるため,それらの薬剤は,オピオイド使用歴のない患者では重篤な有害作用(例,呼吸抑制による死亡)を引き起こすリスクが高い。

表&コラム

オピオイド鎮痛薬は,急性疼痛,がん性疼痛,終末期の疼痛に対する治療のほか,緩和ケアの一部としての効力が証明されている。しかし,重度の急性疼痛を有する患者やがんなどの終末期疾患で疼痛を有する患者に対して十分に使用されておらず,結果として患者に不必要な疼痛と苦痛を与える事態となっている。過小治療の理由としては以下のものが挙げられる:

  • 有効用量を過小に推定すること

  • 有害作用のリスクを過大に推定すること

一般に,重度の急性疼痛の治療にオピオイドの使用を控えるべきではないが,疼痛を引き起こす病態が同時に治療されることにより,重度の疼痛の持続期間は短くなるため,オピオイドを必要とする期間は数日以下となるのが通常である。また,がん性疼痛の治療でもオピオイドの使用を控えるべきではなく,そのような症例では,有害作用は予防または管理可能であり,嗜癖の懸念は比較的少ない。

終末期疾患(例,がん)以外の疾患による慢性疼痛を対象にオピオイドを検討した試験は実施期間が短かった。そのため,終末期以外の疾患による慢性疼痛の長期管理を目的とするオピオイド治療については,これを裏付けるエビデンスがほとんどない。また,長期オピオイド治療の重篤な有害作用(例,オピオイド使用障害[嗜癖],過量投与,呼吸抑制,死亡)に対する認識が高まっている。したがって,終末期以外の疾患による慢性疼痛を有する患者では,オピオイドの前に,よりリスクの低いオピオイドによらない治療を試すべきであり,具体的には以下の治療法がある:

  • 非オピオイド薬

  • 補完(統合)医療(例,鍼治療,マッサージ,皮膚電気刺激)

  • 認知行動療法

  • インターベンショナル治療(硬膜外注射,関節注射,神経ブロック,神経アブレーション,脊髄または末梢神経刺激)

終末期以外の疾患による慢性疼痛を有する患者では,オピオイド治療を考慮してもよいが,通常はオピオイドによらない治療が不成功に終わった場合に限定される。そういった症例では,疼痛の軽減および機能改善のベネフィットがオピオイドの有害作用および誤用のリスクを上回る場合に限り,(しばしばオピオイドによらない治療と組み合わせて)オピオイドが使用される。インフォームド・コンセントを取得することが,治療の目標,期待,リスクを明確化し,誤用に関する教育およびカウンセリングを促進するのに役立つ。

長期的に(3カ月以上)オピオイド治療を受ける患者には,疼痛コントロール,機能改善,有害作用,および誤用の徴候について定期的に評価を行うべきである。以下の事態が起こった場合には,オピオイド治療は不成功に終わったとみなすべきであり,用量を漸減して中止すべきである:

  • オピオイドを増量しても重度の疼痛が持続する。

  • 患者が治療の条件を遵守していない。

  • 身体および精神機能が改善しない。

数日間以上にわたりオピオイド投与を受けた患者では,全例に身体依存(薬剤中止時の離脱症状の出現)が存在するものとみなすべきである。よって,オピオイドは可能な限り短期間の使用とするべきであり,依存が形成された患者でオピオイドがもはや不要となった場合は,用量を漸減して離脱症状をコントロールすべきである。一過性の急性疾患(例,骨折,熱傷,外科的手技)による疼痛がある患者では,可及的速やかに非オピオイド鎮痛薬に切り替えるべきである。依存(dependence)はオピオイド使用障害(嗜癖[addiction])とは異なる概念であり,後者については,普遍的に受け入れられた定義ではないが典型的には,強迫的な使用に加えて,その薬物を渇望する,使用を抑えられない,有害と分かっていても使用するなどの圧倒的な没頭がある場合とされている。

表&コラム

投与経路

オピオイドはほぼ全ての投与経路で使用できる。

長期使用には経口または経皮投与が好まれ,どちらも効果的で,安定した血中濃度が得られる。経口および経皮の放出調節製剤は,投薬回数が少なくて済むため,特に夜間の疼痛緩和に重要である。

