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疾患

女性の性機能障害の概要

執筆者:Allison Conn, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women;
Kelly R. Hodges, MD, Baylor College of Medicine, Texas Children's Pavilion for Women
レビュー/改訂 2021年 8月
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性機能障害には、性交時の痛み、腟周囲の筋肉の痛みを伴う不随意な収縮(けいれん)、性行為への関心や欲求の喪失、性的興奮やオルガズムに関する問題などがあります。性機能障害と診断するには、これらの問題により女性に苦痛が生じている必要があります。

  • 抑うつ、不安、その他の心理的要因、病気、薬物などが性機能障害の一因になることがあり、パートナーとの関係の問題を含めた個人的な状況も同様です。

  • 問題を把握するためには、多くはパートナーの双方に対して個別および同時に面談を行うほか、女性に痛みやオルガズムの問題がある場合は内診も必要になります。

  • 性機能障害の原因に関係なく、パートナーとは心を開いてはっきりとコミュニケーションをとるようにし、性行為に最もよい環境を作れば、しばしば問題解決に役立ちます。

  • 認知行動療法、マインドフルネス、あるいはこの2つの組合せが他の種類の精神療法と同様に役立つことがあります。

女性の約30~50%が生涯のいずれかの時点で性機能の問題を経験します。苦痛を感じるほど問題が重大である場合、性機能障害とみなされます。

性機能障害は、以下のような具体的な問題の観点から説明および診断することができます。

  • 性行為への関心が正常であるにもかかわらずオルガズムに達しにくい(女性オルガズム障害と呼ばれる)

  • 腟周囲の筋肉の不随意な収縮または性行為中の痛み(性器骨盤痛・挿入障害と呼ばれる)

  • 性行為への関心の欠如または性的興奮に達しにくい(性的関心・興奮障害と呼ばれる)

  • 物質・医薬品誘発性性機能不全

  • その他の性機能障害(「他の特定される性機能不全および特定不能の性機能不全」と呼ばれる)

物質・医薬品誘発性性機能不全では、性機能障害は物質あるいは薬剤の開始、用量の変更、中止に関連します。薬剤は処方薬やレクリエーショナルドラッグのこともあり、乱用薬物の可能性もあります。

その他の性機能障害には、他のカテゴリーには該当しない性機能障害が含まれます。これには、特定できる原因のない性機能障害や特定の性機能障害の診断基準を厳密には満たさない性機能障害が含まれます。

持続性性喚起症候群はまれな病気で、精神障害の診断のための具体的な基準を医師に提供している「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:DSM-5)」には収載されていません。持続性性喚起症候群の女性では、過度の肉体的興奮(性器への血流の増加および腟液の分泌増加により示唆される)が生じますが、性欲は欠如しています。その興奮の原因は同定されず、オルガズム後も興奮は通常消失しません。

性機能障害のある女性のほぼ全員で、こういった具体的な問題が複数みられます。例えば、性的興奮に達しにくい女性はセックスを十分楽しめませんし、オルガズムに達することが困難で、セックスを痛いとさえ感じるでしょう。こういった女性や、性行為の際に痛みを感じる女性の多くは、当然のことながらセックスに対する関心を失い望まなくなるでしょう。

正常な性機能

性機能と性的反応には、心(思考と感情)と体(神経系、循環系、内分泌系など)の両方が関わっています。性的反応には以下の要素があります。

  • 動機とは、性行為をしたい、あるいは続けたいという願望です。性行為を望む理由には、性行為への関心や性欲を含めて、様々なものがあります。性的関心や性欲は思考、言葉、視覚、嗅覚、触感により誘発されます。動機は最初から明らかなこともあれば、女性に興奮が起きてから生じる場合もあります。

  • 性的興奮とは、感じたり、考えたりする主観的な要素です。これには身体的な要素、すなわち性器周辺への血流の増加も関係しています。女性では、血流の増加により陰核(男性の陰茎に相当する部分)と腟壁が膨らみます(この過程を充血と呼びます)。血流の増加により腟液の分泌も増加します(潤滑剤としての役目を果たします)。血流の増加は、自覚がなく、あるいは興奮を感じていなくても起こります。

  • オルガズムは性的興奮の頂点です。オルガズムに達する直前、全身の筋肉の緊張が強くなります。オルガズムが始まると、腟周囲の筋肉が律動的に収縮します。女性は何度もオルガズムに至ることが可能です。

