高血圧に対する薬剤

執筆者:George L. Bakris, MD, University of Chicago School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 3月
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いくつかのクラスの薬剤が高血圧の初期治療およびその後の管理に効果的である:

安定した高血圧に選択される薬剤と用法については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。高血圧緊急症の薬物治療については,高血圧緊急症に対する注射薬の表を参照のこと。

高血圧の概要および高血圧緊急症も参照のこと。)

アドレナリン修飾薬

アドレナリン修飾薬には,中枢性α2作動薬,シナプス後α1遮断薬,および末梢作用性非選択的アドレナリン遮断薬がある(高血圧に対するアドレナリン修飾薬の表を参照)。

表&コラム

α2作動薬(例,メチルドパ,クロニジン,グアナベンズ,グアンファシン)は,脳幹のα2アドレナリン受容体を刺激し,交感神経活性を抑制することによって,血圧を低下させる。中枢作用を有するため,その他の降圧薬と比べて眠気,嗜眠,抑うつを引き起こす可能性が高く,もはや広くは使用されていない。クロニジンはパッチ剤として週1回の適用で使用できるため,アドヒアランスが不良の患者(例,認知症患者)に有用となりうる。

シナプス後α1遮断薬(例,プラゾシン,テラゾシン,ドキサゾシン)は,死亡率を低下させないことがエビデンスから示唆されているため,もはや高血圧の初期治療には使用されていない。また,ドキサゾシンの単剤使用または利尿薬以外の降圧薬との併用は,心不全のリスクを高める。しかしながら,4剤目の降圧薬が必要とされる前立腺肥大症の患者と,交感神経緊張が亢進し(すなわち心拍数が高く,急激な血圧上昇がみられる),すでに最大用量のβ遮断薬を投与されている患者では使用される場合がある。

アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

ACE阻害薬(高血圧に対する経口ACE阻害薬およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬の表を参照)は,アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIを妨害するとともにブラジキニンの分解を阻害することで,反射性頻脈を惹起することなく末梢血管抵抗の低下をもたらし,これにより血圧を低下させる。ACE阻害薬は,血漿レニン活性とは無関係に,多くの高血圧患者で血圧を低下させる。ACE阻害薬には腎保護作用があるため,糖尿病患者に対する第1選択薬となっている。ACE阻害薬は黒人患者の初期治療には推奨されておらず,黒人患者の初期治療で使用すると,脳卒中の発生リスクが上昇すると考えられている。

最も頻度の高い有害作用は煩わしい乾性咳嗽であるが,最も重篤な有害作用は血管性浮腫であり,中咽頭に発生した場合は致死的となりうる。血管性浮腫は黒人と喫煙者で最もよくみられる。ACE阻害薬は,血清カリウム値と血清クレアチニン値を上昇させることがあり,特に慢性腎臓病患者とカリウム保持性利尿薬,カリウム製剤,または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を服用している患者でよくみられる。ACE阻害薬は,降圧薬の中で勃起障害をもたらす可能性が最も低い。ACE阻害薬は妊娠中は禁忌である。腎疾患を有する患者では,少なくとも3カ月に1回の頻度で血清クレアチニン値と血清カリウム値をモニタリングする。ステージ3の腎症(推算糸球体濾過量[GFR]が60mL/min未満30mL/min超)があり,ACE阻害薬の投与を受けている患者は通常,血清クレアチニン値がベースライン値から30~35%上昇するまで耐えることができる。ACE阻害薬は,循環血液量減少,重度の心不全,重度の両側腎動脈狭窄,または単腎で高度の腎動脈狭窄を有する患者では急性腎障害を引き起こす可能性がある。

サイアザイド系利尿薬は,他のクラスの降圧薬と比較してACE阻害薬の降圧作用をより大幅に増強する。スピロノラクトンとエプレレノンもACE阻害薬の作用を増強するようである。