静脈内投与は,最も迅速に効果が得られ,そのためタイトレーションも最も迅速に行えるが,鎮痛持続時間が短い。血中濃度の急激かつ大きな変動(ボーラス効果)は,投与間早期のピーク濃度時の毒性や,後期のトラフ濃度時の突出痛の発生につながる。持続静注(ときおり患者による自己調節で補充分を追加することもある)ではこの効果は排除されるが,高価なポンプが必要になる;このアプローチは術後疼痛に最もよく用いられている。

筋肉内投与は静脈内投与より鎮痛時間が長くなるが,投与に痛みを伴い,吸収が不安定となる可能性があるため,推奨されない。

長期の継続皮下注入も可能である(特にがん性疼痛)。

フェンタニルの経粘膜吸収(舌下)製剤が使用可能である。トローチ剤は,小児の鎮静や,オピオイド使用歴のあるがん患者における突出痛の治療に使用される。

オピオイドの脊髄投与(例,急性疼痛に対してモルヒネ5~10mgを硬膜外投与または0.5~1mgを髄腔内投与)では,疼痛緩和が得られ,モルヒネなどの親水性薬剤を使用することでその効果が延長する;典型的には周術期に用いられる。埋込み型注入機器を用いると,長期の脊髄幹輸注(neuraxial infusion)が可能であり,通常はがん関連痛に用いられる。それらの機器は他の薬剤(例,局所麻酔薬,クロニジン,ジコノチド[ziconotide])と併用することも可能である。

用量とタイトレーション

オピオイドの使用歴がない患者に初めて投与する際は,通常は入手可能な範囲で最も低い用量の即放性製剤で開始し,十分な鎮痛効果が得られるか,有害作用により治療が制限されるまで,実際的に可能な最小の幅で段階的に増量していく。長時間作用型オピオイドは,オピオイド使用歴のない患者の第1選択として使用すべきではなく,また間欠的使用に処方してはならない。

急性疼痛または術後疼痛に対して最初にオピオイドを処方する場合,最小の用量と最短の治療期間で使用すべきである。オピオイドの初回投与を高用量または長期投与で行うと,長期使用のリスクが高まるようである。

オピオイドの使用歴が少ない患者にオピオイドを注射剤で投与する場合は,鎮静および呼吸数のモニタリングを行う。長時間作用型オピオイドの多くは比較的高用量で使用され,その有害作用(呼吸抑制などの重篤なものを含む)が長く持続するため,オピオイド治療(特にオピオイド使用歴のない患者の場合)は短時間作用型の薬剤で開始すべきである。

慢性疼痛に対するオピオイドの処方に関する米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)のガイドラインでは,以下の事項が推奨されている(1):

  • 可能であれば,経口モルヒネ換算(OME)で1日当たり計50mg未満に制限する

  • 1日50mg OMEを超える用量を採用する場合は,患者毎に便益に対する害の比を検討する

  • 可能であれば,1日90mg OMEを超えないようにする

  • 90mg OMEを超える1日用量を採用するには,その前に鎮痛の必要性と機能の改善が高用量での治療に伴うリスクを上回ることを検証する必要がある

  • 疼痛緩和および機能改善の目標が達成されない場合,またはその達成を維持するために増量が必要な場合は,オピオイド治療を漸減してから中止する

全てのオピオイド処方薬のうち,メサドンはオピオイド誘発性死亡率(処方1回当たり)が最も高い。そのため,その使用に熟練した医師のみが処方すべきである。メサドンの薬物動態は一定ではないため,メサドンは低用量から開始すべきであり,注意深くモニタリングしながら使用し,ゆっくりと(週1回以内の頻度で)増量すべきであり,モニタリングされていない外来患者では特にこの点に注意すべきである。メサドンは心電図のQT間隔を延長する可能性があるため,メサドンを開始する前と用量を大きく変更する前および後に心電図検査によりQTc間隔を評価すべきである。QT間隔に影響を与える可能性のある他の薬剤を使用している患者で仮にメサドンを使用することがあれば,最大限の注意を払って使用すべきである。

高齢患者はオピオイドに対する感受性が高く,有害作用が発生しすいため,オピオイド使用歴のない高齢患者では,典型的には若年患者より低用量とする必要がある。新生児(特に早産児)もオピオイドに対する感受性が高いが,これはオピオイドを除去するのに十分な代謝経路が備わっていないためである。

中等度の一過性の疼痛には,必要に応じてオピオイドを投与してもよい。重度または進行性の疼痛に対しては,重度の疼痛が再発するのを待つことなく,定期的に投与を行うべきであり,がん性疼痛の治療時には,必要に応じて追加投与も行う。がん性以外の慢性疼痛がある患者に対する用量は,典型的には症例毎に決定される。

