不安定狭心症

(急性冠機能不全,心筋梗塞前狭心症,中間症候群)

執筆者:Ranya N. Sweis, MD, MS, Northwestern University Feinberg School of Medicine;
Arif Jivan, MD, PhD, Northwestern University Feinberg School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 7月
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不安定狭心症は心筋梗塞を伴わない冠動脈の急性閉塞によって生じる。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療は,抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,スタチン系薬剤,およびβ遮断薬による。しばしば,冠動脈造影と経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術が必要とされる。

急性冠症候群の概要も参照のこと。)

不安定狭心症は,心筋バイオマーカー値が心筋梗塞の基準を満たさない急性冠症候群患者において以下のうち少なくとも1つに該当する場合と定義される:

  • 長時間にわたる(通常20分を超える)安静時狭心症

  • 重症度がCanadian Cardiovascular Society(CCS)分類(狭心症のCanadian Cardiovascular Society分類の表を参照)でクラス3以上の新規発症した狭心症

  • 増悪している狭心症,すなわち以前に診断された狭心症の頻度,重症度,持続時間の増大または閾値の低下が著明なもの(例,CCSクラスで1段階以上の増悪,またはCCSクラス3以上への増悪)。

不安定狭心症は臨床的に不安定であり,しばしば心筋梗塞もしくは不整脈または(あまり多くないが)突然死の前兆となる。

不安定狭心症の症状と徴候

症状としては(胸痛または不快感を典型とする)狭心症と同じであるが,異なる点としては,不安定狭心症では通常,疼痛または不快感がより強く持続時間が長いこと,より軽い労作で誘発されること,安静時に自然に発生すること(安静時狭心症),進行性(漸増型)の性質があることなどがある。

不安定狭心症は重症度と臨床状況に基づいて分類されている(不安定狭心症のBraunwald分類の表を参照)。また,不安定狭心症が慢性安定狭心症の治療中に発生したかどうかと,狭心症の発生中にST-T波に一過性の変化が生じたかどうかも考慮すべきである。狭心症発症からの経過時間が48時間以内であり,狭心症に寄与する心外合併症が認められない場合は,トロポニン値の測定が予後の推定に有用となる可能性があり,トロポニン陰性の結果はトロポニン陽性の場合より予後良好であることを示唆する。

表&コラム

不安定狭心症の診断

  • 一連の心電図検査

  • 一連の心筋マーカー検査

  • 合併症(例,胸痛の持続,低血圧,不安定な不整脈)のある患者には直ちに冠動脈造影

  • 安定している患者には待機後の血管造影(24~48時間)

不安定狭心症へのアプローチの図を参照のこと。)

不安定狭心症と急性心筋梗塞(非ST上昇型心筋梗塞[NSTEMI]またはST上昇型心筋梗塞[STEMI])の鑑別に役立てるため,初回および一連の心電図検査と一連の心筋マーカー測定で評価を開始する。血栓溶解薬はSTEMI患者には有益であるが,NSTEMIおよび不安定狭心症の患者ではリスクを増加させる可能性があるため,この鑑別が臨床判断の中心となる。また,急性STEMI患者は緊急心臓カテーテル検査の適応となるが,NSTEMIおよび不安定狭心症患者は一般に適応とならない。

心電図

心電図検査は最も重要な検査であり,受診から10分以内に施行すべきである。不安定狭心症の発生時にはST低下,ST上昇,T波逆転などの心電図変化がみられるが,いずれも一過性である。

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心筋マーカー

不安定狭心症が疑われる患者では,非常に感度の高いアッセイ(hs-cTn)を用いて受診時および3時間後(標準のTnアッセイを用いる場合は0時間および6時間後)に心筋トロポニンの測定を行うべきである。

不安定狭心症ではクレアチンキナーゼ(CK)値は上昇しないが,心筋トロポニン値(特に高感度トロポニン検査[hs-cTn]で測定した場合)は心筋梗塞の基準(基準範囲上限値[URL]である99パーセンタイルを超える水準)は満たさないものの,わずかに上昇することがある。

