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禁煙

執筆者:

Judith J. Prochaska

, PhD, MPH, Stanford Prevention Research Center, Stanford University

レビュー/改訂 2020年 12月
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本ページのリソース

禁煙は非常に困難なことが多いですが、喫煙者が自分の健康のためにできる最も重要なことの1つです。

  • 禁煙はすぐに健康上の便益をもたらし、便益は時間の経過とともに大きくなります。

  • 禁煙する人は、イライラし、不安で、悲しく、落ち着きのない状態になることがありますが、これらの症状は時間の経過とともに軽減します。

  • 禁煙は周囲の人々にも健康上の便益をもたらします。

  • ほとんどの喫煙者は禁煙したいと願い、禁煙を試みていますが、失敗に終わっています。

  • 行動変容のためのカウンセリングとサポート、ニコチン代替製品や特定の薬は、完全に禁煙できる可能性を2倍に高めます。

喫煙は体のほぼすべての臓器に害を及ぼしますが、禁煙するならすぐに健康上の便益が得られ、それは時間の経過とともに大きくなります。最後にタバコを吸ってから30分以内に、血圧と脈拍が低下し、正常に戻ります。8時間以内に、一酸化炭素濃度が正常に戻ります。24時間後、 心臓発作 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) 急性冠症候群は、冠動脈が突然ふさがる(閉塞する)ことによって起こります。この閉塞により、その位置と程度に応じて、不安定狭心症か心臓発作(心筋梗塞)が起こります。心臓発作とは、血液供給がなくなることにより心臓の組織が壊死する病気です。 急性冠症候群を発症すると、通常は胸部の圧迫感や痛み、息切れ、疲労などが起こります。 急性冠症候群が起きたと思ったら、まず救急車を呼んでから、アスピリンの錠剤を噛み砕いて服用します。... さらに読む 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) の可能性が下がり、3年以内には心臓発作のリスクが喫煙したことのない人と同程度になります。時間の経過とともに、 がん 肺がん 男女ともに、がんによる死亡の中で最も多い原因が肺がんです。症例の約85%は喫煙に関連しています。 よくみられる症状は、持続性のせき、または、性状が変化する慢性的なせきです。 肺がんの大部分は胸部X線検査で発見できますが、診断を確定するためには他の画像検査や生検をさらに行う必要があります。 肺がんの治療には、手術、化学療法、分子標的療法、免疫療法、放射線療法のいずれも用いられます。... さらに読む 肺がん のリスクも減少します。

タバコをやめる人の大半が、健康上の理由か経済的な理由のどちらかでタバコをやめています。米国の喫煙者の約70%は、喫煙をやめることを望んでおり、少なくとも1回は禁煙を試みたことがあると言います。離脱症状は、禁煙の主要な障害です。

喫煙にかかる費用

禁煙することにより、お金と時間をかなり節約することができます。

お金:タバコ1箱の値段は全国平均で6.65ドルです。これは、1日1箱喫煙する人は、タバコだけに毎年2400ドル以上支払っているということです。これには、ライター、消臭剤、その他の喫煙関連製品や付属器具は含まれていません。医療費と失われた労働時間は、長期的にみてさらに大きな費用となっています。

時間:タバコを1本吸うのにかかる時間と、そのタバコを買うお金を稼ぐための時間、喫煙する場所を探す時間を合わせると約8分になります。多くの場所が禁煙ルールを取り入れているため、喫煙できる場所は以前ほど簡単には見つからなくなりました。その結果、1日1箱喫煙する人は、毎日喫煙に約3時間も費やすことになりえます。

禁煙により、本人の健康や経済状態が改善するとともに、吐き出された煙や火が付いたタバコの端から出る煙にさらされる人にもすぐに恩恵がもたらされます。公衆衛生局は、受動喫煙に安全なレベルというものはないと、2006年に結論づけています。禁煙に成功した人は、禁煙を願っている他の喫煙者のお手本や支えとなることができます。禁煙は困難ですが可能であり、科学的根拠に基づいた治療を利用することができます。