自己調節鎮痛法(PCA)は,疼痛が重度の場合や経口鎮痛薬では不十分な場合に,病院内で安全かつ柔軟にオピオイドを投与できる方法である。医師は,ボーラス投与の量および投与間隔,ならびに設定された間隔(通常4時間)以内に投与できる最大用量を管理する;この最大用量はロックアウト用量(lockout dosage)と呼ばれる。患者がボタンを押すと,ボーラス投与(例,モルヒネ1mgまたはヒドロモルフォン0.2mgの投与を6分毎)が行われる。安全対策として,前回の投与から設定された時間が経過していない場合,または設定された時間内に累積ロックアウト用量に達した場合には,ボタンを押してもボーラス投与は行われない。患者のみが投与ボタンを押すことが許される。患者が薬剤または病気のために鎮静状態にある場合,投与ボタンを押すほど意識清明ではないため,さらに安全である。

ときに,基礎持続投与(例,モルヒネ0.5~1mg/時)を考慮してもよいが,自己調節下でのオピオイドのボーラス投与と併用すると,有害作用のリスクが高くなる。したがって,このような場合の基礎持続投与は慎重に行うべきであり,自己調節鎮痛法を管理できる意識レベルにあり,必要なときにだけ鎮痛を使用する患者に限定すべきである。オピオイド投与歴がある患者と慢性疼痛の患者では,ボーラス投与量と基礎持続投与量をともに高く設定する必要があり,反応に応じて投与可能な用量をさらに調節する。

認知症患者では自己調節鎮痛法は不可能であり,幼児もまた同様であるが,青年ではしばしば可能である。

長期の治療中には,オピオイドの有効用量を長期間にわたり一定に保つことができる。患者によっては断続的な増量が必要になるが,典型的には,疼痛の増強を示唆する身体的変化(例,進行性の腫瘍)がみられる状況で必要とされる。そのような場合,耐性を恐れて,早期から適切なオピオイドを積極的に使用することをためらってはならない。以前は十分であった用量が不十分になった場合は,疼痛をコントロールするのに増量を必要とするのが通常である。

非オピオイド鎮痛薬(例,アセトアミノフェン,NSAID)がしばしば併用される。両方の薬剤が配合された製剤が便利であるが,非オピオイド鎮痛薬によってオピオイドのタイトレーションが難しくなる可能性がある。

有害作用

オピオイド使用歴のない患者で治療開始時によくみられる有害作用としては以下のものがある:

  • 鎮静および精神混濁

  • 悪心および嘔吐

  • 便秘

  • そう痒

  • 呼吸抑制

  • ミオクローヌス

半減期の長い薬剤(特にレボルファノール[levorphanol]とメサドン)は,半減期の4~5倍の時間が経過するまで血漿中濃度が定常状態に到達しないため,血漿中濃度の上昇につれて遅発性の毒性が発生するリスクがある。放出調節製剤のオピオイドは,定常状態の濃度に達するまでに典型的には数日間かかる。

高齢患者では,オピオイドはより多くの有害作用を示す傾向がある(一般的には便秘と鎮静または精神混濁)。転倒は高齢患者に特有のリスクである。前立腺肥大症の男性では,オピオイドによって尿閉が引き起こされることがある。

オピオイドによる鎮静,精神混濁,および悪心には,通常は数日以内に耐性が生じるが,オピオイドによる便秘および尿閉への耐性は通常,はるかに緩徐に獲得される。患者によっては,いずれの有害作用も長期間持続することがあり,特に便秘は遷延する可能性が高い。

以下に示す特定の病態がある患者には,オピオイドは慎重に使用すべきである:

鎮静がよくみられる。オピオイドの開始後および増量後の一定期間は,各種の活動を行う能力にその薬剤が与える影響を患者が判断できるようになるまで,患者は自動車などの運転をしてはならず,転倒やその他の事故に対する予防策を講じるべきである。患者および家族には,鎮静が起きた場合は担当医師に連絡するよう説明しておくべきである。鎮静によって生活の質が損なわれている場合は,特定の精神刺激薬を間欠的(例,親族の集まりや注意を必要とするその他の行事の前)または定期的(一部の患者のみ)に投与してもよい。効果的となりうる薬剤は以下の通りである:

  • メチルフェニデート(初回は5~10mg,経口,1日2回)