冠動脈造影

症状が消失した不安定狭心症患者では,典型的には入院後24~48時間以内に血管造影を施行して,治療を要する可能性のある病変を検出する。冠動脈造影は,多くの場合,診断と経皮的冠動脈インターベンション(PCI,すなわち血管形成術,ステント留置術)を兼ねる。

冠動脈造影はまた,最初の評価と治療の終了後に,虚血の持続を示唆する所見(心電図所見や症状)がみられる場合や,不安定な血行動態や繰り返す心室性頻拍性不整脈など虚血イベントの再発を示唆する異常がみられる患者に施行されることがある。

不安定狭心症の予後

不安定狭心症発症後の予後は,いくつの冠動脈に病変があるか,どの動脈に病変があるか,および病変の進行度に依存する。例えば,左主幹部近位部またはこれと同等の狭窄(左前下行枝近位部および回旋枝狭窄)は,遠位部狭窄やより細い動脈分枝の狭窄と比較して予後不良である。左室機能も予後に大きな影響を及ぼし,有意な左室機能障害を呈する患者では(1枝または2枝病変の患者でも)血行再建術の施行閾値が低くなると考えられる。

全体として,不安定狭心症患者の約30%は発症後3カ月以内に心筋梗塞を発症し,突然死はこれより少ない。胸痛を伴う著明な心電図変化は,その後の心筋梗塞または死亡のリスクが高いことを示す。

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不安定狭心症の治療

  • プレホスピタルケア:酸素,アスピリン,硝酸薬,および適切な医療施設へのトリアージ

  • 薬物治療:抗血小板薬,狭心症治療薬,および抗凝固薬のほか,一部の例ではその他の薬剤

  • 冠動脈の解剖を評価するための血管造影

  • 再灌流療法:経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術

  • 退院後のリハビリテーションと冠動脈疾患の内科的な長期管理

プレホスピタルケア

  • 酸素

  • アスピリン

  • 硝酸薬

  • 適切な医療施設へのトリアージ

確実な静脈ラインを確保し,酸素を投与(典型的には鼻カニューレで2L)するとともに,持続的な単一誘導の心電図モニタリングを開始する必要がある。救急救命士による病院到着前の介入(心電図検査,アスピリンの咀嚼服用[325mg],硝酸薬による疼痛管理など)により,死亡および合併症のリスクが低下する可能性がある。早期の診断データと治療に対する反応は,血行再建術の必要性と施行時期を判断するのに役立つ可能性がある。

病院到着後

  • 患者のリスク層別化と再灌流戦略の実施時期の選択

  • 再灌流戦略に応じた抗血小板薬,および抗凝固薬やその他の薬剤を使用する薬物療法

患者が救急部門に到着したら,診断を確定する。薬物療法の内容と血行再建術の施行時期は臨床像に依存する。臨床的に不安定な患者(持続する症状,低血圧,または遷延する不整脈がみられる患者)は,緊急血管造影と血行再建術の適応となる。臨床的に安定した患者では,血管造影と血行再建術を24~48時間延期してもよい(不安定狭心症へのアプローチの図を参照)。

不安定狭心症へのアプローチ

*モルヒネは慎重を期して使用すべきである(例,ニトログリセリンが禁忌である場合,または最大用量のニトログリセリンを投与しているにもかかわらず症状がある場合。)新しいデータからは,モルヒネが一部のP2Y12受容体阻害薬の活性を減弱させ,患者の転帰を悪化させる可能性があることが示唆される。

†合併症ありとは,狭心症再発もしくは心筋梗塞,心不全,または持続性心室性不整脈の合併を意味する。これらの事象がいずれもなければ,合併症なしと呼ばれる。

‡以下に該当する患者に対しては,一般にPCIよりもCABGが望ましい:

  • 左主幹部病変または左主幹部同等病変

  • 左室機能障害

  • 治療中の糖尿病

また,長い病変や分岐部に近い病変はPCIに適さないことが多い。

CABG = 冠動脈バイパス術;GP = 糖タンパク質;LDL = 低比重リポタンパク質;NSTEMI = 非ST上昇型心筋梗塞;PCI = 経皮的冠動脈インターベンション;STEMI = ST上昇型心筋梗塞。

