通常は、汚染された食べもの(加熱調理が不十分な鶏肉や卵など)を摂取することで感染します。
この細菌は通常は消化管に感染しますが、血流を介して他の部分へも感染します。
吐き気やけいれん性の腹痛が起きた後、水様性下痢、発熱、嘔吐がみられます。
サンプル中(通常は便)でこの細菌が特定されれば、診断が確定します。
失われた体液を補充します。
通常、サルモネラ属(Salmonella)の細菌による腸管感染症には抗菌薬は役立ちませんが、菌血症の人やそのリスクがある人には抗菌薬は有効です。
(細菌の概要 細菌の概要 細菌は、顕微鏡で見ることができる大きさの単細胞生物です。地球の最も初期の段階から存在している生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境で生存しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌は、人間や動物の皮膚、気道、口、消化管、尿路、生殖器の表面や内部で、何の... さらに読む も参照のこと。)
サルモネラ属(Salmonella)の細菌は数種類の感染症を引き起こします。最もよくみられるものは 胃腸炎 胃腸炎の概要 胃腸炎とは、胃と腸(小腸および大腸)の粘膜に炎症が起きた状態のことです。通常は微生物が感染することで起こりますが、毒性のある化学物質や薬の摂取が原因で起こることもあります。 胃腸炎の通常の原因は感染ですが、毒性物質や薬の摂取が原因となることもあります。 典型的には下痢、吐き気、嘔吐、腹痛がみられます。... さらに読む ですが、より重篤な感染症である 腸チフス 腸チフス 腸チフスは、 グラム陰性細菌であるサルモネラ属( Salmonella)細菌の特定の菌種によって引き起こされます。一般的には、高熱と腹痛が現れます。 腸チフスは、感染者の便や尿で汚染された食べものや水を飲食することで感染します。 インフルエンザ様の症状が起こり、その後にせん妄、せき、極度の疲労、ときに発疹、下痢が起こることがあります。 血液、便、他の体液、または組織のサンプルを検査室に送り、細菌を増殖させる検査(培養検査)... さらに読む を引き起こすこともあります。
サルモネラ属(Salmonella)の細菌には、2500種類以上のものが存在します。
サルモネラ属(Salmonella)細菌の一部の種類は人体にのみ感染します。それ以外のサルモネラ属(Salmonella)細菌は、普段から多くの野生動物や家畜(ウシ、ヒツジ、ブタや、ヘビ、トカゲ、カメなどの爬虫類)の消化管に存在しています。これらの多くは人間に感染します。
サルモネラ属(Salmonella)の細菌は動物や人の糞便に含まれて排出され、これが汚染につながります。1970年代、米国においてはペットのカメによって多くの感染症が発生したために、これらの販売が禁じられ、その結果として感染症が減少しました。最近になって再び、合法か違法かにかかわらず、ペットとして飼われる爬虫類の数が増えてきていますが、ペットの爬虫類と両生類(例えば水生のカエルなど)は、最大90%がサルモネラ属(Salmonella)細菌に感染しています。
通常は加熱調理が不十分な鶏肉や卵によって感染しますが、火が通っていない牛肉や豚肉、加熱殺菌されていない乳製品、または汚染された海産物や生鮮食品によっても感染が起こります。サルモネラ属(Salmonella)の細菌が雌鶏の卵巣に感染していると、産まれる前の卵が感染します。これら以外の食べものが、食肉処理場などで動物の糞便に汚染されるケースや、食べものを扱う人がトイレの後によく手を洗わず、保菌したまま食べものを触って汚染してしまうケースもあります。また、汚染された水を飲んで感染する場合もあります。報告されている他の感染源として、感染したペットのカメや爬虫類、および汚染されたマリファナなどがあります。
サルモネラ属(Salmonella)の細菌は胃酸により死滅する傾向があるため、胃酸が欠乏している場合は別として、通常は大量の菌を摂取しなければ感染症を発症することはありません。そのような胃酸の欠乏は、以下の人にみられます。