表&コラム

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

アンジオテンシンII受容体遮断薬(高血圧に対する経口ACE阻害薬およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬の表を参照)は,アンジオテンシンII受容体を遮断し,それによりレニン-アンジオテンシン系を阻害する。アンジオテンシンII受容体拮抗薬とACE阻害薬は,降圧薬として同等の有効性を示す。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は組織アンジオテンシン変換酵素の遮断を介して,さらなる効果をもたらす可能性がある。これら2つの薬物クラスは,左室不全がある患者および1型糖尿病による腎症を有する患者において,それぞれ同じ有益な効果を示す。アンジオテンシンII受容体拮抗薬はACE阻害薬とは併用すべきでないが,β遮断薬と併用すれば,心不全患者の入院率が低減できる可能性がある。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は,初診時の血清クレアチニン値が3mg/dL(265µmol/L)以下の60歳未満の患者に対して,安全に投与を開始できる。

有害事象の発生率は低く,血管性浮腫が生じるものの,その発生率はACE阻害薬と比較してはるかに低い。腎血管性高血圧,循環血液量減少,および重度の心不全を有する患者に対するアンジオテンシンII受容体拮抗薬の使用上の注意は,ACE阻害薬のそれと同じである(高血圧に対する経口ACE阻害薬およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬の表を参照)。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は妊娠中は禁忌である。

β遮断薬

β遮断薬(高血圧患者に対する経口β遮断薬の表を参照)は心拍数および心筋収縮性の低下をもたらすことで,血圧を低下させる。全てのβ遮断薬は同程度の降圧効果を示す。糖尿病,慢性末梢動脈疾患,または慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者では,心選択性β遮断薬(アセブトロール,アテノロール,ベタキソロール,ビソプロロール,メトプロロール)が好ましいと考えられるが,心選択性は相対的なものにすぎず,用量の増加に従い低下する。心選択性β遮断薬であっても,喘息患者と気管支攣縮が著明なCOPD患者では禁忌である。

表&コラム

β遮断薬は狭心症患者,心筋梗塞の既往を有する患者,および心不全患者において特に有用であるが,アテノロールは冠動脈疾患(CAD)患者の予後が増悪する可能性がある。これらの薬剤の高齢者への使用が問題になるとはもはや考えられていない。

内因性交感神経刺激作用をもつβ遮断薬(例,アセブトロール,ピンドロール)は血清脂質に悪影響を及ぼさず,重度の徐脈を引き起こす可能性は低い。

β遮断薬は中枢神経系に対して有害作用(睡眠障害,疲労,嗜眠)を示し,うつ病を増悪させる。ナドロールは中枢神経系に対する影響が最も小さく,中枢神経系作用を回避しなければならない状況では最善となりうる。β遮断薬は2度もしくは3度房室ブロック喘息,または洞不全症候群の患者では禁忌である。

カルシウム拮抗薬

ジヒドロピリジン系薬剤高血圧に対する経口カルシウム拮抗薬の表を参照)は強力な末梢血管拡張薬であり,全末梢血管抵抗(TPR)を低下させることにより血圧を低下させ,ときに反射性頻脈を引き起こす。

非ジヒドロピリジン系薬剤のベラパミルおよびジルチアゼムは,心拍数の低下,房室伝導の低下,心筋収縮性の低下をもたらす。これらの薬剤は2度もしくは3度房室ブロックまたは左室不全を呈する患者に処方してはならない。

表&コラム

長時間作用型のニフェジピン,ベラパミル,ジルチアゼムは高血圧治療に使用されるが,短時間作用型のニフェジピンとジルチアゼムについては,心筋梗塞の発生率上昇との関連が認められているため,推奨されない。

狭心症と気管支攣縮がみられる患者,冠攣縮のある患者,およびレイノー症候群の患者には,β遮断薬よりカルシウム拮抗薬が好ましい。

直接的レニン阻害薬

直接的レニン阻害薬のアリスキレンは高血圧の管理で使用される。用量は150~300mg,経口1日1回であり,開始量は150mgである。

ACE阻害薬およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬と同様,アリスキレンは血清カリウム値と血清クレアチニン値を上昇させる。アリスキレンは,糖尿病 または腎疾患患者(推算GFR 60mL/min未満)では,ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬と併用してはならない。

