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小児と青年における自殺行動

執筆者:

Josephine Elia

, MD, Sidney Kimmel Medical College of Thomas Jefferson University

レビュー/改訂 2021年 4月
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やさしくわかる病気事典
本ページのリソース

自殺行動とは、自分に害をなすことを意図した行動で、自殺演技、自殺企図、および自殺既遂が含まれます。希死念慮とは、自殺について考え計画することを指します。自殺企図とは、首つりや入水など、死につながる可能性がある自身に害をなす行為のことです。

  • うつ病などの精神障害がある小児では、ストレスになる出来事が引き金となって自殺することがあります。

  • 自殺の危険性のある小児は、抑うつや不安があったり、何もやりたがらず引きこもっていたり、死に関する話をしたり、急に日頃の行動を変えたりすることがあります。

  • 家族や友人は、自殺するという脅しや自殺企図はすべて深刻に捉えなければなりません。

  • 医療従事者は、自殺のリスクがどれほど深刻かを判断しようと努めます。

  • 自殺のリスクが高い場合には、入院させ、他の精神障害の治療薬による薬物治療や、小児自身や家族に対するカウンセリングなどを行います。

思春期以前の小児が自殺することはめったにありません。自殺は主に青年期、とりわけ15~19歳と成人期の問題です。しかし、青年期以前の小児も自殺するため、このような可能性を見過ごしてはなりません。

米国では、自殺は10~24歳では死因の第2位、5~11歳では死因の第9位になっています。毎年自殺で2000人が死亡します。黒人社会では、1993年から2012年にかけて黒人の小学生の自殺率がほぼ倍増するなど、自殺が特に大きな影響を及ぼしています。自動車や銃器などによる事故が死因とされた死亡の一部が実際には自殺である可能性もあります。

自殺企図は、実際に自殺で死亡する若者の数よりはるかに多く起きています。米国疾病予防管理センターは最近、いくつかの集団や期間にみられた自殺の増加傾向について、以下の情報を公開しました。

  • 女性(10~14歳)では、全体の自殺率が1999年の0.5%から2019年には2%まで上昇しました。

  • 男性(10~14歳)では、全体の自殺率が1999年の1.9%から2019年には3.1%まで上昇しました。

そのほかにも、2015年の米国の高校生に関する自殺関連の統計に注目すべき事実があります。

  • 2001年から2015年にかけて、自傷行為、自殺念慮、または自殺企図による救急医療の利用がすべての年齢層で増加しました。

  • 自殺企図の急激な増加は2011年に初めて指摘されましたが、実際の自殺者数は安定していました。

  • 2006年から2015年にかけて、10~19歳の集団で40,000件を超える自殺が発生しました。同じ期間に、同じ年齢群の小児および青年118,000人が非致死的な自殺企図のために薬物治療を必要としました。

小児および青年における自殺企図の増加には多くの要因が関係している可能性があり、具体的には青年期のうつ病(特に女子)の増加、親へのオピオイド処方の増加、関係のある成人における自殺率の上昇、衝突に満ちた親との関係、学業麺のストレスなどがあります。

自殺企図には、死にたいという願望の中にわずかであれ若干のためらいがある場合が多く、それは助けを求める心の叫びかもしれません。

米国の青年では、自殺による死亡者数の男女比が4:1であり、男子の方が女子よりはるかに多くなっています。しかし自殺企図では、女子の方が男子より2~3倍多くなります。

知っていますか?

  • 米国では、青年期の死亡原因の第2位もしくは第3位が自殺です。

危険因子

自殺を考えることは、必ずしも自殺行動につながるわけではありませんが、自殺行動の危険因子です。自殺を考えるようになってから自殺行動に至るまでには、典型的には複数の要因が相互に関連しています。もともと精神障害があり、ストレスになる出来事が自殺行動の引き金になるケースが非常に多くみられます。ストレスになる出来事の例には以下のものがあります。

  • 愛する人の死

  • 学校あるいは他の集団内における仲間の自殺

  • 失恋

  • なじんでいたある場所(学校や近所など)からの転居・転学や、友人との別れ

  • 家族や友人からの侮辱

  • 学校でのいじめ(特にレズビアン、ゲイ、両性愛者、トランスジェンダー[LGBT]の生徒に対するもの)

