糖原病は、ブドウ糖をグリコーゲンに合成したり、グリコーゲンをブドウ糖に分解したりするのに必要な酵素がないために起こります。
典型的な症状としては、筋力低下、発汗、錯乱、腎結石、肝臓の腫れ、低血糖、発育不良などがあります。
診断は、血液検査、生検(組織の一部を顕微鏡で調べる検査)、MRI検査によって行われます。
治療は糖原病の種類によって異なりますが、通常は炭水化物の摂取の調節が行われます。
遺伝性疾患 単一遺伝子疾患の遺伝 遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域のことです。 染色体は非常に長いDNA鎖からできており、そこには多く(数百~数千)の 遺伝子があります。特定の細胞(例えば、精子と卵子)を除き、人間の正常な細胞には23対の染色体があります。22対の常染色体と1対の性染色体があり、合わせて46本の染色体があります。通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母親から、もう片方... さらに読む には様々な種類があります。多くの遺伝性代謝疾患では、患児の両親がともに異常な遺伝子のコピーをもっています。通常、病気の発生には異常な遺伝子のコピーが2つ必要であるため、普通はいずれの親にも疾患は現れていません。(遺伝性代謝疾患の概要 遺伝性代謝疾患の概要 遺伝性代謝疾患とは、代謝の問題を引き起こす遺伝性の病気です。 遺伝とは、ある世代から次の世代へ 遺伝子が受け継がれることを意味します。子どもは親の遺伝子を受け継ぎます。子どもが、代謝制御に関わる欠陥のある遺伝子を受け継ぐと、遺伝性代謝疾患を発症します。 遺伝性疾患には様々な種類があります。ほとんどの遺伝性代謝疾患では、患児の両親がともに異... さらに読む も参照のこと。)
グリコーゲン(炭水化物 炭水化物 炭水化物、タンパク質、および脂肪は、食物に含まれている主要な多量栄養素(毎日大量に必要とされる栄養素)です。食物の乾燥重量の90%を占め、食物のエネルギーの100%を供給しています。3つともエネルギー(単位はカロリー)を供給しますが、1グラム当たりのエネルギーの量は次のように異なります。 炭水化物とタンパク質は1グラムにつき4キロカロリー 脂肪は1グラムにつき9キロカロリー これらの栄養素はエネルギーを供給する速度も異なります。最も速い... さらに読む の一種)は、多くのブドウ糖分子が結合してできています。ブドウ糖は心筋を含む体の筋肉や脳の主要なエネルギー源です。エネルギーとしてすぐに使わないブドウ糖は、肝臓、筋肉、腎臓の中にグリコーゲンの形で貯蔵され、体が必要とするときに放出されます。
糖原病の小児には次のような状態がみられます。
グルコースをグリコーゲンに変換するために不可欠な酵素の1つが欠損
グリコーゲンをグルコースに分解(代謝)するのに不可欠な酵素の1つが欠損
およそ25,000人に1人の乳児に、いずれかの種類の糖原病がみられます。
糖原病(糖原蓄積症とも呼ばれます)にはいろいろな種類があります。それぞれはローマ数字で表されます。
糖原病の症状
糖原病の中にはほとんど症状が出ないものもあれば、死に至るものもあります。種類によって症状、発症年齢、重症度がかなり異なります。糖原病II、V、VII型の主症状は筋力の低下(ミオパチー)です。 一方、I、III、VI型の症状は、 低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります。 血糖値が下がると、空腹、発汗、ふるえ、疲労、脱力感、思考力の低下といった症状が生じますが、重度の... さらに読む と腹部の突出(過剰または異常なグリコーゲンによって肝臓が腫大するため)です。 低血糖によって筋力低下、発汗、錯乱、ときにけいれん発作や昏睡が起こることもあります。ほかにも発育不良や頻発する感染症、口や腸内の潰瘍がみられます。