  • 消退とは、オルガズムに続いてみられる幸福感と全身に広がる筋肉の弛緩です。消退は典型的にはオルガズムに続いて起こります。しかし、強い興奮をもたらす性行為の後には、オルガズムなしでゆっくりと消退が起こる場合もあります。消退が起きてすぐに新たな刺激に反応できる女性もいます。

多くの人々(男性および女性)はいくつかの理由から性行為を行います。例えば、ある人に性的関心がある、身体的な快感、好意、愛、ロマンス、親密さを得たいなどの理由です。ただし女性の場合、以下のような感情的な動機の方が多くみられます。

  • 情緒的な親密さを経験し、さらに高める

  • 幸福感を増幅させる

  • 自分の魅力を確認する

  • パートナーを喜ばせたり、慰めたりする

女性では、性行為や刺激が始まると性欲が生じることがあります。性的刺激は興奮や喜び、身体的反応(陰部への血流増加を含む)を誘発することがあります。性行為と親密さが続くにつれて性的満足感への欲求が高まり、身体的および情緒的に満たされた経験によって女性の本来の動機が満たされ、強化されます。オルガズムの有無にかかわらず性的な満足感を得る女性もいる一方、オルガズムを伴った方がはるかに高い性的満足感を得る女性もいます。

また、性行為前の性欲は加齢とともに通常は低下しますが、年齢にかかわらず新しいパートナーができた場合は一時的に増大します。

原因

様々な性機能障害には多くの要因が関わっています。従来、原因は身体的なものまたは心理的なものと考えられていました。しかしながら、これら2種類の原因は不可分です。心理的な要因によって、脳、神経、ホルモン、最終的には性器に身体的な変化が起きることがあります。身体的な変化が心理的な影響を及ぼし、これがさらに身体的な影響を及ぼすこともあります。なかには、女性個人よりも状況に深く関わる要因もあります。また、性機能障害の原因はしばしば不明である場合が多いです。

心理的な要因

抑うつ不安が性機能障害に影響を及ぼすことがよくあります。うつ病および性機能障害を有する女性の最大80%で、抗うつ薬によりうつ病が効果的に治療されると性機能障害の程度も軽減します。

自己を解放すること、拒絶されること、自制心を失うことなどの様々な恐怖や、自尊心が低いことも性機能障害の一因となる可能性があります。

過去の経験が女性の心理的発達と性的発達に影響し、以下のような問題が起こります。

  • ネガティブな性的経験または他の経験により、自尊心が低下したり、羞恥心や罪悪感が生まれます。

  • 小児期や青年期の情緒的虐待、身体的虐待、または性的虐待により、子どもは感情をコントロールし、隠すことを覚えます。これは有用な防御機構であるためです。しかし、感情をコントロールし、隠す女性は、性的感情を表現することが苦手です。

  • 小児期に親や愛する人を失った女性は、同じような喪失を恐れるために、ときに気づかないうちにセックスパートナーと仲を深めることが難しくなります。

性に関する様々な心配事により、性機能が妨げられます。例えば、セックスが望まない結果(妊娠や性感染症など)を生むことや、自分またはパートナーの性的能力について心配することがあります。

状況的な要因

状況に関係する要因としては以下のものがあります。

  • 女性自身の状況:例えば、妊よう性に問題がある女性や、乳房や子宮など性に関連する部位を手術で切除した女性では、性的な自己像(セルフイメージ)が悪化していることがあります。

  • パートナーとの関係:セックスパートナーに対し信頼をもっていないことや、否定的な感情をもっている場合があります。関係をもった最初の頃と比べて、パートナーに魅力を感じなくなる場合があります。

  • 環境:環境のムード、プライバシー、安全性などが不十分であるために、思いのままに性的表現ができないことがあります。

  • 文化:女性が性的表現や性行為を制限する文化的背景をもっていることがあります。文化によっては、セクシュアリティについて羞恥心や罪悪感を女性が抱いていることがあります。女性およびそのパートナーが、文化の違いから、ある性行為に対して異なる考え方をもつ場合があります。

