拡張型心筋症

執筆者:Tisha Suboc, MD, Rush University
レビュー/改訂 2021年 3月
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拡張型心筋症は,心室拡大と収縮機能障害を主体とする心不全を引き起こす心筋機能障害である。症状としては,呼吸困難,疲労,末梢浮腫などがある。診断は臨床的に行われ,ナトリウム利尿ペプチド高値,胸部X線,心エコー検査,およびMRIによる。治療は原因に対して行う。心不全が進行性かつ重度の場合には,心臓再同期療法,植込み型除細動器,中等度から高度の弁逆流に対する修復術,左室補助人工心臓,または心臓移植術が必要となることがある。

心筋症は心筋の原発性疾患である(心筋症の概要も参照)。拡張型心筋症はあらゆる年齢で発生しうるが,約50歳未満の成人でより多くみられる。拡張型心筋症を発症する人の約10%が65歳以上である。米国では,本疾患は男性で女性の約3倍,黒人で白人の約3倍多く発生している。毎年10万人当たり約5~8人がこの疾患を発症する(1)。

総論の参考文献

  1. 1.Dec GW, Fuster V: Idiopathic dilated cardiomyopathy.N Engl J Med 331:1564–1575, 1994.

拡張型心筋症の病態生理

原発性心筋疾患として,拡張型心筋症の心筋機能障害は,重度の閉塞性冠動脈疾患や心室に圧負荷または容量負荷が生じる状態(例,高血圧心臓弁膜症)など,心筋の拡張を引き起こしうる他の病態を伴わずに発生する。一部の患者では,拡張型心筋症は急性心筋炎(おそらくはほとんどの症例でウイルス性)とともに始まって,その後は一様でない潜伏期間,心筋細胞のびまん性壊死(ウイルスにより変性した筋細胞に対する自己免疫反応による)が生じる段階を経て,慢性の線維化へと続くと考えられている。原因にかかわらず,心筋は拡張して菲薄化し,代償性に肥大するが(心筋症の病型の図を参照),これらの変化により機能性の僧帽弁逆流または三尖弁逆流と心房拡大を来すことが多い。

ほとんどの患者で両心室が侵され,左室のみの発生はわずかであり,右室のみの発生はまれである。

一旦心腔の拡張および機能障害が顕著になると,血液のうっ滞により壁在血栓が形成されることがある。心筋炎急性期や慢性化後の拡張相後期には,しばしば頻拍性不整脈を合併するほか,房室ブロックも合併することがある。左房の拡大に伴い,心房細動がよくみられるようになる。

拡張型心筋症の病因

拡張型心筋症には既知の原因も多いが,未知の原因も多いと考えられる(拡張型心筋症の原因の表を参照)。20種以上のウイルスが拡張型心筋症を引き起こす可能性があり,温帯地域ではコクサッキーウイルスB群の頻度が最も高い。中南米では,クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)によるシャーガス病が最も一般的な感染性の原因である。

その他の原因としては,長期にわたる頻拍,HIV感染症トキソプラズマ症甲状腺中毒症脚気などがある。多くの毒性物質,特にアルコール,様々な有機溶媒,鉄または重金属,および特定の化学療法薬(例,ドキソルビシン,トラスツズマブ)は,心臓の傷害を引き起こす。高頻度の心室性異所性収縮(1日当たり1万回を超える心室性期外収縮)は,左室収縮機能障害との関連が報告されている。

突然の精神的ストレスなど,アドレナリン過剰になる状態は急性の拡張型心筋症の誘因となる可能性があり,そのような心筋症は(長期にわたる頻拍によって引き起こされるものと同様に)典型的には可逆性である。その一例として,たこつぼ型心筋症(acute apical ballooning cardiomyopathy)が挙げられる。この疾患では,通常は心尖部やときに左室の他の部分が侵され,局所壁機能異常やときに局所的な拡張(ballooning)が生じる。

20~35%の症例では遺伝因子が関与しており,60を超える遺伝子ないし遺伝子座との関連が報告されている。

表&コラム

拡張型心筋症の症状と徴候

拡張型心筋症の発症は通常緩やかであるが,急性心筋炎,たこつぼ型心筋症,および頻拍性不整脈によるミオパチーは例外である。拡張型心筋症の全患者の約25%は非定型の胸痛を呈する。他の症状はどちらの心室が侵されたかに依存する。

左室機能障害が起きると,左室拡張期圧の上昇と心拍出量の低下により,労作時呼吸困難および疲労が生じる。

右室不全では末梢浮腫および頸静脈怒張がみられる。まれではあるが,若年患者では右室のみが侵されることがあり,その場合は心房性不整脈のほか,悪性心室性頻拍性不整脈による突然死を来すのが典型的である。

拡張型心筋症の診断

  • 胸部X線

  • 心電図

  • 心エコー検査

  • 心臓MRI

  • 心内膜心筋生検(一部の症例のみ)