  • デキストロアンフェタミン(初回は2.5~10mg,経口,1日2回)

  • モダフィニル(初回は100~200mg,経口,1日1回)

これらの薬剤は典型的には午前に投与し,必要に応じてその後も投与される。メチルフェニデートの最大用量が60mg/日を超えることはほとんどない。患者によっては,カフェイン含有飲料で十分な刺激になる。精神刺激薬は鎮痛効果を強化する可能性もある。

悪心は,以下のいずれかで治療できる:

  • ヒドロキシジン25~50mg,経口,6時間毎

  • メトクロプラミド10~20mg,経口,6時間毎

  • 制吐作用のあるフェノチアジン系薬剤(例,プロクロルペラジン10mg,経口または25mg,直腸内,6時間毎)

そう痒は,ヒスタミンの放出によって引き起こされ,抗ヒスタミン薬(例,ジフェンヒドラミン,25~50mg,経口または静注)で緩和できる可能性がある。オピオイドの硬膜外投与または注射剤の投与に起因する難治性のそう痒がある入院患者には,一般にジフェンヒドラミンまたはヒドロキシジンよりもナルブフィン(nalbuphine)2.5~5mg,静注,4時間毎の方が効果的である。

オピオイドを数日以上服用している患者では,便秘がよくみられる。オピオイドを開始する際は,全ての患者,特に素因のある患者(例,高齢患者,不動状態の患者)で予防的治療を考慮すべきである。食物繊維および水分の摂取量を増やすべきであり(ただし,これだけで十分であることはまれ),最初は刺激性下剤(例,センナ)および/または浸透圧性下剤(例,ポリエチレングリコール)を毎日投与すべきである。必要であればオピオイド誘発性便秘に特異的な薬剤も使用できる(2)。効果的な薬剤としては以下のものがある:

  • 末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)であるナロキセゴル(naloxegol)25mg,経口,1日1回(朝)およびメチルナルトレキソン(皮下投与)12mg/0.6mLまたは450mg,経口,1日1回

  • 塩化物イオンチャネル作動薬(活性化薬);ルビプロストン(経口)24μg,経口,1日2回など

PAMORAおよび塩化物イオンチャネル作動薬は,どちらも非がん性疼痛に対するオピオイド治療の期間中いつでも使用できる。目標は連日投与で少なくとも隔日の排便とすべきであり,排便がみられなければ,2日目に追加の手段(例,ビサコジル,マグネシアミルク,クエン酸マグネシウム,ラクツロース,浣腸)を講じるべきである。持続する便秘は,クエン酸マグネシウム240mL,経口,1日1回,ラクツロース15mL,経口,1日2回,またはポリエチレングリコール粉末(必要に応じて用量調整)で管理できる。定期的に浣腸が必要になる患者もいる。

尿閉には,二段排尿または排尿時のCredé法が有用となりうるほか,患者によっては,タムスロシン0.4mg,経口,1日1回(開始量)などのαアドレナリン遮断薬の追加が有益となる。

神経内分泌作用,典型的には可逆的な性腺機能低下症が発生することがある。症状としては,疲労,性欲減退,性ホルモン値低下による不妊症,女性の無月経などがある。アンドロゲン値が低いと骨粗鬆症に至ることもある。オピオイド治療を長期間受けている患者には間欠的な骨密度検査が必要である。

過量投与または呼吸抑制がある患者の大半は,薬剤を誤用している(処方通りに使用していない)か,高用量(> 100mg OME)で服用している。ただし,ほとんどのオピオイドの過量投与は意図的なものではなく,低用量のオピオイド(20mg OME未満)でも呼吸抑制は起こりうる。

過量投与または呼吸抑制のリスクは以下の場合に高まる:

  • ベンゾジアゼピン系,筋弛緩薬,ガバペンチン,アルコールなど,他の鎮静薬を使用している(リスクはベンゾジアゼピン系薬剤が最大で,それらは可能であればオピオイドと併用すべきでない)

  • 肝臓または腎臓での代謝に影響を及ぼす並存症がある

呼吸抑制の危険因子としては以下のものがある:

  • 脳卒中,腎疾患,心不全,または慢性肺疾患の病歴

  • 未治療または治療が十分でない閉塞性睡眠時無呼吸症候群または慢性閉塞性肺疾患(COPD)