不安定狭心症の薬物治療

抗血小板薬抗凝固薬を全例に投与すべきであり,胸痛がある場合は狭心症治療薬も投与すべきである。使用する個別の薬剤は再灌流戦略とその他の因子に依存し,その選択および用法については急性冠症候群に対する薬剤で考察されている。その他の薬剤(β遮断薬,ACE阻害薬,スタチン系薬剤など)は入院中に開始すべきである(冠動脈疾患に対する薬剤の表を参照)。

不安定狭心症患者には(禁忌がない限り)以下を投与すべきである:

  • 抗血小板薬:アスピリン,クロピドグレル,またはその両方(クロピドグレルの代替薬はプラスグレルまたはチカグレロル)

  • 抗凝固薬:ヘパリン(未分画または低分子ヘパリン)またはビバリルジン(bivalirudin)

  • PCIを実際する際,ときに糖タンパク質IIb/IIIa阻害薬

  • 通常はニトログリセリンによる狭心症治療

  • β遮断薬

  • アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

  • スタチン系薬剤

禁忌がなければ全例に対し,アスピリンを初診時に160~325mg(腸溶錠以外),その後は1日1回81mgで無期限に投与する。初回投与では,飲み込む前に噛み砕かせることで吸収が速まる。アスピリンは短期および長期の死亡リスクを低下させる。PCIを受ける患者では,負荷量のクロピドグレル(300~600mg,経口,1回),プラスグレル(60mg,経口,1回),またはチカグレロル(180mg,経口,1回)の投与で予後が改善し,特に24時間前に投与した場合に効果が高くなる。緊急PCIの場合は,作用の発現がより速やかなプラスグレルとチカグレロルが望ましいと考えられる。

不安定狭心症の患者には,低分子ヘパリン,未分画ヘパリン,ビバリルジン(bivalirudin)のいずれかを,禁忌(例,活動性出血)がない限り,ルーチンに投与する。未分画ヘパリンは,活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)の目標値を達成するには頻繁(6時間毎)に用量調節が必要であることから,その使用はやや複雑である。低分子ヘパリンは,生物学的利用能がより良好であり,aPTTのモニタリングと用量の漸増を行うことなく単純に体重ベースの用量で投与され,ヘパリン起因性血小板減少症のリスクが低い。ビバリルジン(bivalirudin)は,ヘパリン起因性血小板減少症の既往があるか疑われる患者に推奨される。

高リスク病変(例,血栓量が多い,no reflow)に対するPCIの際には,糖タンパク質IIb/IIIa阻害薬を考慮する。アブシキシマブ,チロフィバン(tirofiban),エプチフィバチド(eptifibatide)の効力は同等とみられており,薬剤の選択は他の因子(例,費用,入手可能性,習熟度)に基づいて判断すべきである(1)。

胸痛はニトログリセリンまたは,ときにモルヒネにより治療できる。モルヒネよりもニトログリセリンが望ましく,モルヒネは慎重を期して使用すべきである(例,ニトログリセリンが禁忌である場合,または最大用量のニトログリセリンを投与しているにもかかわらず痛みがある場合)。ニトログリセリンは,まず舌下投与した後,必要に応じて持続静注する。モルヒネ2~4mg静注を必要に応じて15分毎に反復投与するのが非常に効果的であるが,呼吸および心筋収縮性を低下させる可能性があり,強力な静脈拡張作用もある。エビデンスからは,モルヒネが一部のP2Y12受容体阻害薬の活性を阻害することも示唆されている。ある大規模な後ろ向き試験からは,モルヒネが急性心筋梗塞患者の死亡率を高める可能性があることがわかっている(2, 3)。モルヒネの使用に伴い低血圧および徐脈が発生する可能性もあるが,これらの合併症は通常は下肢を速やかに挙上することで克服できる。