  • 適応に応じて原因検索のための検査

拡張型心筋症の診断は,病歴聴取および身体診察,ならびに心室不全の他の一般的な原因(例,全身性高血圧,原発性弁膜症心筋梗塞心筋症の診断と治療の表を参照)の除外による。特に明らかな原因が認められない拡張型心筋症の症例では,早期発症の心疾患,心不全,または突然死の可能性がある家族を同定するために,入念に家族歴を聴取すべきである。多くの医療機関では,第1度近親者に心機能障害のスクリーニング(心エコー検査など)を行う。心室不全の他の一般的な原因を除外する必要があるため,胸部X線,心電図,心エコー検査,および心臓MRIが必要である。選択された症例では心内膜心筋生検を行う。

急性症状または胸痛がみられる場合は,血清心筋マーカーを測定する。トロポニン値の上昇は典型的には冠動脈虚血を示唆するが,トロポニン値は心不全でもしばしば上昇する(特に腎機能が低下している場合)。血清ナトリウム利尿ペプチド値は,心不全が存在する場合には典型的に上昇する。

臨床的に疑われる特異的な原因を診断する(本マニュアルの別の箇所を参照)。特異的な原因が臨床的に明らかでない場合は,血清フェリチン値および鉄結合能ならびに甲状腺刺激ホルモン値を測定する。

適切な症例には,トキソプラズマ(Toxoplasma),クルーズトリパノソーマ(T. cruzi),コクサッキーウイルス,HIV,およびエコーウイルスの血清学的検査を施行してもよい。

胸部X線では,心拡大がみられ,通常は全ての心腔に及ぶ。肺静脈圧の上昇と間質性浮腫に伴い,しばしば胸水(特に右側)が生じる。

心電図検査では,洞頻拍と低電位またはT波逆転を伴う非特異的なST低下を認めることがある。ときに,胸部誘導で異常Q波がみられ,陳旧性心筋梗塞に類似する。左脚ブロックおよび心房細動がよくみられる。

心エコー検査では,心腔の拡大と壁運動低下がみられ,一次性の弁膜症を除外できる。拡張型心筋症では経過が断続的となることがあるため,局所壁運動異常も起こりうる。心エコー検査では壁在血栓を認めることもある。

心臓MRIは施行が増えてきており,心筋の構造および機能に関する詳細な画像を得る上で有用である。ガドリニウム造影剤を使用するMRIでは,心筋組織の異常なテクスチャーや瘢痕パターン(すなわち遅延造影)を確認できることがある。遅延造影のパターンから,活動性心筋炎,サルコイドーシス,筋ジストロフィー,またはシャーガス病の診断につながる場合もある。

陽電子放出断層撮影(PET)は,心臓サルコイドーシスの診断感度が高いことが示されている。

非侵襲的検査を行っても診断に疑いが残る場合は,左室機能障害の原因として冠動脈疾患を除外するために冠動脈造影が必要になることがある。胸痛を訴える患者,心血管系危険因子が複数ある患者,および高齢の患者では,冠動脈疾患が存在する可能性がより高くなる。その結果により管理方針が変わってくる一部の状況では,カテーテル検査中に両心室とも生検が可能である。

巨細胞性心筋炎,好酸球性心筋炎,またはサルコイドーシスが疑われる場合は,その結果により管理方針が左右されるため,心内膜心筋生検の適当となる。

拡張型心筋症の予後

拡張型心筋症の予後は概して不良であったが,最近では新しい管理レジメン(例,β遮断薬,アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬,植込み型除細動器,または心臓再同期療法)によって改善されている。最初の1年間に約20%の患者が死亡し,その後は年間約10%が死亡する;死亡の約40~50%は突然死であり,悪性不整脈または塞栓イベントが死因となる。予後は,代償性肥大により心室壁厚が維持されれば良好であり,心室壁が著しく菲薄化して心室が拡張した場合は不良となる。治療により拡張型心筋症の影響が十分に代償された患者は,何年間にもわたり安定する可能性がある。

拡張型心筋症の治療

  • 原因(ある場合)の治療

  • 駆出率が低下した心不全に対する標準治療

  • 心房細動またはその他の適応がある場合は抗凝固薬

  • ときに植込み型除細動器,心臓再同期療法(CRT),左室補助人工心臓,または移植

  • 巨細胞性心筋炎,好酸球性心筋炎,またはサルコイドーシスの患者では免疫抑制療法

治療可能な原因(例,トキソプラズマ症,急性シャーガス病,ヘモクロマトーシス,甲状腺中毒症,脚気)があれば是正する。HIV感染患者には抗レトロウイルス療法(ART)を最適化すべきである。免疫抑制薬による治療は,生検で巨細胞性心筋炎,好酸球性心筋炎,またはサルコイドーシスが証明された患者に限定するべきである。