  • 気をそらすものまたは精神的なストレス:家族、仕事、家計や他の事で頭が一杯で性的興奮が妨げられることがあります。

身体的な要因

様々な身体的状態や薬剤が性機能障害の原因になります。加齢または病気によってホルモンに変化が起こり、性機能を妨げます。

閉経後には、腟および尿路の変化(閉経関連泌尿生殖器症候群と呼ばれます)が性機能に影響を及ぼす可能性があります。例えば、閉経後にはエストロゲンが減少するため、腟の組織は薄くなって乾燥し弾力性が低下します。この状態を外陰腟萎縮(萎縮性腟炎)といい、性交時に痛みが生じることがあります。閉経期に生じうる泌尿器症状としては、切迫した尿意を感じること(尿意切迫)や頻回の尿路感染症などがあります。

同様の症状は、両側の卵巣摘出や分娩後に起こるホルモン変化によっても生じることがあります。

抗うつ薬の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬により性機能の問題がよく起こります。この薬はいくつかの種類の性機能障害の一因となることがあります。

飲酒も性機能の問題を引き起こす可能性があります。

知っていますか?

  • うつ病は性機能を妨げますが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(抗うつ薬の一種)の服用によっても、性機能が損なわれることがあります。

診断

  • 女性とそのパートナーを、個別にまた可能であれば一緒に面接する

  • 内診

性的障害は典型的には、症状が6カ月以上存在し、かつ重大な苦痛を引き起こしている場合に診断されます。性的な欲求、関心、興奮、またはオルガズムが減少、または欠如している場合でも、苦痛や苦悩を感じない女性もいます。このような状況では、障害と診断されません。

大半の性機能障害は、DSM-5に記載された基準に基づいて診断されます。具体的な障害として、性器骨盤痛・挿入障害女性オルガズム障害女性の性的関心・興奮障害、および物質・医薬品誘発性性機能不全があります。

女性の性機能障害は、以下のうちの少なくとも1つを特徴とします。

  • 性行為時の痛み

  • 性欲の欠如

  • 興奮障害

  • オルガズムに達することができない

女性の性機能障害は、これらの症状のいずれかにより個人的苦痛が生じている場合に診断されます。

性機能障害の診断の際には、しばしば、セックスパートナー双方に対して個別に、および同時に、詳細な問診を実施します。医師はまず、患者に自分の言葉で問題を説明するよう求めます。それから医師は、以下の点について尋ねます。

  • 症状

  • その他の病気

  • 過去に受けた婦人科処置および産科処置

  • 骨盤部の損傷

  • 性的虐待

  • 薬剤の使用

  • パートナーとの関係

  • 気分

  • 自尊心

  • 小児期の人間関係

  • 過去の性的経験

  • パーソナリティ特性(信頼する能力、不安になりやすい、自制心を感じる必要性など)

医師は内診を行い、腟や子宮頸部を含む外性器および内性器に異常がないか確認します。医師はたいていの場合、痛みの発生場所を特定することができます。内診はできるだけ丁寧に行われます。ゆっくりと診察し、診察方法を詳しく説明することで女性がリラックスできるようにします。女性が希望する場合は、鏡で自分の性器をみられるようにし、女性が落ち着けるようにします。女性が何かが腟内に挿入されることを怖がる場合は、医師の手に自分の手を添えて内診をコントロールできるようにします。通常、性的な問題を診断するのに、腟鏡などの器具を内診に使用する必要はありません。

ただし、医師が性感染症やその他の感染症(真菌感染症細菌性腟症など)を疑う場合は、腟壁を広げるために腟鏡を腟に挿入し(子宮頸部細胞診の場合と同じ)、腟から体液のサンプルを採取する場合があります。サンプルを検査して性感染症やその他の感染症の原因になる微生物がいないか確認するほか、検査室にサンプルを送って、種類を特定するために微生物を増殖させる検査(培養検査)を行うこともあります。

治療

  • 性機能障害の原因となっている因子の是正に役立つ一般的な対策

  • 精神療法

  • ホルモン療法などの薬物療法

  • 理学療法

性機能障害の原因によって治療法が決定されます。しかし、原因にかかわらず、いくつかの一般的な対策が役立つことがあります。

  • パートナー双方に対して、女性の解剖学的構造や興奮が起こる仕組みについて教えます

  • 性行為に十分な時間を充てる:女性は複数の作業を同時に行うことに慣れており、仕事、家事、子どもや近所の雑用など他の活動に気をとられたり、注意をそらされたりすることがあります。性行為を優先させ、注意をそらされることがいかに非生産的であるかを認識することが役立つでしょう。