ニコチンからの離脱

禁煙は、タバコに対する激しい渇望だけでなく、不安、抑うつ(たいていは軽度ですが、ときに重度)、集中力の低下、易刺激性、落ち着きのなさ、空腹感、振戦、発汗、めまい、頭痛、腹痛、吐き気、睡眠障害などの症状を引き起こします。ニコチンの離脱症状は、禁煙開始から2~3日の間に最も強くなり、2~4週間以内に治まる傾向にあります。ニコチンの離脱症状を軽減するために、薬剤が使用できます。

ニコチンには食欲を抑え、カロリー燃焼率をわずかに高める作用があるため、禁煙する人では体重が増加することがあります。また、食べもののおいしさやよい匂いを感じるようになります。喫煙すると嗅覚が鈍り、味蕾に有害な影響が及ぶからです。運動は禁煙に伴う体重増加の予防に役立ち、ニコチンへの渇望を抑える効果もあります。口寂しさに対処するために、水を飲むことや他の方法(例えば、爪ようじを使う、ストローやニンジンスティックをかじるなど)が勧められています。ニコチンガムの使用により、体重増加を遅らせられることがあります。肺が回復し始めると、一過性のせきが生じることがあります。

一般的なニコチン離脱症状の例、その推定持続期間、およびそれらを軽減するための行動戦略を以下に示します。

の離脱症状*

離脱症状

持続期間

行動戦略

胸の圧迫感

数日間

深呼吸

便秘

1~2週間

水分を補給する

食物繊維を多く含む食品を食べる

せき

数日間

水分を補給する

タバコに対する渇望

2~3日間は頻繁に、その後は減少

気を紛らわせる

運動

抑うつ気分

1~2週間

楽しい活動を増やす

家族や友人に支援を頼む

集中力の低下

数週間

仕事量を前もって計画する

めまい

1~2日間

ゆっくり注意して姿勢を変える

疲労

2~4日間

昼寝をする

無理をしない

空腹

最大数週間

水を飲む

低カロリーのスナックを食べる

不眠

1週間

カフェインを制限する(正午を過ぎたら飲まない)

リラクゼーション法を練習する

易怒性

2~4週間

散歩をする

熱い風呂に入る

リラクゼーション法を練習する

*以下より許可を得て再現:Rx for Change: Clinician-Assisted Tobacco Cessation program.The Regents of the University of California.Copyright © 1999-2018.RxforChange(変化への処方箋)

予後(経過の見通し)

米国では毎年約2000万人の喫煙者(全喫煙者のほぼ半数)が24時間禁煙を試みています。ほとんどの人は支持的カウンセリングや他の証明された禁煙補助の方法を何も利用しません。このような人では、長期的に成功するのは約5%に過ぎません。対照的に、長期の禁煙を達成するために証明された方法を利用した人では、1年間の成功率は20~30%です。

治療

  • 行動変容のためのカウンセリングとサポート

  • ニコチン代替製品の使用

  • ある種の薬

カウンセリングと薬物療法によるサポートを併用することにより、禁煙が成功する可能性が高くなります(まれな症例を除く)。禁煙に効果的な薬剤は7種類あります。

医療従事者は、行動変容の方法を勧めたり、禁煙のための薬について教育を行ったり、処方せんを書いたり、追加のサポートを受けるために役立つ紹介を行ったりすることができます。米国のすべての州が電話での禁煙相談を行っており、禁煙を試みる人々をサポートしています。全国番号(米国)の1-800-QUIT-NOW(1-800-784-8669)に電話し、自分の州のカウンセリングサービスに接続することができます。電話での禁煙相談は、少なくとも対面式のカウンセリングと同じくらい効果的なようです。米国国立がん研究所(National Cancer Institute)のウェブサイト(Smokefree.gov)は、禁煙のための総合的なリソースであり、情報、治療計画、携帯メールやライブチャットを介した個別の行動カウンセリングを提供しています。

催眠療法、レーザー、ハーブ療法、および鍼治療は、禁煙に効果的であると証明されていません。無煙タバコの使用者には、行動変容のためのカウンセリングとサポートは効果があるようですが、ニコチン代替製品やその他の薬の効果に関する証拠は弱いようです。