そうでなければ,治療は駆出率が低下した心不全に対するものと同じであり,ACE阻害薬,β遮断薬,アルドステロン拮抗薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,ARNI(アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬),ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT)阻害薬,ヒドララジン/硝酸薬,利尿薬,およびジゴキシンなどを使用する。研究により,特発性拡張型心筋症の患者は標準の心不全治療に対する反応が特に良好で,概して虚血性心疾患の患者より反応が良好であることが示されている。

周産期心筋症の治療には特別な注意が必要である。胎児に害が及ぶリスクがあるため,妊娠中は多くの薬剤(例,ACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を避けるべきである。さらに,授乳中の女性にもそのような薬剤は推奨されない。

過去には,別の病型の心筋症において壁在血栓の予防のために経口抗凝固薬の予防投与が用いられている。左室機能が低下しているが洞調律を維持している患者に対する抗凝固薬の使用については,依然として議論があり,この状況での抗凝固薬の使用はルーチンではない。特定の適応(例,脳塞栓症の既往,同定された心内血栓,心房細動,心房粗動)がある場合は,ワルファリンまたは直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が推奨される。

American Heart AssociationとEuropean Society of Cardiology Guidelinesはいずれも,駆出率が非常に低い周産期心筋症患者では,妊娠中の凝固亢進状態のリスクを踏まえ,抗凝固療法を考慮することを推奨している(1, 2)。ただし,ワルファリンは胎児のリスクがあるため妊娠中の特定の時期には使用してはならない。

心不全に対する内科的治療は不整脈のリスクを低減するが,至適な内科的治療にもかかわらず引き続き駆出率が低下したままの患者には,突然の不整脈による死亡を予防するために植込み型除細動器を使用してもよい。急性心筋炎時の房室ブロックはしばしば消失するため,通常は恒久型ペースメーカーがすぐに必要とされることはない。ただし,慢性化後の拡張相で房室ブロックが残るか新たに発生した場合は,恒久型ペースメーカーが必要となることがある。至適な内科的治療にもかかわらず,QRS幅の増大,左室駆出率低値,および重度の症状がみられる場合には,心臓再同期療法を考慮すべきである。

治療にもかかわらず難治性の心不全がある患者は,心臓移植の適応となりうる。その選択基準としては,全身性疾患および精神障害の合併がないことや,不可逆的な肺血管抵抗の上昇がみられることなどがあるが,心臓の提供数が少ないため,より若年の患者(通常70歳未満)が優先される。 一部の患者(例,心臓移植の適応がない患者)では,心臓移植までのブリッジとして,またはdestination therapyとして,左室補助人工心臓(LVAD)の使用が考慮される場合もある。Destination therapyでは,LVADを難治性の心不全患者に対する(心臓移植までの一時的な措置としてではなく)恒久的な治療法として使用する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Bozkurt B, Colvin M, Cook J, et al: Current diagnostic and treatment strategies for specific dilated cardiomyopathies: A Scientific Statement From the American Heart Association.Circulation 134(23):e579–e646.2, 2016.

  2. 2.Regitz-Zagrosek V, Roos-Hesselink JW, Bauersachs J, et al: 2018 ESC Guidelines for the management of cardiovascular diseases during pregnancy: The Task Force for the Management of Cardiovascular Diseases during Pregnancy of the European Society of Cardiology (ESC).European Heart Journal 39: 3165–3241, 2018.

拡張型心筋症の要点

  • 拡張型心筋症では,心筋が拡張して菲薄化し,続いて肥大する。

  • 原因としては,感染(一般的にはウイルス性),毒素,代謝性疾患,遺伝性疾患,結合組織疾患などがある。

  • 胸部X線,心電図検査,心エコー検査,および心臓MRIを施行して疾患の程度を評価するとともに,一部の患者には心内膜心筋生検を行う。

  • 必要であれば心不全の他の原因を探る。

  • 可能であれば一次性の原因を治療し,標準的な心不全の治療法を用いる(例,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,β遮断薬,アルドステロン拮抗薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,ARNI(アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬),ヒドララジン/硝酸薬,利尿薬,ジゴキシン,植込み型除細動器,および/または心臓再同期療法)。

  • 一部の患者には経口抗凝固薬と免疫抑制薬を使用する。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Heart Association guidelines on dilated cardiomyopathies: Bozkurt B, Colvin M, Cook J, et al: Current diagnostic and treatment strategies for specific dilated cardiomyopathies: A Scientific Statement From the American Heart Association.Circulation 134(23):e579–e646.2, 2016.

  2. European Society of Cardiology guidelines on cardiomyopathy in pregnant patients: Regitz-Zagrosek V, Roos-Hesselink JW, Bauersachs J, et al: 2018 ESC Guidelines for the management of cardiovascular diseases during pregnancy: The Task Force for the Management of Cardiovascular Diseases during Pregnancy of the European Society of Cardiology (ESC).European Heart Journal 39: 3165–3241, 2018.

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