  • マインドフルネスを実践する:マインドフルネスでは、起こっていることに対して判断を下したり、観察したりすることなく、その瞬間に起こっていることだけに集中することを学びます。マインドフルネスを実践して現在に集中することで、気をそらす物事から解放され、性行為の際の感覚に集中することができるようになります。マインドフルネスの習得については、インターネットを使って情報を得ることができます。

  • セックスのことを含め、パートナーとのコミュニケーションを改善します。

  • 性行為にふさわしい時間と場所を選ぶ:例えば、女性が寝ようとしている深夜などはよくないことがあります。見つかることや邪魔されることを女性が心配している場合は、その場のプライバシーが確実に保たれているようにすることが役に立ちます。十分な時間がとれるようにし、性的感情を呼び覚ます環境が役に立ちます。

  • 様々なタイプの性行為を行う:例えば、体が反応する部分をなでてキスをする、性交を始める前に十分に互いの性器を触ることにより、親密性が増し、不安が少なくなります。

  • 性行為以外にともに過ごす時間を作る:日常的によく会話をするカップルの方が、性行為を望み、ともに楽しみたいと感じる可能性が高くなります。

  • パートナーへの信頼、尊敬、情緒的な親密さが増すよう努力する:専門家の援助を得て、または自分たちの努力でこれらの感情を育てるべきです。女性が性的に反応するにはこれらの要素が必要です。パートナー関係にひびを入れるような衝突の解決方法を学ぶのに援助が必要になることもあります。

  • 望まない結果を避ける対策を講じる:妊娠や性感染症に対する恐れが性欲を妨げている場合は、このような対策が特に有用になります。

健全な性的反応を得るのに何が必要かに気づくだけで、自分の思考や行動を変えるのに十分役立つ場合もあります。しかし、複数のタイプの性機能障害がみられる女性も多いため、しばしば複数の治療法が必要になります。ときに、セックス・カウンセラー、痛みの専門医、精神療法士、または理学療法士を含む集学的チームが必要になります。

精神療法

精神療法が多くの女性に役立ちます。例えば、認知行動療法を行うことで、病気や不妊症から生じている否定的な自己像の認識を促すことができます。マインドフルネス認知療法(MBCT)は、認知行動療法とマインドフルネスの実践を組み合わせたものです。この方法では、認知行動療法のように否定的な思考に気づき、ただ思考を観察し、これらは現実を反映したものではなく、単なる思考であると認識することを促します。このアプローチにより、否定的な思考に気をそらされたり、邪魔をされたりすることが少なくなります。MBCTは、性的関心・興奮障害および腟の開口部に圧力がかかるたびに生じる痛み(誘発性腟前庭痛、性器骨盤痛・挿入障害の一種)の治療に用いることができます。

小児期からの問題(性的虐待など)が性機能を妨げている場合、さらに徹底した精神療法が必要になることもあります。

セックス療法は、特定の性的問題やお互いの関係性など、性生活に影響を及ぼす問題に女性とそのパートナーが対処するのに役立つことが多いです。

薬剤

エストロゲン療法は閉経関連泌尿生殖器症候群の女性における性機能障害の治療として行うことができます。女性に腟の症状や泌尿器症状のみがみられる場合は、医師は通常、腟に挿入するタイプのエストロゲン製剤(プラスチック製のアプリケーターを使用して腟に挿入するクリーム剤、錠剤、またはペッサリーに類似したリングタイプのエストロゲン)を処方します。これらの製剤は腟に影響を及ぼす症状(腟の乾燥および腟の萎縮、尿意切迫、頻回の尿路感染症など)を効果的に治療できますが、気分のかわりやすさ、ホットフラッシュ、または睡眠障害には役立ちません。

エストロゲンは皮膚に塗って使用することもあります(外用剤)。

煩わしいホットフラッシュもみられる場合は、エストロゲンの内服薬または皮膚に貼って使用するパッチ剤が処方されることがあります。こうしたタイプのエストロゲンは全身に作用し、気分を高め、ホットフラッシュや睡眠の問題を緩和し、腟を良好な状態に保ち、性交に十分な潤滑性を維持するのに役立ちます。

