放線菌症

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University
レビュー/改訂 2021年 5月
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放線菌症は、主にアクチノミセス・イスラエリ(Actinomyces israelii)という嫌気性細菌によって引き起こされる慢性感染症です。この細菌種は、正常では歯と歯ぐきの隙間、扁桃、腸と腟の粘膜に存在します。

  • 組織に損傷があり、細菌が組織深くに侵入できる場合にのみ感染症が生じます。

  • 膿瘍が、腸や顔面などの様々な部位に発生し、痛みや発熱、その他の症状を引き起こします。

  • 医師は症状からこの病気を疑い、感染組織のサンプル中でこの細菌を特定することによって診断を確定します。

  • 膿瘍を排膿した後、抗菌薬を投与します。

  • 速やかな診断と適切な治療を行えば、ほとんどの場合は完治します。

放線菌属(Actinomyces)の細菌は生存に酸素を必要とせず、つまり嫌気性の細菌です。

放線菌属(Actinomyces)の細菌が感染症を引き起こすのは、この細菌が定着している組織の表面に損傷が生じ、防御機能を備えていない深部組織に侵入した場合に限られます。感染が広がると、瘢痕(はんこん)組織と異常な連絡路(瘻孔[ろうこう])が形成されます。数カ月から数年後には、最終的に瘻が皮膚に到達し、膿が出てくることがあります。膿瘍(膿がたまった空洞)が胸部、腹部、顔面、首にできることがあります。

放線菌症は成人男性に最も多くみられますが、子宮内避妊器具を使用している女性にもときおり起こります。

放線菌症の症状

放線菌症にはいくつかの病型がありますが、そのすべてで膿瘍、瘢痕組織、瘻孔がみられます。

腹部放線菌症

腸(通常は虫垂付近の組織)と腹膜(腹腔の内側を覆う膜)に放線菌属(Actinomyces)の細菌が感染した状態です。

よくみられる症状は、慢性の腹痛、発熱、嘔吐、下痢または便秘、重度の体重減少です。腹腔内とその近くの皮膚の間や、腸と別の臓器の間に瘻孔ができることがあります。

骨盤内放線菌症

放線菌が(通常は何年間も使用されていた子宮内避妊器具から)子宮内に広がった状態です。膿瘍と瘢痕組織が卵管と卵巣のほか、膀胱や尿管などの近隣の臓器に発生する場合もあります。これらの臓器の間に瘻孔ができることもあります。

慢性的な腹痛や骨盤部の痛み、発熱、体重減少、性器出血やおりもの(帯下)などの症状がみられます。

頸部顔面放線菌症

通常は、口の中、顔面、首の表面、あごの下の皮膚などに小さな硬い腫れが発生し、ときに痛みを伴います(顎放線菌症)。これらの腫れは、軟らかくなり、小さな球状の黄色がかった顆粒を含む膿が出る場合があります。

感染が広がり、頬、舌、のど、唾液腺、頭蓋骨(ずがいこつ)、顔面骨と首の骨(頸椎)、脳、脳を覆う組織(髄膜)にまで及ぶことがあります。

胸部放線菌症

胸部に放線菌が感染した状態です。慢性的な胸の痛みと発熱がみられます。体重減少とせき、ときにたんがみられます。細菌を含んだ液体を口から吸い込んでしまった場合に感染が起こることがあります。

膿瘍が肺に発生することがあり、これがやがて肺と胸壁(胸膜)の間に広がります。この部位で、膿瘍は刺激を引き起こし(胸膜炎)、感染した体液が蓄積します(膿胸)。瘻孔ができることがあり、これにより感染が肋骨、胸部の皮膚、脊椎へ拡散します。

症状が現れる前に感染が広範囲に広がることがあります。症状としては、胸痛、発熱、たんを伴うせきなどがあります。

全身性放線菌症

まれに、放線菌が血流に乗って脳、脊椎、肺、肝臓、腎臓、心臓弁などの臓器に感染します。女性では、生殖器に感染することもあります。

感染した臓器によって、症状は異なります。例えば、頭痛、背部痛、腹痛などがみられます。

放線菌症の診断

  • たん、膿、組織のサンプルの観察と培養検査

  • ときに画像検査

医師は典型的な症状がみられる人で放線菌症を疑います。そして、たん、膿、または組織のサンプルを採取して、その中にアクチノミセス・イスラエリ(Actinomyces israelii)などの様々な種類の放線菌属(Actinomyces)がいないか確認します。皮膚から針を刺して、膿瘍や感染組織からサンプルを採取することもしばしばあります。ときに、医師が感染部位に針を刺す際の補助手段としてCT検査や超音波検査が用いられます。ときに、サンプルを採取するために手術が必要になることもあります。このサンプルは、顕微鏡で観察してから検査室に送られ、サンプル中のウイルスを増殖させる検査(培養検査)が行われます。

たん、膿、組織のサンプルに含まれる細菌を特定することで診断を確定します。

場合によっては、画像検査(X線またはCT検査)を行い、膿瘍の数、大きさ、正確な位置を突き止めます。

放線菌症の治療

  • 膿瘍の排膿

  • 抗菌薬

放線菌症の治療では以下のことが行われます。

  • 針を使用する(通常は皮膚から針を挿入)か手術を行って、膿瘍から膿を排出する

  • 高用量の抗菌薬を投与する

ペニシリンまたはテトラサイクリンなどの抗菌薬は、少なくとも2カ月、必要な場合には12カ月以上にわたって服用する必要があります。

膿瘍がなくなっているどうかを確認するために、CT検査やMRI検査を行うこともあります。手術が必要になることもあり、脊椎のような重要な部位に感染が起きた場合には特に必要です。

骨盤内放線菌症の女性ではIUDを取り除き、ペニシリンを投与します。広範囲の骨盤内感染症では、さらに膿瘍の排膿が必要になることがあります。ときに子宮、卵管、卵巣を切除する必要があります。

放線菌症が早期に診断され、適切な治療が行われた場合は、ほとんどの人が完治します。回復の程度は、感染した部位によって異なります。回復が最もよいのは顔と首だけが感染した場合で、最も悪いのは感染が全身に広がったとき、特に脳に及んだ場合です。

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