非血栓性肺塞栓症

執筆者:Victor F. Tapson, MD, Cedars-Sinai Medical Center
レビュー/改訂 2018年 12月
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    肺塞栓症の非血栓性の原因には,空気,脂肪,羊水,感染物質,異物,および腫瘍などがある。

    肺塞栓症(PE)は血栓以外の原因でも起こりうる。非血栓性の原因によるPEは,血栓性PEとは異なる臨床症候群を引き起こす。診断は通常一部または完全に,臨床基準(特に患者のリスクなど)に基づいて行われる。治療には支持療法などがある。

    空気塞栓症

    空気塞栓症は,多量の空気が体静脈または右心系に入り,それが肺動脈系に移動することにより生じる。肺の流出路が閉塞し,急速に致死的となりうる。原因には手術,鈍的外傷,静脈カテーテルの欠陥または栓の脱落,および中心静脈カテーテル挿入時または抜去時に起こるエラーなどがある。

    治療として,患者を左側臥位に,できればトレンデレンブルグ体位にする(すなわち,頭を足より低くする)ことで,空気を右室の尖部にトラップし,脳塞栓および主肺動脈流出路の閉塞を予防することなどがある。支持療法も必要である。

    水中ダイビング後の急速な減圧は,肺循環にマイクロバブルの形成という別の問題を引き起こすことがあり,その結果,内皮損傷,低酸素血症,およびびまん性浸潤につながる(動脈ガス塞栓症を参照)。

    脂肪塞栓症

    脂肪塞栓症は,脂肪または骨髄の粒子が体静脈系に流入した後,肺動脈に入ることにより引き起こされる。原因には,長管骨骨折,整形外科的手技,鎌状赤血球症の疼痛発作(sickle-cell crisis)が生じた患者における微小血管閉塞または骨髄壊死,およびまれに体内のまたは非経口(parenteral)経路で投与された血清脂質の毒性変化などがある。脂肪吸引(特に脂肪移植を併用する場合)などの特定の処置は,リスクを高める。

    脂肪塞栓症は,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に類似する肺症候群を引き起こし,重度の低酸素血症を急速に発症し,しばしば神経学的変化および点状出血疹を伴う。

    骨折した長管骨の早期の副子固定および(外固定ではなく)手術による固定は,脂肪塞栓の予防に有用であると考えられている。

    羊水塞栓症

    羊水塞栓症は母体の静脈に羊水が流入し,その後肺動脈系に入ることによって起こるまれな症候群である。この症候群は分娩時(羊水塞栓症),またはより頻度は低いが,分娩前の子宮操作時に起こる。

    アナフィラキシー,急性の重症肺高血圧を引き起こす血管収縮,ならびに低酸素血症および肺浸潤による肺微小血管に対する直接的な毒性により,心呼機能の低下による苦痛が生じる。

    敗血症性塞栓症

    敗血症性塞栓症は肺に感染物質が塞栓することで起こる。原因には,静脈内投与薬物の使用,右心系の感染性心内膜炎,および敗血症性血栓性静脈炎などがある。

    敗血症性塞栓症は肺炎の症候(例,発熱,咳嗽,喀痰産生,胸膜性胸痛,呼吸困難,頻呼吸,および頻脈)または敗血症の症候(例,発熱,低血圧,乏尿,頻呼吸,頻脈,および錯乱)を引き起こす。初期には,胸部X線上で結節陰影がみられ,陰影は末梢の浸潤影へと発展することがあり,塞栓内に空洞がみられることがある(特に黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus]による塞栓の場合)。

    治療は,基礎にある感染症の治療などである。

    異物塞栓症

    異物塞栓症は,粒子状物質が肺動脈系へ入ることで引き起こされ,ヘロイン使用者によるタルクまたは精神障害の患者による水銀など,通常は無機物質の静注により引き起こされる。

    局所的な肺浸潤がみられることがある。

    腫瘍塞栓症

    腫瘍塞栓症はがん(通常は腺癌)のまれな合併症であり,ある臓器の腫瘍細胞が体静脈および肺動脈系に入り,そこに留まり,増殖して血流を閉塞する。良性の転移性平滑筋腫も肺に塞栓を形成することがある。

    患者は,典型的に呼吸困難および胸膜性胸痛,ならびに数週間から数カ月にわたって発現する肺性心の徴候を呈する。

    診断は,胸部X線上の微小結節またはびまん性肺浸潤により示唆され,生検またはときに肺毛細管血の吸引細胞診および組織学的検査によって確定される。

    セメント塞栓(cement embolism)

    セメント塞栓は,椎体形成術(vertebroplasty)などの特定の処置の後に発生することがある。

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