  • 物質使用障害

  • 精神障害

  • 一部の一般的な向精神薬の併用

  • 長時間作用型オピオイド,高用量のオピオイド(> 100mg OME),またはメサドンの使用

過量投与または呼吸抑制の修正可能な危険因子は管理すべきであり,以下の戦略がある:

  • 睡眠時無呼吸症候群を治療する

  • オピオイドの服用時は飲酒をしないよう患者に助言する

  • 可能ならベンゾジアゼピン系薬剤をオピオイドと併用処方しない

  • 可能なら長時間作用型オピオイドを処方しない

  • メサドンは,その特有の有害作用プロファイルに精通している場合のみ処方すること

  • Risk Index for Overdose or Serious Opioid-Induced Respiratory Depression(RIOSORD)を用いて,過剰摂取または重篤なオピオイド誘発性呼吸抑制のリスクを評価する

過量投与または呼吸抑制のリスクが高い場合,医師は患者や家族とともにリスクについて話し,ナロキソンを処方すべきである。患者が長期のオピオイド治療を受けている場合,医師は長期オピオイド治療の潜在的な害およびベネフィットを説明すべきである。

オピオイドの誤用,転用,および乱用

米国では現在,オピオイドは偶発的死亡および薬剤の致死的過量投与の主因となっている。致死的な過量投与のリスクは,オピオイド鎮痛薬がベンゾジアゼピン系薬剤と併用された場合に有意に高くなる。また,誤用,転用,および乱用(異常服薬行動)の頻度が増加している。

オピオイドの誤用(misuse)は,意図的に行われる場合と意図的ではない場合がある。誤用とは,医学的助言に反した使用や処方内容から逸脱した使用を広く指す。

転用(diversion)では,患者が他者に処方薬を売却または譲渡する。

乱用(abuse)とは,娯楽的あるいは治療以外の目的での使用(例,多幸感や他の向精神作用を得るため)を指す。

慢性疼痛に対してオピオイドを長期使用している患者の最大3分の1が,処方されたオピオイドを誤用(指示どおりに摂取しない)または乱用する可能性がある。

嗜癖(addiction)は,典型的には自制心の喪失と渇望が顕著に認められるが,実質的な害や悪い結果にもかかわらず衝動的に使用してしまう状態を指す。嗜癖の定義としては,耐性(同じ水準の鎮痛作用と効力を維持するのにより高い用量が必要になる)と離脱症状(薬剤の中止または大幅な減量により離脱症状が発生する)を含めているものもある。しかしながら,これらの特徴はどちらもオピオイド治療で予想される生理的な影響であるため,オピオイド嗜癖を定義する上で有用でない。

用語として嗜癖よりもオピオイド使用障害の方が望ましい。オピオイド使用障害は,医療以外の目的で長期にわたりオピオイドを強迫的に自己投与し,それにより有意な機能障害または苦痛が生じている場合と定義される。Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition(DSM-5)では,この障害の診断に特異的な追加の診断基準として以下が提示されている:

  • 意図されるよりも多量に,または長時間にわたり使用している

  • 減量を継続的に望んでいるか,減量を試みるが失敗に終わっている

  • オピオイドの入手,オピオイドの摂取,またはその作用からの回復に多大な時間を費やしている

  • オピオイドを渇望する

  • オピオイドの使用により義務の不履行や社会的悪影響が発生または悪化しても,それでも繰り返し使用している

オピオイド使用障害のリスクは使用頻度および用量に依存する:

  • 0.004%:オピオイドの定期的使用なし

  • 0.7%:低用量のオピオイド使用(< 36mg OME/日)

  • 6.1%:高用量のオピオイド使用(> 120mg OME/日)

  • 2~15%:その他の研究(用量による層別化なし)

オピオイド治療の処方を考慮する場合,特に長期の治療になる場合は,乱用および転用の危険因子について患者を評価し,意図的および不注意の誤用を予防するためのカウンセリングを行うべきである。オピオイド治療を開始する前に,医師はインフォームド・コンセントを取得し,患者がオピオイド使用障害を発症するリスクを評価すべきである。

オピオイド使用障害発生の危険因子としては以下のものがある:

  • 患者のアルコールまたは薬物乱用歴

  • 家族のアルコールまたは薬物乱用歴

  • 主要な精神障害(現在または過去)

  • 向精神薬の使用

  • 若年(< 45歳)