また、老廃物である尿酸が関節にたまって 痛風 痛風 痛風は、尿酸の血中濃度が高いこと(高尿酸血症)が原因で、尿酸の結晶が関節に沈着し蓄積する病気です。結晶が蓄積することで、関節とその周辺に痛みのある炎症の発作が起きます。 尿酸結晶が蓄積すると、関節や組織に激しい痛みや炎症が断続的に起こることがあります。 炎症を起こした関節から採取した液体に尿酸結晶が認められれば、痛風の診断が下されます。... さらに読む が起きたり、腎臓にたまって 腎結石 尿路結石 結石は尿路のいずれかの部位で形成される硬い固形物で、痛み、出血、または尿路の感染や閉塞の原因となることがあります。 小さな結石の場合は症状がみられませんが、大きな結石が発生すると、肋骨と腰の間の部分に耐えがたい激痛が生じることがあります。 結石の診断では通常、画像検査と尿検査が行われます。... さらに読む が起きたりする傾向があります。I型糖原病では、11~20歳以降に腎不全が多くみられます。
糖原病の診断
血液検査、生検、MRI検査
糖原病の診断は、筋肉や肝臓の一部の組織の顕微鏡検査(生検)を行い、また MRI検査 MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置の中で発生するような強い磁場の中に... さらに読む で組織にたまったグリコーゲンを見つけることで行います。DNAの分析を行って診断を確定します。糖原病II型(ポンペ病)は現在、多くの州で 新生児スクリーニング検査 新生児スクリーニング検査 出生時に分からない重篤な病気の多くは、様々なスクリーニング検査により発見できます。新生児の健全な発達を妨げるような多くの病気を早期に診断し、迅速に治療を行うことで、症状を軽くしたり、予防したりすることができます。どこでも必ず行われる検査もあれば、特定の州だけが義務づけている検査もあります。スクリーニング検査の結果が陽性の場合、他の検査もしばしば追加されます。 典型的なスクリーニング検査には以下のものがあります。... さらに読む に組み込まれています。肝臓、皮膚、筋肉や血液などの他の検査は、糖原病の種類を決定するために行われます。遺伝性の遺伝子疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するための 遺伝子検査 妊娠前の遺伝子スクリーニング 遺伝子スクリーニングは、遺伝する遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するために行う検査です。遺伝する遺伝性疾患とは、次の世代へ受け継がれる 染色体または遺伝子の病気です。 スクリーニングではカップルの家族歴を評価し、必要に応じて血液や組織のサンプル(頬の内側から採取した細胞など)を分析します。 すべてのカップルが遺伝子スクリーニングを受けることができますが、特に推奨されるのは以下の場合です。... さらに読む も利用できます。 遺伝性代謝疾患の診断 診断 遺伝性代謝疾患とは、代謝の問題を引き起こす遺伝性の病気です。 遺伝とは、ある世代から次の世代へ 遺伝子が受け継がれることを意味します。子どもは親の遺伝子を受け継ぎます。子どもが、代謝制御に関わる欠陥のある遺伝子を受け継ぐと、遺伝性代謝疾患を発症します。 遺伝性疾患には様々な種類があります。ほとんどの遺伝性代謝疾患では、患児の両親がともに異... さらに読む も参照してください。
糖原病の治療
炭水化物の豊富な食事
食事を頻回に、またはほぼ連続的にとることで低血糖を予防する
特定の合併症の治療
糖原病の種類によって治療法は異なります。
多くの場合、炭水化物に富んだ食事を毎日少量ずつ何回にも分けて摂取することで、血糖値が下がるのを防ぐことができます。
低血糖を起こす糖原病患者では、非加熱のコーンスターチを夜間も含め4~6時間毎にとって血糖値を維持します。
炭水化物の溶液を胃チューブで一晩中投与して、低血糖が夜間に起こるのを防ぐこともあります。
筋肉に影響を及ぼす糖原病のある人は、過度の運動を避ける必要があります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
全米希少疾患患者協議会(National Organization for Rare Disorders[NORD]):希少疾患の一覧や支援団体、臨床試験に関する資料などの希少疾患に関する情報が親および家族向けに提供されています。
遺伝性疾患・希少疾患情報センター(Genetic and Rare Diseases Information Center[GARD]):希少疾患および遺伝性疾患に関する情報が分かりやすく提供されています。