  • 学校での失敗

  • 法律上のトラブル

しかし、こうしたストレスになる出来事は小児にとってごく当たり前のことであり、ほかに潜在的な問題がない限り、自殺行動に至ることはまれです。

潜在的な問題のうち最もよくみられるものを以下に掲げます。

他の精神障害や身体的な病気がある人でも、自殺のリスクは高くなります。そのような病気としては、 不安 小児と青年における不安症の概要 不安症(不安障害とも呼ばれます)は、実際の状況と釣り合わない強い恐怖、心配、脅威によって日常生活に大きな支障をきたすことを特徴とする病気です。 不安症には多くのタイプがありますが、恐怖や心配が向けられる主な対象によって区別されます。 不安症の小児の多くは、腹痛などの身体症状を理由に学校へ行くことをしばしば拒みます。 通常は症状に基づいて診断を下しますが、ときに検査を行って、しばしば不安によって引き起こされる身体症状が生じる病気がほかにな... さらに読む 症、 統合失調症 小児と青年における統合失調症 統合失調症は、思考、知覚、対人関係における行動の異常を伴い、対人関係や生活機能にかなりの問題を引き起こす慢性的な病気です。 6カ月以上持続します。 統合失調症は、脳の化学的な異常や、脳の発達中に生じた問題から発症するのだろうと考えられています。 青年は引きこもり、異常な感情を抱くようになり、通常は幻覚や妄想が生じます。 医師は検査を行って、考えられる他の原因の可能性を否定します。... さらに読む 頭部の外傷 頭部外傷の概要 脳が関与する頭部外傷は特に懸念されます。 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。... さらに読む 心的外傷後ストレス障害 小児と青年における急性ストレス障害と心的外傷後ストレス障害 急性ストレス障害と心的外傷後ストレス障害は、トラウマ(心的外傷)になった強烈な出来事に対する反応で、感情の麻痺と緊張感や警戒感の高まり(覚醒)がみられるとともに、その出来事の記憶が頭の中に割り込んでくるように繰り返しよみがえります。小児は、その出来事を思い出させるものを避ける傾向があります。 この障害は、小児がイヌに襲われたり、学校で銃発砲事件が起こったり、事故や自然災害に遭ったりするなどの暴力的な行為を目撃もしくは経験した後に発症する... さらに読む などがあります。

自殺を企てる青年や小児は、家族や友人に怒りを抱いていることがあります。その怒りに耐えることができずに、怒りを自分自身へ向けてしまうのです。このような青年や小児は、他者を操ったり罰したりしたいと願っています(「自分が死んだら、あいつらは悪いことをしたと思うだろう」)。親とのコミュニケーションに問題がある場合も、自殺のリスクの一因となります。

ときには、自殺行動が他者の行動をまねた結果として起こることもあります。例えば、有名人の自殺が広く報道されると、後追い自殺や自殺企図がよく起こります。同様に、学校でも後追い自殺が起こることがあります。

家族内に気分障害の人がいる場合、とりわけ自殺やその他の暴力行動の家族歴がある場合には、自殺が起こりやすくなります。

診断

  • 親、医師、教師、友人によるリスクの特定

親、医師、教師、友人は、自殺を試みる可能性がある小児を特定できる立場にいることがあり、とりわけ、最近になって行動に変化がみられた小児には注意が必要です。小児や青年は、友人にだけ胸の内を打ち明けることが多いですが、実際に自殺を招かないようにするため、打ち明けられた側には、秘密は守らず、必ず誰かに伝えるよう指導する必要があります。「自分なんか生まれてこなければよかった」、「眠ったまま目が覚めなれければいいのに」など、あからさまに自殺の考えを表に出す小児には注意が必要ですが、もっと微妙で目立たない徴候(引きこもる、成績が下がる、大切にしていたものを手放すなど)しか示さない小児もいます。