オピオイド使用障害のリスクが高い患者を同定するのにスクリーニングツールが役立つ可能性があり,opioid risk tool(ORT)が最も優れていると考えられる。しかしながら,オピオイドによる患者の治療が安全であるかどうか,リスクが低いかどうかを判定するのに十分なリスク評価ツールはない。したがって,オピオイド治療を受けている患者では,オピオイド治療が安全に用いられていることを確認するため,治療中は全例で綿密なモニタリングを行うべきである。

処方した薬剤された薬物が尿中に存在し,違法薬物が存在しないことを確認するために,ルーチンのモニタリングに定期的な抜き打ちの尿中薬物スクリーニングを含めるべきである。

抜き打ちのスクリーニングを導入すれば,異常な使用や誤用を同定できる可能性は高くなるが,これを診療機関のワークフローに組み込むのは容易ではない。現在では,以下のように尿中薬物スクリーニングを実施することが推奨されている:

  • 最初の処方時

  • 少なくとも年1回

  • リスクが高いか懸念が生じた場合はより頻回に

各州のPrescription Drug Monitoring Program(PDMP)の情報を活用して患者の規制薬物の使用歴を確認すべきである。現在,PDMPを用いたルーチンのスクリーニングを以下の通り行うことが推奨されている:

  • オピオイドを初めて処方するとき

  • 補充のために再処方するとき,または少なくとも3カ月に1回

PDMPへの照会をルーチンに活用することで,1人の患者が1人の処方医と1つの薬局だけを利用していることを臨床医が確認するのに役立つ。

たとえオピオイド使用障害発生の危険因子があるとしても,依然として治療が適切である場合もあるが,臨床医は乱用や嗜癖を予防するために,より厳重な対策を講じるべきである(3)。対策としては以下のものがある:

  • 少量だけ処方する(補充のために頻回の受診が必要)

  • 尿中薬物スクリーニングによりアドヒアランスをモニタリングする(すなわち,患者がその薬剤を服用しており,転用していないことを確認する)

  • 処方箋の「紛失」を理由とする補充は受け付けない

  • 経口剤を噛んだり,潰して注射したりすることによる乱用を防止する目的で開発された改変防止製剤(tamper-resistant formulation:TRF)のオピオイドを使用する

  • 鎮痛に有用な可能性があり,かつ鎮静および呼吸抑制のリスクに天井効果を示す(あらゆるオピオイド使用障害の効果的な治療薬となる特性)ブプレノルフィン製剤を考慮する

問題のある患者は,疼痛管理の専門医や疼痛管理の経験が豊富な物質使用障害の専門医への紹介が必要になることがある。

オピオイドを初めて処方する際には,患者に関連情報を提供すべきである。医師は,継続的に処方する薬剤の安全な使用を確保するために講じられる措置と,異常な使用,誤用,乱用,または転用(オピオイドの減量につながる)を示唆する履歴または評価結果(例,尿中薬物スクリーニング,処方薬物モニタリング)が判明した場合に講じられる措置を説明すべきである。オピオイド以外による疼痛管理戦略が継続されること,ならびに物質使用障害の専門家に紹介する可能性があることも,患者に伝えておくべきである。

患者がオピオイド使用障害を発症した場合,処方医にはエビデンスに基づく治療(通常はブプレノルフィンまたはメサドンを用いる補助薬物療法と認知行動療法)を勧めて手配する責任がある。

他者による薬剤の誤用を防止するため,患者にはオピオイドを安全な場所に保管させ,未使用分は全て薬局に返却させるべきである。

全ての患者に対し,オピオイドとアルコールまたは抗不安薬との併用,ならびに用量を自己調節することのリスクについて,カウンセリングを行うべきである。

オピオイド拮抗薬

オピオイド拮抗薬は,オピオイド受容体に結合するものの,作動薬としての作用をほとんどまたは全く示さないオピオイド様物質である。この種の薬剤は,主にオピオイドの過量投与による症状(特に呼吸抑制)の治療に用いられる。

ナロキソンは,静注では1分未満で作用し,筋注ではこれよりやや遅く作用する。舌下または気管内投与も可能である。効果の持続時間は約60~120分である。しかしながら,オピオイド誘発性呼吸抑制は通常は拮抗作用の持続時間より長く持続するため,ナロキソンの反復投与と綿密なモニタリングが必要になる

オピオイドの急性過量投与に対する用量は,0.4mg,静注,必要に応じて2~3分毎である(覚醒ではなく十分な呼吸が得られるように調整する)。反復投与が必要な場合は,用量を増量することができる(1回当たり最大2mgまで,静注)。10mgの投与にも反応がない場合は,オピオイド毒性の診断を見直すべきである。

