歯の病気の概要

執筆者:Bernard J. Hennessy, DDS, Texas A&M University, College of Dentistry
レビュー/改訂 2021年 3月
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よくみられる歯の病気には以下のものがあります。

歯が欠けたり、ぐらついてきたり、折れたりすることは急を要する歯科的問題であり、歯の特定の痛みも同様です。う蝕はしばしば歯痛を起こし歯を失う原因になりますが、口内の衛生状態を良好に保てば、歯垢(プラーク)の除去と歯石の蓄積予防に役立ち、大部分のう蝕は予防できます。

歯垢は細菌、唾液、食べもののかす、死んだ細胞からなる薄い膜状の物質です。歯垢は誰の歯にも付着します。昼夜を問わず持続的に歯にたまっていきます。歯をきれいにした後、約24時間以内に歯の表面に歯垢が生じます。約72時間経過すると、歯垢は固くなり始めて歯石になります。歯垢があると、う蝕を発生させる種類の細菌の増殖が促されるため、歯ブラシやデンタルフロス(糸ようじ)で歯垢を毎日取り除く必要があります。

歯石は歯垢が固くなった(石灰化した)もので、歯の付け根を白く覆うように形成され、特に下顎の前歯の舌側と、上顎の奥に位置する大臼歯の頬側にみられます。歯石は歯垢からできるため、毎日の歯磨きで歯垢を取り除くようにすれば、歯石の蓄積をかなり減らすことができます。しかし、歯石ができてしまったら、歯科医師や歯科衛生士でなければ十分に除去することはできません。

歯ブラシとデンタルフロスでていねいに歯を磨いていれば口の中を健康に保つことができますが、う蝕のリスクを減らすには、糖分の摂取を控え、フッ素濃度調整水を使用することも役立ちます。

歯の病気の症状

痛みが個々の歯に出るもの(歯痛)は、おそらく歯の病気の症状のうち最も気づかれることが多いものです。歯は、常に痛み続けることもあれば、ものを噛んだときや歯科器具でコツコツと歯を軽くたたかれたときなど、特定の状況においてだけ痛むこともあります。歯の痛みがあれば、う蝕や歯ぐきの病気が疑われます。しかしそのほかにも、歯根が露出していたり、歯の噛みしめや歯ぎしり(ブラキシズム)をしたり、歯が折れたり欠けたりしたときにも痛みが起こります。副鼻腔が詰まっていると、上の歯の領域に同じような痛みの症状が起こることがあります。

歯がすり減ったり、ぐらついたりしているのは、歯ぐきの病気か、頻繁に歯を噛みしめたり歯ぎしりをしたりするブラキシズムと呼ばれる疾患による症状かもしれません。ブラキシズムが起こるのはほとんどが睡眠中ですが(その場合は自分では気がつきません)、日中にも起こることがあります。ブラキシズムのある人は、日中は努力して歯の噛みしめや歯ぎしりをやめるように気をつけなければなりません。ブラキシズムによって咬耗(こうもう)が起こることがあります。咬耗とは、歯が噛み合う表面がすり減ることです。歯がすり減るような食べものや噛みタバコを噛んだり、加齢に伴ってすり減ることでも、咬耗が起こることがあります。咬耗があると、ものをあまり効果的に噛めなくなることがあります。

歯の形の異常は、遺伝性疾患、内分泌疾患、または歯が生えてくる前にかかった感染症による症状の場合があります。口の外傷によって歯が折れたり欠けたりしても、歯の形が異常になることがあります。

歯の異常な変色とは、コーヒー、紅茶、喫煙による着色や、年齢を重ねるにつれて自然に現れる黄ばみや黒ずみとは異なります。灰白色の変色は、過去の歯の内部の感染によって歯の構造の中核である歯髄がひどい損傷を受けている場合に、その症状として現れることがあります。これと同じ変色は、感染した乳歯のあとに生えた永久歯にも現れます。テトラサイクリン系薬剤を9歳になる前に投与されたり、母親に妊娠期の後半に投与されていたりすると、永久的な歯の変色が起こることがあります。小児期にフッ素を過剰摂取すると、歯の硬い表面のエナメル質がまだら状に白く濁ることがあります。

エナメル質の異常は、くる病と同じように、食事にビタミンDが不足していることが原因で起こることがあります。小児期の永久歯ができてくる時期に感染症(麻疹[はしか]、水痘[水ぼうそう]など)にかかることによっても起こります。胃酸は歯の表面を溶かすため、胃食道逆流症や頻繁な嘔吐(神経性過食症などでみられる)も原因となることがあります。過剰に塩素消毒されたプールで長時間泳ぐ人や、仕事で酸を扱う人は、歯のエナメル質が溶けてなくなってしまうことがあります。小児期にフッ素を過剰摂取すると(フッ素症)、エナメル質がまだら状に白く濁ることがあります。エナメル質が傷つくと、細菌が歯に侵入しやすくなってう蝕ができやすくなります。

審美歯科治療

審美歯科治療は、外見を劇的に改善することができます。

ボンディングでは、歯を最小限に削って形を整え(形成)、歯の色をした修復材を歯(天然歯)に接着します。ボンディングは、折れたり欠けたりした歯を修復したり、歯と歯のすき間をふさいだり、歯のシェード(色調)、色、形を整えるために歯の一部を覆ったりする保存的な方法です。まず弱酸性溶液で歯の表面(歯面)をきれいにして、歯面にわざと少し凹凸を作りますが、これは、歯の色をしたレジン(一般的にはコンポジットレジンと呼ばれる特殊な合成樹脂製のもの)を、歯面にしっかり接着させるために行われます。ボンディングにより、歯質を大きく削り取らずに歯を美しく変貌させることができます。

ポーセレンベニアはボンディングとよく似ていますが、この方法では、コンポジットレジンではなく、歯の色をしたポーセレン(陶材)を用いて歯の変色や形を修復します。この方法では、しばしば2回の通院が必要になります。歯を削って形を整えた後に印象(型)をとります。それを基にポーセレンベニアを歯科技工室で作製しますが、その際、デジタルスキャンと切削加工(ミリング)が行われることもあります。このベニアを、薄いレジンセメントで歯に接着します。

歯の漂白(トゥースホワイトニング)は、歯の色を明るくするために行われます。その人のもともとの歯の色によって、漂白効果に違いが生じます。自宅で行う漂白法(ホームブリーチング)に使われる歯科用漂白剤には、過酸化水素ゲルが含まれています。このゲルを、各人の歯の形に合わせて製作されたマウスピース型のトレイに入れて歯に装着します。装着する時間は、漂白剤の濃度に応じて2~4週間、1日に数時間、ときには就寝中も装着します。漂白は歯科医院でも行うことができ、その場合はもっと短時間で行われます。また、自分で漂白用のテープを貼ることもできます。そのようなテープは非常に効果的なことが多く、家庭で安全に使用できます。過酸化水素や重曹などの漂白剤を含有する歯磨き粉は、歯を白くすることが示されていますが、多くの場合、専門家が使用する製品ほど効果的ではありません。漂白で最もよくみられる副作用は歯の知覚過敏です。う蝕、一部の薬や病気による副作用、または歯の失活(歯が死んでしまった状態になること)によって、歯に黒ずみや変色が生じている場合は、漂白は効果的ではないことがあります。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. マウスヘルシー(Mouth Healthy):この一般向けウェブサイトでは、栄養に関する情報や米国歯科医師会の認証を受けた商品の選び方など、口の健康に関する情報が提供されています。歯科医の見つけ方や受診の方法とタイミングに関するアドバイスも掲載されています。

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