1歳未満の小児
高齢者
ヒスタミン2(H2)受容体拮抗薬(ファモチジンなど)やプロトンポンプ阻害薬(オメプラゾールなど)といった胃酸の分泌を抑える薬や制酸薬を使用している人
サルモネラ属(Salmonella)の細菌は、腸の炎症(胃腸炎 胃腸炎の概要 胃腸炎とは、胃と腸(小腸および大腸)の粘膜に炎症が起きた状態のことです。通常は微生物が感染することで起こりますが、毒性のある化学物質や薬の摂取が原因で起こることもあります。 胃腸炎の通常の原因は感染ですが、毒性物質や薬の摂取が原因となることもあります。 典型的には下痢、吐き気、嘔吐、腹痛がみられます。... さらに読む )を引き起こし、そのため下痢の一般的な原因の1つになっています。
血流を介した感染拡大
ときに、細菌が血流に入り(菌血症 菌血症 菌血症とは、血流の中に細菌が存在する状態のことです。 菌血症は、日常的な行為(激しい歯磨きなど)、歯科的または医学的処置、もしくは感染症( 肺炎や 尿路感染症)が原因で起きることがあります。 人工関節や人工心臓弁を使用している人や心臓弁に異常がある人では、菌血症が長引くリスクや菌血症で症状が生じるリスクが高まります。 菌血症では通常、症状はみられませんが、ときに特定の組織や臓器の中で細菌が増殖して、重篤な感染症を引き起こすことがあります... さらに読む を引き起こし)、体内で広がって、骨、関節、尿路や肺などの部位に感染を起こしたり膿を蓄積(膿瘍)させたりします。また、人工関節や人工心臓弁、血管グラフト表面、またはがんの表面に細菌が蓄積し、感染が生じる場合があります。動脈(通常は体内で最も太い動脈である大動脈)の内膜が感染することもあります。膿瘍と動脈の感染症によって、慢性の菌血症が引き起こされます。
以下の人では、血流を介して感染が拡大する可能性が高くなっています。
乳児
高齢者、特に介護施設の入居者
鎌状赤血球貧血 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症は、鎌状(三日月形)の赤血球と、異常な赤血球の過剰破壊による慢性貧血を特徴とする、遺伝性のヘモグロビン(酸素を運搬する赤血球内のタンパク質)の遺伝子異常です。 必ず貧血がみられ、ときとして黄疸がみられます。 貧血、発熱、息切れなどが悪化し、長管骨、腹部、胸部などに痛みを伴うと、鎌状赤血球症の疼痛発作(症状が急速に悪化する危険な状態)が疑われます。 電気泳動法と呼ばれる特別な血液検査を使用して、鎌状赤血球症かどうかを判定するこ... さらに読む や マラリア マラリア マラリアは、5種のマラリア原虫(Plasmodium)のいずれかによって引き起こされる赤血球の感染症です。マラリアは発熱、悪寒、発汗、全身のだるさ(けん怠感)のほか、ときに下痢、腹痛、呼吸窮迫、錯乱、けいれん発作を引き起こします。その他の所見としては、脾臓の腫大や貧血(感染した赤血球が破壊されるのが原因です)のほか、ときに心臓、脳、肺、または腎臓の損傷などがみられます。... さらに読む など赤血球に関連する病気がある人
がんの治療や臓器移植による拒絶反応を抑える薬など、免疫系を抑制する薬を使用している人
サルモネラ感染症の症状
腸に感染が起こると、通常は細菌が取り込まれてから12~48時間後に症状が始まります。吐き気とけいれん性の腹痛が起こり、それに続いて水様性下痢、発熱、嘔吐が始まります。サルモネラ(Salmonella)感染症の症状は1~4日で治まります。ときに症状がより重く、長期にわたって続くことがあります。
たまに、症状が消えてから時間が経過しても便から菌が出続けることもあります。このような状態の人はキャリア(保菌者)と呼ばれます。
