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巣状分節性糸球体硬化症

執筆者:

Frank O'Brien

, MD, Washington University in St. Louis

レビュー/改訂 2020年 1月
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巣状分節性糸球体硬化症は,点在する(分節性の)メサンギウム硬化症で,糸球体の全体ではなく一部において(巣状に)始まり,最終的に全ての糸球体が罹患する。同疾患は,ほとんどが特発性であるが,ヘロインまたは他の薬物の使用,HIV感染,肥満,鎌状赤血球症,アテローム塞栓症,ネフロン喪失(例,逆流性腎症,腎亜全摘,または腎形成異常)に続発する場合がある。主に青年に発生するが,若年成人および中年成人にも発生する。患者はタンパク尿,軽度の血尿,高血圧,高窒素血症を潜行性に発症する。診断は腎生検によって確定される。治療はアンジオテンシン阻害のほか,特発性疾患ではコルチコステロイドおよびときに細胞傷害性薬剤による。

巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は,現在米国の成人における特発性(または原発性) ネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群の概要 ネフローゼ症候群では,糸球体疾患が原因で尿タンパク排泄量が3g/日を超え,これに浮腫および低アルブミン血症が伴う。小児でより多くみられ,原発性および続発性いずれの原因もある。診断は随時尿検体の尿タンパク/クレアチニン比測定または24時間蓄尿での尿タンパクの測定により,原因は病歴,身体診察,血清学的検査,腎生検に基づき診断される。予後および治療は原因によって異なる。 ( 糸球体疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む の最も一般的な原因である。特に黒人男性に多い。FSGSは通常は特発性であるが,その他の因子との関連でも発生する可能性があり(続発性FSGS),これには薬物(例,ヘロイン,リチウム,インターフェロンα,パミドロン酸,シクロスポリン,非ステロイド系抗炎症薬[ 鎮痛薬腎症 鎮痛薬腎症 鎮痛薬腎症は,生涯を通じて特定の鎮痛薬を大量(例,2kg以上)に使用することによって生じる慢性尿細管間質性腎炎である。腎障害のほか,通常はネフローゼレベルに達しないタンパク尿と無菌の尿沈渣または無菌性膿尿がみられる。腎機能不全が発生すると,高血圧,貧血,および尿濃縮能障害が生じる。後期に乳頭壊死が生じる。診断は鎮痛薬の使用歴と単純CTの結果に基づく。治療は原因となっている鎮痛薬の中止である。... さらに読む を引き起こす]),腎に影響を及ぼすアテローム塞栓性疾患,肥満,HIV感染(HIV関連腎症 HIV関連腎症 HIV関連腎症の特徴は,巣状分節性糸球体硬化症の臨床所見と同様の所見であり,生検の特徴はしばしば虚脱型糸球体症(巣状分節性糸球体硬化症の亜型)である。 ( ネフローゼ症候群の概要も参照のこと。) HIV関連腎症は ネフローゼ症候群の一種であり,黒人のHIV感染患者で注射薬物使用者,または抗レトロウイルス療法に対する服薬コンプライアンスが不良であった患者でより多くみられると考えられる。腎細胞のHIV感染が寄与する可能性がある。... さらに読む HIV関連腎症 を参照),ネフロン喪失をもたらす疾患(例,逆流性腎症,腎亜全摘,腎形成異常[例,寡巨大糸球体症:ネフロン数の少ない腎低形成])などがある。家族性症例が存在する。

FSGSでは,電荷および分子サイズによる限外濾過バリアがともに障害されているため,タンパク尿は典型的には非選択的であり,アルブミンのみならず高分子タンパク質(例,Ig)も影響を受ける。腎臓は小さい傾向がある。

巣状分節性糸球体硬化症の概要
動画

症状と徴候

巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)患者は一般的に重度のタンパク尿,高血圧,腎機能障害,浮腫,またはその合併を呈する。ときに,ネフローゼレベルには達しない無症候性のタンパク尿が唯一の徴候のことがある。顕微鏡的血尿がときに認められる。