長期のオピオイド治療を受けている患者に対しては,ナロキソンは呼吸抑制の治療のみに使用すべきであり,離脱症状や疼痛の再発を招かないように,より一層注意して投与する必要がある。

ナロキソンの鼻腔スプレーおよび自己注射器(筋注)も利用できる。鼻腔スプレーの場合,1つのスプレー(0.1mLに2~4mg)を片方の鼻孔にスプレーする。自己注射器の場合,2mgを大腿前外側部の筋肉内または皮下に(必要であれば衣服の上から)注射させる。

ナルメフェンは,ナロキソンに類似しているが,効果の作用持続時間が約4~8時間である。ナルメフェンは,オピオイド作用からの長期的な回復を確実にするために,ときに使用される。

ナルトレキソンは,経口投与可能なオピオイド拮抗薬であり,オピオイドおよびアルコール嗜癖の補助的治療として投与される。長時間作用型の薬剤であり,一般に忍容性は良好である。

オピオイド鎮痛薬に関する参考文献

  1. 1.Dowell D, Haegerich TM, Chou R: CDC guideline for prescribing opioids for chronic pain—United Stat 2016.JAMA 315 (15):1624–1645, 2016.doi: 10.1001/jama.2016.1464.

  2. 2.Argoff CE, Brennan MJ, Camilleri M, et al: Consensus recommendations on initiating prescription therapies for opioid-induced constipation.Pain Med 16 (12):2324-2337, 2015.doi: 10.1111/pme.12937.

  3. 3.Babu KM, Brent J, Juurlink DN: Prevention of opioid overdose.N Eng J Med 380:2246–2255, 2019.doi: 10.1056/NEJMra1807054.

鎮痛補助薬

多くの薬剤が鎮痛補助薬として使用されており,抗てんかん薬(例,ガバペンチン,プレガバリン)や抗うつ薬(例,三環系,デュロキセチン,ベンラファキシン,ブプロピオン)のほか,他にも多数ある(神経障害性疼痛に対する薬剤の表を参照)。これらの薬剤は頻用されているが,最も注目すべきは神経障害の要素がある疼痛に対する緩和効果である。

ガバペンチンは,このような目的で最も広く使用されている薬剤である。効果的な鎮痛を得るには,通常は600mg,経口,1日3回を超える用量で投与すべきであり,多くの患者ではより高用量が必要となる。最大用量は通常1200mg,経口,1日3回とみなされている。ガバペンチンは神経障害性疼痛および頭痛症候群に広く使用されている。

プレガバリンはガバペンチンに類似するが,薬物動態がより安定しており,1日2回の投与でガバペンチンの1日3回投与時と同等の効力を示すため,コンプライアンスがより良好である。目標用量は最低300mg/日,経口である(例,75mg,1日2回で開始して1週間以内に150mg,1日2回に増量)。神経障害性疼痛症候群には最大600mg/日が必要になることがある。ガバペンチンとプレガバリンの主な作用機序は同様であるにもかかわらず(シナプス前カルシウムチャネルのα2-δリガンドへの結合),ガバペンチンに十分な反応を示さないまたは耐えられない患者がプレガバリンに反応したり耐えられたりすることがあり,その逆の場合もある。プレガバリンは,神経障害性疼痛(脊髄損傷による中枢性疼痛を含む)および線維筋痛症に効果的である;プレガバリンが抗不安薬として効果的であることを示唆するエビデンスもある。

三環系抗うつ薬(アミトリプチリン,ノルトリプチリン,デシプラミン)の主な作用機序は,セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込み阻害である。鎮痛用の用量(75~150mg,経口,1日1回)は通常,抑うつや不安の治療には不十分である。抗コリン性およびアドレナリン性の有害作用のため,有効用量で投与できない場合が多い。2級アミン三環系抗うつ薬(ノルトリプチリンおよびデシプラミン)は,3級アミン三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)よりも有害作用プロファイルが良好である。三環系抗うつ薬は,神経障害性疼痛筋筋膜性疼痛症候群,一部の中枢性神経障害性疼痛,内臓痛症候群,および頭痛症候群に効果的である。

デュロキセチンは,複数の機序(セロトニンおよびノルアドレナリン)を併せもつ再取り込み阻害薬であり,糖尿病性神経障害性疼痛,線維筋痛症,慢性筋骨格痛(腰痛を含む),および化学療法による神経障害に効果的とみられている。抑うつおよび不安に有効な用量と疼痛管理に有効な用量は同程度である。

