この異常は大腸に起こり、腸管が正常に収縮しません。
典型的な症状としては、新生児では胎便の排泄が遅い、乳児では嘔吐、食べるのを嫌がる、腹部の膨隆などがあります。
直腸生検と直腸内圧の測定に基づいて診断します。
食べものが正常に腸管を通過するための手術を行います。
大腸 大腸 大腸は以下の部分で構成されています。 盲腸と上行結腸(右側) 横行結腸 下行結腸(左側) S状結腸(直腸と接続している部分) さらに読む は、その壁内にある神経ネットワークによって律動的な収縮を同調させ、消化された内容物が便として排泄されるように肛門へと送っています。ヒルシュスプルング病では、腸の侵されている部分が正常に収縮できません。そこで正常な収縮が起きないことにより、腸の中に内容物がたまっていきます。ヒルシュスプルング病はときに、生命を脅かす腸炎(大腸の炎症)の発生につながることがあります。
(消化管先天異常の概要 消化管先天異常の概要 消化管の発達が不完全である、または位置が異常であるために通過障害を起こすことがあり、また消化管の筋肉や神経に異常があることもあります。 症状は異常のある部位によって変わってきますが、けいれん性の腹痛、腹部の膨満、嘔吐などがみられます。 診断は通常、画像検査とその他の検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む も参照のこと。)
ヒルシュスプルング病の症状
正常な状態であれば、98%の新生児で黒っぽい緑色の便(胎便と呼ばれます)の排泄が生後24時間以内にみられます。 胎便の排泄が遅れている場合は、ヒルシュスプルング病の疑いがあります。
乳児期の後半になって、ヒルシュスプルング病の小児には、腸閉塞を疑わせる症状である、胆汁の色が付いた嘔吐をする、腹部の膨隆、食べるのを嫌がる、栄養障害、便秘などの症状がみられます。侵された腸管の範囲がほんの少しの場合は小児の症状も軽度で、小児期の後半やまれに成人期になるまで診断されないこともあります。
ヒルシュスプルング病に合併する腸炎は、突然の発熱と腹部の膨隆のほか、ときに激しい血性の下痢を起こします。
ヒルシュスプルング病の診断
下部消化管造影検査
直腸生検
直腸内の圧力の測定
まず、異常を評価するために 下部消化管造影検査 消化管のバリウムX線検査 消化器系の問題の評価にはX線検査がよく使われます。標準的なX線検査(単純X線検査)では、特別な準備は何も必要ありません( 単純X線検査)。消化管に閉塞や麻痺がある場合や、腹腔内のガスの分布が異常な場合は、通常は標準的なX線検査で明らかになります。また、肝臓、腎臓、脾臓の腫大も標準的なX線検査で明らかになります。 バリウムを用いたX線検査では、多くの場合、標準のX線検査より多くの情報が得られます。味つけした液体バリウムまたはバリウムでコー... さらに読む を行います。下部消化管造影検査では、直腸にバリウムと空気を注入してからX線写真を撮影します。
ヒルシュスプルング病を診断する上で信頼できる検査法は、直腸生検(直腸の組織を少量だけ採取して顕微鏡で調べる検査)と直腸内圧の測定(マノメトリー 内圧検査(マノメトリー) 内圧検査(マノメトリー)では、消化管の様々な部位の内圧を測定します。検査前の夜12時以降は一切飲食ができません。 この検査では、その表面に沿って圧力計を複数備えた柔軟なチューブ(内圧測定用カテーテル)を食道(のどと胃をつないでいる管状の臓器)、胃、小腸の最初の部分、または直腸に入れます。内圧測定用カテーテルを鼻や口から入れると一般的に空嘔吐や吐き気が起こるため、鼻の中やのどの奥に麻酔薬をスプレーします。マノメーターを用いることで、消化管... さらに読む )だけです。
ヒルシュスプルング病の治療
手術
重症のヒルシュスプルング病は、腸炎のリスクを抑えるために、速やかに治療する必要があります。
ヒルシュスプルング病の治療として通常、手術を行って腸管の異常のある部分を切除し、正常な腸管を直腸と肛門につなげます。
最近まで、手術は2段階で行われていました。第1段階では、腸の正常な部分の下端を腹壁に作った開口部に接続する手術を行っていました(人工肛門造設術[図「 人工肛門造設術について理解する 人工肛門造設術について理解する 」を参照])。人工肛門造設術を行うことで、便がその開口部(人工肛門)を通って回収袋に排出されるようになり、腸内での食べものの正常な移動が回復していました。腸管の異常な部分は腸管の残りの部分とつながれませんでした。小児が成長して健康状態が改善したら、第2段階の手術を行って、人工肛門を閉鎖し、腸管の異常な部分を切除して、残った正常な部分を直腸と肛門につなぎ直していました。しかし現在では、多くの外科医が1回だけの手術で腸管の異常な部分を切除し、直腸につなぐようになっています。こうした一期的手術では、人工肛門が作られません。
人工肛門造設術について理解する
人工肛門造設術では、大腸(結腸)を切ります。結腸の残った部分を動かして、それを皮膚にあけた穴から皮膚の表面につなぎます。その部分を糸でぬって、皮膚からはなれないようにします。便はこの穴を通って、使い捨ての袋の中に入ります。 |
腸炎を合併したヒルシュスプルング病の小児には、入院してもらった上で、静脈から水分と抗菌薬を投与する治療を行います。その後、鼻から胃または腸まで細長いチューブ(経鼻胃管)を挿入し、さらに別のチューブを直腸内に留置します。直腸内に生理食塩水を注入して、腸内にたまった便を洗い出します(これを洗腸といいます)。腸の機能していない部分を切除するために、手術を行います。