子宮のある女性(すなわち子宮摘出を受けていない女性)では、エストロゲンに加えてプロゲストーゲン(ホルモンのプロゲステロンの一種)が投与されますが、これはエストロゲン単独の投与では子宮内膜がん(子宮の内側を覆っている組織のがん)のリスクが高くなるためです。低用量のエストロゲンが使用されます。

エストロゲン療法は閉経時またはその後数年以内に開始されます。エストロゲンには便益に加えて潜在的なリスク(乳がんのリスクがわずかに上昇する)もあるため、女性は服用を開始する前にリスクと便益について主治医に相談するべきです。

オスペミフェン(ospemifene)選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は、閉経関連泌尿生殖器症候群の治療に使用することができます。

閉経後女性では、プラステロンと呼ばれる合成型のデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)を腟内に挿入することでも、腟の乾燥を緩和し、性交時の痛みを軽減することができます。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は複数のタイプの性機能障害の一因となりうるため、性的反応を妨げにくい別の抗うつ薬に置き換えることが有用でしょう。そのような薬剤としては、ブプロピオン、モクロベミド(moclobemide)、ミルタザピン、デュロキセチンなどがあります。また、ブプロピオンとSSRIの併用投与の方が、SSRIの単独投与よりも性的反応が良好となります。SSRIの服用を開始してからオルガズムを得られなくなった女性では、シルデナフィル(勃起障害の治療薬)の使用がオルガズムの回復の助けになることを示す科学的根拠が得られています。しかしながら、この薬剤は女性における有効性の科学的根拠が不明であるため、通常は推奨されません。

テストステロンのパッチ剤は、性的関心・興奮障害のある閉経後女性に役立つことがあります。ただし医師は、にきび(ざ瘡)、過剰な体毛の成長(男性型多毛症)、男性的特徴の出現(男性化)などの副作用がないか定期的に確認する必要があります。

その他の治療

性器骨盤痛・挿入障害を有する女性では、いくつかの種類の理学療法が有用となる場合があります。

理学療法士は、凝った骨盤底筋を伸ばして緩めるために以下のいくつかの技法を用いることができます。

  • 軟部組織モビライゼーションおよび筋筋膜リリース: 症状が出ている筋肉または筋肉を覆う組織(筋筋膜)を圧迫して伸ばすために様々な動き(リズミカルに押す、マッサージするなど)を用いる

  • トリガーポイントの圧迫:痛みが始まる部分(トリガーポイント)と思われる、症状が出ている筋肉の最も敏感な部分を圧迫する

  • 電気刺激:腟口に固定した器具を介して微弱な電流を流す

  • 膀胱訓練および腸管の再訓練:厳格な排尿計画に従うよう女性に指導するとともに、尿道および肛門周囲の筋肉を強化する運動を推奨し、ときにバイオフィードバック法を併用する

  • 超音波療法:症状が出ている筋肉にエネルギー(周波数の高い音波によって生じる)を加える(患部への血流を増加させ、治癒を促進し、固い筋肉を緩める)

骨盤底筋の緊張のために性交痛が生じている場合、女性はダイレーター(医師の処方により、または店頭で入手可能)を挿入してストレッチを行い、腟の感受性を低下させることができます。そうすることで、性行為がより楽になる可能性があります。

腟の潤滑剤および保湿剤は、性交時の痛みの原因となる腟の乾燥を軽減できます。そのような治療には、食物由来の油(ココナツ油など)、シリコン製の潤滑剤、および水性の製品などがあります。水性の潤滑剤はすぐに乾燥するため塗り直す必要がありますが、ワセリンやその他の油性の潤滑剤よりも好まれます。食物由来の油により、コンドームやペッサリーなどラテックス製の避妊具が破損することもあります。このため、コンドームと一緒には使用しないようにしましょう。シリコン製の潤滑剤は、コンドームやペッサリーと一緒に使用可能で、同様に水性の潤滑剤も使用可能です。女性は自分に最適な潤滑剤の種類を主治医に尋ねるとよいでしょう。

機能障害の種類に応じて、性的能力の訓練(自慰の指導など)や、性的ニーズおよび性的好みに関するパートナーとのコミュニケーションを促進するための訓練を行うことができます。

