X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。
X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、 CT検査 CT検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピュータに送信され、コンピュータが体の2次元の断面のような画像(スライス画像)に変換します。(CTとは... さらに読む などの他の手法と組み合わせて使用することもあります。(画像検査の概要 画像検査の概要 画像検査は、体の全体または一部の「内側」を画像化する検査です。画像検査は、病気の診断、重症度の判定、診断後のモニタリングを行う上で役に立ちます。大半の画像検査は痛みを伴わず、比較的安全で、体に負担をかけません(すなわち、皮膚を切開したり、器具を体内に挿入したりする必要がありません)。... さらに読む と バックグラウンド放射線 放射線被曝の線源 放射線障害とは、電離放射線の被曝により生じた組織の損傷です。 電離放射線の大量照射は、血球の生産量を減らし、消化管に損傷を与えることによって急性疾患を引き起こします。 電離放射線のさらに大量の照射は、心臓と血管(心血管系)、脳、皮膚にも損傷を与えます。 大量、またはさらに大量の放射線被曝による放射線障害は、組織反応と呼ばれます。どのくらい... さらに読む も参照のこと。)
X線検査の手順
従来のX線検査では、調べたい体の部位をX線源と画像の記録装置との間に置きます。撮影者はX線を遮断するスクリーンの陰にかくれ、ほんの数秒、X線装置を作動させます。撮影中は、患者はじっとしていなければなりません。いくつかの角度からの画像を得るために複数回撮影を行うこともあります。
X線のビームは検査したい体の部位に向けられます。それぞれの組織が遮断するX線の線量は、組織の密度に応じて異なります。組織を貫通したX線はフィルムまたは放射線検出器(イメージングプレート)上に記録され、組織密度の違いを表す画像を描出します。以下のように、組織密度が高ければX線はそれだけ遮断され、画像は白くなります。
金属は真っ白に見えます(放射線不透過性)。
骨は、ほぼ真っ白に見えます。
脂肪、筋肉、体液は灰色っぽく見えます。
空気とガスは黒く見えます(放射線透過性)。
X線検査の用途
腕、脚、または胸部を評価する際は通常、単純X線検査が最初に行われます。ときに脊椎や腹部を評価する際にも単純X線検査が最初に行われることがあります。その理由は、これらの部位にある重要な構造は密度が大きく異なるためにX線画像上で容易に区別できるからです。具体的には以下のような病変を検出するのに単純X線検査が用いられます。
肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に起きる感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気がほかにある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約400~500万人が肺炎を発症し(... さらに読む :肺の空気は黒く写るため、より多くのX線を遮断して白くなる感染組織と明確に区別できます。
マンモグラフィー
マンモグラフィー マンモグラフィー 乳がんは、乳房の細胞が異常をきたし制御不能に分裂することで発生します。通常は、乳汁を作る乳腺(小葉)または乳腺から乳頭(乳首)へ乳汁を運ぶ乳管にがんが発生します。 乳がんは、女性がかかるがんの中で発症数が最も多く、がんによる死亡の中では第2位を占めています。 通常、最初に現れる症状は痛みのないしこりで、自分で気づくことがほとんどです。 乳がんスクリーニングの推奨は様々で、定期的なマンモグラフィー、医師による乳房の診察、乳房自己検診などが... さらに読む でも、X線を利用します。この検査により、乳がんを含む乳房の病気のスクリーニングと診断を行います。
乳房の組織は放射線に感受性があるため、被曝の問題が懸念されます。しかし特殊なマンモグラフィー装置とデジタル画像技術を利用すると、放射線被曝を最小限に抑えることができます。
様々なX線検査
造影剤を用いるX線検査
放射線不透過性造影剤 放射線不透過性造影剤 画像検査では、特定の組織または構造を周辺領域から区別したり、詳細な画像を撮影したりするために造影剤を使用することがあります。 造影剤には以下のものがあります。 放射線不透過性造影剤:X線画像に写る物質 常磁性造影剤: MRI検査で使用される物質 放射線不透過性造影剤はX線を吸収するため、X線画像上で白く見えます。典型的には以下のものを見るために用いられます。 さらに読む を投与してから通常のX線検査を行うことも可能で、造影剤は通常、静脈内への注射、内服、またはチューブを介した直腸内への注入により投与します。放射線不透過性造影剤を使用すると、撮影したい組織や構造物が周囲の組織より放射線を透過しなくなるため、その部分はX線写真上で白く写り、見えやすくなります。
従来の血管造影 血管造影 血管造影検査は、X線を用いて血管の詳細な画像を描出する検査で、 CT血管造影検査や MRアンギオグラフィー検査(MRA)と区別するために「従来の血管造影」と呼ばれることもあります。血管造影の撮影を行いながら、医師が血管の異常を治療することも可能です。血管造影は体に負担をかける検査法ですが、それでも比較的安全です。 血管造影では静止画像だけでなく動画(シネアンギオグラフィーといいます)も撮影でき、血液が血管内を流れる速さを測ることも可能で... さらに読む では、放射線不透過性造影剤を血管に注射してからX線撮影を行います。
