前頭側頭型認知症(FTD)

執筆者:Juebin Huang, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center
レビュー/改訂 2021年 3月
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前頭側頭型認知症(FTD)とは,前頭葉および側頭葉を侵す孤発性または遺伝性の疾患であり,ピック病もこれに含まれる。

せん妄および認知症の概要認知症も参照のこと。)

認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。前頭側頭型認知症は認知症の最大10%を占める。発症年齢は典型的にはアルツハイマー病より低い(55~65歳)。FTDの発生率は男女でほぼ同じである。

ピック病はFTDの病理学的変化を記述する用語であり,重度の萎縮,ニューロン消失,グリオーシス,および封入体(ピック体)を含む異常なニューロン(ピック細胞)の存在を特徴とする。

FTDの約半数は遺伝する;ほとんどの変異には染色体17q21-22が関与しており,微小管に結合するタウタンパク質の異常が起こることから,FTDは一般にタウ異常症(タウオパチー)と考えられている。FTD,核上性麻痺,および大脳皮質基底核変性症は,それぞれの病理学的特徴およびタウタンパク質に影響を及ぼす遺伝子変異が類似していることから,FTDを他の2つとまとめて分類する専門家もいる。症状,遺伝子変異,および病理学的変化は互いに対応しない場合もある。例えば,同一の遺伝子変異が一部の家系員ではFTD症状を引き起こす一方,別の家系員では大脳皮質基底核変性症の症状を引き起こすことがある。

認知症とせん妄は,認知機能が低下するという点で共通するが,両者を混同すべきではない。両者の鑑別には以下の点が役立つ:

  • 認知症は主に記憶に影響を及ぼし,典型的には脳の解剖学的変化によって生じ,発症がより緩徐で,一般に不可逆的である。

  • せん妄は主に注意力に影響を及ぼし,典型的には急性疾患または薬物中毒(ときに生命を脅かす)によって引き起こされ,可逆的であることが多い。

その他の特異的な特徴も,認知症とせん妄の鑑別に有用である(せん妄と認知症の相違点の表を参照)。

前頭側頭型認知症の症状と徴候

一般に,前頭側頭型認知症ではアルツハイマー病と比べて,パーソナリティや行動のほか,通常は言語機能(構文および流暢性)がより強く障害されるが,記憶はあまり障害されない。抽象的思考および注意(持続および転換)が損なわれるため,応答がまとまりを欠く。見当識は保たれるが,情報の検索(想起)が損なわれる。運動技能は一般に保持される。患者は連続的な課題を困難とするが,視空間認知課題と構成課題はさほど影響を受けない。

前頭葉解放徴候(把握反射,探索反射,吸啜反射,口とがらし反射,手掌オトガイ反射,眉間反射[病的反射])は疾患後期に出現するが,これらは他の認知症でも起こる。

一部の患者は運動ニューロン疾患を来し,全身性の筋萎縮,脱力,線維束性収縮,球症状(例,嚥下困難,発声障害,咀嚼困難),ならびに誤嚥性肺炎および早期死亡のリスクの増大を伴う。

前頭側頭型認知症には,脳のどの部分が侵されるかに応じて,様々な病型がある。

行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)

前頭葉眼窩面が侵されるため,社会行動およびパーソナリティに変化が生じる。患者は衝動的になり,社会的な抑制が外れ(例,万引きをする),身の回りの衛生状態に無頓着になる。持続力低下(集中力の障害),不活発,および精神的硬直がみられることがある。Klüver-Bucy症候群を呈することもあり,この病態では感情の鈍化,性欲亢進,口愛過度(例,過食症,唇を吸ったり鳴らしたりする),および視覚失認が生じる。

行動は反復的かつ常同的になる(例,毎日同じ場所へ歩いていく)。意味もなく手当たり次第に物を手に取って操作することがある(使用行動[utilization behavior]と呼ばれる)。

発話は減少し,反響言語,保続(応答の不適切な繰返し),最終的には無言症が生じる。

原発性進行性失語症

非対称性の(左側で悪い)側頭葉前外側部の萎縮により言語機能が低下するが,海馬および記憶は比較的保たれる。ほとんどの患者は,喚語が困難である。注意(例,数唱記憶)が重度に障害されることがある。多くの患者は失語を有し,流暢性の低下および言語理解の困難がみられる;発話の躊躇および構音障害もよくみられる。患者によっては,10年以上にわたり失語が唯一の症状のこともあれば,2~3年以内に全般的な認知機能障害が現れることもある。