直接的血管拡張薬

ミノキシジルやヒドララジンなどの直接的血管拡張薬(高血圧に対する直接的血管拡張薬の表を参照)は,自律神経系とは独立して血管に直接作用する。ミノキシジルはヒドララジンより強力であるが,ナトリウム・水貯留,また女性では耐えられない多毛症などの有害作用が多い。ミノキシジルは難治性の重症高血圧にのみ使用すべきである。

ヒドララジンは妊娠中(例,妊娠高血圧腎症に対して)および補助的降圧薬として使用される。ヒドララジンの長期高用量(1日300mgを上回る)投与と薬剤性ループス症候群の間に関連が認められており,投与中止により消失する。

表&コラム

利尿薬

高血圧に使用される利尿薬の主なクラス(高血圧に対する経口利尿薬の表を参照)は以下の通りである:

  • ループ利尿薬

  • カリウム保持性利尿薬

  • サイアザイド系利尿薬

利尿薬は,おそらくは細胞内から細胞外へのナトリウムの移動を介して,血漿量を穏やかに減少させ,血管抵抗を減少させる。

ループ利尿薬は,腎機能が50%以上低下した患者に限り,高血圧の治療に使用され,少なくとも1日2回投与される(ただしトラセミドは1日1回でよい)。

カリウム保持性利尿薬は,低カリウム血症,高尿酸血症,高血糖を引き起こすことはないが,高血圧のコントロールにおいてサイアザイド系利尿薬より効果が劣るため,初期治療には用いられない。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬を使用する場合,これらの薬剤は血清カリウム値を上昇させるため,カリウム保持性利尿薬やカリウム製剤の投与は必要とならない。

サイアザイド系利尿薬が最もよく使用される。他の降圧作用に加えて,血管内容量が正常である限り,わずかながら血管拡張も引き起こす。サイアザイド系薬剤はいずれも同等量で同等の有効性を示すが,サイアザイド系利尿薬は半減期が長いため,同程度の用量で相対的に高い効果が得られる。サイアザイド系利尿薬は,血清コレステロール値のわずかな上昇(大半が低比重リポタンパク質)とトリグリセリド値の上昇を引き起こすことがあるが,これらの作用は1年以上は持続しないと考えられる。さらに,これらの測定値が上昇する患者は少数のみのようである。この上昇は治療開始後4週以内に明らかとなり,低脂肪食により軽減できる。脂質値がわずかに上昇する可能性は,脂質異常症の患者における利尿薬の禁忌とならない。

遠位尿細管で作用するカリウム保持性利尿薬を除く全ての利尿薬は,有意なカリウム喪失を引き起こすため,血清カリウム値を安定するまで1カ月毎に測定する。血清カリウム濃度が正常化しない限り,動脈壁のカリウムチャネルが閉じ,結果として生じる血管収縮により目標血圧の達成は困難となる。カリウム値が3.5mEq/L(3.5mmol/L)未満の患者には,カリウム製剤を投与する。カリウム製剤は低用量で長期間継続するか,カリウム保持性利尿薬(例,連日でスピロノラクトン25~100mg,トリアムテレン50~150mg,アミロライド[amiloride]5~10mg)を追加してもよい。カリウム製剤またはカリウム保持性利尿薬の追加は,ジギタリスを併用している患者,心疾患がある患者,心電図異常がみられる患者,期外収縮または不整脈のある患者,および利尿薬の服用中に期外収縮または不整脈が発生する患者にも推奨される。

ほとんどの糖尿病患者において,サイアザイド系利尿薬は糖尿病のコントロールに影響しない。まれに,利尿薬はメタボリックシンドロームの患者において2型糖尿病を誘発ないし増悪させる。

利尿薬による高尿酸血症を原因とする少数の痛風症例は,おそらく遺伝的素因により説明できる。痛風を伴わない利尿薬による高尿酸血症には,治療や利尿薬の中止は必要ない。

心不全の既往があるが肺うっ血はない患者,特にACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬も併用している患者と1日の水分摂取量が1400mL未満の患者では,利尿薬により死亡率がわずかに上昇する可能性がある。この死亡率の上昇には,おそらく利尿薬による低ナトリウム血症および低血圧が関連している。

表&コラム

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. 2017 ACC/AHA Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults.

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