医療従事者には2つの重要な役割があります。

予防

自殺のリスクのある小児に自殺を考えているかと直接尋ねると、小児の苦痛に寄与している重要な問題を浮き上がらせることができます。したがって、問題点をはっきりさせることは、有効な治療につながります。研究によると、何らかの理由で救急医療機関を受診した小児の50%以上が自殺念慮および自殺行動のスクリーニングで陽性と判定されていました。この結果を受けて、米国の病院には、2019年から、標準的な医療行為の一環として自殺に関する評価を行うことが求められています。

24時間体制の緊急ホットラインが多くの地方自治体で開設されていて(コラム「 自殺への介入:全米自殺予防ライフライン(National Suicide Prevention Lifeline) 自殺への介入:全米自殺予防ライフライン(National Suicide Prevention Lifeline) 自殺への介入:全米自殺予防ライフライン(National Suicide Prevention Lifeline) 」を参照)、共感的なスタッフが直ちにカウンセリングを行い、さらなるケアを受けるための支援を提供する体制が整えられています。このようなサービスによって自殺による死亡者数が実際に減少していることを証明するのは困難ですが、小児と家族が適切な援助を受けられるようにする上で、このようなサービスは有益と考えられます。

以下の方法が自殺のリスクを低減するのに役立つことがあります。

自殺予防プログラムが助けになります。最も効果的なものは、小児が以下の状況にあることを確実にするためのプログラムです:

  • 支持的な養育環境

  • 精神医療サービスを確実に受けることができる

  • 個人、人種、文化の相違を尊重することを促す学校やその他の社会状況

米国では、自殺予防リソースセンター(Suicide Prevention Resource Center)がこのようなプログラムのいくつかを示しており、全米自殺予防ライフライン(National Suicide Prevention Lifeline)(1-800-273-TALK、米国のみ)は自殺をほのめかす人に対する危機介入を提供しています【訳注:日本では、こころの健康相談統一ダイヤル[0570-064-556 ナビダイヤル:電話をかけた所在地の公的な相談機関につながります]、厚生労働省のホームページ「まもろうよこころ」https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ を参照してください。または、#いのちSOS 0120-061-338[特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク]、子どもの場合は、24時間子どもSOSダイヤル[0120-0-78310]などがあります】。

治療

  • ときに入院

  • 今後の自殺企図に対する予防措置

  • 自殺リスクの一因となっている病気があれば、その治療

  • 精神科医と精神療法への紹介

自分を傷つけたいという考えをほのめかす小児や自殺未遂をした小児は、病院の救急部門で緊急の評価を受ける必要があります。どんな種類の自殺未遂も深刻に受け止めなくてはなりません。それは、自殺者の3分の1はそれ以前に自殺未遂を起こしているからで、自殺未遂はときに、手首を浅く数回切ったり、薬をほんの数錠飲んだ程度で、ささいなことに思えることもあります。不成功に終わった自殺の試みを親や保育者が非難したり、重要視しなかったりすると、小児はこの反応を挑戦だと感じて、再び自殺を図るリスクが高くなります。

直接命にかかわる危険を取り除いたら、医師は小児を入院させる必要があるかどうかを判断します。判断にあたっては、入院しないで家にいるリスクはどの程度かということと、家族がどれくらい小児に支援と身体的安全を与えられるかを考慮します。入院は小児を保護する最も確かな方法で、通常は、うつ病などの重篤な精神障害が疑われる場合に必要と判断されます。

自殺企図の深刻さの評価には、以下のようないくつかの点を考慮します。

  • 自殺企図が急に思い立って行われたのではなく、慎重に計画されたものであるか(例えば、遺書が残されている場合には、計画された自殺企図であると考えられます)

  • 試みが発覚しないための対策が講じられていたか

  • どのような方法が用いられたか(例えば、服薬よりも銃の使用の方が死亡する可能性は高くなります)

  • 実際に体に傷が生じたか

  • 自殺企図の際、小児はどのような精神状態であったか

実際に起こったことと本気の程度をしっかりと区別することが極めて重要です。例えば、死に至ると信じて無害な錠剤を飲んだ青年は、自殺のリスクが極めて高いと考えるべきです。