診断

  • 腎生検を施行し,可能な場合は免疫染色法および電子顕微鏡を用いる

ネフローゼ症候群,タンパク尿,腎機能障害のいずれかを呈し,顕著な原因が認められない患者,特に巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)と関連する疾患または薬物使用を有する患者ではFSGSを疑う。

尿検査を行い,血中尿素窒素(BUN)値,血清クレアチニン値,および24時間尿タンパク排泄量またはスポット尿のタンパク:クレアチニン比を測定する。

診断は 腎生検 腎生検 尿路の生検は,訓練を受けた専門医(腎臓専門医,泌尿器科医,またはIVR専門医)が行う必要がある。 診断を目的とする生検の適応としては,原因不明の 腎炎または ネフローゼ症候群や 急性腎障害などがある。ときに,治療効果の判定を目的として生検が施行されることもある。相対的禁忌には,出血性素因やコントロール不良の 高血圧などがある。ベンゾジアゼピン系薬剤による軽度の術前鎮静が必要になる場合がある。合併症はまれであるが,輸血や放射線学的または外... さらに読む によって確定され,生検では糸球体に巣状および分節性の硝子化が示され,免疫染色によってしばしばIgMと補体(C3)の沈着が結節状の粗大な顆粒状パターンで示される。特発性の症例では,電子顕微鏡下でびまん性の足突起の消失を認めるが,続発性の症例では,斑状の足突起消失を認めることがある。全節性硬化が,続発した糸球体萎縮とともに視認できることがある。生検では,巣状の異常領域が採取されなかった場合,偽陰性となることがある。

巣状分節性糸球体硬化症

予後

予後は不良である。自然寛解が起こるのは患者の10%未満である。10年以内に半数を超える患者が腎不全となり,20%では治療にもかかわらず2年以内に 末期腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 を呈するが,有意な尿細管間質線維化がある場合には,その可能性がより高くなる。本疾患は成人の方が小児よりも進行が急速である。

分節性硬化が尿細管の起点である糸球体の尿細管極に一貫して存在する場合は(尖端病変[tip lesion]),コルチコステロイド療法に対する反応がより良好であることを予測できる。もう1つの亜型では,毛細管壁に皺または虚脱が認められ(虚脱性巣状分節性糸球体硬化症[FSGS],典型的には静脈内投与の薬物乱用またはHIV感染と関連),疾患がより重症で腎不全への急速な進行が示唆される。妊娠によりFSGSが増悪することがある。

FSGSは 腎移植 腎移植 腎移植は最もよく行われる実質臓器移植である。( 移植の概要も参照のこと。) 腎移植の主な適応は以下の通りである: 末期腎不全 絶対的禁忌としては以下のものがある: 移植片の生着を危うくしかねない併存症(例,重度の心疾患,悪性腫瘍),これらは徹底的なスクリーニングにより検出可能 さらに読む 後に再発する場合があり,タンパク尿はときには腎移植から数時間以内に再発する。FSGSに起因する末期腎臓病に対して移植術を施行された患者のうち,約8~30%はFSGSの再発のため移植腎を喪失し,そのリスクが最も高い患者は,幼児,黒人以外の患者,疾患発生から3年未満で腎不全を発症した患者,メサンギウム増殖を有する患者,初回の移植術前の診断が原発性FSGSで移植術が繰り返された患者である。家族性FSGSでは,移植後の再発はまれである。

FSGSに起因するネフローゼ症候群を有するヘロイン常用者は,本疾患の早期にヘロイン使用を中止した場合,完全寛解が得られる可能性がある。

治療

  • アンジオテンシン阻害

  • 特発性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)に対して,コルチコステロイドおよびときに細胞傷害性薬剤