消化管X線検査の前には、液体または食べものとともにバリウムまたはガストログラフィン(放射線不透過性造影剤)を飲むよう指示されることがあります。その状態でX線を照射するとバリウムまたはガストログラフィンにより食道、胃、小腸が描出されます。または、肛門に管を挿入してバリウムを注入し(バリウム注腸)、腸の下部(大腸)にポンプで慎重に空気を送り込んで腸を広げることもあります。これにより潰瘍、腫瘍、閉塞、ポリープ、憩室炎が見つけやすくなります。バリウムを腸に注入すると、検査中に軽度から中等度の差し込むような腹痛と便意を生じる場合があります。
食道、胃、上部腸管の画像検査として、以前はバリウムまたはガストログラフィンを投与した後にX線撮影が行われていましたが、現在では 内視鏡検査 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。 口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。 肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できま... さらに読む が主流になっています。
X線透視検査
この方法では、ビデオカメラの映像のような動画を撮影することにより、心臓の拍動、腸が蠕動(ぜんどう)により食べものを移動させる様子、肺が拡大収縮する様子など、臓器や組織が機能している様子を観察することができます。
一般的にX線透視検査は、以下の場合に用いられます。
心臓電気生理検査 心臓電気生理検査 心臓電気生理検査は、心拍リズムや電気伝導の深刻な異常を評価するために行われます( 不整脈の概要を参照)。 不整脈があることがすでに分かっているか、強く疑われる場合、医師は検査時に意図的に不整脈を誘発し、特定の薬剤で障害が治まるかどうかや、心臓内の異常な電気伝導を除去する手術が助けになるかどうかを判断します。必要であれば、心臓に短い電気ショックを与え( カルディオバージョン)、速やかに正常なリズムに回復させることができます。心臓電気生理検... さらに読む (不整脈に対する検査)または 冠動脈カテーテル検査 心臓カテーテル検査と冠動脈造影検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の1つとしては、検査中に 冠動脈疾患など様々な病気の治療も行えることがあります。... さらに読む の最中に、カテーテルがうまく心臓に届いているかを判定するため
バリウムなどの放射線不透過性造影剤を(通常は経口で)投与し、消化管を評価するため
筋骨格系の外傷の評価中に、骨と関節の動きを観察するため
X線検査の短所
単純なX線検査と比べて、より詳細な画像が得られる検査や、より安全または迅速に行える検査、より正確な診断を下すのに役立つ検査などがあります。
主な短所は以下の点です。
放射線への曝露
放射線曝露
単純X線検査では、1枚の画像を撮影するのに使用する放射線量はごくわずかです。胸部X線検査で画像を1枚撮影する際の放射線被曝量は、たいていの人が2.4日間で自然環境から浴びる放射線量と同じくらいです(バックグラウンド放射線被曝 バックグラウンド放射線 放射線障害とは、電離放射線の被曝により生じた組織の損傷です。 電離放射線の大量照射は、血球の生産量を減らし、消化管に損傷を与えることによって急性疾患を引き起こします。 電離放射線のさらに大量の照射は、心臓と血管(心血管系)、脳、皮膚にも損傷を与えます。 大量、またはさらに大量の放射線被曝による放射線障害は、組織反応と呼ばれます。どのくらい... さらに読む )。
しかし、検査の種類によっては画像を何枚も撮影する必要があったり、高線量の放射線を使用したり、場合によっては高線量で何枚も撮影したりすることもあります。結果として、総被曝量が高くなりますが、以下はその例です。
多方向からの腰椎X線検査:バックグラウンド放射線の約3カ月間分になります。
マンモグラフィー:バックグラウンド放射線の約1~2カ月分になります。
X線透視検査は、単純X線検査と比べて高線量の放射線を使用しなければならないため、可能な場合は他の画像検査で代用します。
撮影者は患者の放射線被曝を最小限にするための対策を講じます。妊娠している、あるいは妊娠している可能性のある女性は、そのことを主治医に伝えておく必要があります。そうすれば、胎児を被曝から保護するために、撮影者が可能な限りの対策を講じることができます妊婦の腹部または骨盤を評価する際は、超音波検査などの放射線を使用しない画像検査で代用される場合もあります。とはいえ、腹部や骨盤以外の部位への単純X線検査であれば、通常、子宮にあたる放射線量は極めて微量です。
その他の短所
一部の特定の検査には被曝以外の リスク 医療画像検査における放射線のリスク 画像検査で使用される放射線(通常はX線)は、診断に有用なツールですが、放射線への曝露にはある程度のリスクが伴います( 放射線障害も参照)。 使用する放射線量は検査毎に異なりますが(表「 様々な画像検査で使用する放射線量」を参照)、ほとんどの場合、使用される線量は低く、一般的に安全とみなされています。例えば、胸部X線検査1回に使用する放射線量は自然環境で浴びる放射線の年間平均線量の100分の1にも届きません(... さらに読む があります。例えば、バリウムを飲んだり浣腸で腸に入れることにより、便秘を起こすことがあります。