入院の必要がない場合には、小児の家から銃器をすべて排除し、薬剤(市販薬を含めて)や刃物類は家に置かないようにするか、鍵がかかる場所にしまうようにしなければなりません。このような予防策を講じたとしても、自殺の予防は非常に難しいこともあり、確実な手段はありません。

リスクにつながる病気(うつ病 小児と青年におけるうつ病および気分調節症 うつ病では、悲しみ(あるいは小児と青年ではいらだち)の感情や、活動への興味の喪失などがみられます。うつ病では、これらの症状が2週間以上続き、日常生活に支障をきたすようになるか、かなりの苦痛が生じます。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。気分調節症では、いらだちが続き、制御できない行動が頻繁にみられます。... さらに読む 双極性障害 小児と青年における双極性障害 双極性障害では、強烈な高揚感と興奮状態の時期(躁状態)と気分がふさぎ込んで落胆した時期(抑うつ状態)が交互に現れます。それぞれの時期の間は、気分が正常なことがあります。 小児は、興奮して幸せで活動的な状態から、ふさぎ込んで引きこもり、動作が緩慢になった状態、もしくは激怒と暴力に満ちた状態へと、急激に変わることがあります。 診断は症状と精神医学的検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む など)がある場合は、その病気を治療します。しかし、そのような治療を行っても、自殺のリスクを完全にはなくすことはできません。抗うつ薬の使用は一部の青年において自殺のリスクを高めると懸念されていますが(抗うつ薬と自殺 抗うつ薬と自殺 うつ病では、悲しみ(あるいは小児と青年ではいらだち)の感情や、活動への興味の喪失などがみられます。うつ病では、これらの症状が2週間以上続き、日常生活に支障をきたすようになるか、かなりの苦痛が生じます。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。気分調節症では、いらだちが続き、制御できない行動が頻繁にみられます。... さらに読む を参照)、うつ病を治療せず放置することはおそらく、治療に伴うリスク以上に危険と考えられます。抗うつ薬を使用する小児には、医師が綿密なモニタリングを行い、一度に全部服用しても致死的とならない少量ずつで処方されます。

自殺した場合

自殺した小児や青年の家族は、自殺に対して悲嘆、罪悪感、抑うつなどの複雑な反応を示します。家族は目的が失われたように感じたり、日常生活から切り離されたように感じたり、苦々しく思ったりします。自分の生活を継続していくことが難しくなることもあります。カウンセリングによって、自殺が起こった精神医学的背景を理解することができ、自殺する前の困難な状況について考え、その状況を受け入れる助けになる可能性があります。そうすることで家族は、自殺が自分たちの責任でないと理解できるかもしれません。

自殺があった後、その地域の人々、特に自殺した人の友人や同級生で自殺リスクが高まる可能性があります。自殺があった後の学校や地域社会の支援には、リソース(学校向けのツールキットなど)が利用できます。学校や地域の職員は、情報や相談を提供する上で利用できる精神医療従事者を手配することができます。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  • メタノイア(Metanoia:):このサイトでは、自殺を考えている人に直接、思いやりのある態度で対応して、その人が経験している痛みとそれに対処するための手段との不均衡に関して貴重な情報を提供した上で、自殺ホットラインやその他の精神医療サービスへの直接のアクセスを提供しています。【訳注:日本では、こころの健康相談統一ダイヤル[0570-064-556 ナビダイヤル:電話をかけた所在地の公的な相談機関につながります]、厚生労働省のホームページ「まもろうよこころ」https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ を参照してください。または、#いのちSOS 0120-061-338[特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク]、子どもの場合は、24時間子どもSOSダイヤル[0120-0-78310]などがあります】

  • 患者健康質問票(PHQ-9)(Patient Health Questionnaire [PHQ-9]):米国予防サービス特別委員会が作成した、医師がうつ病のスクリーニングに使用する9項目の質問票です。

  • 自殺とうつ病に関する学生向けの情報(Suicide and Depression Awareness for Students):この学生向けの情報リポジトリーには、大学の環境で発生する様々な精神衛生上の問題や精神障害を管理していくための指針が提示されています。トピックとしては、依存、健全な親密さの形成、いじめに対する意識、うつ病、自殺などが取り上げられています。

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