不安定狭心症の全患者に対する標準治療には,β遮断薬,ACE阻害薬,スタチン系薬剤などがある。β遮断薬は,禁忌(例,徐脈,心ブロック,低血圧,または喘息)がない限り推奨される(特に高リスク患者)。β遮断薬は心拍数,動脈圧,および心筋収縮性を低下させ,それにより心仕事量と酸素需要を減少させる。ACE阻害薬は,内皮機能を改善することによって,長期的な心保護作用をもたらす可能性がある。咳嗽または発疹(血管性浮腫または腎機能障害ではない)のために患者がACE阻害薬に耐えられない場合は,アンジオテンシンII受容体拮抗薬が代替薬となりうる。スタチン系薬剤も標準治療であり,脂質の値にかかわらず無期限に継続すべきである。

不安定狭心症における再灌流療法

血栓溶解薬は,STEMI患者には役立つことがあるが,不安定狭心症の患者には有益とならない。

血管造影を典型的には入院中に,患者が安定している場合は24~48時間以内に,不安定な患者(例,症状の持続,低血圧,持続性の不整脈)には直ちに施行する。血管造影の所見はPCIまたは冠動脈バイパス術(CABG)の適応かどうかを判断する上で役立つ。再灌流戦略の選択については,急性冠症候群の血行再建術でさらに考察されている。

パール&ピットフォール

  • 血栓溶解薬はSTEMIの患者には役立つ可能性があるが,不安定狭心症には有益でない。

リハビリテーションと退院後の治療

  • 機能評価

  • 生活習慣の改善:定期的な運動,食習慣の改善,減量,禁煙

  • 薬剤:抗血小板薬,β遮断薬,ACE阻害薬,およびスタチン系薬剤の継続

入院中に冠動脈造影が施行されなかった患者,高リスクの特徴(例,心不全,狭心症の再発,24時間後時点での心室頻拍または心室細動,新規の心雑音などの機械的合併症,ショック)がみられない患者,および駆出率が40%を上回る患者には,通常は退院前または退院直後に何らかの負荷試験を施行すべきである。

急性期の病状と不安定狭心症の治療を機会として,患者に危険因子の是正を強く促すべきである。患者の身体面および感情面の状態を評価し,それらについて患者と話し合い,生活習慣(例,喫煙,食事,仕事や趣味の習慣,運動)について助言するとともに,積極的に危険因子を管理していくことで,予後を改善できる可能性がある。

退院時には,全例で適切な抗血小板薬,スタチン系薬剤,および狭心症治療薬と,併存症に応じたその他の薬剤を継続すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Amsterdam EA, Wenger NK, Brindis RG, et al: 2014 AHA/ACC Guideline for the Management of Patients With Non–ST-Elevation Acute Coronary Syndromes.JACC 64 (24):e139–e228, 2014.doi: 10.1016/j.jacc.2014.09.017

  2. 2.Meine TJ, Roe MT, Chen AY, et al: Association of intravenous morphine use and outcomes in acute coronary syndromes: results from the CRUSADE Quality Improvement Initiative.Am Heart J 149(6):1043-1049, 2005.doi 10.1016/j.ahj.2005.02.010

  3. 3.Kubica J, Adamski P, Ostrowska M, et al: Morphine delays and attenuates ticagrelor exposure and action in patients with myocardial infarction: the randomized, double-blind, placebo-controlled IMPRESSION trial.Eur Heart J 37(3):245–252, 2016.doi: 10.1093/eurheartj/ehv547

不安定狭心症の要点

  • 不安定狭心症とは,心筋マーカーが心筋梗塞の診断基準を満たさない患者にみられる新たに発症した狭心症,増悪していく狭心症,または安静時狭心症である。

  • 不安定狭心症の症状としては,新たな胸痛,胸痛の悪化,安静時に生じる胸痛などがある。

  • 診断は一連の心電図検査と心筋マーカーに基づく。

  • 緊急の治療としては,酸素,抗血小板薬,抗血小板薬,抗凝固薬などがある。

  • 持続する症状,低血圧,または遷延する不整脈がみられる患者には,直ちに血管造影を施行する。

  • 安定している患者には,入院後24~48時間以内に血管造影を施行する。

  • 回復後は,抗血小板薬,β遮断薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,およびスタチン系薬剤を開始または継続する。

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