成人患者の約10~30%では、下痢が止まって数週間から数カ月後に 反応性関節炎 反応性関節炎 反応性関節炎(以前はライター症候群と呼ばれていました)は、 脊椎関節炎の1つで、関節や関節の腱付着部の炎症を引き起こします。しばしば感染に関連しています。 関節の痛みと炎症が、感染(通常は泌尿生殖器か消化管の感染)に反応して起こることがあります。 腱の炎症、発疹、眼の充血もよくみられます。 診断は症状に基づいて下されます。 非ステロイド系抗炎症薬とサラゾスルファピリジンのほか、ときに免疫抑制薬(メトトレキサートなど)が症状の治療に役立つ... さらに読む が発生します。この病気は痛みと腫れを伴い、通常は股関節、膝、アキレス腱(かかとの骨とふくらはぎの筋肉につながっている組織)に起こります。
菌血症が発生して感染部位が拡大すれば、別の症状も発生します。例えば、骨に感染が起これば、その周辺ではたいてい圧痛や痛みが起こります。心臓弁に感染が起これば、息切れが起こります。大動脈に感染が起これば、背部と腹部に痛みが発生します。
通常は良好な回復がみられますが、例外は、サルモネラ(Salmonella)感染症にかかる前から病気(特に免疫機能を低下させる病気)がある人と、この感染症による合併症がある人です。
サルモネラ感染症の診断
便、膿、血液のサンプル、または直腸から採取したサンプルの培養検査
サルモネラ(Salmonella)感染症を診断するには、医師が便、膿、または血液のサンプルを採取するか、綿棒を使って直腸からサンプルを採取します。サンプルは検査に送られ、サンプル中の細菌を増殖させる検査(培養検査)が行われます。サンプル中でこの細菌が特定されれば、診断が確定されます。
サルモネラ感染症の予防
サルモネラ(Salmonella)感染症の予防法には以下のものがあります。
鶏肉や卵、牛ひき肉にしっかり火を通す
クッキー生地やオランデーズソース、自家製のサラダドレッシングなど、生卵や生乳(加熱殺菌されていない牛乳)を含む食べものを摂取しない
農作物を徹底的に洗う
トイレの後やおむつを替えた後に手を洗う
生肉に触れた後すぐに、石けんと水で手や調理台の表面、調理器具を洗う
爬虫類、鳥類、ヒヨコを触ったりペットの糞に触れたりした後は、手を石けんで洗う
幼児のようにリスクが高い人には、特別の注意が必要です。例えば、爬虫類(カメなど)やヒヨコなどのひな鳥はサルモネラ属(Salmonella)の細菌に感染していることが多いため、幼児にはこれらの動物に触らせないようにし、乳児のいる家に爬虫類を入れないようにすべきです。
感染者には食事の用意をさせないようにします。
旅行者は、 下痢の発生リスクを減らすのに役立つ対策 旅行者下痢症 を講じることができます。
サルモネラ感染症の治療
腸管の感染症には、水分補給
リスクの高い人や菌血症の人には、抗菌薬
膿瘍には、外科的ドレナージ
サルモネラ属(Salmonella)細菌による腸管感染症には経口で水分を与え、重症の場合は静脈から輸液を行います。サルモネラ属(Salmonella)細菌による腸管感染症では、抗菌薬を投与しても回復期間は短くならず、便中への細菌の排出が長引く場合があります。そのため、通常は抗菌薬を使用しません。しかし、菌血症のリスクがある人(介護施設に入居している高齢者、乳児、HIVに感染している人など)や、体内に医療機器や器具(人工関節、人工心臓弁、または血管グラフトなど)を移植している人には、抗菌薬を使用します。この場合は、シプロフロキサシン、アジスロマイシンまたはセフトリアキソンを数日間投与します。小児にはトリメトプリム/スルファメトキサゾールが投与されます。
菌血症の場合には、シプロフロキサシンやセフトリアキソンなどの抗菌薬を約2週間投与します。菌血症が持続する場合は、抗菌薬を4~6週間使用します。
膿瘍は膿を手術で排出し、抗菌薬を少なくとも4週間使用します。
大動脈、心臓弁、またはそれ以外(関節など)が感染した場合は、通常は手術が必要で、抗菌薬を数週間から数カ月間使用します。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国疾病予防管理センター(CDC):サルモネラ(Salmonella):集団発生や予防を含めたサルモネラ(Salmonella)に関する情報を提供している