行動の変容

禁煙のために、行動戦略が推奨されています。行動戦略では以下のことに重点を置きます。

  • タバコの煙のない環境を作る(例:タバコ、灰皿、ライターを全部捨て、人々が一般にタバコを買ったり吸ったりする場所を避ける)

  • 普段の活動の中で生じるタバコを吸いたくなるきっかけ(電話での会話、休憩、食事、性行為、退屈、交通渋滞、イライラしているときや起床時など)を認識する

  • タバコを吸いたくなるきっかけを認識した後、そのきっかけを引き起こす行動を変えたり(例:コーヒーを飲んで休憩する代わりに散歩をするなど)、喫煙の代わりに別の行動を取ったり(例:キャンディをなめる、爪ようじを噛む、氷を口に含む、いたずら書きをする、チューインガムを噛む、クロスワードなどのパズルを解くなど)する

  • 楽しい活動を行い、禁煙の努力に報いる(例:音楽を聴く、友人と話す、びんにお金を貯める)

推奨される他の戦略として、身体活動、深呼吸、リラクゼーション法を行うことや、水を飲んだり、低カロリーのスナックや食物繊維の豊富な食品を食べたりすることが挙げられます。飲酒やマリファナの使用を避けるとよいかもしれません。いずれの物質も、一時的に禁煙の決意を弱めることがあるからです。

やめる日を決めておくことが非常に役立ちます。禁煙開始日は任意に決めてもよいですし、特別な日(例えば、休日や記念日)に始めるのもよいでしょう。何かの期限が近いなどストレスが多い時期(例えば、納税期限)は、タバコをやめるのに適していません。家庭内の他の人も喫煙する場合、家庭を禁煙にすることが重要です。

タバコをやめる場合は、徐々に喫煙本数を減らしていくよりも、完全にやめる(cold turkeyと呼ばれます)方が効果的です。喫煙本数を減らした人は、無意識のうちに息を深く吸い込んだり、タバコをフィルターまで吸ったりすることがあり、結局は以前と同じくらいの量のニコチンを取り込むことになるかもしれません。

薬剤によるサポート

ニコチン代替療法(NRT)、ブプロピオンとバレニクリンはすべて薬剤ベースの治療であり、ニコチン離脱症状の不快感を最小限に抑えることで、人々が禁煙の行動的側面に集中できるよう助けます。

ニコチン代替療法は、パッチ、ガム、トローチ、吸入器、鼻腔スプレーなど、様々な剤形で利用できます。すべて脳にニコチンを供給しますが、タバコのように急速に到達することはありません。薬物が脳に到達するスピードが速いほど、依存の可能性が高くなります。そのため、ニコチン代替製品に依存するようになる人はほとんどいません。パッチ、ガム、トローチは市販薬として購入できますが、鼻腔スプレーと吸入器は米国では処方せんがなければ入手できません。併用ニコチン代替療法では、一般に長時間作用型のニコチンパッチと、短時間作用型の製剤(ガム、トローチ、吸入器、鼻腔スプレー)を併用しますが、これは特に効果的な戦略で、長期にわたって禁煙できる可能性を2倍以上に高めます。

ニコチン代替製品の使用にはいくつかの注意点があります。

  • 顎関節疾患のある人はガムを使用すべきではありません。

  • 皮膚が敏感な人はパッチを使用すべきではありません。

  • これらの製品は、妊娠中の女性に有害な作用がある場合があります。

  • 最近心臓発作または血管障害があった人は使用する前に医師に相談すべきです。

ブプロピオンは処方薬の抗うつ薬で、うつ病のある喫煙者にもない喫煙者にも、禁煙に役立つことが判明しています。ブプロピオンはニコチン代替製品と併用することができます。両者を併用すると、いずれか単独より禁煙の成功率が上がります。併せて行動変容プログラムを実行すると、効果がさらに高まります。けいれん発作のリスクがある人はブプロピオンを使用すべきではありません。