バイブレーターや陰核吸引器などの器具は、性的関心・興奮障害またはオルガズム障害の女性が使用できますが、その有効性を裏付ける科学的根拠はほとんどありません。このような製品は市販されているものもあるので、試してみてもよいでしょう。

加齢に関連する注意点:高齢女性における性機能障害

高齢の女性がセックスをしなくなる主な理由は、性的に機能できるパートナーがいないことです。しかし、加齢に伴う変化、特に閉経によって起こる変化によって、女性は性機能障害を経験しやすくなります。また、糖尿病動脈硬化尿路感染症関節炎などの加齢とともに多くなる病気が性機能を妨げます。しかし、これらの変化により性行為やその楽しみを終わらせる必要はなく、高齢女性に起こる性機能障害の原因はすべて加齢に伴う変化であるとは限りません。

若い女性と同様に高齢女性において最もよく発生する問題は性行為への関心の喪失です。

女性の加齢とともに、エストロゲンの分泌量が減少します。

  • 腟口周辺の組織(陰唇)と腟壁が弾力を失い薄くなります(外陰腟萎縮)。エストロゲンの分泌が減少するために、組織が炎症を起こして刺激されることもあります(萎縮性腟炎と呼ばれます)。これらの変化はいずれも、挿入を伴う性行為の際に痛みを引き起こすことがあります。

  • 腟液の分泌が減少し、性交中の潤滑性が失われます。

  • 30代になるとテストステロンの分泌量が減少し始め、およそ70歳までにテストステロンは作られなくなります。この減少が性的関心および性的反応の低下につながるかどうかは分かっていません。

  • 腟の酸性度が低下し、性器が刺激を受け感染が起こりやすくなります。

  • エストロゲンの不足は、加齢に伴って骨盤内の筋肉や他の支持組織が弱くなることに関与し、骨盤内臓器(膀胱、腸管、子宮、直腸)が腟へ脱出してしまうことがあります(骨盤臓器脱と呼ばれます)。その結果、意図せずに尿が漏れることがあり、恥ずかしい思いをすることがあります。

  • 加齢に伴い腟への血流が減少し、腟が短く、狭く、乾燥するようになります。血管の病気(動脈硬化など)によって血流がさらに減少することもあります。

その他の異常によって性機能が妨げられる場合もあります。例えば、高齢の女性は病気、手術、加齢により生じた体の変化に悩むことがあります。性欲があることや空想にふけることは、高齢者としてふさわしくない、あるいは恥ずかしいことであると考える人もいます。パートナーの健康状態や性機能、自分自身の性的能力を心配していることもあります。多くの高齢女性にはセックスへの関心がありますが、パートナーが応じない場合、関心は徐々に失われます。

高齢の女性は、高齢になると性機能障害は普通であると決めてかかるべきではありません。性機能障害で悩んでいる場合は、主治医に相談すべきです。多くの場合、病気(うつ病など)の治療、薬剤の中止や変更、性機能についての学習、医療従事者やカウンセラーへの相談が役に立ちます。

外陰腟萎縮や萎縮性腟炎が問題の場合、エストロゲンまたはテストステロンをクリーム(プラスチック製のアプリケーターを使用)、錠剤、リング(ペッサリーと同様のもの)として腟に挿入して使用できます。エストロゲンの内服、またはパッチ剤やゲルを上腕もしくは脚に使用することが可能ですが、これは閉経が始まったばかりの場合や閉経が数年しか続かなかった場合に限られます。こうしたタイプのエストロゲンは全身に作用し、気分を高め、ホットフラッシュや関連する睡眠の問題を緩和し、腟を良好な状態に保ち、性交に十分な潤滑性を維持するのに役立ちます。閉経後女性に対してはピルの内服よりもエストロゲンのパッチ剤またはゲルが適しています。子宮のある女性では、エストロゲン単独の投与では子宮内膜がん(子宮の内側を覆っている組織のがん)のリスクが高くなるため、プロゲストーゲン(ホルモンのプロゲステロンの一種)も投与します。エストロゲンには便益に加えて潜在的なリスク(乳がんのリスクがわずかに上昇する)もあるため、女性は服用を開始する前にリスクと便益について主治医に相談するべきです。

ときに、他のあらゆる方法が無効であった場合、エストロゲン療法に加えてテストステロンの内服薬が処方されますが、この組合せの処方は推奨されていません。まだ実験的な段階であり、長期的な安全性は不明なためです。

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