男性の生殖内分泌学

執筆者:Irvin H. Hirsch, MD, Sidney Kimmel Medical College of Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2021年 3月
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男性の性発達とホルモン機能は,中枢神経系によって調節される視床下部‐下垂体‐精巣系が介在する複雑なフィードバック回路に依存している。男性性機能障害は,性腺機能低下症,神経血管疾患,薬剤,その他多くの疾患に続発することがある。

病態生理

視床下部ではゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が産生され,60~120分毎にパルス状に分泌される。その標的器官である下垂体前葉では,GnRHの各パルス状分泌に反応して,黄体形成ホルモン(LH)と比較的少量の卵胞刺激ホルモン(FSH)がパルス状に分泌される。GnRHのパルス状分泌が適正な振幅,頻度,および日内変動で生じない場合,性腺機能低下症が発生することがある(特発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。GnRHアゴニストによる持続的(パルス状ではない)刺激(例,進行前立腺癌に対する治療)は,実際には下垂体からのLHおよびFSHの分泌を抑制するため,結果としてテストステロンの産生も抑制される。

精巣のライディッヒ細胞は,LHに反応して1日当たり5~10mgのテストステロンを産生する。テストステロン濃度は早朝に最高値,夜間に最低値を示すが,高齢男性ではこの日内変動が鈍化することがある。

テストステロンはコレステロールから,デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)やアンドロステンジオンなど,いくつかの中間化合物を経て合成される。循環血中のテストステロンは,大部分がタンパク質に結合しており,約40%は性ホルモン結合グロブリン(SHBG)に強く結合し,58%はアルブミンに緩やかに結合している。したがって,循環血中のテストステロンのうち,遊離テストステロンとして生体が利用可能であるのは約2%のみである。テストステロン全体のうち,男性の特徴(以下参照),性欲,骨量,筋肉量をもたらしているのは,この生理活性成分である。

標的組織では,テストステロンの約4~8%が5α-還元酵素によって,より強力な代謝物であるジヒドロテストステロン(DHT)に変換される。DHTは前立腺で重要な栄養作用を示し,アンドロゲン性脱毛症に影響を与える。成人では,精子形成に十分な精巣内テストステロンが必要となるが,精子形成におけるDHTの役割は不明である。

テストステロンとDHTは,代謝およびその他に対する作用を有し,具体的には以下のものがある:

  • タンパク質同化を刺激する(筋肉量および骨密度の増加)

  • 腎臓におけるエリスロポエチンの産生を刺激する(赤血球質量の増加)

  • 骨髄幹細胞を刺激する(免疫系の調節)

  • 皮膚に対する影響(皮脂産生,毛髪の成長)を引き起こす

  • 神経系に対する影響(認知機能の障害,性欲の増強,おそらくは攻撃性の増加)を引き起こす

テストステロンはアロマターゼという酵素によりエストラジオールにも変換されるが,エストラジオールは骨や脳などの臓器に対するテストステロンの作用の大半を調節している。

テストステロン,DHT,およびエストラジオールは,視床下部-下垂体系に対してネガティブフィードバックをかける。男性では,エストラジオールがLH産生の主な阻害物質であるが,一方でFSHの産生はエストラジオールとインヒビンB(精巣のセルトリ細胞により産生されるペプチド)の両方によって阻害される。テストステロンの存在下では,FSHはセルトリ細胞を活性化し,精子形成を誘導する。精子形成においては,セルトリ細胞に隣接する個々の胚芽細胞(精原細胞)が16個の一次精母細胞に分化し,それぞれから4つの精細胞が形成される。個々の精細胞が成熟して精子となる。精子形成には72~74日の時間を要し,毎日約1億個の精子が新たに産生される。成熟した精子は精巣網に放出され,そこから精巣上体を経て,最終的には精管へと移動する。移動にはさらに14日間かかる。射精の際には,精子は精嚢,前立腺,および尿道球腺からの分泌物と混合される。

性分化,アドレナーキ,および思春期

胚では,Y染色体の存在によって精巣の発生と成長が誘発され,精巣は妊娠約7週までにテストステロンおよびミュラー管抑制因子を分泌するようになる。テストステロンはウォルフ管(発達して精巣上体,精管,および精嚢となる)を男性化させる。ジヒドロテストステロンは男性外性器の発生を促進する。テストステロン濃度は妊娠第2トリメスターにピークに達し,出生までにほぼ0に低下する。テストステロン産生は生後6カ月にわたり一時的に上昇し,以降テストステロン濃度は思春期まで低値を維持する。ミュラー管抑制因子は胎児の女性器の退縮を引き起こす。

黄体形成ホルモン(LH)および卵胞刺激ホルモン(FSH)の濃度は出生時に上昇するが,数カ月以内に低下し,思春期前の時期全体を通じて低値または検出限界未満の水準でとどまる。不明の機序により,副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)およびDHEA硫酸エステルの血中濃度は,思春期の数年前から上昇し始める。これらは少量のテストステロンに変換されると,陰毛および腋毛の成長が始まる(アドレナーキ[adrenarche])。アドレナーキは早ければ9歳または10歳で発生する。

思春期が始まる機序は不明であるが,思春期早期には性ホルモンの阻害作用に対する視床下部の感受性が低下する。この脱感作により,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)のパルス状分泌に対応するLHおよびFSHの分泌が亢進し,テストステロンおよび精子の産生が刺激される。男児では,テストステロン濃度の上昇によって思春期変化が惹起されるが,最初に起こるのは精巣および陰嚢の成長である。その後は陰茎の長さ,筋肉量,および骨密度が増大し,声が低くなり,陰毛および腋毛が密集して濃くなっていく(思春期―男性の特徴がみられる時期の図を参照)。

思春期―男性の性徴がみられる時期

バーは正常範囲を示す。体質の変化の平均値は得られていない。

加齢の影響

視床下部からのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌と卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体形成ホルモン(LH)に対するライディッヒ細胞の反応は,いずれも加齢により低下する。高齢者ではライディッヒ細胞の数も減少する。男性の血清総テストステロン濃度は,30歳頃から年1~2%のペースで低下するようになる。70~80歳の男性における血清テストステロン濃度は,20代男性の値の約1/2から2/3を示す傾向にある。さらに,性ホルモン結合グロブリン(SHBG)濃度が加齢とともに上昇するため,血清中で生体が利用可能な遊離テストステロンはさらに減少する。FSHおよびLHの濃度は正常または正常高値となる傾向がある。この年齢に関連した変化は男性更年期(andropause)と呼ばれているが,女性の更年期(閉経)に生じるようなホルモン濃度の急激な変化(およびそれに対応する症状)はみられない。テストステロンの低下は,これまで加齢男性のアンドロゲン欠乏症(androgen deficiency of the aging male:ADAM)と呼ばれていた特定の症状群に寄与している可能性があり,具体的な症状としては以下のものがある:

  • 年齢に関連した筋量低下

  • 脂肪沈着の増加

  • 骨減少症

  • 性欲減退および勃起障害

  • 認知機能の低下

男性にこれらの症状に加えて血清テストステロン濃度の低下がみられる場合,性腺機能低下症と診断され,テストステロンの補充による治療に適格となる。

テストステロン濃度が正常低値の男性に対するテストステロン補充には議4論がある。一部の専門家は,性腺機能低下症の症状または徴候を呈する高齢男性と血清テストステロン濃度が正常下限をわずかに下回る男性に対し,テストステロン補充を試すことを推奨している。ADAMに使用する上で,いずれかのテストステロン製剤が特に好ましいことを示したデータはないが,連日の経皮的適用が最も生理学的で,最も忍容性が高いと考えられる。

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