ベンラファキシンにも同様の効果がある。

表&コラム

外用剤も広く使用されている。カプサイシンクリーム,外用NSAID,その他の調合クリーム剤(例,局所麻酔薬),およびリドカイン5%パッチは,有害作用のリスクがほとんどなく,多くの種類の疼痛に対して考慮すべきである。

神経ブロック

末梢または中枢痛覚路の神経伝達を薬剤または物理的手法により遮断することで,短期的な鎮痛やときに長期の鎮痛が得られる。まれに神経破壊術(経路の破壊)が用いられるが,典型的には期待余命の短い進行疾患の患者のみが対象とされる。

局所麻酔薬(例,リドカイン)を静脈内,髄腔内,胸膜内,経皮,皮下,または硬膜外投与することも可能である。局所麻酔薬またはオピオイドを用いた硬膜外麻酔は,特定の種類の術後疼痛に特に有用である。期待余命の短い限局性の疼痛がある患者には,ときに長期の硬膜外投与が行われる。一般に,長期の脊髄幹輸注(neuraxial infusion)には,埋込み型ポンプによる髄腔内投与が望ましい。

神経破壊術では,外科的に,あるいは組織を破壊する高周波もしくはマイクロ波エネルギー,冷凍アブレーション,または腐食性物質(例,フェノールまたは高濃度アルコール)を用いて侵害受容経路を途絶させる。この処置は以下の通り行われる:

  • 高周波アブレーション:脊椎の機械的な軸性疼痛に対して,関節突起間関節(椎間関節)を支配する脊髄後根の内側枝をアブレーションする

  • がん性疼痛を治療する

内臓痛より体性痛の方が良好に反応する。通常は,上行性経路である脊髄視床路の神経破壊術(脊髄切断術)が用いられ,これにより数年間にわたり疼痛緩和が得られるが,しびれや異常感覚が発生する。特定の皮膚分節を同定できる場合は,後根の神経破壊術(神経根切断術)が用いられる。

ニューロモジュレーション

神経組織を刺激することで,おそらくは内因性痛覚修飾経路の活性化により,疼痛を軽減できる可能性がある。特定の病型の神経障害性疼痛(例,脊椎手術後の慢性下肢痛を伴う脊椎手術後疼痛症候群,複合性局所疼痛症候群[CRPS])では,硬膜外腔に電極を留置して脊髄を刺激する治療法(脊髄刺激療法)を支持するエビデンスが得られている。

電気刺激のパラダイムが進歩したことにより,ニューロモジュレーションの効力および応用可能性が向上している。疼痛管理におけるニューロモジュレーションの利用は顕著に増加している。終末期以外の疼痛に対するオピオイド使用の減少に伴い,ニューロモジュレーションは神経障害性疼痛の治療選択肢として早期に考慮されるようになっている。

ニューロモジュレーションの手技および技術の進歩としては以下のものがある:

  • 高周波刺激

  • 後根神経節刺激

  • バースト波形を用いた脊髄刺激(burst spinal cord stimulation waveforms)

  • 小型で柔軟性のある末梢神経刺激装置

  • MRIとの相性が改善したことにより,ニューロモジュレーションを利用できる臨床状況が大幅に拡大した

高周波刺激は神経障害性の四肢痛に有効である。その効力は従来のニューロモジュレーションと同等であるが,従来の手法では効果的に治療できない軸性疼痛にも有効である可能性がエビデンスから示唆されている。

後根神経節刺激(dorsal root ganglion stimulation)は,より局所的なニューロモジュレーション治療であり,限られた皮膚分節内の神経障害性疼痛を標的とする。

単一の神経が侵されている場合の神経障害性疼痛(例,postherniorrhaphy pain syndrome,感覚異常性大腿痛[meralgia paresthetica][外側大腿皮神経の圧迫による大腿外側部の疼痛],一部の頭痛症候群)には,末梢神経に隣接する皮膚の下に末梢神経刺激装置を留置することが有用な可能性がある。難治性の神経障害性疼痛症候群には脳構造に対する刺激療法(脳深部および運動野刺激療法)が行われているが,エビデンスは限られている。

老年医学的重要事項

高齢患者における疼痛の最も一般的な原因は筋骨格系疾患である。しかしながら,疼痛は慢性かつ多因子性のことが多く,原因が明確でない場合もある。

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