  • 末期腎臓病患者に対する腎移植

治療はしばしば効果的ではない。FSGS患者は, 血管性浮腫 血管性浮腫 血管性浮腫は真皮深層および皮下組織の浮腫である。通常は,薬物,毒液,食物,花粉,または動物のフケなどのアレルゲンへの曝露によって引き起こされる急性の肥満細胞介在性反応である。さらに血管性浮腫は,アンジオテンシン変換酵素阻害薬に対する急性反応,慢性反応,または異常な補体反応を特徴とする遺伝性もしくは後天性疾患のこともある。主な症状は腫脹であり,重度のことがある。診断は診察による。治療は,必要に応じて気道管理,アレルゲンの除去または回避,お... さらに読む 血管性浮腫 または 高カリウム血症 高カリウム血症 高カリウム血症とは,血清カリウム濃度が5.5mEq/L(5.5mmol/L)を上回ることであり,通常は腎臓からのカリウム排泄の低下またはカリウムの細胞外への異常な移動によって発生する。通常,カリウム摂取の増加,腎臓からのカリウム排泄を障害する薬剤,および急性腎障害または慢性腎臓病など,いくつかの寄与因子が同時に存在する。高カリウム血症は,糖尿病性ケトアシドーシスや,代謝性アシドーシスでも生じる可能性がある。臨床症状は一般に神経筋症状であ... さらに読む により禁忌でない限り,アンジオテンシン阻害(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB])により治療すべきである。ネフローゼ症候群患者はスタチンで治療すべきである。

特発性FSGSでは,タンパク尿がネフローゼレベルに達するか,腎機能が増悪した場合,特に 腎生検 腎生検 尿路の生検は,訓練を受けた専門医(腎臓専門医,泌尿器科医,またはIVR専門医)が行う必要がある。 診断を目的とする生検の適応としては,原因不明の 腎炎または ネフローゼ症候群や 急性腎障害などがある。ときに,治療効果の判定を目的として生検が施行されることもある。相対的禁忌には,出血性素因やコントロール不良の 高血圧などがある。ベンゾジアゼピン系薬剤による軽度の術前鎮静が必要になる場合がある。合併症はまれであるが,輸血や放射線学的または外... さらに読む で尖端病変が判明した場合は,免疫抑制療法の試験的実施の適応となる。一方,続発性FSGS,虚脱型FSGS,進行した尿細管間質線維化を腎生検で示す患者は,免疫抑制療法に反応しない傾向にあるため,一般的に免疫抑制療法では治療せず,その代わり原発性疾患を治療する。

免疫抑制療法

コルチコステロイド(例,プレドニゾン1mg/kg,経口,1日1回または2mg/kg,隔日)を少なくとも2カ月投与することが推奨されるが,最長9カ月間の使用を推奨する専門家もいる。長期治療での反応率は30~50%と報告されており,FSGSの組織学的分類によって異なる。タンパク尿が2週間寛解した後,コルチコステロイドを2カ月以上かけて緩徐に漸減する。続発性および家族性症例,虚脱型FSGS,進行した尿細管間質線維化は,コルチコステロイド抵抗性の可能性が高い。

コルチコステロイド療法で改善がわずかであるか再発を来した場合は,シクロスポリン(1.5~2mg/kg,経口,1日2回,6カ月間)または代替としてミコフェノール酸モフェチル(体表面積が1.25m2を超える患者では750~1000mg,経口,1日2回,6カ月間,または600mg/m2BSA,1日2回,最高1000mg,1日2回)による寛解導入を行うことがある。

高用量コルチコステロイドの禁忌(例,糖尿病,骨粗鬆症)がある患者では,シクロスポリンと低用量コルチコステロイド(例,プレドニゾン0.15mg/kg,経口,1日1回)を併用することができる。

代替療法は,血漿交換とタクロリムスによる免疫抑制の併用である。

要点

  • ネフローゼ症候群,タンパク尿,腎機能障害のいずれかを呈し,顕著な原因が認められない患者,特に巣状分節性糸球体硬化症と関連する疾患または薬物使用を有する患者ではFSGSを疑う。

  • 可能な場合は,腎生検に免疫染色法および電子顕微鏡を用いてFSGSを確定する。

  • FSGSが特発性で,タンパク尿がネフローゼレベルに達するか腎機能が増悪する場合は,コルチコステロイドによる治療および可能性としてシクロスポリンまたはミコフェノール酸モフェチルによる治療を考慮する。

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