意味性認知症は原発性進行性失語症の1病型である。左脳が高度に侵されると,単語の理解力が進行性に低下する。発話は流暢であるが,意味を欠く;対象の特定名称ではなく,総称や関連語を使うことがある。右脳が高度に侵されると,患者は進行性の失名詞(物の名前が言えない)および相貌失認(馴染みのある顔を認識できない)を呈する。患者は位置関係を覚えておくことができない。意味性認知症の患者はアルツハイマー病の特殊型のことがある。

前頭側頭型認知症の診断

  • 基本的に他の認知症の診断と同様

  • その他の認知症と鑑別するための追加の臨床的評価

一般的な認知症の診断には以下の全てを満たす必要がある:

  • 認知症状または行動(神経心理学的)症状が仕事や日常的な活動を行う能力を妨げている。

  • それらの症状が以前の機能レベルからの低下を反映している。

  • それらの症状をせん妄または主な精神障害によって説明することができない。

前頭側頭型認知症の診断は,典型的な臨床所見(例,社会的脱抑制または言語機能の障害があるが,記憶は比較的保たれている)から示唆される。

他の認知症と同様,認知障害を評価する。その評価には,患者および患者のことをよく知る関係者からの病歴聴取に加えて,ベッドサイドでの精神医学的診察または(ベッドサイドでの検査で結論が出なければ)正式な神経心理学的検査が必要である。

CTおよびMRIを施行して,脳の萎縮部位および範囲を確定し,他の可能性のある原因(例,脳腫瘍,脳膿瘍,脳卒中)を除外する。FTDは重度の萎縮を特徴とし,ときに側頭葉および前頭葉の脳回が紙のように薄くなる。しかしながら,MRIやCTでは,FTDの後期まで,これらの変化を示さない可能性がある。そのため,FTDとアルツハイマー病の鑑別は,通常臨床基準によって行うのがより容易である。例えば,原発性進行性失語症は,記憶および視空間認知機能は保持されるが構文および流暢性が障害されるという点で,アルツハイマー病と異なる。

フッ素18(18F)標識デオキシグルコース(フルオロデオキシグルコース,FDG)を用いたPET(陽電子放出断層撮影)を行うと,代謝が低下している領域に違いが出るため,FTDとアルツハイマー病の鑑別に役立つ可能性がある。アルツハイマー病では側頭頭頂連合野皮質と後部帯状皮質に,FTDでは前方領域(前頭葉,側頭葉前部皮質,および前部帯状皮質)に,こうした領域が認められる。

前頭側頭型認知症の予後

前頭側頭型認知症は通常,徐々に進行するが,進行の速さにばらつきがあり,症状が発話と言語に限られる場合には,全般的な認知症への進行は比較的遅いと考えられる。

前頭側頭型認知症の治療

  • 支持療法

前頭側頭型認知症に特異的な治療法はない。治療は一般に支持療法による。例えば,居住環境は明るく,にぎやかで,親しみ慣れたものとし,見当識を強化できるような配慮を施す(例,大きな時計やカレンダーを部屋に置く)べきである。患者の安全を確保する対策(例,徘徊する患者に対して遠隔モニタリングシステムを使用する)を講じるべきである。

症状は必要に応じて治療する。

終末期の問題

認知症患者は洞察力と判断力が低下しているため,金銭管理を行う家族,後見人,または弁護士の決定が必要になる場合がある。認知症の早期,患者が判断能力を喪失する前に,介護についての患者の希望を明確にしておき,金銭上および法律上の取り決め(例,永続的委任状,医療判断代理委任状)を行うべきである。これらの文書に患者が署名する際は,患者の能力を評価し,評価結果を記録すべきである。人工栄養および急性疾患の治療についての決断は,必要性が生じる前に決断しておくのが最善である。

認知症が進行すると,高度に積極的な介入や入院治療よりも,緩和的手段の方が適切な可能性がある。

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