別の抗うつ薬である、ノルトリプチリンも禁煙に役立つことが示されています。抑うつ状態の人が禁煙を試みる場合は、カウンセリングも受けるべきです。

別の処方薬であるバレニクリンは、渇望や離脱症状を軽減し、喫煙による満足感を得にくくし、禁煙の長期的な成功率を高めます。バレニクリンには、次の2通りの作用があります。

  • 脳内のニコチンが作用する受容体を部分的に遮断することで、離脱症状を緩和します。

  • ニコチンが受容体に結合するのを妨げるため、バレニクリンを服用中にタバコを吸った場合、満足感が得られにくくなります。

一般に、ニコチン代替製品とバレニクリンは併用しません。

ブプロピオン徐放錠またはバレニクリンを服用する人の一部では、敵意、興奮、抑うつ気分や他の行動異常、自殺念慮、自殺企図または自殺既遂など、重篤な神経系または行動面の副作用が発生しています。このような副作用が現れた場合は、すぐに薬の服用を中止し、医療提供者に知らせるべきです。

シチシンは禁煙のための最も古い薬の1つであり、主に東欧で使用されていますが、米国では入手できません。最近の研究では、シチシンはニコチン代替薬と同じくらい効果的であることが示されています。シチシンは製造コストが安いため、価格が手頃な禁煙治療として世界中で使用が検討されています。

ニコチン代替薬および禁煙のための他の薬(ブプロピオンおよびバレニクリン)は一般的に8~12週間服用しますが、喫煙の再発を防ぐためにより長く服用することもあります。

現在、禁煙のための薬やニコチン代替製品は、以下の人には勧められていません。

  • 妊娠中の喫煙者(行動面での対策で効果が得られなかった場合を除く)

  • 軽度喫煙者(1日当たり10本未満)

  • 青年(18歳未満)(習慣的なヘビースモーカーは例外と考えられる)

  • 無煙タバコの使用者(有効性が証明されていないため)

習慣的なヘビースモーカーの青年および妊婦で、行動面での対策で効果がない人は、医師に相談し、禁煙のための薬やニコチン代替製品の使用について話し合うべきです。一般に、すべての人は、禁煙のために使用できる様々な薬について医療提供者と話し合い、最適な薬を決めるべきです。また、禁煙用製品に付属する添付文書を必ず読むようにすべきです。

小児と青年における禁煙

親は、タバコの煙がない家庭環境を維持し、また喫煙者にならないでほしいという期待を子どもに伝えるべきです。

カウンセリングのアプローチは成人の場合と同様ですが、一般的に小児や青年には禁煙のための薬は使用しません。

禁煙に関するさらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

    • 米国がん協会:タバコを吸わないようにするには(American Cancer Society: Stay Away from Tobacco):タバコ製品のリスクと禁煙方法に関する情報を提供しています。

    • 米国肺協会:禁煙(American Lung Association: Stop Smoking):喫煙者やその愛する人たちのために、禁煙の助けとなるツール、ヒント、サポートを提供しています。

    • Cancer.Net:がん診断後の禁煙(Cancer.Net: Stopping Tobacco Use After a Cancer Diagnosis)がんと診断された後にタバコをやめる助けとなる情報を提供しています。

    • 米国疾病予防管理センター:元喫煙者からのヒント(Centers for Disease Control and Prevention: Tips from Former Smokers):喫煙関連疾患とともに生きる人々からの体験談および喫煙者の禁煙を支援するための情報を提供しています。

    • 米国疾病予防管理センター:若者の喫煙を予防する(Centers for Disease Control and Prevention: Youth Tobacco Prevention):教師、コーチ、親、その他若者に禁煙を促す教育に携わっている人向けのファクトシートやインフォグラフィックなどの情報を提供しています。

    • Smokefree.gov:特に特定の集団における米国の喫煙率低下を支援するために米国国立がん研究所(National Cancer Institute :NCI)が提供する、禁煙情報、個人に合わせた禁煙プラン、テキストベースのサポートなどの情報源を提供しています。

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